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しおりを挟む「ん……」
舌同士が絡み合うと、それだけで、甘酸っぱいものがメーアの胸を満たした。
彼の肩に掴まって、何度も何度も口付けを交わす。浅く、深く。間近で感じる吐息と、その舌の感触に集中する。
「ほんとうに、いいんだな?」
低い声で、彼は問う。その眇めたようにも見える鋭い視線は、きっと自分に欲情している。メーアは自分の下腹部がきゅんと痺れたような気がした。
「ええ」
返事を聞くと同時に彼はメーアを抱き寄せた。
「きゃあ!」
横抱きにされて、メーアはあわてて彼の首にしがみついた。
「お、重いでしょう!? 大丈夫!?」
だが、それには答えず、サウアーは隣室に彼女を運んだ。そこは、彼の寝室なのか、居間よりさらに雑多なものが所狭しと並べられていた。もしかすると、家政婦たちにここは掃除させないようにしているのかもしれない。
本が詰まれた机の前を通り過ぎ、海図の貼られたキャンバスを避けて、服や煙草のケースがごちゃごちゃと重なっているベッドの前まで来る。彼は行儀悪く脚でそれを全てどけて、そっとメーアをそこに降ろした。
そして彼女の上にまたがると、手早く自分のシャツを脱ぎ捨てる。
背後の窓から入ってくる、カーテン越しの弱い月明かりに、うっすらと彼の体が照らし出される。たくましく鍛え上げられたその肩や胸の筋肉。触れてみたいとメーアが手を伸ばすと、逆にその手を取られて、指先に口付けられた。
「あ……」
口付けがどんどん腕を上ってくる。上腕を上り、首筋へ。そして鎖骨を通って、胸元へ。
サウアーは、メーアに覆いかぶさって、その太腿と二の腕をやわやわと揉んだ。
「はあ……ふかふかだ」
これは、喜ぶべきなのだろうか。手触りを楽しんでもらえるのはいいが、やや複雑だった。
「もしかして、あなた、太い女性が好きなの?」
単刀直入に問うと、サウアーは目を丸くして、その後、首を横に振った。
「あんまり、体型のことは考えたことねえな。娼婦の――」
「娼婦の?」
しまった、という顔をして、サウアーは口をつぐんだが、メーアがじっと見つめると観念したように口を開いた。
「……娼婦を買うときは、髪と目の色で選ぶし、ガラ骨みたいな女でも、気になんねえけど……」
娼婦を買うのは、独り身でお金があれば、そう責められたことではなかった。妻帯していたら、夫人との不仲の原因になり得るが、そうでなければ、一般的だとも言える。
メーアはむしろ、それよりも、気になったことがあった。
「お気に入りの髪の色と目の色があるの?」
「言わなくてもわかってるだろ、あんた」
顔を真っ赤にして言う彼に愛しさがこみ上げて、メーアはくすくす笑った。
「なんで俺ばっかり恥ずかしい思いしてんだよっ」
「だめ、乱暴にしたら」
やや荒っぽく、サウアーはメーアが自分の胸を抱え込んでいた右手を暴いた。その目が、胸にくっきりと刻まれた歯形を見て、きりきりとつりあがった。
彼は、泣くかしら。メーアは一瞬思ったが、そうはならなかった。
サウアーはそっと手を添えると、メーアの胸に優しく口づけた。歯形を消そうとするように、優しく何度も舌で撫でる。敏感な部分を避けて繰り返されるそれに、メーアの乳首は徐々に硬くなっていった。
脚の間がむずむずする。その感覚を押し殺しながら、メーアは、自分の胸に吸い付く男の頭を撫でた。なんだか不思議な光景だ。
「エルンスト、あなた、赤ちゃんみたいよ」
「おい……赤ん坊がこんなことするのか?」
わずかにむっとしたような顔をして、サウアーが急に下着の上から、メーアの最も敏感な部分を撫でた。
