『転生モブと魔獣の相棒ごはん屋 秘密を抱えた常連様に惹かれて』

miigumi

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1章

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◆第22話 「誰かに、守られていた」

夜の空気は、昼のそれよりも冷たく、澄んでいる。

ミレイアは店の裏口から、静かに外へ出た。
ラテがついてくる足音が、木の板を踏むたびに小さく響く。

「ラテ……ごめんね。わたし、ほんとに何も気づいてなかったんだね」

昼間のリデルの忠告。
町の人たちの、わずかな気遣いの裏にあった“警戒”。
そしてラテの、いつもよりもずっと鋭く強い視線。

――“ずっと守られていた”

そう気づいた瞬間、胸の奥に温かさと、情けなさと、少しの怖さが混じり合った。

「わたし……“無自覚に大丈夫”って思ってたのかも。ラテがいるし、お客さんは優しいし、毎日穏やかだし」

(でも、それって違ったんだ)

ラテの静かなうなり声に答えるように、店の脇の木の影から、
ひとりの人影が姿を現した。

「……ヴァルさん?」

ミレイアの声に、彼は静かに頷いた。

「ラテが、ここに導いたんだと思う」

その言葉に、ミレイアの胸が少しだけきゅっとなった。

「……あなた、最初から何か知ってたの?」

「知っていた、というより……感じていた」

彼の瞳は、いつものように穏やかだったけれど、
その奥にある“何か決めた者の目”に、ミレイアはわずかに息を飲んだ。

「君の料理が、笑顔が、ここに集まる人々の心を癒していた。……それを見ていた」

「……うん」

「だから、何があっても……この店と、君の手から、その日常を奪わせない」

その言葉に、ミレイアは一歩だけ近づいた。

「……ヴァルさん、あなた……ただの旅人じゃないんだよね?」

問いかけは柔らかくて、それでいて鋭かった。

しばらくの沈黙の後、彼はほんの少しだけ目を細めて言った。

「俺は、君に守られたことがある」

「……え?」

「十年前、森の中で。命も、心も。……だから今度は、俺が守る番だ」

その言葉の意味をすぐには理解できなかった。
でも、ラテが彼の隣に座ったその姿を見て、ミレイアは静かに気づいた。

“この人は、私のことを知っていた”
“ずっと、見ていた。気づかれないように、そっと”

「……ありがとう」

自然と、その言葉が口をついて出た。
彼は何も言わず、ただ静かに頷いた。

* * *

その夜、ヴァル――いや、シュヴァルツは、店の外に立っていた。

掌に浮かべた光の糸を、地面に編み込む。
警報の転送、侵入者の検知、影への同化……
すべて、静かに、目立たずに張られる“目には見えない守り”。

「来るなら来い。……その時は、全てを敵に回してでも、俺はこの日常を守る」

そう呟いた背に、ラテがそっと寄り添った。

それは、かつて森で始まった小さな絆の続きだった。
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