自衛官のスキル【正当防衛】はモンスターにも適用される 〜縛りがエグい異世界行軍〜

鹿

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33 日の丸

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「かんぱ~い!」

ゼンジたちは、キーラの宿『白い雄鶏亭』で祝杯を上げていた。

「しかし驚いたな。まさか、あのクイーンヴァンパイアを倒すとはな。ガッハッハ!ますます気に入った。嬢ちゃんつまみを持ってきてくれ!」

上機嫌のロックジョーは、黄金のナマタタビールを一気に飲み干した。

「ロックジョー殿、そしてゼンジ殿ありがとうございました。これで村は元に戻ります」

村長が深々と頭を下げた。
その隣でテープルも頭を下げている。

「いえ。自分の慢心で、リッキーを危険な目に遭わせてしまいました……」

リッキーは、その言葉を否定するため、両手を顔の前で大きく振った。

「そんな事はありません!僕の命を救ってくれました。あなたは僕の命の恩人です」

「いや、そんな事は……」

「ウォ~!!そんな事はあるんだぁ!ヒック。ゼンジ~は俺様の誇りだ!」

「ノック大丈夫か?もう酔ったのか?」

虚な目で叫ぶノックが持つ木製のコップには、未だ零れそうなほど泡が盛り上がっている。

「ウォ~!!まだ1杯目だで。ヒック。俺様が酔ってるように見えるか!」

「ああ。間違いなく酔ってる。口をつけただけで喋り方がガラリと変わったぞ。首もおかしいし」

ノックは首回りだけ、獣化していた。

「ゼンジさんごめんなさい。兄さんは酒に弱いんです」

「ウォ~!!リッキー!俺様のどこが、ヒック、弱いんだばだ!」

ノックは勢い良く立ち上がり、リッキーの胸ぐらを掴んだ。

「や、やめなよ兄さん。みっともないよ」

「ガッハッハ。そうだぞ。酒の席での揉め事は身を滅ぼすぞ」

「ウォ~!!何だとぉロックジョー!お前は黙ってろ!ヒック、その口を……」

すかさずゴードンが、ノックの後頭部に手刀を当てた。その衝撃でノックは動きを止めた。

「す、済まねぇ!ロックジョーさん。こいつは酒にめっぽう弱いんだ。申し訳ない!勘弁してやってくれ!」

「ガッハッハ。俺は嬢ちゃんにつまみを頼んだんだ。不味い、つまみを頼んだ覚えはないがなぁ」

そう言うとロックジョーは、黄金のナマタタビールを一気に飲み干し、空になった木製のコップを握り潰した。

そこにいる者、全ての時間が止まった。

「ロ、ロックジョーさん。本当に申し訳ない!」

平謝りするゴードンの横で、ノックは首に手を当てて、頭を左右に振りゴキゴキと鳴らした。

「ウォ~!!ゴードンてめぇ!俺様に何しやがる!」

「目を覚ましたのじゃ!効いてないのじゃ!」

「兄さん!首だけ獣化してるから、攻撃が効いてないんだ」

「ノックさん。その辺でやめてください」

テープルの声は震え、村長とリオも目を見開き固まっている。

「ウォ~~!!これが俺様の生き甲斐だ!」

ノックは、黄金のナマタタビールを一気に飲み干した。

「ウォ~イ!!とりあえずナマ!ヒックヒック」

「ノック!もう、お前は黙って寝てろ!」

ゴードンが、ノックの鳩尾に拳をめり込ませた。
しかしノックは、ゴードンの肩に手を乗せて吠えた。

「ウォ~~!!!ゴードンそんなヤワなパンチなど、この俺様にはレロレロレロ」

ノックはゴードンに盛大に嘔吐し、そして気を失った。
それを見るリッキーは、捨てられた子犬のような目をしている。

「みんな悪いが、俺たちはここで退散させてもらう。リッキー!行くぞ!」

「みなさん、ごめんなさい」

ゴードンとリッキーは、ノックを両サイドから抱えて、白い雄鶏亭を脱兎のごとく後にした。

「ガッハッハ。酒に飲まれるなんぞ、まだまだヒヨッコだな!勿体ない事するんじゃない。酒の中には7人の女神が宿ってるんだ。俺はそれを27杯飲んでるから、合計……何人の女神がいるんだ?」

