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第一話 脅迫された悪役令息は初恋に溺れる

02-3.

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 ……俺だけでなんとかなりそうだ。

 ディーンは侯爵家の次男だ。切り捨てられても、侯爵家には支障がでない。

 ディーンを犠牲にすれば、解決するような問題ばかりだった。

「子爵家の令嬢の顔が傷つけられた事件も、男爵家の令嬢が湖に突き落とされて死にかけてしまった事件も、すべて、ディーンが揉み消したものだろう?」

「さあな。そんな事件あったか?」

「探すのには苦労した。実行犯はヘンリエッタ嬢だったからな。まさか、学院にも手を回しているとは思わなかった」

 アレンの言葉に対し、ディーンの表情が僅かに曇った。

 ……ヘンリエッタには影響はでないといいが。

 侯爵家の悪事と、ヘンリエッタの行動は別物だ。

 父親はヘンリエッタに罪を償わせようとすることだろう。

「なにより、王太子の婚約者であるヘンリエッタ嬢に対する言動は、立派な虐待だ。王族侮辱罪が適応されることだろうな」

 アレンの言葉にディーンは否定しなかった。

 ……ここまで知っているとは。

 すべてを知っていると書かれていたのは虚勢ではなかったらしい。

「……それで?」

 ディーンは開き直ったかのように問いかける。

「そこまで知ってるのに、侯爵家をすぐに告発しなかった理由は?」

 侯爵家の悪事を告発するというのは脅迫だ。

 アレンが提案する言葉をディーンが受け入れなかった場合、侯爵家の人間の人生をすべて台無しにしてもかまわないと判断するという脅しに過ぎない。

 わざわざ交渉の餌にする必要がディーンにはわからなかった。

 ……密告されても不思議じゃない内容だ。

 ここまで調べられているとは思ってもいなかった。

 せいぜい、一つや二つ、公に出ると不味いような内容の物だろうと考えていた。

「欲しいものがある」

 アレンは真顔で告げる。

「それを手に入れられるのならば、侯爵家の悪事を黙っていてやろう」

 そこまでして手に入れる価値があるものをディーンは想像できなかった。

 ……好都合な条件だな。

 侯爵家の悪事を知られている以上は、ディーンから交渉の提案をしても無駄になる可能性が高い。

 しかし、アレンからの提案ならば話は別だ。

 それさえ受け入れてしまえば、侯爵家の安全を確保できる。
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