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第3章 1000年前の遺産
契約魔法を使ってみよう
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「クラウド様、この度は夫が命を助けて頂きありがとうございました。」
食事の後で話しかけてきたのはバダックの妻エリスである。礼を言いながら頭を下げるその後ろには執事のコーランもおり、エリスよりも深く頭を下げている。
「ああ、気にしないで下さい。それよりも合流が遅くなってしまい申し訳なかったですよ。」
「私に続いて・・・。貴方には本当に助けて頂いてばかりね。」
「全くだ。クラウド殿にはそろそろ頭が上がらんよ。」
話しに入ってきたのは助けてもらった当人のバダックである。リリーの護衛が終わりミルトアの街に帰った時、命を失いかけたことをエリスに咎められこってりと絞られたバダック。
その夜に肌を合わせた2人は互いに命を失わなかった事を心底喜びあっている。
「そもそもバダックさんも責任があるんだよ?」
「うん?何を今さら。リリー殿下を守れなかった責任なら痛感しているよ。」
「違う違う。仕事も大事だけどバダックさん、エリスさんを幸せにしないまま死んじゃいけないよ。」
クラウドが言う責任とは領主としてでは無く、騎士としてでも無い。一人の家庭を持つ男としての責任である。それを聞いたバダックは一瞬ポカンとしてから大笑いを始めた。
「はっはっは!まさにその通りだ!」
騎士や領主としての責任の大きさは常に感じているが、エリスへの責任という考え方を指摘された事など初めてであったバダックは家族を大切にするクラウドらしいと心底感じている。
2人の男の会話を聞いて顔を綻ばせるエリスの横でコーランの頬には涙が伝っている。
「大体バダックさんは魔法使いとの戦闘を想定して無いんじゃあ?」
「そうは言うが魔法使いとの戦闘など想定したところで何も変わらんだろう?結局私には離れた敵への攻撃方法など無いのだから。精々が素早く距離を詰めることくらいかな。」
その言葉を聞いたクラウドが「なんてこった・・・、そりゃただのごり押しじゃん・・・」と呟きながら顔を手で覆っている。
「ならバダックさんも遠距離の攻撃手段を持つべきだよ。それに装備も。あんな普通の剣に鎧じゃ対策なんて何もしてないだろう?」
クラウドの言葉に首をかしげているのはバダックだけでは無い。エリスやリリーを始め元冒険者であった村長ロデリックと執事であるコーランの2人も不思議そうに話しを聞いている。それを見たクラウドが見せた方が早いと言い出した。
その結果、騎士団長のファンクが呼ばれる事になるが、やって来たファンクは一瞬でその場に違和感を感じていた。そして自分が何故呼ばれたのかに気づくと同時にそれが最早回避不可能であることを理解する。
「・・・はぁ・・・。お手柔らかにお願いします・・」
「おっ、なかなか潔いな。それじゃあ外に行くか。」
そう言って家を出て行く一行。エリックやエドワードにルーク達も何事かとついて行った。
少し歩いた一行はトント村の東にある森の入口までやって来ていた。
「ん、こんな所まで来てどうする?」
「さっき言ってただろ、契約魔法をファンクさんで実験しようって。」
「!面白そう!」
楽しそうなリリーを見て思わずため息が出るファンク。自分が今からどんな目に合うのかが分からないため不安になっているようだ。
「まあそう不安になりなさんな。ファンクさんにとっても悪い話しじゃあないよ?」
そう言いながらクラウドはアイテムリングからリストボードを表示させ一つのアイテムを取り出した。
「それは魔石・・・?」
バダックがそう尋ねる。しかし、それはよく見るとただの魔石で無い事はすぐに分かった。クラウドが手に持っている手のひら大の魔石には中に何かが入っているように見える。
