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第一話 転生悪役令嬢は男装の騎士となる

05-5.

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 ……メルヴィン様に言っておかないといけないわね。

 アデラインが考えていたよりも、エステルの怒りは大きかった。討伐任務の際、その怒りの矛先がメルヴィンに向けられないとも限らない。

 聖女として役割は大泣きをしながらではあるが、手を抜かないだろう。

 しかし、討伐が終わってからはわからない。

 ……メルヴィン様が傷を負わないようにしなくては。

 メルヴィンは強い。

 アデラインも何度か手合わせをしているが、勝てたことがない。

 ……あの子、治癒魔法をかけてくれないでしょうから。

 エステルはメルヴィンが負傷したところで治療を拒絶するだろう。それどころか、散々、義姉のことを蔑ろにした天罰が下ったのだと言いかねない。

「どうして、エステルはメルヴィン様を嫌うのかしら?」

「相性が悪いのでしょう。エステル様は、お嬢様に懐いておりますので。お嬢様に構っていただける時間を奪われたのが、よほど、お嫌だったのだろうと思います」

 アデラインの素朴な疑問を耳にしていたエリーは、豪華な宝石で飾り付けされたアクセサリーをアデラインの前に並べながら、当然のように答えた。

「なにより、スコールズ卿の不誠実さを知る者ならば、誰もが敵視を向けることでしょう」

「仕事には熱心な素敵なお方よ?」

「仕事が大切ならば、仕事と結婚をなさればよろしいのです。お嬢様にした仕打ちをエリーは生涯忘れることはないでしょう」

 エリーの言葉に心から同意をしているメイドたちは多いのだろう。

 ……エリー、怒っているわね。

 昨夜、こっそりとエリーに渡した箱の中身を見たのだろう。切断されたさらしとコルセットの紐を確認して、悲鳴をあげることもできなかったはずだ。

「お姉さま! このドレスにしましょう!」

 エステルは目的のドレスを見つけたようだ。

 落ち着いた色合いの赤いドレスだ。全体的にフリルは少なく、大人びた印象を与える。万が一の時にも対応できるように動きやすさが考慮されている。

 アデラインが見たことのないデザインのドレスだった。

 ……流行していないのが不思議なくらいですわね。

 ドレスの流行は早い。

 あっという間に流行していき、一年程度で廃れるのが一般的である。たまに数年程度の流行が続くことがあるが、ドレスの型として定着するまでにはいかないことがほとんどだ。
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