蓬莱皇国物語 Ⅳ~DAY DREAM

翡翠

文字の大きさ
2 / 19

   月光

しおりを挟む

 武は予定通り月曜日に出社した。資料ファイル全てに目を通して内容をきちんと把握して。社内は本物の御曹司と噂される武の登場でちょっとした騒動になった。

 怪我の為に左手を肩から吊してはいるが、雅久が万事手配してくれた為に不自由はない。午後から会議が開かれ当然、武も出席をした。

 交わされる話を座って聞いていると突然、夕麿が武を指名した。質問内容は渡された資料ファイルの内容に添ったものだった。武はその問題点を指摘し、自分が感じてまとめた改善策を提示した。それは夕意に添ったらしくそのまま実行される事になった。武に意地悪をしたのか、力量を試したのか……それとも小柄で華奢な武がアメリカ人には、中学生以下にしか見えないので確かな実力を示させる夕麿の配慮だったのか。今の武には見当もつかない事だった。

 ただ幾ら武を拒否していても、夕麿は本質的には卑怯な行為を嫌悪する。だから敢えて武を陥れるような真似はしない。

 手渡した資料ファイルをきちんと読んで、内容を把握した上で問題点を発見出来るかどうか。改善策を示せるかどうかは武次第だったのは確かである。ファイルを読むのをさぼったり、内容が把握出来ず、何も答えられなくてもそれは武の責任。 恥をかき無能と嘲られ、まだ子供だと軽んじられても、恐らく夕麿は庇ったりしなかっただろう。 役に立たないお飾りとして、無視するくらいは平気しただろうが。 

 以前のように武を誉めたりはしない。 今の夕麿にはそれくらいは出来て当たり前だという眼差ししかなかった。 たとえそこに怪我の痛みと熱を薬で抑えながら、武が資料ファイルを読んだという事実が存在しても。 全ては自業自得と冷徹に見ていた。 

 夕麿には同じ夜に自分が錯乱状態に陥った記憶がない。 従って武の怪我は愚かなミスとしか認識していない。そこに自分という存在が落とした影があったとは、露ほどにも考えられないのである。 

 夕麿たちがこの企業に乗り込んだ時、立て直しと内部調査が与えられた役目だった。 だから夕麿に重役の席が与えられ、従う義勝たちの身分や立場も特別だった。 だが武にはそんなものは与えられてはいない。 御園生本家の本当の御曹司らしいという噂しかない。 社内での武の立場は、重役付きのアルバイト程度、単なる見習いに過ぎない。 

 毎日、夕麿が与えるファイルは、かなり難解な部分がある。 武は力量を試されているというより、学ばされているのだとと認識していた。夕麿はそういう人間だと知っていたからだ。



 夕麿の誕生日はサプライズで行われた。計画は武と周が立てたが、義勝たちも夕麿を連れ出してくれるなどの協力をしてくれた。

 プレゼントは全員の分を積み上げ、武の為に誰からかわかり難くした。片手で出来る事は知れていたので、武は厨房で味付けをみたり盛り付けを頑張った。

 毎日、誰よりも早く起床して、お弁当の準備をしておく。起きて来たコックに弁当のおかずを調理してもらい、武が味付けの調節をする。武の味付けを夕麿たちがよく食べるのを、コックたちも承知していた。

 テーブル一杯の料理。ケーキ。

 帰宅した夕麿は驚きながらそれでもここまでの誕生日で、こんな祝いをしてもらったのは幼い頃以来だと幾分、照れながら微笑んだ。

 武にはそれで十分だっ眼差しを向けられる事はなくても、夕麿の誕生日を祝う事が出来たのを喜んでいた。

 食事はスムーズに進んだ武を忘れても武の料理の味は彼のどこかに記憶されている。食欲不振など微塵もなく夕麿は次々と料理を平らげる姿に、武どのような状況であっても彼のこの姿を喜んでいた。まだ愛する人にできる事があるのだと。