リズは額に手を当て、ため息を吐いた。

「はぁ。32杯飲んでますよ。それに、お酒の女神様が7人なら、どれだけ飲んでも7人でしょう。はぁ。お酒に飲まれてるのは誰ですか」

「ガッハッハ。それは大間違いだ。俺も仲間入りしたから8人だ」

「はぁ。何の話をしてるんですか。大体、女神様って知ってますか?女性ですよ。どこまで負けず嫌いなんですか」

「どうぞ、おつまみです」

キーラが笑顔を引きつらせつつ、干し肉をロックジョーの前に置いた。
ロックジョーは、おもむろにそれを鷲掴みにして口に放り込むと、ナマタタビールで流し込んだ。

「ふぅ~。ところでゼンジ。お前は蜂なのか?」

唐突に話題が切り替わると、その場の雰囲気も一気に張り詰めた。

「違います。テープルさんにも聞かれましたが、その蜂って何なんですか?」

「……」

ロックジョーは、珍しく真面目な顔でゼンジの目を直視した。そして左腕につけてある、日の丸のワッペンに目を落とした。

「これがそんなに気になりますか?」

ゼンジはワッペンを取り外し、手の平に乗せてロックジョーの目の前に差し出した。

「これは自分の誇りです」

そう言うと再び腕に着けた。

「な、な、なん、何ですかそれは!」

突然、声を裏返してテープルが叫んだ。

「テープルさん。これは前にも説明しましたが、自分の国の国旗で……」

「ください!」

「は?別に良いですけど、直ぐに消えますよ」

ゼンジはワッペンを取り外した。

「違います!その権利を下さい!」

「え?権利を……ですか?」

「はい!是非欲しい!その、着け剥がし可能な物を作り、そして販売する権利を私に譲ってください!!」

「そっちですか!自分が作った物じゃないので何とも言えませんが、これは珍しい物なんですか?」

「見たことも聞いたこともない!それは頂いても消えるのでしょう?だったら、それを作る権利を売ってください」

「良いですよ。見ます?」

「是非!!」

テープルは、ゼンジの腕に着いている日の丸のワッペンを着けたり剥がしたりして、その度に感嘆の声を上げている。
そして胸元からモノクルを取り出し、右目にはめてワッペンと腕のマジックテープを交互に観察し始めた。

「こちらが鉤爪のようになっていて、少し硬いな。イエローアントの毛と似ているな。ふむふむ。こちらは、お~。輪っかなのか!これがここに引っかかり。ほ~!それで何度も使えるのか!何か代用出来そうな物は……」

「テープルさん」

ゼンジの声は、テープルの耳には届かなかった。

「普通の糸では耐久性に欠けるな。頑丈だけどシーシープの毛は太過ぎる。いや!あれを高温で温めれば、使い物にならないほど縮まるぞ!それを利用すれば!」

「テープルさん!痛いです!」

しかし夢中になっているテープルは、ゼンジの腕を握り締めている事に気付いていない。

「太いうちに縫い付けて、それから……」

「テープルさん、ゼンジさんが困ってますよ」

キーラの囁きで我に帰った。

「は!も、申し訳ない!今ある全財産をお支払いします。と、言っても倉庫が壊れたので、金貨26枚しかありませんが」

テープルは金貨の入った袋をゼンジに渡した。

(こんなに貰えないな。だけどこの状況じゃ引き下がらないだろうし……)

