センパイ番外編 

ジャム

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カネダ ジュンヤ(鬼畜注意)

美しい世界

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世界は急速に汚れていく。

人間は、毒を生み出す動物だ。
世界中にある美しいものを荒らして、踏みつけ壊す。
クイタイホウダイ、チラカシホウダイ。
ぐちゃぐちゃのドロドロに掻き混ぜられた原色の絵の具みたいに。
醜悪で惨めで、元の姿など想像出来ない位。
そうして出来た『ゴミ溜め』から、大気中に毒が吐き出される。
目に見えない粒子となった毒は、人間達の上へ平等に舞い落ちる。
自分達が作り出した毒を、自分達で吸っているのだ。
毒を吸い続けた事によって、自分の全てが変わってしまった。
かつて、幼い頃、自分にもあった筈の澄んだ瞳は、今は昏く鈍い光りを発し、触れれば壊れてしまいそうに白かった柔肌は、硬く茶色に変わり、純真だった筈の精神は、見る影もない。

何も知らない元には戻れない。
煙草の味も、鉄臭い空気も、泥のように濁った何も映さない海面も、自分と同じように、同じ年月を毒に塗れながら、ここに存在している。
どんな形に歪み、汚れ、爛れようとも、自分達がこの世界を作る物の一部である事には変わりない。

そんな事を止めどなく考えて、息をするのも億劫に感じた。
いっそ、呼吸を止めてしまおうか。
何の夢も希望もない。
こんな世界に生きてなどいたくない。
誰が吐き出したかわからない空気など、吸いたくない。
呼吸を浅くしていくと、酸素を欲してドクドクと鳴る心臓の音が耳の中で大きく響いてくる。
こんなものを吸っていたら、死ぬぞ。
そう自分に言い聞かせるが、体は酸素を欲して苦しみ出す。
頭の中で耳鳴りが警報のように激しく鳴り、1分も経たないうちに気管が息をさせろと引き攣り出す。
自分の肺の中が黒く爛れボロボロになっていくのを想像しながら、薄く唇を開いた。
途端、堪えていた分、体はたくさん酸素を取り込もうとして、肺の中へと大きく空気を吸い込んでしまう。
ーーーまた、汚れていく。
なのに、耳鳴りの消えた体は、自分の考えとは別に、肺に満ちて来る空気に安堵している。

そうして、悟るのだ。
自分は、また死ねなかったと。

「カネダ先輩、起きたんですか?」

その声を聞いて、カネダは生徒会室の会議用にセットされた長机の上、ネクタイで目隠しをされている少年の方へ視線を移す。
肉付きの薄い、まだ大人になりきれていないほっそりとした四肢。
それを机の上で僅かに揺らし、学校指定の白い長袖のYシャツを汗で濡らして、切ない溜め息を吐いている。
入学式から3日。気紛れに声を掛け、トイレで犯した少年は、カネダが思っていた通りの獲物だった。
自分を見上げる少年の瞳の中には、畏怖と憧れ、被虐と切望の色が混沌と入り交じっていた。

カネダはゆっくりと体を起こし、少年の痴態を眺める。

美しいものだけしかなかったら、きっと、惹かれなかった。
自分が汚れていると感じなければ、眩しく思わなかった。
腐った井戸の中から、遥か遠くに開いた手の届かない丸い窓を見上げているような気持ちだ。
小さな丸い空しかない暗闇の中で、カネダは目を開いた。
現実の空は、銀色のスチール枠に縁取られたガラスの向こうにあった。
見慣れた水色の空は植樹の枝に遮られ、太陽の光りをキラキラとさざめかせる。
カネダは、自分が教室の窓際に寄せた椅子に寝そべっていた事を、やっと思い出した。

「オレが退出時間までに起きなかったら、見回りの先生に見つかるとこだったな」
椅子から立ち上がり、少年の傍へ近づく。
少年の手足を大の字に開かせ、長机の上に梱包用のビニール紐で括りつけた。
一定の間隔を置いて、彼の身体は酷く力み、その度に四肢が突っ張るため、ビニール紐で縛られた手首や足首に紐が喰い込んでいる。
カネダは少年の拘束された身体を正面から見下ろす。
膝から下をダラリと机の端から降ろした足の間には、おびただしい愛液が滴り落ちていた。
わざと衣擦れするように、少年の中心にYシャツの裾を被せた。
濡れたYシャツは、その下で震える赤く丸みのある欲望を薄らと透かして見せる。
これだけの先走りを溢れさせているくせに、よく必死に我慢しているものだと、カネダは口元を弛めた。
人差し指を伸ばし、何も履いていない太腿の上を、膝の上から足の付け根までなぞる。
途端、少年の背中が捻れ、飛び跳ねる。
「イキそうんなった?」
カネダの言葉に、少年はガクガクと頷き、会議用の机の上で身を捩る。
「誰かに、こんなカッコして、悦んでる姿見られたら、死にたくなっちゃうよな?」
言いながら、カネダの手が少年のYシャツを捲る。
ステンレス製の戒めを喰い込ませ、真っ赤に充血した肉茎の先端から持ち上げたYシャツに、白濁した糸が引く。
そんな微かな刺激でさえ、自分が与えるものに少年は息を弾ませて悦んだ。
「そんなの・・関係ないです・・オレは、カネダ先輩が来てくれるまで、待ちます」
そんな献身的な台詞を聞かされたカネダの心に、暗い嗜虐心が沸く。
「来なかったら?」
「・・待ちます」
「でも、来なかったら?」
「待ってます。ずっと、先輩が来るの、待ってます」
これだけ汚されても夢見る処女みたいな発言をする少年に、カネダは目を眇める。
「それでも、来なかったら?お前の事なんか忘れて、戻って来なかったら?」
「それでも・・、いいんです。オレが『待ってる』って事に・・意味が、あるんです。カネダ先輩を・・待っているって時間に、意味があるんです」
どこまでクソなんだと、カネダは奥歯をギリと噛み締めた。
「意味なんかねえよ。忘れられたものに意味なんかねえだろ」
ガンッと勢いで長机の足を蹴ると、それすら快感に繋がる少年の身体が机の上で踊る。
「・・あります。あなたが・・この世界に、いれば・・オレにとって全てに意味があります」