 そこへ遠ざけられていた筈の絹子が新たな料理を手に乱入した。 それは武が知らない料理だった。 

「さあ、夕麿さま。 宮さまのお手ずからのお料理も結構でございますが、この絹の料理も召し上がってくださりませ」 

 その言葉に夕麿の顔色がみるみる変わった。 

「今更何を驚いているんだ、夕麿。 毎日食べている弁当も武がつくったものだぞ?」 

 夕麿は信じられないものを見るように武を見つめた。それはそうだろう。仮にも『宮』と呼ばれる者が、料理をする話は普通はある事ではない。 

「あ…その、料理は俺の趣味みたいなものだから…」 

 目を伏せて呟いた武に返事もせずに、夕麿は無言で席を立って出て行った。 

 絹子が勝ち誇った眼差しで事態を見つめていた。 

 武は何かを言おうとする雅久に首を振って、無言で立ち上がって出て行った。 

 文月が絹子に近寄った。 

「何ですの、執事どの」 

「あなたの部屋に戻りなさい。 あなたは何もしなくてよろしい。 小夜子さまに事実をお話いたします」 

「よろしゅうございます」 

 絹子は薄笑いを浮かべて出て行った。 

 せっかくの祝いが台無しになってしまった。 義勝たちは出て行った武の気持ちを、今はただ可哀想に思うしかなかった。

 

 夜更けになっても行き場の見付からない気持ちで武は寝室から中庭へと出た。 見上げた夜空には美しい満月が、蒼い光を帯びて昇っていた。 

「何でだろうな…同じ月なのに…」 

 哀しい色に見えてしまう。 

     【私に生きている価値はあるの? 

     朝の光に問い掛ける 

     でもいつも  太陽は答えてくれない 

     去って行くあの人の 

     背中を立ち尽くして 

     ただ見送るしかなかった  私に 

     生きている意味はあるの? 

     面影を求めても 

     虚しさが募るだけ 

     あなたは決して 

     戻っては来ないから 

     もう思い出の中にさえ 

     あなた背中しか見えない 

     
     私に生きている価値はあるの? 

     月に問い掛けてみるけど 

     無言のまま輝いているだけ 

     あなたを失った私は 

     もうただの脱け殻なのに 

     生き続けているのは 何故? 

     ねぇ 神さま 

     私はあとどれくらい 

     生きていれば良いの? 

     脱け殻のまま 

     この想いを抱き締めて 

     あなたはもういないというのに……】 

 
 口を突いて出たのは『尽きせぬ想い』。 あの廃屋で死してもなおたった一人で、存在し続けていた螢の気持ちがわかったような気がした。 

「ねぇ、螢さま。 俺たちが何をしたって言うんだろうな…」 

 ただ幸せになりたかっただけなのに。 

 すると降り注ぐ月光が、ゆっくりと人の形になった。 

『武さま』 

「え…螢さま?」 

『あなたには感謝しております。 どうか、私にお礼をさせてください』 

「お礼って…?」 

『あなたさまの願い事は何ですか?』

「俺の願い事…?」 

 何を願うのかと問われたら、武にはたった一つしかなかった。 

「夕麿を…夕麿を守って。 もし代償が必要なら…俺は生命を差し出しても構わない」 

『武さま…本当に、それでよろしいのですか?』 

「うん…他に願う事はない」 

 この手が届かなければ自分が守る事は出来ない。 誰かに縋り付いてこの生命いのちと引き換えにしても夕麿を守って欲しい。 

『わかりました。 その願いを聞き届けましょう』 

 声と共に螢は消えた。 

「ありがとう…螢さま」 

 武は螢がいた場所にそう言って寝室へと戻った。 



 武はそれでも昼食の弁当つくりを止めなかった。 夕麿は仕方がないとでも言うように、無言で無表情でそれを食べていた。 

 逆に武はますます食欲がなくなるばかりだった。 食が細い雅久でさえ武の食べ方を心底心配した。 昼食の弁当の中に武は自分用の小さなおむすびを入れている。 それすら全部食べられなくて、次第にもっと小さくなっていく。 おかずは玉子焼きを一切れ。 これすら無理になっておむすびだけになる。 痩せ細っていく武を心配して、高辻と周が栄養剤入りの点滴を1日おきに打っている程だった。 

