たとえそれが、片思いであったとしても

池田 瑛

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8.二年七月 AB分岐点 B

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「先生、このとおり!」

 相田健太は、両手を合わせ、頭を下げた。神仏を拝むようであった。放課後、職員室の前での出来事であった。

「困ったわねぇ。赤点を取られると補習をしなきゃいけない決まりなのよね」と産休の間の臨時教諭である加藤は困ったような顔をした。

 教育大学を出たばかりの若い女性の先生だ。優しさと人の良さが顔にまで表れている。

「補習があると、試合に出れなくなるんです! お願いします。一点、ください。その分、三振とりますから!」

  あと一点あれば、赤点から免れて、補習を免れるのだ。そして、国語の補習日と準決勝の日が重なっていた。

 相田は国語が赤点である。それはつまり、相田は準決勝の試合には出場できないということだ。

 加藤も、相田が野球部のエースであり、今年の野球部は強いという評判であった。それは春の結果が示している。もしかしたら高校始まって以来の甲子園初出場——という期待が先生達の中でも話題になっていたのは知っている。

「仕方ないわね……」

 ×を△に書き換え、加藤先生は一点を加えた。

「ありがとうございます」

 ・

 ・

 ・

 準決勝の試合。

 エースはマウンドには上がらなかった。

 集合時間になっても、相田健太は来ない。携帯電話に連絡をしても繋がらない。

 控えのピッチャーでなんとか試合には勝った。 

 試合後、連絡が入った。

 交通事故だった。山崎美津子と自転車で試合会場に向かっている時だった。即死だった。
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