『悪役令息』セシル・アクロイドは幼馴染と恋がしたい

佐倉海斗

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第1話 10歳の悪役令息、幼馴染の秘密を知る

03-12.

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 ……ルシアンは俺のことを好きなわけじゃない。

 ルシアンの告白を思い出す。

 好意を告げてくれた時は舞い上がった。珍しく浮かれていた。

 だからこそ、ルシアンの好意が本当にセシルに向けられているものなのか。確かめるようなこともしなかった。

 そのことを後悔する。

 ……ルシアンが好きなのは、前世のよくわからない話の中の俺だ。

 現実を見ていないのかもしれない。

 転生者であると打ち明けたルシアンの心の中にあるのは、前世の記憶の中にこびりついているBLゲームのセシルなのだ。似て異なる存在だ。

「セシル? どうかしたの?」

 ルシアンは心配そうに声をかけてくる。

 いつもならば、元気よく振る舞ったことだろう。

 ……俺が心配されているわけじゃないのかもな。

 ルシアンは心配をしている。

 それは、セシルが無言になってしまったからだということはわかっていた。

「なんでもねえよ」

 セシルはルシアンに抱き着くのを止める。

 それから適切であろう距離を取り直すかのように、数歩下がり、ルシアンを見上げた。セシルの不自然な行動を目にしても、ルシアンは心配そうな顔をしているだけだった。

「ルシアンは嫌な思いをしなかったのかよ」

 婚約者が告白をされたというのに動揺をしていない。

 婚約者が殴り合いの喧嘩をしていたというのに、エドワードに対して怒りの感情を抱いていないようにも見える。

 それはセシルを不安にさせる。

「バカ王子は破談させてやるって言ったのは聞いてただろ」

 それは効力のない言葉だ。

 エドワードには他人の婚約を白紙に戻す権限はない。

「あのバカは簡単には諦めないことは、ルシアンだって知ってるだろ」

 エドワードに権力がない。それならば、彼は権力のある両親を頼るだろう。

 思い通りにする為ならば、手段を選ばない。

 王位継承順を脅かすような我儘ではない限り、国王夫妻はエドワードの我儘を止めるようなことはしない。

 国益を損なうような提案ならば、国王夫妻もそれなりの妥協案を出すものの、今回のエドワードの我儘は喜々として叶えられる可能性が高いものだ。
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