「これは俺の水属性魔力を結晶化させて作った魔石だ。」
「「「「「「・・・・」」」」」」
既に慣れつつあるとは言え、突拍子も無い言葉に一同からは声も出ない。
「中にいるのは水の上位精霊ウンディーネを模して作った|魔法生命体(マジッククリーチャー)だよ。」
「それをどうするの?」
リリーが不思議そうに尋ねている。
「もちろん契約を結ぶんだよ。そうする事でファンクさんはウンディーネの力を使うことが出来る。離れた敵への攻撃も出来るし熟練度が上がれば上がるだけ強力になるぞ。」
何でもないことのように話すクラウドであるが、本来契約魔法は非常に扱うのが困難な魔法の一つである。契約を交わした対象の力を使えるようになる上に、魔力の消費を必要としないこの魔法を使う為にはクリアしなければならない課題が3つあるとクラウドは言った。
一つ、契約対象とコンタクトを取ること。
今回の場合だと、ウンディーネと契約するためにはウンディーネを呼び出す方法を知っているか、会いに行く方法を持たなければならない。通常それら上位存在とコンタクトを取ることなど本来は出来る筈がないのであるが。
二つ、相手に契約を承諾させる必要がある。
契約を認めさせる方法は主に2つ。話しあって協力を得るか力を示して認めさせるか。召喚魔法にも共通するが、契約は一方的に結ぶ事は出来ない。あくまで相手の同意を得る必要がある。ただし、話し合いで強力を得ることは普通はあり得ない。一般的には自身の力を示すことで相手に認めさせるしかないのである。しかし、上位存在とも言える相手を力で認めさせるのは並大抵の実力では不可能だ。
三つ、契約の結び方を知っていること。
これが契約魔法を使う中で一番のネックとなる。魔力では無く生命力を消費させてウンディーネを使役する方法を知らなければならない。魔法を使う上で必ず必要となるのは魔力。術者は対象と契約を結ぶときに自身の生命力を魔力に転換する魔法術式を用いなければならないが、その術式は難解の一言であった。複雑な魔法理論と幅広い術式構成の知識が必要不可欠なのである。
そう説明するクラウドは話しの最後に「まあ今回は全部俺が用意したけど」とさらっと言ってのけた。
数名が苦笑いする中でファンクにクラウド特製の魔石が渡される。
「そいつは俺特製のアイテムでな。魔石が割れた時に一番近くにいる人間が中にいるやつと契約を結ぶ事が出来る様にしてある。それがこの『誰でも簡単、契約魔法キット』だ!」
おちゃらけながら言うこのアイテムは画期的ともいえる程のアイテムである。上位魔法を誰でも使えるようになるなど尋常ではない。(使いこなせるかは別であるが)
アイテムランクで言うなら堂々の『神話級』というクラウド自慢のアイテムであった。
クラウドに不満があるとするなら唯一つ。
開発当時は連日の徹夜に加え溜まった疲労によりテンションが跳ね上がった結果に命名したアイテム名ぐらいであろう。アイテムリングに収納する場合、一度登録されたアイテム名は変更が効かない。取り出す時に声に出さず態々リストボードを操作していた理由がそれであった。
ファンクが言われるがままに足元へ魔石を叩きつけたところ、中にいたウンディーネが巨大化し成人女性程度の身長となった。その後、彼女の周りには幾重にも魔法陣が形成されていく。
全員があっけにとられる中で次々浮かび上がる魔法陣の一つからファンクに向けて光が伸びた。その瞬間、ファンクはまるで強力な電流が流れたような衝撃に見舞われ倒れてしまう。
その場に居る皆が気づいた時には浮かんでいたウンディーネは姿を消しており、その代わりにファンクの右肩にはウンディーネと契約した証として水滴の前に女性の顔のシルエットという文様か浮かんでいるのであった。最も着込んだ鎧のせいでそれを知るのはクラウドのみ。ファンク自身も夜の着替えの時に気づくことにある。