 あれからも仕事では相変わらず、資料ファイルを与えられて格闘を続けていた。 

 夕麿は社での必要以外の会話を一切しない。 義勝たちにも許さない。 武は出社すると一人でもくもくと、孤独に資料ファイルと向き合っていた。 一つが終われば次が与えられる。 終わらない時には屋敷にまで持って帰って夜遅くまで読んでいた。 

 どうせあまり眠れないなら有意義に使うだけ。 武はそう考えていたのだ。 



 その夜、夜更けになって夕麿の訪問を受けた。 

「何? どうかしたの?」 

 動揺を隠して言った言葉は意外なまでに、素っ気ない響きになって口にした武自身が驚いた。 

「夕刻にお渡ししたファイルですが、不十分な部分がありました」 

 そう言って夕麿は何枚かの紙を差し出した。 どうやら不足分を制作したらしい。 

「道理で何かいつもよりわかり難いと思った」 

「申し訳ございません」 

「いや、良い。 そこへ置いて下がって」 

 どうか側に来ないで欲しい。 

「誕生日のプレゼントを…ありがとうごさいました」 

 すぐ横に来て夕麿が礼を言う。 武は思わず後退った。 

「俺に不用意に近付くな」 

「それはどういう意味でしょうか?」 

 夕麿が不快そうに眉をひそめた。 

「お前の記憶では便宜上でも俺には違うんだ」 

「それは…私に触れられたいと…お望みですか?」 

「今は逆だ」 

「逆…と仰いますと…その…」 

 夕麿が戸惑う。 

「乳母の感覚ではお前が俺を抱く。 その図式しかないんだろうな。 今のお前には誰かが話しても信じないか…」 

 武は哀しくて辛くて逆に笑い出してしまった。何でこんな事を本人を相手に言わなければならない? 

「俺がお前を抱く。 それはそんなにおかしい事か?」 

 武は立ち上がると夕麿の手を取って寝室へ引っ張り込んだ。夕麿は抵抗するでもなく戸惑った顔をしていた。 握った手を引いて合気道の気合いで夕麿の身体をベッドに投げ出した。 すぐに覆い被さって唇を重ね口腔内を蹂躙じゅうりんする。 

 次第に夕麿の抗う力が弱まってきた。 唇を離して見つめると潤んだ瞳があった。 

「抵抗しないと最後までするぞ?」 

 今ならまだ制御出来る。 そう思って言った言葉に夕麿は、弱々しく首を振って抗う様子を見せた。それでは武は止まらない。 武の指が夕麿のシャツのボタンを外して行く。 剥き出しになった胸を、滑らかな肌の感触を確かめるように撫で回す。 

「…武さま…お許しを…」 

「お前は俺の妃だろうが。 妃の役目くらいたまには果たせ」 

 欲望と哀しみが混沌として、武の心を闇色に染めて行く。 白い胸に口付けて舌を這わせ、愛しい者の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。 

「ああッ…イヤ…お許しを…」 

 武の頭を夕麿の指が掴む。 

「それで抵抗しているつもりか、夕麿? 身体はちゃんと反応しているぞ?」 

「ああ…そんな…どうして…」 

 夕麿は武以外に触れる事も触れられる事も出来ない。 今の夕麿にはそれがわからない。 こんなのは嫌だと思いながら、それでも武が触れた部分が熱い。 

「あッ…そこ…ダメ…」 

 舌先が敏感な左側の乳首を舐める。 

「ヤ…あン…武さま…」 

 夕麿の嬌声。 

 夕麿の肌。 

 夕麿の温もり。 

 触れたかった。 

 抱き締めたかった。 

 いけないと想いながらも愛しさに心がバラバラになりそうだった。 

「夕麿…夕麿…」 

 夢中で肌を撫で口付けを繰り返す。 パンツに手をかけて下着ごと引き下ろす。 夕麿のモノは欲情を示し蜜液を既に溢れさせていた。 それを根元から舐め上げゆっくりと口に含む。 

