異世界版ヒーロー【魔石で変身 イセカイザー】

鹿

文字の大きさ
32 / 34

32 地中

しおりを挟む
(真っ暗だ……い、息が)

アスカは流砂に飲み込まれ、どんどん砂に沈んで行った。
目は開けられず、当然真っ暗である。

「うわっ!」

突然の浮遊感に驚き目を開けるが、辺り一面輝いており、自分がどのような状態なのかも分からない。

アスカは流れ落ちる砂と共に、煌々と輝く空間を落下していた。

「がっ!」

そして地面に激しく叩きつけられ、気を失った。

と思った瞬間、アスカが横たわる真下の地面が盛り上がり、砂の中から巨大な白い何かが現れた。

「な、何だ!」

その衝撃でアスカは目を覚ました。

「嘘だろ……」

アスカの下から現れたのは、白い龍だった。
龍は、アスカを背中に乗せたまま上昇して行く。

「どこに行くつもりだ!砂にぶつかるぞ!」

『キュ~!』

『ミミ~!』

キュウとミミは目を閉じて、覚悟を決めアスカにしがみついた。

しかし、天井からサラサラと流れ落ちる砂が止まると、龍の道を作るように、ポッカリと穴が空いた。

「星が見える」

龍は穴から地上に出ると、かまくらの上空を円を描いて飛び続けた。

すると、かまくらから水が噴き出し、瞬く間に湖に姿を変えた。

「オアシスだ。ん?大渦じゃぁないか!」

湖の底の龍が通った穴に、水が吸い込まれ渦が出来た。しかしそれも束の間で、何事も無かったかのようにピタリと止まり、夜空の星を映し出す、鏡のような水面に変わった。

「今度は何だ?何か出てきたぞ」

渦があった場所から、小さな木の枝が現れた。
少しの静寂の後、枝は急激に成長を始めた。その影響を受けて、水面は荒天の海のように荒波がたち、波の音が辺りを埋め尽くす。

「どうなってるんだ?」

木がグングンと成長して、巨大な木となり、湖を覆う程たくさんの歯を広げた。

「俺が見た木じゃぁないか!」

湖の真ん中に生えた巨大な木は、月明かりを浴びて輝いているように見えた。
それは優しく、そして神々しく見えた。

「綺麗だな……」

『キュ』

『ミ』

アスカ達の声を聞き、木は更に光輝き始めた。

「眩し過ぎる!これじゃぁ何も見えないぜ!」

強く閉じた目を、開けようとするが、周囲が眩しく開ける事が出来ない。

「うっ……ん?」

アスカは目を覚ました。

やはり、周囲が眩しく目を開ける事が出来ない。

夜の暗がりから、急激な光量の変化によるものだった。

「ディーディー!動いたよ!目を覚ましたよ!」

少女のような声が聞こえるが、視力がまだ戻らない。

「そうか!それは残念だったな!」

(残念?)

徐々に光に目が慣れてくる。
顔をしかめて辺りを見回した。アスカは、砂の壁に囲まれた小さな部屋に寝ていた。砂の天井には色が違うが、かまくらにあった半キャップが埋め込まれてある。
部屋の中央には、石を削って作り上げた、テーブルと椅子が置いてある。
そして体には、砂がかけられていた。
それは暖かく、アスカは汗をかいていた。

「龍は……夢……だったのか」

ゆっくり体を起こすと、固まった砂がパキパキと音を立てて崩れた。

「ここは……」

「アタイの部屋だよ」

突然の声に驚き、声の主へと視線を向けた。

「お前はあそこで何をしていた?」

そこには、褐色の肌で、白髪を腰まで伸ばした女性が立っていた。つり目で、きつい印象を受けるが美しい。少し、ふくよかではあるが。
しかし驚く事に、彼女は裸で何も身につけていなかった。

「お、おっぱい!」

アスカの目が、おっぱいになった。

「これだから男は!よく見ろ!」

「はい!よく見ます!」

正当な許可を得たアスカは、目を逸らす事なくおっぱいになった両眼で女性を見続けた。

しかし彼女に言われた通りよく見ると、首から下の色は若干濃く見えた。そして立派な双丘の頂点にあるはずの物が、どこにも見当たらなかった。

「お前と一緒だ」

「は?俺と同じ?実は男なのか?まさかキャサリン!夢なら覚めてくれ!」

女性は、吐き捨てるようにため息をすると、一歩前へ進みアスカに近付いた。

「お前にかけてあった、砂と一緒だ!アタイは砂を身に纏ってるんだ。他に何がある!」

「え~!何のために!」

「身を守るために決まってるだろ。サンドクロスだ。他に何がある!」

そう言うと女性が見に纏っていた砂が、サラサラと剥がれ落ちた。
砂が剥がれ落ちると、女性は右肩にだけ紐のついた、黒いブラジャーのような物を着ていた。下にも黒いホットパンツを履いていた。
ふくよかだった体付きは、すらりとした四肢になった。

「それもセクシー!」

アスカの目はハートに変わっていた。

「下心全開。ディーディー砂を纏って!」

ディーディーと呼ばれた女性の後ろから声がした。
視線を下げると右腰のあたりから、ヒョッコリと女の子が顔を出していた。その子の肌も褐色で、ショートの白髪である。やはり耳は尖っている。首には茶色のメダルがついた、ネックレスを下げている。

