5 / 11
5
しおりを挟む
謁見が終わり、私はウリエルと並んで大神殿を後にした。
街へ戻る道すがら、さっきまで胸に詰まっていたものが、少しずつ重さを増していく。
「ココちゃん。落ち込まないでね。すぐに卒業できる……はずだから」
励ますように言われて、私は小さく頷いた。
自分が拗ねていたことが、今さら恥ずかしくなる。
「……ありがとうございます」
ウリエルは困ったように笑いながら、続ける。
「それまではね。誰かが“保護者”にならなくちゃいけないんだよ」
保護者。
自由を求めて来たのに、自由が条件付きになってしまった。
――それでも、今は仕方ない。
私はふと思いつき、顔を上げた。
「じゃあ、ウリエルが保護者になってよ!」
ウリエルは一瞬だけ目を丸くして、それから苦笑した。
「……ごめんね。ココちゃん。俺はなれないんだ」
「え?」
「ある程度“近い存在”じゃないとダメなんだよね」
意味深な言い方に、私は言葉を飲み込む。
近い存在って、どういう意味なんだろう。
ウリエルは少し考え込んでから、ぽんと手を叩いた。
「……うん。あいつにしようかな」
「決まりましたか?」
不安が胸の奥で膨らむ。
私は思わず問いかけた。
「うん。早速行くよ」
ウリエルはそう言って、私の手を取る。
そのまま街中を歩いていくと、一軒の家の前で足を止めた。
他の家と大差ない、普通の家に見える。
「じゃじゃん。この家にココちゃんは住みます」
「えっ、今決まった感じ!?」
ウリエルはインターフォンを押した。
ピンポーン。
少しして、家主が顔を出す。
「どちら様。うちはセールス禁止で――……あっ、ウリエル?」
金髪で、癖毛は少なめ。
セクシーな雰囲気の男性だった。碧眼で、目元には涙ぼくろ。
「やっほー。カシエル」
ウリエルはいつもの調子で手を振る。
「この子、ココちゃんって言うんだよね。中、入れて」
「……はぁ。入って」
私は小さく頭を下げる。
「お邪魔します」
家の中に入った途端、カシエルさんはウリエルをじろりと睨んだ。
「ココちゃんって、どういうこと?」
ウリエルはあっけらかんと言う。
「身元不明の未熟天使、ココちゃん。卒業するまでは、カシエルが保護者になってね」
「……は?」
「お願い半分、命令半分。よろしくー」
カシエルさんは目を細め、深くため息をついた。
「……はぁ。分かった。卒業までだからな」
私は慌てて一歩前に出る。
「ココです。えっと……カシエルさん、よろしくお願いします」
「……うん」
ぶっきらぼうだけど、拒絶ではない。
少しだけ安心した。
「じゃあね、ココちゃん」
ウリエルはそう言って、あっさり踵を返す。
「あっ……お礼、言い忘れた……!」
止める間もなく、彼の背中は遠ざかっていった。
「大丈夫だよ」
カシエルさんが、優しそうな目で言う。
「ウリエルは、お礼を言われたくて君を助けたわけじゃない」
「……そうなんですね」
私は握りしめた手を胸の前でぎゅっと握った。
「でも、次に会ったら言います!」
その時にはきっと。
“保護者が必要な未熟天使”じゃなくて――
ちゃんと一人で飛べる私になって。
次に会えるまでに卒業しよう。
私はそう心に誓った。
街へ戻る道すがら、さっきまで胸に詰まっていたものが、少しずつ重さを増していく。
「ココちゃん。落ち込まないでね。すぐに卒業できる……はずだから」
励ますように言われて、私は小さく頷いた。
自分が拗ねていたことが、今さら恥ずかしくなる。
「……ありがとうございます」
ウリエルは困ったように笑いながら、続ける。
「それまではね。誰かが“保護者”にならなくちゃいけないんだよ」
保護者。
自由を求めて来たのに、自由が条件付きになってしまった。
――それでも、今は仕方ない。
私はふと思いつき、顔を上げた。
「じゃあ、ウリエルが保護者になってよ!」
ウリエルは一瞬だけ目を丸くして、それから苦笑した。
「……ごめんね。ココちゃん。俺はなれないんだ」
「え?」
「ある程度“近い存在”じゃないとダメなんだよね」
意味深な言い方に、私は言葉を飲み込む。
近い存在って、どういう意味なんだろう。
ウリエルは少し考え込んでから、ぽんと手を叩いた。
「……うん。あいつにしようかな」
「決まりましたか?」
不安が胸の奥で膨らむ。
私は思わず問いかけた。
「うん。早速行くよ」
ウリエルはそう言って、私の手を取る。
そのまま街中を歩いていくと、一軒の家の前で足を止めた。
他の家と大差ない、普通の家に見える。
「じゃじゃん。この家にココちゃんは住みます」
「えっ、今決まった感じ!?」
ウリエルはインターフォンを押した。
ピンポーン。
少しして、家主が顔を出す。
「どちら様。うちはセールス禁止で――……あっ、ウリエル?」
金髪で、癖毛は少なめ。
セクシーな雰囲気の男性だった。碧眼で、目元には涙ぼくろ。
「やっほー。カシエル」
ウリエルはいつもの調子で手を振る。
「この子、ココちゃんって言うんだよね。中、入れて」
「……はぁ。入って」
私は小さく頭を下げる。
「お邪魔します」
家の中に入った途端、カシエルさんはウリエルをじろりと睨んだ。
「ココちゃんって、どういうこと?」
ウリエルはあっけらかんと言う。
「身元不明の未熟天使、ココちゃん。卒業するまでは、カシエルが保護者になってね」
「……は?」
「お願い半分、命令半分。よろしくー」
カシエルさんは目を細め、深くため息をついた。
「……はぁ。分かった。卒業までだからな」
私は慌てて一歩前に出る。
