わたし、九尾になりました!! ~魔法と獣医学の知識で無双する~

惟名 水月

文字の大きさ
30 / 51
九尾転生編

30話 vs リラ

しおりを挟む
「大賢者リラ様……? でも遙か昔の人のはず……」

 ナーシェの呟きに、俺は静かに口を開いた。

「妖狐の血を持つというなら、数百年生きてもおかしくはないはず……」

 しかし、なぜ…… リラさんが、こんなことを

「あなたは、人と妖狐の共存を目標に、人間の世界に下りてきたのではないのですか……?」

 俺の問いかけに、リラはゆっくりと呟く。

「所詮人とモンスターの共存は夢物語だったのです。ギルドも、結局はモンスターを討伐する組織に成りはて、私のやったことは全て無駄だった……」

 リラは表情を変えずに淡々と続けた。

「そして、私の両親も、魔女を産みだしたモンスターの手先という罪を着せられ、処刑されました。これ以上に絶望することがあるでしょうか?」

「そんな……」

 ルカが衝撃を受けた様子で、言葉を漏らした。

「……それでも、時代は変わってきています!魔法使いだって生きる場所を得ました!リラ様のおかげで!」

 ナーシェはリラに向かって、叫んだ。そう、時代は確かに変わってきているのだ。もう少しの所まで来てる、リラさんには諦めて欲しくない。

「まだ、間に合います……!私はあなたの意志を継いで、モンスターのための病院を始めました!人とモンスターが共存出来る世界を作りたいと……!」

 俺の言葉に、リラは再び表情を変えずに静かに呟いた。

「そうですか…… まだ間に合う……」

 そして、リラは持っていた剣をこちらに向けて、冷たく呟いた。その目からは涙が流れているように見えた。

「ですが、私の憎しみ、苦しみはどこに捨てれば良いというのですか?もう、はじまってしまったのです」

 そう言うと、リラはゆっくりと手をこちらに向け、呟いた。

「氷の世界(アイシクル・ワールド)」

 リラの言葉の直後、たちまち、王の間は一面凍り付いた。

「くっ、これでは風切は使えない……」

 リラを威嚇していたシナツは、呟いた。

「もし、あなたが、人とモンスターの共存出来る世界を作れるというなら、私を超えて行きなさい、九尾」

「私達は……戦わないと駄目なんですか……?」

 リラさんを超えていく。すなわち、リラさんはその世界を見ることが出来ない。そんな無情な事があるだろうか。

「もはや後戻りは出来ません、私が勝つか、あなたが勝つか、現実は一つしかないのだから……」

「っ……」

 俺は強く拳を握る。どうしてこんなことになってしまったのか。でも……

「……私は!」

 すうっと息を吸い込み、リラに向けて叫ぶ。もう迷いはない。

「例えあなたが立ちはだかったとしても、超えていく!あなたのためにも!」

 そう言うと、少しリラは笑ったような気がした。相変わらず、表情は変わらないままだったが。そして、ゆっくりと、それでも力強く一歩、また一歩と踏み出した。

「イーナ様!」

 ルカは叫びながら、俺のローブをつかんだ。その表情は何処か不安そうだった。

「ルカ、これは、私の戦いなんだ、わかって」

 そう言うと、ルカは唇を強く噛みながら、ゆっくりと手を離した。これは、俺とリラの戦いでもあり、そして、妖狐の問題でもある。俺が解決しなければならない問題だ。

 再びすぅーっと大きく息を吸い込み、ゆっくりと、龍神の剣をリラに向ける。

「リラさん、あなたの理想のために、私は絶対負けません」

 その言葉と共に、龍神の剣に炎が宿る。

 俺の様子を見ていたリラはまた再び何か呟いているようだった。そして、リラの剣が一気に凍り付いた。

 はじめに動いたのはリラの方だった。遅れて俺も、リラへとむかって行く。おそらく、二人の思いは一緒だろう。剣だけで良い。お互いの想いを込めた、この剣1本で。

 想いを込めた刃が交錯する。

 そう、言葉はもう、いらなかった。リラの冷たいまなざしは刃となって俺へと襲いかかってくる。神通力のおかげで太刀筋はある程度読めるものの、それでも、防戦気味である。

 強い……

 魔法使いといえども、剣の腕はおそらく俺以上であろう、それどころか、教官やシータよりも強いかも知れない。何よりも、今まで受けてきた剣とは異なる、柔らかく、そしてしなやかな女性的な剣の使い方に、俺はまだ慣れていなかった。