「ひィッ…そのような…やめ…あッああッ…イヤ…武さま…」 

 夕麿にしても久方ぶりの愛撫だ。 まして武は夕麿の弱点を知り尽くしていた。 

「ああッ…ダメ…お放しを…もう…あンぁ…ああッ…」 

 吐精が近いらしく、武の口腔内に出すのを嫌がる。 

「出せよ、全部飲んでやるから」 

 唇を一度放して言う。 

「お許しを…出来ません…」 

「いつもと同じだろう?」 

「イヤあ…ンぁ…ひィあ…やめ…ダメ…もう…もう…イく…ああああぁぁ!」 

 シーツを握り締め大きく仰け反って、夕麿は武の口腔内に大量に激しく吐精した。 武は喉を鳴らして嚥下し、内部の残滓すら啜った。 

 夕麿にすれば予想すらしていなかった行為を強制的にされたのだ。 たとえ抗う力が出なかったとしても。 武の愛撫に身も世もなく感じ、身悶えしてしまった事実はショック以外のなにものでもなかった。 絶頂の気怠さに身を投げ出しながら、静かに涙を流していた。

「夕麿…」 

 うっとりと気分で組み敷いた夕麿の瞳から止め処なく溢れる、涙を見て武は我に返って慌てて身を起こした。 夕麿を傷付けた。 愛しさ故にわき起こる欲情に負けてしまった。 

 犯してしまった過ちに、自分の愚かさに愕然とする。 

「……け…」 

「え…?」 

「出て行け!」 

 後悔に締め付けられる胸でもっと残酷な言葉を叫んだ。 夕麿はベッドから弾かれたように身を起こして乱れた衣服を整え、幾分覚束おぼつかない足取りで部屋を飛び出して行った。 

「夕麿…夕麿…夕麿…」 

 気が狂ってしまいそうだった。 姿も声も温もりも匂いも愛する人と同じだと言うのに、武が愛して武を愛してくれた夕麿はいない。 

 どこにもいない。 こんなに求めているのに……愛を囁く事すら出来ない。 もうここにはいられない……いてはいけない。 ここには自分の居場所はない。 

 武はベッドから立ち上がると、ある事をする為に勉強部屋へ入って行った。 



「武さま…? 今、何と仰せに…?」 

「皇国へ帰る。 ただちに上に申請してくれ」 

 朝になって武は周を呼び出してそう告げた。 

「成りません! それだけはおやめください」 

 周は血相を変えて武を止めようと言葉を紡いだ。 

「…俺は帰れば生命はない? そういう事か?」 

「武さま…」 

 何となく周たちが隠している事実は見当がついていたのだ。 口にして周の顔色と表情を目の当たりにして、自分が間違っていないのを確信した。 

「良いんだ…もう…俺は。 

 ごめんなさい。 でもそれが最良の道だと思う。 夕麿の為にもみんなの為にも」 

「しかし!」 

「ありがとう、周さん。 あなたには本当に感謝してる。 夕麿の事、お願いするよ? もしいつか、俺の事を思い出したら伝えて。 

 幸せだったって。 俺の分も生きて幸せになって欲しいって」 

「武さま…」 

「みんなにはギリギリまで黙っておいて。 俺は一人で帰るから。 周さんも成瀬さんも、これからは自分の夢を追い掛けて」 

 穏やかに微笑んだ武の手を握り締めて、最早周には泣く事しか出来なかった。 

「武さま…せめて、紫霄の夏休みが終わるまでお待ちくださいませんか」 

「どうして?」 

「私の為に…お願い致します」 

「わかった。」 

 武の決意は揺るがない。 周は自分の無力を嘆く事しか出来なかった。


 夜更けに一人で夕麿はピアノを奏でていた。 昨日の夜の事が頭から離れなかった。 武に触れられても嫌悪感はなかった。 それどころか官能に溺れてしまった。 もっとと求めてしまいそうな自分に驚いて戸惑った。 

 武に妃として抱かれていた? 

 それは紛れもない事実だと自分の身体が教えていた。 互いに紫霄から外に出る為の便宜上の契約による婚姻。 愛情は欠片もなくむしろ夕麿の経歴を盾に結ばれた約束。 紫霄の慣習として夕麿が武を抱く……という関係は一応、過去に存在していた。 武は六条家が佐田川一族に破産させられたのを買取、夕麿の名義にして報奨として与えた。 だが六条家の生活費は未だに武から出ており、夕麿はそれを人質にとられて今も従っている。 そんな相手に愛情を注ぐ必要はない。 

 絹子は武に対する記憶を失った夕麿にそう説明した。 しかも義勝たちすらその武によって紫霄から救い出され、すっかり言いなりになっていると。 夕麿を傷付けるには十分過ぎる話だった。 義勝は小等部からの親友。 雅久も貴之も中等部からの友達。 中・高等部と、力を合わせて生徒会執行部を務めた最も信用する仲間。本当は彼らが自分を裏切ったとは思いたくはなかった。 だが絹子の言葉は奇妙に辻褄が合っていた。 紫霄から出られない筈の義勝がロサンゼルスにいる。 義理の母と異母兄に虐待され、嗜虐的な快楽を教え込まされた雅久が、義勝の傍らで幸せそうにしている。 武が助けたのだとすれば絹子の言葉を納得出来る。 

 その納得の仕方自体がどこか歪んでいるのに夕麿は気が付いていない。 

 ふと見上げた楽譜ファイルに、背表紙に何も書いていないのがあるのに気付いた。 立ち上がって手取ると 中には幾つかの曲の楽譜が入っていた。 

 ベートーベンのピアノ・ソナタ第16番『月光』 

 ドビュッシーのベルガマス組曲『月の光』と前奏曲集第2『月の光がそそぐ庭』 

 パルムグレンの『月の光』 

「月の題名が付いた曲?」 

「それ多分、俺に聴かせる為だ」 

 突然声がして振り返ると武が立っていた。 

「用を済ませたらすぐに部屋へ帰る。 お前には近付かない。 指一本触れないと約束する」 

 武の言葉に取り敢えず頷いた。 

「どうして月の題名ばかり集めたのでしょう?」 

「俺が…知ってる曲を訊かれて、ドビュッシーの『月の光』が好きだと答えたからだと思う。 俺が驚くのを…夕麿は楽しんでいた」

 武はまるで夕麿がそこにいないかのように言う、哀しげな声で。

「あの…それでご用件は何でごさいましょう?」

「帰国する事にした」

「え!?」

 夕麿も周の話を聞いている。だから武の帰国が意味する事を知っている。

「周さんと成瀬さんはここに残ってもらう。ここの所有権はお前に移して置くし、俺の預金はお前の講座に振り込んでおく。

 俺にはもう必要なくなるからな」

 ああ、彼は全てを知っているのだと夕麿は思った。

「頼みがある」

「何でしょうか?」

 武は手にしていた鍵を夕麿に見せた。

「俺の部屋の机の鍵だ。俺が帰国したら……中のものを処分してくれ」

「承知いたしました」

 止める事は出来ないのだと、夕麿にも何となくわかってしまった。たとえそれが生命を奪われに行くのだとしても。

「お前にはすまない事をした…だが許しは請わない。俺を憎んでくれて良い……そして忘れろ。俺は存在しなかった。それが一番だ」 

「武さま……」 

 孤独で哀しい話をしていても武の眼差しは優しかった。 

 夕麿はふと思った。 本当は彼に愛されていたのではないかと。 

「そのファイルの中に多分…『紫雲英しうんえい』というのがあると思う。 聴かせてくれないか?」 

 聞いた事のない題名なのに胸が痛いのは何故だろう? 夕麿は紛れもなく自分が書いた楽譜を見付けた。 

 『紫雲英』……つまり蓮華草れんげそうが武の御印であるのは知っている。 ではこれは武の為の曲なのか? 

 楽譜を開いて鍵盤に指を乗せると身体がこの曲を記憶していた。 楽譜を見なくても鍵盤を指が叩いて行く。 夢中で弾き終えた時にはピアノ室に武の姿はなく、先程彼が見せた鍵が椅子の上で銀色に光っていた。 夕麿はそれを手に取って胸ポケットに入れて、再び先ほどのファイルを開いた。 幾つかの楽譜があった。 自分の手書きの楽譜。 何かからコピーされたらしい楽譜は、『尽きせぬ想い』という題名だった。 歌詞を読んであの誕生日の夜に中庭から聴こえた歌だとわかった。 

 その楽譜をファイルから出そうとした時、一枚の和紙が中から落ちた。 それには相聞歌が書かれてあった。 


『幾千歳 桜の花の 咲く如く 来世の春も 居らまし君と』 

『魂きはる 幾世の春も 君ならで 熱き想いの 花恋しかば』 


 熱烈な恋の歌だった。 文字は間違いなく自分のものだが、書いた記憶は存在してはいない。 夕麿はそれを茫然と見つめ続けた。空白の記憶が何処へ行ったののかを探したくなった。


 その夜から武は部屋から出て来なくなった。 義勝たちには体調不良といったものの、彼らを武は部屋に入れなくなっていた。 出入りが出来るのはただひとり周だけ。 指の傷も結局は周が治療している。 

 夕麿は自分が武を追い詰めた…という自責の念がないわけではなかった。 彼の心は揺らいでいた。 六条家を破滅へ向かわせたのは、佐田川一族と義母詠美だがトドメを刺したのは武だ。 その経緯を本当の意味で知らない絹子が自分の都合よく解釈して、伝えたのだが記憶が欠落している夕麿にはわからない。 そういう事を御園生家ではなく、武本人が行ったのだという事実は、夕麿の嫌悪感を呼ぶには十分な材料だった。 

 絹子の語る武は残忍無慈悲で、利用出来るものは何でも利用する。 自分も義勝たちもその餌食になったのだと。 

 本来ハーバードを目指していた夕麿が、UCLAに在学しているのも武にそこしか許可が出ないから。 ハーバードに行った場合、武は学院内進学しか許されないからと。 

 自分の人生が武によって、強制的に変更されたのだと思っていた。 手持ちの写真や映像の中の武は、可愛くて綺麗で屈託のない笑顔をしていた。 そうやって油断させて周囲に人を集めて、策略を巡らして自分から逃げられないようにするのだと絹子は語った。

 だが実際にやって来た武は素直で懸命だった。 半ば意地悪にわざと難しい資料を渡しても、ちゃんとクリアして来る。 

 夕麿の部屋からは武の寝室が見える。 リビングも斜めにだが伺える。 そのリビングの灯りがいつも夜遅くまで消えない。 それなのに毎日の昼食の弁当は、武がつくっていたのだと言う。 

 武の料理は不思議なくらいに食が進む。 夕麿の好物が並んでいるのも本当は嬉しかった。 だがそれが絹子の言うように夕麿を、籠絡する為の策略ならば巧妙で苛立ちしか感じない。 

 義勝や雅久を兄と呼んで甘えているのさえ腹が立った。 全てが策略なのだと。 見かけの姿が本当ならば、泣き顔のひとつも見せそうだが…泣くどころか、武は笑顔しか向けて来ない。 それが余計に夕麿を苛立たせた。 

 それなのに…… 

 武に組み敷かれて愛撫に身悶えた自分がいた。 触れられる嫌悪感もなかった。 出て行けと言われて立ち去る少し前に見た、武の顔は苦悩に歪んで痛ましいとさえ感じてしまった。 

 何が本当なのかわからなくなっていた。武に関する記憶を失ってから当然ながら夕麿は孤独だった。 友であり仲間である義勝たちが信じられなくなり、 主治医である筈の高辻すら、自分を治療すると言って洗脳するのではないかと思ってしまう。 

 誰かの愛が欲しい。 誰かを愛したい。 祈るように願っていた自分には、やっぱりそんな相手はいないのだと絶望した。 

 絹子の自分に対するものはとても愛情だとは思えない。 

 あれは執着だ。だが誰に、何に対しての? 今は亡き母、翠子への? 絹子は翠子の乳母の娘で二人は乳姉妹。 それがそのまま夕麿の乳母になったのだと聞いていた。 

 この場合、彼女に実際に母乳が出なくても良いのだ。 乳母とは教育係の事。 実際に母乳を飲ませた女性が別にいたり粉ミルクでも構わない。 夕麿の場合、身体が弱い翠子には育児が難しかった。 だから絹子が乳母に指名されたのだが、彼女自身は未婚であり子供もいない。 しかも翠子の乳母だった実母は既に他界しており、絹子は天涯孤独の身だと話していた。 

