『転生モブと魔獣の相棒ごはん屋 秘密を抱えた常連様に惹かれて』

miigumi

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2章

36

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◆第66話 「術が走る夜と、逆転の一手」

夜。
しとしとと降っていた雨が、静かに止んだ。

その瞬間だった。
町の空気が――“震えた”。

魔族たちが反応するよりも速く、
塔の地下で張り巡らされた転位型拘束陣が起動を始めていた。

「転送対象、範囲内に確認――発動します」

光の奔流が地面を這うように広がる。
目指すは、“しろくま通りのごはん屋”。

だが、その道の途中で――

何かに、ぶつかった。

まるで“見えない壁”が、術を反射したかのように。

「反応……消失!? いえ、跳ね返されている……?」

術師たちが騒然とする中、術の流れは逆流を始め、あっという間に塔全体を包んだ。

「な……!」

そこに、風のように現れた影がいた。

「“その程度”かよ。脅しにもしちゃ、甘すぎるな」

それは――ヴァル。
いつもの柔らかい笑みはない。
剣を携え、冷たい眼差しで術師たちを見下ろしていた。

「ここで術を仕掛けたってことは、あの店に手を出す気満々だったってことだよな?」

「ど、どうしてここが――」

「知らねぇ方が幸せってこともある。……けど」

ぎり、とヴァルが足を踏み出した。

「お前らには、“あの子”を泣かせる資格はない」



一方、その頃。

店の奥で、ミレイアはふと目を上げた。

「……あれ?」

「どしたの?」
ラテがキッチンの台にちょこんと手をつく。

「ううん、なんでもないけど……急に、空気が軽くなった気がして」

彼女の作る“森香草茶碗蒸し”は、湯気を立てながら優しく仕上がっていく。

「いい匂い~」
「もう少しで完成……あ、でもお皿が足りないかも」

何気ないそんなやりとりの裏で――
“誰か”が彼女を守るために動いていることを、ミレイアはまだ知らない。



その夜。
ディアボロスは地下の結界盤の前で静かに立っていた。

「――跳ね返し、成功か」
「術の構造、読んでいたんですね」
側近が声を落とす。

「当然だ。“彼女”を守ると言ったのは、私だ」
「……王よ。人間の一人のために、ここまでするのですか」

「人間ではない。彼女は、“灯”だ」
ディアボロスの声は、穏やかに、けれど鋼のように響いた。

「闇を照らす、希望の光――奪わせるものか」
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