 まずっ……

 リラの剣が俺の顔めがけて飛んできた。それをなんとか、後ろに身体を反ってかわす。そしてそのまま距離を取った。

 なにやら頬につめたい感覚を感じる。左手で拭うと、手は少し赤くそまっていた。

「九尾よ、その程度ですか?あなたの想いとやらは?」

 リラは再び冷たい口調で、言う。息一つ切れてないようだ。何よりも、太刀筋が完全に読み切れない。

「強いね……」

 しかし、負けるわけにはいかない。俺には背負っているものが沢山ある。

 再び、刃が交わる。



 しばらく戦うと、次第にリラの軌道も見えてくるようになってきた。

 リラの斬撃をかわすと、リラめがけて龍神の剣を思い切り振り抜いた。リラもなんとかかわしたようだが、服は直線上に切り込みが入っている。

 リラは少し距離を取って、また冷たく呟いた。

「やりますね……流石です、九尾」

「私は負けられないって言ったでしょう?」

 そう、俺はこの人を超えなければならないのだ。

 リラは静かに構える。お互いに分かっていた。次が最後の斬り合いになると。だからこそ。

 再びリラが先に動いた。少し遅れて、俺もリラへと向かって行く。

 リラは左に剣を振りかぶった。

 見えたっ……

 鋭く振られた剣を俺は身体をねじってかわし、そのままの勢いでリラに向けて剣を振り抜く。リラも必死に防ぐが、リラの刃はリラの手を離れていた。そして……

 俺は想いを込めた剣をリラへと突き刺した。確かに、剣はリラを貫通していた。

 俺の手まで、滴がしたたってくる。そして、リラは苦しそうな様子でゆっくりと口を開いた。

「九尾…… 後はあなたに託しました…… アルヴィスを打ち破り……世界を……」

 そう言うと、リラの身体は俺へと倒れ込んできた。その時見えたリラの表情は、先ほどまでの冷たい表情ではなく、何処か安心したような、彼女の本来の優しさに溢れたような表情だった。

「リラさん……」

 俺は立てなかった。太ももの上に横たわるリラの冷たい顔に数滴、水がしたたる。

「イーナ様!」

 その結末を見届けたルカ達もこちらに走ってきた。

「アルヴィス……」

 俺は小さく、リラが言っていた言葉を呟く。その言葉に沈痛な面持ちのナーシェが静かに答えた。

「アルヴィス…… 亡き帝国の皇子もアルヴィスと言ったはずです……」

 また帝国か…… しかし今はそんな事を考えている余裕はなかった。

「どうして……こんなことに……」

 救おうと思っても、また一つ、俺の手から命がこぼれ落ちていく。

 それでも……

 俺は、走り続けるしかない。

 悲しんでいる場合じゃない。

 俺は冷たくなったリラを優しく持ち上げ、床へとゆっくりと下ろした。

 「イーナ様?」

 ルカがこちらを向く。ルカの眼は赤くなっていた。

 俺は立ち上がり、横たわるリラの方を向いて、笑顔で言った。

 「あなたの分も、私が背負って生きてくよ」

 静かに眠っているリラの表情は何処か、笑っている…… そんな気がした。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?

山咲莉亜
ファンタジー
 ある日、高校二年生だった桜井渚は魔法を扱うことができ、世界最強とされる精霊王に転生した。家族で海に遊びに行ったが遊んでいる最中に溺れた幼い弟を助け、代わりに自分が死んでしまったのだ。  だけど正直、俺は精霊王の立場に興味はない。精霊らしく、のんびり気楽に生きてみせるよ。  趣味の寝ることと読書だけをしてマイペースに生きるつもりだったナギサだが、優しく仲間思いな性格が災いして次々とトラブルに巻き込まれていく。果たしてナギサはそれらを乗り越えていくことができるのか。そして彼の行動原理とは……?  ロマンス、コメディ、シリアス───これは物語が進むにつれて露わになるナギサの闇やトラブルを共に乗り越えていく仲間達の物語。 ※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

処理中です...