その翌日、倒れたのは体力が足りなかったからだと言いながら鬼コーチと化したクラウドのシゴキがファンクを待っていたのであった。
食事の後で話しかけてきたのはバダックの妻エリスである。礼を言いながら頭を下げるその後ろには執事のコーランもおり、エリスよりも深く頭を下げている。
「ああ、気にしないで下さい。それよりも合流が遅くなってしまい申し訳なかったですよ。」
「私に続いて・・・。貴方には本当に助けて頂いてばかりね。」
「全くだ。クラウド殿にはそろそろ頭が上がらんよ。」
話しに入ってきたのは助けてもらった当人のバダックである。リリーの護衛が終わりミルトアの街に帰った時、命を失いかけたことをエリスに咎められこってりと絞られたバダック。
その夜に肌を合わせた2人は互いに命を失わなかった事を心底喜びあっている。
「そもそもバダックさんも責任があるんだよ?」
「うん?何を今さら。リリー殿下を守れなかった責任なら痛感しているよ。」
「違う違う。仕事も大事だけどバダックさん、エリスさんを幸せにしないまま死んじゃいけないよ。」
クラウドが言う責任とは領主としてでは無く、騎士としてでも無い。一人の家庭を持つ男としての責任である。それを聞いたバダックは一瞬ポカンとしてから大笑いを始めた。
「はっはっは!まさにその通りだ!」
騎士や領主としての責任の大きさは常に感じているが、エリスへの責任という考え方を指摘された事など初めてであったバダックは家族を大切にするクラウドらしいと心底感じている。
2人の男の会話を聞いて顔を綻ばせるエリスの横でコーランの頬には涙が伝っている。
「大体バダックさんは魔法使いとの戦闘を想定して無いんじゃあ?」
「そうは言うが魔法使いとの戦闘など想定したところで何も変わらんだろう?結局私には離れた敵への攻撃方法など無いのだから。精々が素早く距離を詰めることくらいかな。」
その言葉を聞いたクラウドが「なんてこった・・・、そりゃただのごり押しじゃん・・・」と呟きながら顔を手で覆っている。
「ならバダックさんも遠距離の攻撃手段を持つべきだよ。それに装備も。あんな普通の剣に鎧じゃ対策なんて何もしてないだろう?」
クラウドの言葉に首をかしげているのはバダックだけでは無い。エリスやリリーを始め元冒険者であった村長ロデリックと執事であるコーランの2人も不思議そうに話しを聞いている。それを見たクラウドが見せた方が早いと言い出した。
その結果、騎士団長のファンクが呼ばれる事になるが、やって来たファンクは一瞬でその場に違和感を感じていた。そして自分が何故呼ばれたのかに気づくと同時にそれが最早回避不可能であることを理解する。
「・・・はぁ・・・。お手柔らかにお願いします・・」
「おっ、なかなか潔いな。それじゃあ外に行くか。」
そう言って家を出て行く一行。エリックやエドワードにルーク達も何事かとついて行った。
少し歩いた一行はトント村の東にある森の入口までやって来ていた。
「ん、こんな所まで来てどうする?」
「さっき言ってただろ、契約魔法をファンクさんで実験しようって。」
「!面白そう!」
楽しそうなリリーを見て思わずため息が出るファンク。自分が今からどんな目に合うのかが分からないため不安になっているようだ。
「まあそう不安になりなさんな。ファンクさんにとっても悪い話しじゃあないよ?」
そう言いながらクラウドはアイテムリングからリストボードを表示させ一つのアイテムを取り出した。
「それは魔石・・・?」
バダックがそう尋ねる。しかし、それはよく見るとただの魔石で無い事はすぐに分かった。クラウドが手に持っている手のひら大の魔石には中に何かが入っているように見える。
「これは俺の水属性魔力を結晶化させて作った魔石だ。」
「「「「「「・・・・」」」」」」
既に慣れつつあるとは言え、突拍子も無い言葉に一同からは声も出ない。
