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第一話 転生悪役令嬢は男装の騎士となる

02-5.

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「エリー。ご苦労様」

「いいえ。お嬢様のお手伝いをするのがエリーの仕事ですので」

 支度はすべて終わった。

 貴族の女性ならば、誰もが憧れを抱く肉体美の美女の姿はない。

 そこにいるのは第一騎士団の制服に身を包み、鍛えすぎではないかと思わせるほどの恰幅のいい中性的な美少年だ。二十一歳になると年齢を告げても、まだまだ子どもだと扱われてもおかしくはない。

 しかし、アデラインのことをよく知っている相手ならば、その正体に気づくことだろう。豊満な胸を隠す為の試行錯誤の結果、胸と鳩尾の差を埋めることになったのはしかたがないことだった。

 すべてを隠し通せるとは思っていないが、最善を尽くした男装姿だった。

「いつも以上に、コルセットで締め上げております。息苦しさはございませんか?」

 エリーは心配そうな声をあげる。

「問題ないわ。これなら矢を放たれても無傷でしょうね」

 アデラインは頑丈に絞められたコルセットのある位置を手で叩く。

 矢で射られるような事態が起きたとしても、コルセットのある位置に当たれば、体には到達しないだろう。

 コルセットの中には大量のタオルが隠されている。

 そこまでしなければ、アデラインが男装をすることは不可能だった。


* * *


 アデラインはエインズワース侯爵家の馬車から降りる。

 王立騎士団に所属をする者の多くは貴族である。専用の寮があるとはいえ、王都にある屋敷から出勤する者も少なくはない。アデラインもその一人だった。

 ……気づかれていないのではなく、あえて言わないだけなのでは?

 アデラインは不意に疑問を抱く。

 エインズワース侯爵家の家紋を隠すこともしない馬車から降りてくるのは、男装をしたアデラインだけだ。

 ……たしかに。私でしたら、関わりたくないですもの。

 しかし、エインズワース侯爵家の子息はアデラインの兄であるカーティス・エインズワースだけである。分家の人間を送り迎えするほどに心優しい侯爵一家ではないことも周知の事実だ。

 ……目撃者がいないのも不自然なのでは。

 一度、疑問を抱くと次から次へと湧き出てくる。

 しかし、立ち止まっているわけにはいかない。

 アデラインは王宮内にある騎士団本部に向かって足を進める。
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