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リッカとタイチ
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しおりを挟む「驚いた。まさかバレるなんて。」
「会長、残念そうな顔をしていません。それでは彼らに余計に警戒心を抱かせてしまいます。」
「副会長もそれ言っちゃったら台無し~」
「ライくん……ニヤニヤしてる……」
人族の男女が一人ずつと、獣人族の男女が一人ずつ。特に目に付いたのは獣人族の二人で、性別の違いこそあれどその容姿はそっくりだった。
ちらりと見えた胸元にはそれぞれここのアカデミーの生徒である印のバッチがつけてあるのを見つけ、会話の中の会長、副会長という役職名から何かしら権力をもった生徒であるということは察しが付くがこちらとしては見ず知らずの相手。警戒を緩めるわけがなかった。
「……誰ですか?」
「おや、警戒させてしまっているかな?」
「いや……誰でも覗き見のような真似をされてしまったら警戒せざるを得ないですけど。」
「ほら、だからやめようって言ったじゃないですか。逆効果ですよ……」
「えっと……結局どちら様で?」
近づいてきた男は苦笑いをしながら他三人を引き連れている。彼の肩には彼の従魔なのか二匹の色違いの夜猫を乗せていた。タイチは未だに威嚇しているウルを抑え、埒が明かないと言わんばかりに尋ねる。彼らはリッカとタイチの目の前まで来ると、一人一人自己紹介をし始めた。
「僕はノア・スティラ。クートベルアカデミーのアカデミー生をまとめる役……言わば生徒会長をしているんだ。ごめんね、覗き見るような真似をしてしまって……ノーツとルキが珍しく外に行きたがったから何かあったのかと……」
「ティアラ・モーツェレンです。同じくアカデミーの副会長をしていますわ。」
人族と思われるノアとティアラが名乗ったことにより、リッカも出していた棘を引っ込めたがどうにもその後ろにいる二人から狙われているようで警戒心を緩めることができなかった。獣人族の二人が、自分をロックオンしているような気がしてならないのだ。
「ライ・ファングだよ~。見ての通り、クマの獣人族なんだぁ~。それより君、すっごくいい匂いがするね……」
「ミイ・ファング……ライと双子の兄妹……あなた、美味しそう……」
ずいっと遠慮なくさらに近寄ってきたかと思った瞬間だった。神獣たちやタイチが止める暇もなくリッカは双子の腕の中に囚われ、動けなくなっていた。とりあえずリッカは神獣たちに眼で牽制を入れ、小さく《拘束》の魔法を唱えた。
「わっちょっ……動けない~~~!!」
「……どうして?」
「いや、初対面で急に抱きしめられたらびっくりするに決まってるじゃないですか!」
「だって、美味しそう……」
「いい匂いなんだもん……」
ねー、と双子らしく息ピッタリに言われてしまえば呆れ以外に何も浮かばなかった。そこでふとリッカは三年半前にトウドウ家の執事であるクロスが言っていた言葉を思い出した。
”女の子ではなくとも、リッカ様は魅力的ですよ。特に、我々獣人族のような者にはね。”
そう、クロスは獣人族にとってリッカが魅力的だといったのだ。そして、この二人も獣人族である。リッカは一つの答えにたどり着いてしまった。
(獣人族は言わば魔獣としての性質と人としての性質を併せ持つ亜人族……ということは、魔獣に好かれる体質の僕に彼らが惹かれてしまうのは、魔獣の性質が反応してるから……?)
その考えにたどり着いてしまった時、リッカはげんなりと表情を暗くした。考えれば考えるほど自分の魔力の質が厄介なものに思えてしまってため息が漏れてしまうのだ。魔獣だけなら嬉しいとすら思えるものでも、そこに理性があり言葉を交わせる獣人族も加わるというだけで厄介であることこの上ない。
リッカは自分でも気づかぬ間に小さくため息をついていた。
「ずいぶんと魔獣に好かれるみたいだね。僕のノーツとルキが君のところに行きたがってる。」
「……そうですね。ありがたいですよ、本当に。」
「それに加えて獣人族にも好かれるみたいだ。」
「……ソウミタイデスネ。」
「ああ、やっぱり……主も君のことを気に入ってるんだね。三羽そろって撫でられているのは初めて見たよ。」
ニッコリ笑いながらノアは言うが、正直心の奥を読まれそうな感じがしてリッカは思わず後ずさりしてしまった。背中にとんっと樹の幹が当たり、冷や汗を流す。そんないつもの様子ではないリッカを見て、神獣たちはリッカを守るように前に飛び出た。ウルもリッカのために威嚇してくれている。
「おやおや、本当に君は彼らに好かれているね。ごめんね、怖がらせるつもりはなかったんだ。その子たちは君の従魔か……本当に、うまく隠されている。」
耳元で聞こえたノアのその最後の一言に、リッカはハッとして神獣たちを皆腕の中に抱き込んだ。どういう訳か、気づかれている。不可解なリッカの行動に周りは首を傾げているが、リッカ自身それどころではない。今までバレていなかったにも関わらず、ノアにはアッサリとばれてしまったのだ。カガチは同郷であり、しょうがないところはあるが、ノアはそうではないだろう。経験をたくさん積んだ大人たちなら、バレてもしょうがないと思うことだってある。しかしノアはアカデミー生だ。これが混乱しないはずがなかった。
「あの、リッカに何を言ったんですか。」
「ま、たいしたことじゃないよ。それより、君たち受験生でしょ?入学してくるの、楽しみに待ってるね。」
「会長?」
「もう戻るよ。アカデミー長に手伝いを頼まれているんだ。」
「えー!結局《拘束》されて終わっただけじゃん!」
「……今日を逃したら、あと半年後……もしかしたら、それ以上?」
「ダメです。彼らにも今後の予定があります。行きますよ。」
引きずられていく双子を見ながらリッカはほっとした気持ちになっていた。恐ろしい。初めて感じる恐怖という感情に、リッカは思わず神獣たちを強く抱きしめてしまった。
リッカの異常に気付いた神獣たちは不安な表情を浮かべ、リッカへ語りかける。
『まま、大丈夫?』
『顔色が悪いです。お母様、少しお休みになられた方が……』
『あの男、やっぱり弾き飛ばすべきだったかな?』
『母さん気にすんな!俺たちは大丈夫だから。だから、元気出してくれよー……』
心配そうな表情でリッカに擦り寄ってくる四匹に、リッカの頭もクリアになったような気がした。
「……ありがと、大丈夫。」
そんな神獣たちへ出来るだけ明るく返し、考える。
見破られた、と言うことはまだまだ鍛錬が足りないということ。リッカは帰ってからの予定を早々に決め、残っていたサンドウィッチをすべて口の中へ入れてしまった。タイチは落ち込んでいたリッカに声をかけようとして、立ち直ったのを見て口を噤むことしか出来なかった。
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