『悪役令息』セシル・アクロイドは幼馴染と恋がしたい

第１話 １０歳の悪役令息、幼馴染の秘密を知る

０３－３．

「見てもらうべきなのは、俺じゃなくて、セシルだろ」

　エドワードは拳を握りしめる。

　いつも通り、手を挙げてしまえば殴り合いになるだけだ。会話が成り立たなくなることをわかっているからこそ、我慢しているようだ。

「セシルは俺の嫁になるんじゃねえのかよ」

「ならねえよ。バカ王子と結婚するなんて死んでも嫌だ」

「は？　やっぱし、おかしくなったのかよ。正気じゃねえとは思ってたけど」

　エドワードは呆れたかのようにため息を零した。

　それに対し、セシルは舌打ちをする。

　今にも殴り合いそうな二人のやり取りを見守っている子どもたちがいることを、二人は気にもしていないのだろう。

「……ハヴィランドと婚約したって聞いたんだが」

　エドワードはルシアンの名前を呼ぶことさえも、嫌なのだろう。

「脅されたのか？」

　それどころか、エドワードはセシルのことを心配していた。

　……気色悪い。

　セシルは酷い寒気に襲われた。

　全身に鳥肌が立つような寒気を感じ、反射的にエドワードの顔を叩こうとしたものの、エドワードに素早く腕を掴まれて阻止された。

「心配してやった俺を殴ろうとするんじゃねえよ」

「悪夢かと思ったんだよ！」

「悪夢なら自分の顔を殴れよ。なんで俺を殴るんだよ」

　エドワードの言葉に対し、セシルは信じられないと言いたげな顔をした。

「バカ王子が俺の心配をするとか、気持ち悪い」

　セシルは正直だった。

　思ったことを何も考えずに口にする。

　それが相手の心を傷つけるなど、考えたこともなかった。

「ルシアンに脅されるとかありえない。ルシアンはそんなことしないし」

　セシルの言葉を聞き、エドワードの機嫌はさらに悪くなる。

「脅迫じゃねえなら、なんでだよ」

　エドワードは理解できないのだろう。

　納得するまで手を放すつもりはなさそうだ。

「お前が嫌がれば、宰相だって無理に婚約させねえだろ」

「嫌がってないし。俺はルシアンと結婚したいから、婚約したんだけど」

「嘘だ。バカのセシルがそんなことを思いつくわけがない」

　エドワードは本気で言っているのだろう。