23 / 91
リッカとタイチ
・
しおりを挟むそして夕方。予定通りロアの王都にたどり着いた二人は検問所の前に立っていた。ギリギリ検問の時間帯に滑り込めたので、検問を受けるために並んでいるのだが、何せ魔獣連れの子供のため奇異の眼で見られていた。
視線がうっとおしいとリッカは無視できるが、タイチはそうでもなかったらしい。嫌そうに眉を顰めている。
「慣れる方が早いよ、タイチ。」
「けど、これ……気持ち悪いな、変な視線だ。」
「よくあるんだよ。年齢にそぐわない魔獣を連れているとね……でも大抵は何もしてこないから無視無視。」
「リッカは本当に、肝が据わっているというかなんというか……頼もしいよ。」
そして、リッカ達の番になった時、検問の衛兵は不思議そうに眉を上げた。
「なんで子供だけでこんなところに?お使いか?」
「いえ、ここのアカデミーの入試試験を受けに来たんです。」
「はー……あのアカデミーのねぇ……どっから来たんだ?」
「ヤマトから。ここのアカデミーは有名ですから。」
「なるほどな、ま、いいだろう……見たところ魔獣も上手くしつけられているようだしな。通っていいぞ。」
衛兵とやり取りをしたのはリッカだ。タイチは黙って後ろに控えていた。こういうことはリッカに任せると間違いがないのである。ちなみに今ウルは狼の頃と同じくらいの大きさになっていて、ぱっと見は狼にしか見えない。まさかこんな子供が天狼を従えているとは思わないだろう。
「よかった、結構すんなり通してくれたね。」
「……こんなにすんなり通していて、王都の検問は大丈夫なのか?」
「大丈夫だと思うよ。その証拠にほら、怪しい人は入れてないから。」
そう言ってリッカが指し示したのは、検問の横のスペース。そこでは酔っぱらったような中年の男性が、衛兵に押さえつけられながら身分を吐かされているようだった。その光景を見たタイチは、うわっ……と思わず声を上げていた。おそらく、そのまま中に入ろうとしたせいで衛兵につかまったのだろう。つまり、役目はしっかり果たしているというわけだ。
「とりあえず宿を探そう。魔獣が一緒でも泊まれるやつね。」
「ああ。……そう言えば、母さんがひまわり亭というところをお勧めしていた。飯もおいしくて、魔獣も一緒に泊れて結構快適らしい。」
「へー……じゃあ、そこに行こうか。せっかくスミレさんがお勧めしてくれたし。」
「そうだな。ウルも休ませてやりたいし、早く行こう。」
タイチがウルを撫でながらそう言えば、ウルも甘えるようにすり寄ってきた。リッカもそれを微笑ましそうに見ている。そして、王都の人々聞いて回ろうとその辺の店の人間に話しかけると、案外ひまわり亭は案外近くにあるということが分かった。たどり着いたそこは、まさにひまわりの名がふさわしいほどに、華やかだ。
雰囲気は明るく、あたたかな空気が漏れてきていていい感じだ。ドアベルを鳴らしながら宿の中に入ると、感じのいい店主のようなふくよかな男性が、声をかけてきた。
「いらっしゃい。どうしたんだ?子供だけで。」
「実は明日あるアカデミーの入学試験に参加するために今日ここに来たんですけど、宿を探していて……よければ今夜から三日間ほど泊めてもらえませんか?」
「ほう、お前さんたちがアカデミーの入学試験に……いいだろう。幸いうちは魔獣も一緒に大丈夫だしな。」
「ありがとうございます!あの、代金は前払いの方がいいですか?」
「ばかやろう!子供から代金なんて受け取れねぇよ。その代わり、しっかり合格してこい!」
快活に笑った店主にリッカもタイチも笑って返事を返した。案内された部屋は二人で使うツインの部屋。中は割と広くて、魔獣用のベッドも用意されていた。
「ベッドあるけど、皆こっちで寝るでしょ?」
「ウルもな、お前がいる方が暖かいから一緒に寝ような。」
『ままと一緒ー!!!』