「ココです。えっと……カシエルさん、よろしくお願いします」
「……うん」
ぶっきらぼうだけど、拒絶ではない。
少しだけ安心した。
「じゃあね、ココちゃん」
ウリエルはそう言って、あっさり踵を返す。
「あっ……お礼、言い忘れた……!」
止める間もなく、彼の背中は遠ざかっていった。
「大丈夫だよ」
カシエルさんが、優しそうな目で言う。
「ウリエルは、お礼を言われたくて君を助けたわけじゃない」
「……そうなんですね」
私は握りしめた手を胸の前でぎゅっと握った。
「でも、次に会ったら言います!」
その時にはきっと。
“保護者が必要な未熟天使”じゃなくて――
ちゃんと一人で飛べる私になって。
次に会えるまでに卒業しよう。
私はそう心に誓った。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました
鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。
だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。
チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。
2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。
そこから怒涛の快進撃で最強になりました。
鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。
※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。
その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。
───────
自筆です。
アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞
極限効率の掃除屋 ――レベル15、物理だけで理を解体する――
銀雪 華音
ファンタジー
「レベル15か? ゴミだな」
世界は男を笑い、男は世界を「解体」した。
魔力も才能も持たず、万年レベル15で停滞する掃除屋、トワ。
彼が十年の歳月を費やして辿り着いたのは、魔法という神秘を物理現象へと引きずり下ろす、狂気的なまでの**『極限効率』**だった。
一万回の反復が生み出す、予備動作ゼロの打撃。
構造の隙間を分子レベルで突く、不可視の解体。
彼にとって、レベル100超えの魔物も、神の加護を受けた聖騎士も、ただの「非効率な肉の塊」に過ぎない。
「レベルは恩恵じゃない……。人類を飼い慣らすための『制限(リミッター)』だ」
暴かれる世界の嘘。動き出すシステムの簒奪者。
管理者が定めた数値(レベル)という鎖を、たった一振りのナイフで叩き切る。
これは、最弱の掃除屋が「論理」という名の剣で、世界の理(バグ)を修正する物語。気になる方は読んでみてください。
※アルファポリスで先行で公開されます。
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』
チャチャ
ファンタジー
毎日ドタバタ、でもちょっと幸せな日々。
家事を終えて、趣味のゲームをしていた主婦・麻衣のスマホに、ある日突然「スキル習得」の謎メッセージが届く!?
主婦のスキル習得ライフ、今日ものんびり始まります。
戦えない魔法で追放された俺、家電の知識で異世界の生存率を塗り替える
yukataka
ファンタジー
安全を無視したコスト削減に反対した結果、
家電メーカーの開発エンジニア・三浦恒一は「価値がない」と切り捨てられた。
降格先の倉庫で事故に巻き込まれ、彼が辿り着いたのは――魔法がすべてを決める異世界だった。
この世界では、魔法は一人一つが常識。
そんな中で恒一が与えられたのは、
元の世界の“家電”しか召喚できない外れ魔法〈異界家電召喚〉。
戦えない。派手じゃない。評価もされない。
だが、召喚した家電に応じて発現する魔法は、
戦闘ではなく「生き延びるための正しい使い方」に特化していた。
保存、浄化、環境制御――
誰も見向きもしなかった力は、やがて人々の生活と命を静かに支え始める。
理解されず、切り捨てられてきた男が選ぶのは、
英雄になることではない。
事故を起こさず、仲間を死なせず、
“必要とされる仕事”を積み上げること。
これは、
才能ではなく使い方で世界を変える男の、
静かな成り上がりの物語。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ミックスブラッドオンライン・リメイク
マルルン
ファンタジー
ある日、幼馴染の琴音に『大学進学資金』の獲得にと勧められたのは、何と懸賞金付きのVRMMOの限定サーバへの参加だった。名前は『ミックスブラッドオンライン』と言って、混血がテーマの一風変わったシステムのゲームらしい。賞金の額は3億円と破格だが、ゲーム内には癖の強い振るい落としイベント&エリアが満載らしい。
たかがゲームにそんな賞金を懸ける新社長も変わっているが、俺の目的はどちらかと言えば沸点の低い幼馴染のご機嫌取り。そんな俺たちを待ち構えるのは、架空世界で巻き起こる破天荒な冒険の数々だった――。
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる