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【静かに灯る、二人の距離】
レイがユイナの刺繍鞘を装備してから一週間。
その間に彼が請け負った討伐依頼は、五件。すべて短時間で達成された。
特にギルド幹部の目を引いたのは、鞘の効果だった。
「決定的だな。物理攻撃を受ける直前、刺繍の模様が輝いて結界のようなものが展開される。間違いなく“発動型エンチャント”だ」
その噂はギルド中に広まり、注文希望者が殺到。
だが――ミオたちは「数量限定」という方針を変えなかった。
「ユイナの手作りだし、一つ一つの仕上がりにも差が出る。数じゃなくて、質を大事にしたいんだ」
そう語ったのは、ミオだった。
そしてその言葉を誰よりも静かに喜んだのは、ユイナだった。
**
その夜。
ラテの2階。皆で夕食を終えた後、エルはひとりベランダに出ていた。
「……レイくん、強いのに、誰にも心を許してない顔してる」
エル――いや、ぼくは、自分と重ねてしまっていた。
ぼくも、過去に命令だけで動いていた暗殺者だった。
笑うことも、許されることもなかった。
そこに、足音。
「……何を、考えてる?」
いつの間にか、レイが隣に立っていた。
「ちょっとね、レイくんのこと。ひとりで全部抱えてる気がして……ぼく、昔の自分を見てるみたいだった」
レイは無言だったが、ふと、そっと視線をそらした。
「……ありがとう。お前の言葉は、あったかい」
「ふふっ、よかった。ぼくでよければ、なんでも話して?」
しばらくの沈黙のあと、レイがぽつりと呟いた。
「……“ありがとう”って、こんなに自然に言えたの、初めてかもしれない」
月明かりの下、二人の距離は、ほんの少しだけ、縮まっていた。
**
翌日。
レイをモデルにした限定鞘の販売が正式に開始された。
ギルドに設けられた特設販売コーナーは大盛況で、注文用紙が品切れになるほど。
ユイナの目には涙がにじんでいた。
「うれしい……こんなに、誰かに求められたの……はじめて……」
そして、ミオはその様子を見つめながら、静かに言った。
「まだ、始まったばかりだよ。ユイナ。ラテの力を――世界に届けよう」
レイがユイナの刺繍鞘を装備してから一週間。
その間に彼が請け負った討伐依頼は、五件。すべて短時間で達成された。
特にギルド幹部の目を引いたのは、鞘の効果だった。
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その噂はギルド中に広まり、注文希望者が殺到。
だが――ミオたちは「数量限定」という方針を変えなかった。
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その夜。
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笑うことも、許されることもなかった。
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「……何を、考えてる?」
いつの間にか、レイが隣に立っていた。
「ちょっとね、レイくんのこと。ひとりで全部抱えてる気がして……ぼく、昔の自分を見てるみたいだった」
レイは無言だったが、ふと、そっと視線をそらした。
「……ありがとう。お前の言葉は、あったかい」
「ふふっ、よかった。ぼくでよければ、なんでも話して?」
しばらくの沈黙のあと、レイがぽつりと呟いた。
「……“ありがとう”って、こんなに自然に言えたの、初めてかもしれない」
月明かりの下、二人の距離は、ほんの少しだけ、縮まっていた。
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翌日。
レイをモデルにした限定鞘の販売が正式に開始された。
ギルドに設けられた特設販売コーナーは大盛況で、注文用紙が品切れになるほど。
ユイナの目には涙がにじんでいた。
「うれしい……こんなに、誰かに求められたの……はじめて……」
そして、ミオはその様子を見つめながら、静かに言った。
「まだ、始まったばかりだよ。ユイナ。ラテの力を――世界に届けよう」
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