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第20章
第3話
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もうすぐ夏が来るなとか、その前に一学期の期末テストがあるし、宿題で出された現国の問題集、まだやってないなーなんて、あれこれ考えていたら、あっという間に時間は過ぎてしまった。
一向に進まないシリンダーだけが、机に取り残されている。
山崎に送ってみたオンラインゲームの、『お前のデイリーどうすんの? ずっと放置じゃね?』にも、既読はついたが返事はない。
まぁ、自分のデイリーだって、ほったらかしなんだけどな。
もしもアイツらが、年下なんかじゃなくて、同じ2年生だったら、廊下で顔を合わすこともあっただろうし、体育や何かの行事で、一緒になることもあっただろう。
友達の友達とかで話しも出来ただろうし、どこかでちゃんと、話し合う機会だって、あったのかもしれないな。
落下防止のためだとかなんとかで、ほぼ閉めきられてしまった窓枠に、短い鉛筆が1本、転がりこんでいた。
それを拾おうと指を突っ込んでみても、なかなか上手くいかない。
指の先はそこに届きそうで届かなくて、だけど両方の手の指を差し込むのには、耐震補強された窓枠の柱が邪魔していて、俺はつい、それを取ることに夢中になっていた。
「なにやってんの?」
ふいに扉が開いて、現れたのは谷先輩だった。
俺は急いで、両手を引っ込める。
「いえ、別に。どうしたんですか?」
前部長である谷さんは、理科室の中をぐるりと見渡した。
「なんだよ、ここに居んの、お前だけ?」
とっさに上手く切り返せない俺は、言葉に詰まる。
「まぁいいけど」
そのまま谷さんは、シリンダーと設計図の転がった、テーブルの前に腰を下ろした。
「これが、例のニューロボコン参加作品?」
「いえ、違います!」
慌てて隠そうとしたそれを、ひょいと谷さんは取り上げた。
持ちあげた頭上で、俺の拙い図面をじっとながめている。
「うん。でも、悪くはないんじゃない?」
その言葉に、俺は全身の力が抜けるようだった。
「本当ですか?」
俺の目から何かが溢れてきそうになるのを、気づかないフリをする。
谷さんは、目の前にあったシリンダーのスイッチを入れた。
全く動かなくなっているそれと、接続したパソコン画面をのぞき込む。
「うん。本当。接続は、問題ないんだろ?」
「はい、多分」
さっきまで動いていたんだ。
それがなぜか止まってしまった。
「あぁ、なるほどね」
谷さんの指が、キーボードを叩く。
一向に進まないシリンダーだけが、机に取り残されている。
山崎に送ってみたオンラインゲームの、『お前のデイリーどうすんの? ずっと放置じゃね?』にも、既読はついたが返事はない。
まぁ、自分のデイリーだって、ほったらかしなんだけどな。
もしもアイツらが、年下なんかじゃなくて、同じ2年生だったら、廊下で顔を合わすこともあっただろうし、体育や何かの行事で、一緒になることもあっただろう。
友達の友達とかで話しも出来ただろうし、どこかでちゃんと、話し合う機会だって、あったのかもしれないな。
落下防止のためだとかなんとかで、ほぼ閉めきられてしまった窓枠に、短い鉛筆が1本、転がりこんでいた。
それを拾おうと指を突っ込んでみても、なかなか上手くいかない。
指の先はそこに届きそうで届かなくて、だけど両方の手の指を差し込むのには、耐震補強された窓枠の柱が邪魔していて、俺はつい、それを取ることに夢中になっていた。
「なにやってんの?」
ふいに扉が開いて、現れたのは谷先輩だった。
俺は急いで、両手を引っ込める。
「いえ、別に。どうしたんですか?」
前部長である谷さんは、理科室の中をぐるりと見渡した。
「なんだよ、ここに居んの、お前だけ?」
とっさに上手く切り返せない俺は、言葉に詰まる。
「まぁいいけど」
そのまま谷さんは、シリンダーと設計図の転がった、テーブルの前に腰を下ろした。
「これが、例のニューロボコン参加作品?」
「いえ、違います!」
慌てて隠そうとしたそれを、ひょいと谷さんは取り上げた。
持ちあげた頭上で、俺の拙い図面をじっとながめている。
「うん。でも、悪くはないんじゃない?」
その言葉に、俺は全身の力が抜けるようだった。
「本当ですか?」
俺の目から何かが溢れてきそうになるのを、気づかないフリをする。
谷さんは、目の前にあったシリンダーのスイッチを入れた。
全く動かなくなっているそれと、接続したパソコン画面をのぞき込む。
「うん。本当。接続は、問題ないんだろ?」
「はい、多分」
さっきまで動いていたんだ。
それがなぜか止まってしまった。
「あぁ、なるほどね」
谷さんの指が、キーボードを叩く。
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