「それでは遠慮なく頂きます」

ゼンジはその中から1枚取り出して、残りはテープルに返した。

「マジックテープを作るには元手が必要でしょう。今の自分にはこの金貨1枚で十分です」

「ゼンジさん……」

キーラが、うっとりとした顔でゼンジを見つめた。

「なんと!ありがとうございます!私のためにそのような名前を付けて頂いて」

「え?」

「いや~、マジックテープル。良い名前です!魔法のテープルかぁ」

「もう、それで結構です」

マジックテープルと何度も復唱するテープルを横目に、ゼンジはため息を吐き顔を上げると、ロックジョーと目が合った。

「すみませんロックジョーさん!お話の途中でした」

「ガッハッハ。まぁなんだ、気にするな。それよりもゼンジ、いつまでちびちびやってるんだ!酒は一気に飲むもんだ!」

ロックジョーの雰囲気が戻った事に安堵したゼンジは、黄金のナマタタビールを一口ふくんだ。

「美味い!日本のビールとほぼ……」

ゼンジはそこまで言うと、咳き込むふりをして慌てて話を変えた。

「ゴホッ。で、でも、ロックジョーさんのように、酒に強くないのでゆっくり飲みますよ」

「俺が誰よりも強いのは知っている。だが急いで飲まないと夜が明けるぞ」

「はぁ。そうですね。夜が明ける前にそろそろ戻りますよ」

リズベスが、ゼンジよりも深いため息を吐いた。

「ガッハッハ。リズ冗談だろ?宴は今、始まったばかりだぞ」

「はぁ。宴もたけなわです。期限が迫っています」

「おっと、もうそんな時間か。それじゃあ嬢ちゃん、酒を樽で持って来てくれ。あるだけ全部だ」

「え?飲まれるんですか?」

キーラは驚き、聞き返した。

「ガッハッハ。持って帰るんだ」

「そ、そうですか。今用意できるのは6樽です」

「まあいいだろう。金貨50枚置いていく。余ったら村の修繕に使ってくれ」

「き、金貨50枚も!」

「はぁ。マジックバッグを忘れた人が、6樽も、どうやって持って帰るんですか。私は持ちませんよ」

「ガッハッハ。マジックバッグはあるだろ」

ロックジョーはゼンジを見て口角を上げた。

「え~!!!自分が運ぶんですか?」

「そうだ」

「今からですか?」

「そうだ」

「明日じゃダメなんですか?」

「こう見えても急いでるんだ。ガッハッハ。宜しく頼む」

「のんびりしてたように見えたんですが」

「ガッハッハ。何か言ったか?」

「ゼンジ。逆らわない方が良いと思います」

「分かりました。運びます……」

ポーラに諭され、ゼンジは渋々キーラの後をついて調理場の奥へ行き、そこにあった6樽を衣のうに収納した。
そしてため息をついた後、皆が待つ食堂に戻ると、ロックジョーが仁王立ちで待っていた。

「ゼンジこっちに来い」

ロックジョーは、ゼンジを呼ぶと強引に肩を組み、ポケットから桃色の玉を取り出した。リズベスはロックジョーの肩に手を添えた。
それを見たメロンは小声でポーラに呟いた。

『ポーラ、ゼンジに捕まって!早く』

「え?メロンちゃん……」

『急いで!』

状況が分からないが、慌てるメロンを見て、ポーラはゼンジの腕を掴んだ。

「それじゃあ行くぞ、準備はいいな」

「準備なんて出来てませんよ」

「ガッハッハ。それじゃあ村長また来る」

「ちょっと待ってください。まだお礼が……」

「ダーナハント」

村長の言葉の途中で、ロックジョーが街の名前を呟いた。

桃色の玉が輝いた次の瞬間、視界が切り替わり執務室のような部屋にいた。

机には、所狭しと羊皮紙が積み上げられ、その向こうで誰かが羽根ペンを滑らせている。その男は書類を書き続けながら、怒鳴り声を上げた。

「遅い!何をしていた!いや、愚問だな。呑んでいただろ!おい、リズベス!何の為について行ったんだ!」

「はぁ……」

「い~や!喋るな。その時間が勿体ない。直ちにドボルへ向かえ!」

「ガッハッハ。グー……」

「手に入れたんだろ!だったらさっさと行け!」

「グース……」

「一刻を争う!急げ!」

書類を書き続ける男は、ロックジョーの言葉を何度も遮り、顔も上げずに怒鳴り散らした。

「はぁ。グースネックさんの言う通りです。急ぎましょう」

「ガッハッハ。行くぞゼンジ!」

一行はドアを開け、走ってその場を後にした。

「ゼンジ?誰か連れて来たのか?」

そこで顔を上げた副ギルドマスターのグースネックは、開けられたままの扉を見て舌打ちをすると、直ちに手元の羊皮紙に視線を戻した。


(女神様、こちら自衛官、
マジックテープの権利を、勝手に渡して良かったのでしょうか?それにしても、ロックジョーさんは人の話を聞きません!どうぞ)
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