勝手に腰が跳ねて、メーアは鼻にかかった声をもらす。自分のものじゃないような声に、困惑した。
「しないわね」
「当たり前だ。ったく、年下だと思って、からかうなよ」
「ああっ……ァあん!」
ぐりぐりと、芯の部分を下着の上から押しつぶされて、甘い声が漏れた。あのとき、暴漢に触れられたときは痛みしかなかったのに、背筋を駆け上がるような強い快感がそこに生まれる。――そう、たしかに快感だ。メーアはああ、と熱く息を漏らした。
下着の上から敏感な部分をこすりあげながら、サウアーはメーアの乳首を口にふくんで、舌でそれを転がした。押しつぶして、軽く噛む。
そのたび、メーアの口から、小さな声が漏れた。
「あ、あん、……ふ、んん! やっ……」
下着がぐっしょりと湿っているのがわかる。さすがに恥ずかしくなって、脚を閉じようとしたが、許されなかった。膝を押さえ込まれ、太腿に口付けられた。ちくりと小さな痛みを感じる。
「な、……に?」
息があがったまま、メーアが問うと、サウアーは再び彼女の太腿に小さな痛みを与えて、にっと笑った。
「さあ。なんだろうな」
「やんっ!」
下着の中に入ってきた彼の指が、直接中心に触れてきて、メーアは背中を弓なりに逸らせた。太腿が震えるほどの快感が、突き抜ける。そこはしっかり潤っていて、サウアーが指を動かすと、ぬちぬちといやらしい音を立てた。そして、そのたび、メーアの下腹部にむずがゆいような熱がたまっていく。
「ああっ、え、エルン、スト……、ァあ、な、なにか、……変……! ひっ」
もはや、彼のことを観察している余裕はなく、メーアはシーツにしがみついた。勝手につま先に力が入り、太腿が震えてしまう。じっとしていられなくて、腰が動いてしまう。
「感じてるあんたの顔、最高」
かすれた声でそういうと、サウアーは一気にメーアの下着をとりはらって、そこに口をつけた。
「やっ!? だめ、なにを」
「おとなしくしてろよ」
流石に驚いて、メーアは腰を引いたが、予想よりずっと強い力で引き寄せられ、逃げ切れない。
指より柔らかくてなめらかなものが、ぴちゃぴちゃと音を立てながら這い回るたび、メーアは背を反らして嬌声を上げた。
「あああっ! だ、だめぇっ! や、ああ!」
温かな彼の呼気がもっとも敏感な部分をくすぐる。どんどん感覚は鋭敏になっていく。
不浄の場所と教えられてきたところに、彼の顔があり、舌が這っている。そう意識すると、さらに腹の奥がきゅうっとしめつけられた。
「あ、ああ、あああっ」
目の奥で火花が散って、一瞬、まっさかさまに落下するような浮遊感に見舞われる。
シーツを握り締めて、その感覚にメーアは耐えた。
自分の荒い息が、どこか遠く。
「……はあ……」
くたくただったが、自分の脚の間に座って、じっとこちらを見ているサウアーに気づいて、メーアは軽く身を起こした。
彼は心配そうな顔をして問うた。
「その……ちゃんと気持ちよかったか? 悪い、ちょっと乱暴だったか?」
あれだけしておいて。と思わず、メーアは噴出しそうになったが、こらえた。彼は優しくしてくれというメーアの言葉を、忠実に守ってくれている。
答えるかわりに、メーアは彼の脚の間に入り込んで、その股間に服の上から触れた。少し苦労してベルトをはずし、前をくつろげる。そして、下着の中から、彼のものを取り出した。
「まあ」
男性器をまじまじと見るのは、はじめてだ。血管が浮き出て、反り返っていて、彼のほかの肌より赤黒い気がする。薄暗い中なので、はっきりとはわからないが。
「おい、あんまりじろじろ見るなよ」
居心地悪そうに、彼は身じろいだ。
「あの……これ、舐めてもいいかしら」