「わっ……もう、シロくんはほんとに僕が好きだねぇ……」
『とうっぜん!もっと撫でてーー!!!』
尻尾をぴんと立てて、リッカの手に自分の頭を擦り付ける白虎はもはやただの猫である。
そしてしばらく時間がたった後、夕飯だと呼びに来た店主についていき、おいしい食事に舌鼓を打った。
「おいしかったね。」
「ああ、母さんの言った通りだ。おいしかった。」
「それにしても店主さん、いい人だったね。」
「……まあ、だからと言ってあんなに次から次へとお代わりをついできたのは困ったが……」
もう満腹だ、とお腹を摩るタイチにリッカも苦笑いを浮かべた。確かにあの店主、人はいいが細いからもっと食えとお代わりを強要してきたのである。リッカは早々にごちそうさまと手を合わせ食器を下げてしまったから助かったが、タイチはタイミングを逃した。次々と空になるたびにお代わりを入れられてしまったのである。
『食が細くなくてよかったですね。細かったらもっと大変でした。』
「なんか、ウルから慰めを受けてる気がする……」
「お、当たり。食が細くなくてよかったね、だってさ。」
「ありがと、慰めてくれるのはウルだけだよ……」
そうしてぐだぐだと過ごしているうちに、二人とも眠気に勝てずに眠りについてしまった。
1
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
転生美女は元おばあちゃん!同じ世界の愛し子に転生した孫を守る為、エルフ姉妹ともふもふたちと冒険者になります!《『転生初日に~』スピンオフ》
ひより のどか
ファンタジー
目が覚めたら知らない世界に。しかもここはこの世界の神様達がいる天界らしい。そこで驚くべき話を聞かされる。
私は前の世界で孫を守って死に、この世界に転生したが、ある事情で長いこと眠っていたこと。
そして、可愛い孫も、なんと隣人までもがこの世界に転生し、今は地上で暮らしていること。
早く孫たちの元へ行きたいが、そうもいかない事情が⋯
私は孫を守るため、孫に会うまでに強くなることを決意する。
『待っていて私のかわいい子⋯必ず、強くなって会いに行くから』
そのために私は⋯
『地上に降りて冒険者になる!』
これは転生して若返ったおばあちゃんが、可愛い孫を今度こそ守るため、冒険者になって活躍するお話⋯
☆。.:*・゜☆。.:*・゜
こちらは『転生初日に妖精さんと双子のドラゴンと家族になりました。もふもふとも家族になります!』の可愛いくまの編みぐるみ、おばあちゃんこと凛さんの、天界にいる本体が主人公!
が、こちらだけでも楽しんでいただけるように頑張ります。『転生初日に~』共々、よろしくお願いいたします。
また、全くの別のお話『小さな小さな花うさぎさん達に誘われて』というお話も始めました。
こちらも、よろしくお願いします。
*8/11より、なろう様、カクヨム様、ノベルアップ、ツギクルさんでも投稿始めました。アルファポリスさんが先行です。
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
転生幼子は生きのびたい
えぞぎんぎつね
ファンタジー
大貴族の次男として生まれたノエルは、生後八か月で誘拐されて、凶悪な魔物が跋扈する死の山に捨てられてしまった。
だが、ノエルには前世の記憶がある。それに優れた魔法の才能も。
神獣の猫シルヴァに拾われたノエルは、親を亡くした赤ちゃんの聖獣犬と一緒に、神獣のお乳を飲んで大きくなる。
たくましく育ったノエルはでかい赤ちゃん犬と一緒に、元気に楽しく暮らしていくのだった。
一方、ノエルの生存を信じている両親はノエルを救出するために様々な手段を講じていくのだった。
※ネオページ、カクヨムにも掲載しています
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる