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第1話 10歳の悪役令息、幼馴染の秘密を知る

04-3.

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「泣く必要はないよ」

 ブライアンはセシルを優しく抱きしめた。

「兄様たちがセシルの味方だから」

 それはルシアンを悪者に仕立て上げる言葉だった。

 自覚したばかりのセシルの恋心を粉々に砕き、ルシアンとの婚約を望まないように仕向けようとしている。

 セシルはそのことに気づかなかった。

 ただ、優しい兄のブライアンの腕の中で大声をあげて泣いていた。


* * *


「――セシル。大丈夫かい?」

 ブライアンはセシルが泣き止むまでの間、ずっと、優しい言葉をかけ続けた。

 それが功を奏したのだろうか。

 セシルは涙を拭い、布団を蹴り飛ばすほどの気力を取り戻していた。

「大丈夫」

 渡されたブライアンのハンカチを握りしめる。

 ……ルシアン。

 ルシアンに対する不信感を受け付けようとしていることには気づいていた。

 しかし、ブライアンがセシルを心配しているからこそ、そのようなことを口にしていたのだということにも気づいている。

 ……兄様から嫌われて大変なことになりそう。

 心の中でルシアンの心配をする。

 セシルが婚約を白紙に戻したいと口にしない限り、デズモンドは婚約を維持させようとするだろう。

 宰相が家族の強い反対を受け続け、国益を損ねるようなことをするはずがない。当事者であるセシルが婚約を続ける気がある限り、デズモンドは婚約に反対をすることはできないはずだ。

 だからこそ、ブライアンたちはルシアンを徹底的に嫌うだろう。

「兄様。俺、ルシアンに返事を聞き損ねたんだ」

「聞く必要もないさ。どうせ、セシルの望むようなことを言ってもくれないんだから」

「決めつけないでよ」

 セシルは覚悟を決めた。

「俺はルシアンが好きだから。それは変わらないから。だから、ルシアンが俺のことを好きになるようにがんばる」

 兄の思惑のようには動かない。

 自覚したばかりの恋心を抱きしめるように、セシルは宣言した。
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