悪役は初恋に溺れ、Domに支配される

第一話 脅迫された悪役令息は初恋に溺れる

０２－１．悪役に向いていなかった悪役令息の選択

＊　＊　＊


　……客室に通されると思っていたんだが。

　案内されたのはアレンの自室だった。

　すべてが最高品質の家具でまとめられた部屋のソファーに、居心地悪そうな顔をしながら、ディーンは座る。

　……使用人も一人もいない。

　脅迫状に書かれた内容について話し合いをするのならば、万が一の事態に備えて使用人や大公家で雇っている騎士の数名でも待機させておくべきだろう。

　……俺を相手にするのに、人手はいらないとでも？

　なにも警戒することはないとでも言いたいのだろうか。

「ディーン。なぜ、距離をとる？」

「いや。どうして、俺の隣に座るんだよ。反対側に座れよ。二つあるんだから！」

「俺の部屋でどこに座ろうと自由だろう」

　アレンの言葉に声を詰まらせる。

　ここはアレンの自室だ。

　部屋の主がどこに座ろうとも、それはアレンの自由である。

　それは正しい言い分だった。

　……俺が動けばいいか。

　肌が触れ合うほどに密着されていては、話し合いにもなりそうもない。

「いや、まあ、そうだけどな!?」

「なぜ、移動しようとする？」

「広い場所があるなら、そっちに座りたくなるだろ！」

　それならば、ディーンが移動をしようとするとアレンに手を掴まれてしまい、移動を妨げられる。

「ならない。ディーンは俺の隣にいるべきだ」

「はぁ？　……意味わかんねえんだけど」

　文句を言いつつ、ディーンは大人しく座り直す。

　……機嫌損ねるとやりにくいし。

　脅迫をされている側として、従順な態度を示すのも一定の効果があるはずだ。

　逆らう気はないと相手に思わせ、交渉を有利に働かせる。

「それにしてもさ。くっつきすぎじゃねえの？」

「そうか。逃げられても困るのでな」

「逃げねえし。交渉相手から逃げるようなバカだとでも思ってんのかよ」

　広々とした部屋に相応しい大きさのソファーに肩を寄せ合って座る姿は、妙なものだった。