後宮妃は木犀の下で眠りたい

佐倉海斗

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第三話 賢妃の才能は底知れない

06-5.

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 万姫に気に入られる為ならば、呪術であるとわかっていながらも、蟲毒に何度も手を出した。その都度、万姫は喜んでいた。

 自らの手を汚さなくてもいい相手がほしかったのだろう。

 ただそれだけの理由だとわかっていながらも、杏は蟲毒作りを止められなかった。

「お気をつけてくださいませ」

 杏は笑いながら言った。

「徳妃様は恐ろしいお方ですわ」

 杏はそれだけを言い残し、その場を立ち去って行った。


* * *


 冷宮は手入れの行き届かない場所だった。

 三年前まで人が住んでいたとは思えないほどに荒れ果てた場所に連れて来られた杏は、宦官から手を離されるとようやくため息を零した。

「わたくしはいつまでここにいられるのかしら」

 杏は仕事を終えて主人の元に戻ろうとする宦官に問いかける。

 それに対し、宦官は無言で首を横に振った。
 俊熙の許しが下りるまでは杏は冷宮から出ることが許されない。杏の侍女たちは荒れ果てた冷宮に酷く怯えていた。

「……そう。お前たちに聞いてもわからないわよね」

 杏はぼんやりとした顔で空を見上げた。

 薄黒い雲が太陽の光を遮っている。

「早く、行きなさい。巻き込まれますわよ」

 杏は諦めていた。

 失敗した蟲毒は主人の元に帰る。蟲毒そのものは成功していた為、はじき返されたのは初めてだった。

 ……わたくしの最後の場所にはふさわしい廃墟ですこと。

 人を呪わば穴二つというように、呪おうとした罰が下る時が来た。
 宦官が立ち去り、侍女たちは杏の様子を見守っていた。

「お前たち」

 杏は空を見上げながら、声をかける。

「解雇をしますわ」

 杏は一人で死ぬつもりだった。

 宦官を飲み込んでいった黒い影は弾き返された蟲毒だ。札など張っていない。

 ……嘘を吐いた報いかしら。

 杏は笑う。
 誰も巻き込むつもりはなかった。
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