「な、舐め!? いや、いい、いい」
「それじゃあ、失礼して」
ぱくりと口に含むと、サウアーが腰を浮かせた。
「そっちの『いい』じゃねえっ……う」
ちろりと先端を舌で舐めると、彼の腰が揺れる。苦いような、ちょっと生臭いような、不思議なにおいがする。舌でなぞると先端はつるつるしている。茎のような部分は、ところどころ血管が浮き出ている。なんとなく、その血管を舌でなぞると、サウアーが熱っぽいため息を漏らした。
目を上げてみると、眉根を寄せて、耐えるような顔をしている彼がいた。
再び、メーアの下腹に熱がこもった。
「いいから、……う、もういいから。そんなことしなくても」
「でも、私のは、舐めたでしょう?」
一度口を離して、そういうと、サウアーは顔を真っ赤にして、首を横に振った。
「だけど、あんた、そんな娼婦みたいな」
「こういうことに、ルールはないと」
そういったじゃないか。メーアは再び彼のものを口に含んだ。どうしたらいいか知識としてはなかったので、先ほど自分に彼がしてくれたのを思い出しながら、舌を這わせた。
茎の部分をねっとりと舐めて、唾液をからめ、くびれの部分を唇でやや強く扱く。時折、先端の割れ目のような部分を抉るように舌で刺激した。
「ふっ……う、あ」
サウアーが、耐えられないと言うように声を上げる。
彼の大きな手が、メーアの頭を撫でる。その感触と、彼の悩ましい声にうっとりしながら、メーアは夢中になって口を動かした。顎が疲れてきたが、それよりももっと彼を気持ちよくしてあげたいという気持ちが強い。
もっと、もっと。
そう思って、陰嚢に手を伸ばしたときだった。
「もう、だめだっ!」
急にサウアーがそう言って、メーアの肩をつかむとぐいっと体をひっくり返した。
「え? え?」
なにか失敗しただろうか、と混乱するメーアの前で、彼はすべての衣服を取り払う。筋肉質な脚や、締まった臀部があらわになって、メーアは思わずそれをまじまじ見てしまった。
サウアーに覆いかぶさられる。膝の間に、彼が入ってきて、熱く潤っている部分に指を差し込まれた。
「あっ?!」
ぬるりと体内に侵入したきた異物に、背筋がこわばる。メーアは首だけおこし、自分の脚の間を見ようとした。ぽっこりした腹で見えない。だがそのむこうで、ひどく隠微な指使いで、彼が自分の中を暴こうとしているのはわかった。
「は、ああっ……あ、ああ!」
指を出し入れされると、ねちねちといういやらしい音が耳に届いた。実際に見えないその指の動きを想像して、メーアの背筋は弓なりになる。
「三本入れば、もういいだろ?」
なにが? と問い返す前に、ぐいっとなにかをその部分に当てられて、メーアは悟った。
「エルンスト、……口付けを」
ねだると、切なそうな表情をしたサウアーが、荒々しく噛み付くような口付けをしてきた。同時に、未知の質量をもったものが、ぎちぎちと自分の体内に侵入をはじめた。
「んん――」
口付けたまま、喉を反らせて、メーアは悲鳴をあげた。声は、エルンストの喉に消えてしまったが。
しびれるような痛みが鼠蹊部に渦巻いている。さきほどまでの快感など、どこかへ飛んでしまったように痛い。
だが。唇を開放したサウアーが、はあっと熱をはらんだ目で自分を見るので、辛くはなかった。
「悪い……い、痛かったよな」
「ええ。でも……幸せ」
いつか、自分の好きな男に抱かれてみたい。きっとそれはそれは甘美な時間だろう。
そう思っていたことが今、叶っている。
今日、あの桟橋のところで結婚を申し込まれるまで、弟のように思っていた彼だけれど、今は誰より愛おしい。
背に手をまわしてねだると、とても優しい口付けが額に振ってきた。
