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2章
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◆第32話 「正しさという名の鎖」
王都、中央庁舎の会議室。
石造りの静かな部屋に、カリスの足音だけが響いていた。
彼は、玉座のような席に座る老齢の行政官に深く頭を下げる。
「ミレイア・ユリア・ローゼン――件の者について、新たに“文化規制法”に基づく調査申請を提出いたします」
「文化規制……あの者は料理屋だろう?」
「はい。しかし、現在確認されている情報では、
未許可の魔物飼育、加護付き食材の使用、
そして不特定多数への影響力の高い魔術性の空間演出があると報告されています」
「……ふむ。影響力の高い演出、か。曖昧だな」
「人心への過度な干渉は、王都にとって“秩序の乱れ”となりうる」
そう言いながら、カリスは淡々と書類を差し出す。
すでにすべて整えられ、署名欄には必要な者たちの名前が並んでいた。
「魔族の保護がある以上、軍事的な対応は避けたい。
ならば、“法”によって処理するのが最善です」
行政官は書類を一瞥し、やがて重い印を押した。
「……これでよい」
その瞬間、静かに扉の外で待機していた部下たちが動き出す。
ミレイアに関する戸籍の確認、土地権利の再調査、
さらには「営業許可証の不備」や「魔物飼育資格の確認」など、
あらゆる“合法的な圧力”が町へ向かって流れ出した。
カリスはようやく口元をわずかに緩めた。
(法を使えば、彼女も“ただの人間”である以上抗えない)
正面からぶつかる必要はない。
小さく、じわじわと締めつけていけば、
やがて彼女自身が“居られなくなる”。
「これは排除ではない。調整だ。
人間社会に“ふさわしい姿”へ戻してやるための、な」
それが自分の“優しさ”だと、
カリスは本気で信じていた。
* * *
その頃、町では。
役人の姿がひとり、またひとりと現れ始めていた。
「土地の確認です」「税制の調整です」「魔物飼育登録の確認です」
穏やかな声と正当な言葉の下に、
“静かな追放”が始まりつつあった。
扉の向こうで、ラテがうっすらと唸る。
まだ誰も気づいていない。
これが、“一番危険な攻撃”だということに。
王都、中央庁舎の会議室。
石造りの静かな部屋に、カリスの足音だけが響いていた。
彼は、玉座のような席に座る老齢の行政官に深く頭を下げる。
「ミレイア・ユリア・ローゼン――件の者について、新たに“文化規制法”に基づく調査申請を提出いたします」
「文化規制……あの者は料理屋だろう?」
「はい。しかし、現在確認されている情報では、
未許可の魔物飼育、加護付き食材の使用、
そして不特定多数への影響力の高い魔術性の空間演出があると報告されています」
「……ふむ。影響力の高い演出、か。曖昧だな」
「人心への過度な干渉は、王都にとって“秩序の乱れ”となりうる」
そう言いながら、カリスは淡々と書類を差し出す。
すでにすべて整えられ、署名欄には必要な者たちの名前が並んでいた。
「魔族の保護がある以上、軍事的な対応は避けたい。
ならば、“法”によって処理するのが最善です」
行政官は書類を一瞥し、やがて重い印を押した。
「……これでよい」
その瞬間、静かに扉の外で待機していた部下たちが動き出す。
ミレイアに関する戸籍の確認、土地権利の再調査、
さらには「営業許可証の不備」や「魔物飼育資格の確認」など、
あらゆる“合法的な圧力”が町へ向かって流れ出した。
カリスはようやく口元をわずかに緩めた。
(法を使えば、彼女も“ただの人間”である以上抗えない)
正面からぶつかる必要はない。
小さく、じわじわと締めつけていけば、
やがて彼女自身が“居られなくなる”。
「これは排除ではない。調整だ。
人間社会に“ふさわしい姿”へ戻してやるための、な」
それが自分の“優しさ”だと、
カリスは本気で信じていた。
* * *
その頃、町では。
役人の姿がひとり、またひとりと現れ始めていた。
「土地の確認です」「税制の調整です」「魔物飼育登録の確認です」
穏やかな声と正当な言葉の下に、
“静かな追放”が始まりつつあった。
扉の向こうで、ラテがうっすらと唸る。
まだ誰も気づいていない。
これが、“一番危険な攻撃”だということに。
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