『転生モブと魔獣の相棒ごはん屋 秘密を抱えた常連様に惹かれて』

miigumi

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1章

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◆第28話 「言葉が剣より鋭くなるとき」

「これは最終通告です、シュヴァルツ殿。
あなたの立場が何であろうと、“王都の命令”は絶対です」

カリスの声は静かだった。
それなのに、槍よりも鋭く、氷のように冷たい。

「命令が“絶対”なら、守るべきは民の声だろう」
シュヴァルツが返す。
その声もまた、怒りではなく理。けれど、芯に火を宿していた。

カリスの手が、巻物の封を切る。
魔術の印が空気に浮かび上がり、背後の騎士たちが一斉に構える。

ラテが低く、獣のように唸った。

(来る――)

ミレイアの脳裏に、瞬間的な映像がよぎる。
リデルたちの笑顔、ラテの寝顔、
そして……ヴァルが笑った、あの何気ない夕暮れの光。

「やめて!」

ミレイアの声が、空気を裂いた。

剣も魔術も出ていない。
けれど、すべての動きが一瞬で止まるほどに、強く、真っ直ぐな声だった。

「やめて……こんな、誰も幸せになれないこと。
わたしは、ここにいたいだけ。誰かを脅かしたこともない。
ただ、料理を作って、食べてもらって、笑っていたいだけなのに」

風が、一瞬だけ止んだように静まる。

カリスの瞳が、鋭く彼女を射抜く。

「……では、あなたは自分が“例外”であることを理解しているのですね」

「はい」

ミレイアは頷いた。
怖さはあった。けれどそれ以上に、
「この場所を守りたい」という想いが胸を満たしていた。

「でも、例外が全部、間違いじゃない。
わたしはここで、大切なものをたくさん得ました。
それを――誰にも壊させたくない」

「傲慢な言葉だ」

「だったら、わたしはそういう“傲慢な人間”として、ここに立ちます」

その瞬間。
店の奥から、魔力の気配が静かに立ち上がった。

カウンターの隅。
空気が歪み、赤と黒の衣が現れる。

「――その覚悟、しかと聞いた」

ディアボロスだった。

騎士たちが一歩後退し、ラテが静かにミレイアの後ろへ下がる。

「この娘の言葉に、我は保証を与える。
この土地、この店、この民――我が“王の名”において、手出しを許さぬ」

「……それが、魔族の宣戦布告と受け取られても?」

カリスの声が、ついに揺らいだ。

ディアボロスは微笑む。

「違うな。これは“警告”だ、人間よ。
この娘に剣を向けるなら、その剣が誰を傷つけるか、よく考えてから振るうがいい」

シュヴァルツが一歩前に出た。

「ミレイアは、“誰も傷つけたくない”と言った。
だが、俺は違う。“守るために、戦う”ことを選んだ」

剣が抜かれる前に、戦いは始まっていた。

そして今、はっきりと“境界線”が引かれたのだった。
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