「ずっと、こうしたかったんだ。あんたの眼中にないって、……年下だし、学も品もないから、無理だって、無理じゃないかって思ってた」
痛みをこらえるような、おびえるような顔をして、彼はそう言った。
不敵な笑みを浮かべていることが多かった彼の、その胸中を知って、メーアはまた胸の奥が甘酸っぱいものに支配されるのを感じた。
「あなたは、そんなことどうでもいいくらいに、とても素敵よ、エルンスト」
鼻の先に口付けると、彼は瞬きした後、少年のように笑った。
「ああ、今日は、いい日だ。俺は一生忘れない」
「私も、――」
見つめあう。
サウアーが、目で問うので、メーアはうなずいた。
ゆっくりと彼が腰を動かす。引きつれるような痛みが、メーアを襲った。自分の中を彼がかき回している。快感はないが、
「メーア、……メーア!」
名前を呼ばれて、口付けられると、それだけで十分だった。彼の髪を撫で、背中を撫でる。締まった背筋の軋みが、指に楽しい。
メーアの片足を肩に担ぎ、サウアーは身を離して、腰を大きくゆする。
そのたびにゆれるメーアの乳房を、サウアーがやわやわともみしだく。怪我をしている部分は、そっと指先でなぞる。じわりとした快感が、メーアの背筋を走っていった。
「メーア……なあ、俺」
耐えるように、きつく眉根を寄せて、縋るような目をされる。
「……いいわよ、エルンスト」
抽挿のスピードがあがる。メーアは、彼の腰に自分の脚をからめて、自ら腰を動かした。充足感で、痛みも耐えられた。彼の甘い声を聞きたくて、しかたがない。
「メーア……!」
低く、名前を呼んで。きつく抱きしめて。
彼は、メーアの中で果てた。
「まあ……これは」
明け方。朝日が差し込む部屋の中で、着替えをしていたメーアは自分の太腿を見て、目を丸くした。そこには、小さな鬱血痕が散っていた。人に見せるところではないのでいいが、なんとなく気恥ずかしい。
ちらりと見ると、裸のまま眠っているサウアーがいた。
あのあとずっと自分の髪を撫で、口付けを続けていたサウアーは、いつ眠りについたのだろう。くたくたに疲れていたメーアは、とろとろと眠りに落ちた。目を覚ますと、すっかり、身を清められていたので驚いた。自分の体に触れられても、目が覚めないなんて、考えられなかった。眠りは浅いほうだというのに。
今日、帰宅したら、父に報告しなければならない。サウアーとのことを。もちろん、この一晩がそういうことだと、わかってはいるだろうけれど。
婚前の娘が無断で外泊したことを、父はなんというだろう。娘と呼ぶには年かさだが、それでも少しだけ心配だった。あまり堅物ではない父だが、そこまで磊落でもない。
できれば、昨晩の暴漢の話はせずに、おきたい。
だって、こんなに幸せなことがあったのだから。
メーアはベッドに腰をかける。
「うん……?」
サウアーがぱたぱたと、目をつぶったまま、ベッドの上を手で探っていく。
メーアはその手をとって、声をかけた。
「おはようございます、あなた」
「……それ、最高だ」
うっすら目を開いた彼の顔が近づいてきて、メーアは目を閉じた。
無断外泊したメーアが帰宅すると、意外にも、父はまったく心配していなかった様子で、こう言った。
男女の仲は熱いうちにというだろう、神父を呼んでおいたぞ、と。
二人は顔を見合わせて、思わず噴出した。
その日、二人はサウアーの新しい船の進水式のあと、その甲板で結婚式を行った。
サウアー商会が、新たな航路と船で国一の大豪商と呼ばれるようになるのは、また、別の話。
<了>
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