「君たちが助けてくれたのか?」

「アタイは違う。こいつらだ」

「こいつら?」

するともう1人女の子が、ディーディーの左から顔を出した。その子は、2つのネックレスを首に下げている。

「……」

アスカを見てモジモジし始めた。

ディーディーのサイドから双子が姿を表すと、その腕にはキュウとミミが、それぞれ抱かれていた。

「キュウ!ミミ!無事だったか!」

『キュウ』

『ミミ』

キュウとミミはアスカに飛びついた。

「良かった。本当に良かった」

それを見てディーディーはため息をつくと、2人の女の子の頭に手を添えた。

「助けてくれてありがとう。え~っと。名前を聞いても良いかな?」

『キュ~』

『ミミ~』

キュウとミミは双子の胸に飛び込んだ。双子はそれを嬉しそうにキャッチした。

「私はミューミューで、こっちは妹のキューキュー」

「……」

最初に顔を出した子が自己紹介をしたが、もう1人の子は、やはり下を見てモジモジしている。

よく見ると2人は瓜二つだった。髪の分け目が左右逆、という以外は全く同じ。そして2人もまた、色は違うがディーディーと似た服装だった。

「ありがとうミューミュー、キューキュー。君たちは双子なんだな。ネックレス2つがキューキューだな。よく似合ってるよ」

「……」

キューキューは更に深く下を向いた。

「アタイは反対した。こいつらが族長に頼み込んだんだ」

「何で反対してんだよ。死んだらどうするんだ。同じ人間だろ」

「同じじゃない。アタイたちは人間じゃない」

ディーディーは髪で隠れた耳を出した。その耳は長く尖っていた。

「まさかエルフか!」

それを聞いたディーディーは、あからさまに怪訝な表情をした。

「アタイらはダークエルフだ。他に何がある!あんな種族と一緒にするな!」

「ダークエルフ?どう違うんだ?」

「お前、本当に知らないのか?」

「え?それって常識なの?」

「……」

キューキューが無言で微笑んだ。それを見たミューミューが声を上げて笑った。

「ね?大丈夫でしょ?この子たちが守ってたから、悪い人じゃないんだよ」

「まだ分からない。回復したんなら、さっさと出て行くんだ」

「どうしてそんなに邪険に扱うんだ?俺が人間だからか?」

「違う。お前が男だからだ!ここに男は1人もいない。ダークエルフは女だけの種族だ」

「なんだって!……じゃあここが……ここが、俺の目指していたハーレム!」

『キュ~!』

『ミミ~!』

「冗談だよ!冗談」

「あなた、この子たちの言葉が分かるの?」

驚愕の表情でミューミューは、アスカとミミを見比べた。

「いや全く。でもなんとなく分かる気がするんだ」

「そう……私には分かる。この子たちはここに残るって」

「え?冗談だろ!」

ミューミューの言葉に耳を疑った。

『ミミ』

『キュウ』

キュウとミミは嬉しそうにアスカを見ている。

「ほら、そんな事ないって言ってるよ」

「……そうなの?残念……」

(ビビった~。この子も分からないのかよ)

「こいつらはね、族長たちが、お前たちを殺そうとした所を止めたんだよ」

「な!マジか!」

「このモンスターたちが、自分たちの名前を呼んでるんだって言って聞かなかったんだ。お前はモンスターのついでに生かされた」

『キュウキュウ』

『ミュ~ミュ~』

(なる程、キューキューとミューミューか)

「はあ?俺はついで?まあ、生きてて良かったけど」

「特にキューキューは、いつも後ろに隠れて、前に出ることがない。口がきけないからだ。それなのにお前たちを必死にかばった」

「そうなのか?……分かった!じゃあ俺はもうしばらくここに残る事にした」

「何を聞いていた!ここに男は必要ない!」

「でもキュウとミミは必要だろ?」

「ディーディー……」

ミューミューは悲しそうに見上げた。キューキューもキュウを強く抱きしめた。

「アタイはどうなっても知らないからね!」

双子の顔は、花が咲いたように明るくなった。

「よかったねキューキュー」

喋ることの出来ないキューキューは、嬉しそうに頷いた。

「じゃあ一緒にご飯を食べよう!行こう!」

キュウとミミを抱きしめた双子は、無邪気に笑い走って部屋から出て行った。

『万死一生、死を覚悟したアスカ。
しかし突如地中から、白龍出現。救命救急。水湧巨木。だがそれは、アスカの夢だった。
目覚めたアスカは、奇々怪界な砂の民に救われた。
開口一番、変態炸裂!しかしそこは、容姿端麗な女性世界。アスカを理解する同類相求の下衆男達はいない。残念無念。消化不良。美人薄明。エッチ団結とはならず。
悪戦苦闘アスカ!
局面打開イセカイザー!
次回予告
産声』

「エッチ団結が言いたいが為に、四字熟語を並べたな!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました

mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。 なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。 不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇 感想、ご指摘もありがとうございます。 なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。 読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。 お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

処理中です...