「中にいるのは水の上位精霊ウンディーネを模して作った|魔法生命体(マジッククリーチャー)だよ。」
「それをどうするの?」
リリーが不思議そうに尋ねている。
「もちろん契約を結ぶんだよ。そうする事でファンクさんはウンディーネの力を使うことが出来る。離れた敵への攻撃も出来るし熟練度が上がれば上がるだけ強力になるぞ。」
何でもないことのように話すクラウドであるが、本来契約魔法は非常に扱うのが困難な魔法の一つである。契約を交わした対象の力を使えるようになる上に、魔力の消費を必要としないこの魔法を使う為にはクリアしなければならない課題が3つあるとクラウドは言った。
一つ、契約対象とコンタクトを取ること。
今回の場合だと、ウンディーネと契約するためにはウンディーネを呼び出す方法を知っているか、会いに行く方法を持たなければならない。通常それら上位存在とコンタクトを取ることなど本来は出来る筈がないのであるが。
二つ、相手に契約を承諾させる必要がある。
契約を認めさせる方法は主に2つ。話しあって協力を得るか力を示して認めさせるか。召喚魔法にも共通するが、契約は一方的に結ぶ事は出来ない。あくまで相手の同意を得る必要がある。ただし、話し合いで強力を得ることは普通はあり得ない。一般的には自身の力を示すことで相手に認めさせるしかないのである。しかし、上位存在とも言える相手を力で認めさせるのは並大抵の実力では不可能だ。
三つ、契約の結び方を知っていること。
これが契約魔法を使う中で一番のネックとなる。魔力では無く生命力を消費させてウンディーネを使役する方法を知らなければならない。魔法を使う上で必ず必要となるのは魔力。術者は対象と契約を結ぶときに自身の生命力を魔力に転換する魔法術式を用いなければならないが、その術式は難解の一言であった。複雑な魔法理論と幅広い術式構成の知識が必要不可欠なのである。
そう説明するクラウドは話しの最後に「まあ今回は全部俺が用意したけど」とさらっと言ってのけた。
数名が苦笑いする中でファンクにクラウド特製の魔石が渡される。
「そいつは俺特製のアイテムでな。魔石が割れた時に一番近くにいる人間が中にいるやつと契約を結ぶ事が出来る様にしてある。それがこの『誰でも簡単、契約魔法キット』だ!」
おちゃらけながら言うこのアイテムは画期的ともいえる程のアイテムである。上位魔法を誰でも使えるようになるなど尋常ではない。(使いこなせるかは別であるが)
アイテムランクで言うなら堂々の『神話級』というクラウド自慢のアイテムであった。
クラウドに不満があるとするなら唯一つ。
開発当時は連日の徹夜に加え溜まった疲労によりテンションが跳ね上がった結果に命名したアイテム名ぐらいであろう。アイテムリングに収納する場合、一度登録されたアイテム名は変更が効かない。取り出す時に声に出さず態々リストボードを操作していた理由がそれであった。
ファンクが言われるがままに足元へ魔石を叩きつけたところ、中にいたウンディーネが巨大化し成人女性程度の身長となった。その後、彼女の周りには幾重にも魔法陣が形成されていく。
全員があっけにとられる中で次々浮かび上がる魔法陣の一つからファンクに向けて光が伸びた。その瞬間、ファンクはまるで強力な電流が流れたような衝撃に見舞われ倒れてしまう。
その場に居る皆が気づいた時には浮かんでいたウンディーネは姿を消しており、その代わりにファンクの右肩にはウンディーネと契約した証として水滴の前に女性の顔のシルエットという文様か浮かんでいるのであった。最も着込んだ鎧のせいでそれを知るのはクラウドのみ。ファンク自身も夜の着替えの時に気づくことにある。
その翌日、倒れたのは体力が足りなかったからだと言いながら鬼コーチと化したクラウドのシゴキがファンクを待っていたのであった。
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