笑いたくなった。
鼻で嗤ってやろうと思ったのに、自分は表情を変えず、少年をジッと見下ろしている。
使い古された台詞だ。
誰に言われたって、こんなクサい言葉、自分には響かないだろう。
それが、自分が回りと違うという事。
自分はこの世界にたった1人だという事。
だから、自分だけが、この世界の何とも交わる事が出来ない存在なのだと確信していた。
なのに。
今、どうして、少年の言葉に耳を傾けているのだろう。
日々、虐げられ、自分の欲望の捌け口にされている彼の口から漏れる、自分に対する慈愛の言葉。
この世界を汚している自分を、どうして許すのだろう。
ここに立っているだけで、端から腐っていく。
自分の足下がぐちゃぐちゃのドロドロに変わっていくのが見えた。
全てが自分とは異質で、目の前にいる少年の姿すら膜の向こう側に見える。
真っ白な足先から、ゆっくりと伝い落ちていく愛液が、足下の黒く爛れた床の上へ白い円を描く。
ポタリ、ポタリと一滴ずつ白く塗り替えられていく足下に、カネダは目を見張る。
真っ暗闇に白い花弁が開いていく。
自分の目の前で、淫らな欲望を曝け出す少年の姿はとても美しかった。
世界は、まだこんなに美しい。

これが、例え、どんなに間違った表現だとしても、自分にとっては、生きている事を実感させてくれる掛け値無しの真実だった。
被虐に濡れ、美しく震える少年の身体を拓く。
「じゃあ、ちゃんと『待て』が出来たいい子にはご褒美やんなきゃな」

カネダはベルトを外し、自分のズボンの前を手際良く寛げると、中から気怠気な性器を引出した。
高揚するにはあと少し足りない。
先端から根元まで手の中で何度か擦って力を持たせると、少年の膝を掴んで、身体を自分の方へ引きずり下ろす。
だらしなく開いた下肢を持ち上げ、肌色の肉の狭間から垂れたビニール製のコードを引き抜いた。
ドロリと肉襞の中から滑り出たピンク色のオモチャを、カネダは少年の胸の上へポイと投げつける。
スイッチの入ったままのオモチャが彼の胸の上で、単調なリズムでバイブする。
少年の中で愛液に塗れたそれを、カネダは少年のYシャツの胸ポケットの中へ仕舞う。
そこにも刺激を敏感に感じる肉芽があり、少年は新たに生まれた愉悦に唇を噛む。
カネダは少年の嬌態を見つめ、尻の狭間に拓いた濡れた肉蕾の中に剛欲を突き入れた。
「・・!!ハッ・・アぁ・・ッ・・アアアッ」
ズブズブと奥まで一息に貫くと、彼がずっと堪えていた欲望を撒き散らすのを見下ろす。
白いYシャツの上に飛び散った喜悦の証が、淫らな染みを作る。
カネダは、目を細めて制服のズボンのポケットから煙草を取り出した。
腰を軽く蠢かしながら、煙草を1本口に咥え、ライターでその先端に火を点ける。
更に深く少年の下肢を折り曲げ、カネダは抉るように抽挿を開始した。
目の前で、激しい律動に喘ぐ少年の身体がピンク色に火照っていく。
自分によって姿を変えていく少年の姿に愛しさが沸き、カネダはより深い交合を目指す。

もし、誰かがこの部屋の中へ入って来て、自分達のしている事を見ても、きっと理解出来ないだろう。
壊しながら、変わっていく世界を愛する。
一から塗り替えるのだ。
自分が与える事で変わっていく世界に、カネダはうっとりと目を細めた。
少年が短い悲鳴を上げ、身体を仰け反らせて何度目かの絶頂に達する。
真っ白な体液を噴き上げる媚態を眺めながら、カネダは煙草の煙を吐き出した。
まだ。
この世界は、美しいのかも知れない、と。



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時々、カネダ君が愛しくなります。
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