 紫霞宮家からも御園生家からも解雇されれば、彼女はまたひとりになる。 この世に頼るべくは夕麿だけ。 だが執着と愛情を履き違えたままのあり方は、そのまま夕麿のストレスにもなっていた。 

 だからこそ考えてしまう、武との関係を。 本当に便宜上の契約だったのかと。 あの夜、武が口にした言葉はそうではなかった。 妃の役目を果たせと言いながら、肌に触れる指は優しかった。 あの苦悩の表情はそこに愛情があったからではないのか。 同意を得ない行為に及ぼうとした自分を、武は責めていたのではないのか。 自分の身体の反応に混乱して、涙を溢れさせた夕麿の姿を拒否と受け取り、酷い事をしたと武は己を責めたのではないのか。その結果が帰国と言う事ではないのか。 

 夕麿を伴侶に決めるにあたって、経歴が調べられない筈がない……多々良 正恒の事を武が知らない筈はない。 ましてや一昨年の12月の事は… …

「あぅッ!」 

 刺すような突然の頭痛が襲って来た。 夕麿は頭を抱えた。 痛みは刺すような状態から、締め付けるような痛みに変化した。 

 痛い……痛い……痛い……!! 

 視界が歪み強い吐き気が襲う。 自室のテーブルの上の物を薙ぎ倒すようにして夕麿自身も倒れ込んだ。 助けを求めて必死にドアへ這って行く。 ノブを掴もうと身を起こすと、痛みも眩暈も激しくなる。 耳鳴りがする。 

 やっとの思いでドアを開け廊下に転び出た。 だが……廊下に人影はない。 

 月光が注ぐ廊下を壁伝いに隣室のドアへとやっとの思いで辿り着いた。 

 ここは義勝と雅久の部屋。 二人の邪魔をしたくはないが、今は救いの手が欲しい。 

 歯を噛み締めてドアを叩いた。 その反動も頭に響く。 もう立っていられない。 夕麿はズルズルとその場に座り込んだ。 

 ドアが僅かに開いた。 

「義勝……」 

 ちゃんと声になったのかどうか、それすらわからない。 激痛に意識さえ失えない。 眩暈と耳鳴りと吐き気に朦朧もうろうとなった状態で必死に手を伸ばした。 すると大きな手がしっかりと握ってくれた。 涙が溢れた。 そうだ、義勝は義勝だと。 

 名前を呼ぶ声が反響する。 そっと壊れものを扱うように抱き上げられ運ばれていく。人の温もりがこんなにも、安心出来るものなのだと感じていた。 

 ベッドに下ろされ別の誰かが、頭を持ち上、薬らしきものを口へ入れられた。 コップが口に当てられ、中の水を薬と一緒に飲み込んだ。 

「夕麿さま、すぐに御気分おきもじが楽になられますよ。 さあ、目をお閉じください」 

 その言葉に頷いて目を閉じた。 頭痛も耳鳴りも吐き気も、波が退くように治まっていく。 

「ああ…ありがとう」 

 自分は一人ではないのだと、その事実が嬉しかった。 強い眠気に襲われて夕麿の意識は途切れた。 



 義勝は高辻と廊下にいた。 夕麿の世話を貴之に任せて。 

「何かを思い出そうとなさったのか…思い出されたのか…でしょうね」 

「武が部屋に籠もったのと、関係があるんでしょうか?」 

「わかりません。 武さまは私を部屋にはお入れくださいません。 周も何も言いません。 何か余程の事があったのだとは私も思うのですが……」 

「夕麿本人に訊くしかないのか…」 

「夕麿さまが覚えていらっしゃれば…ですが」 

 ここ1ヶ月程の夕麿は朝になると昨夜の記憶が曖昧になっている……という状態が多々存在していた。 

「夕麿は…俺たちをもう信用してはいません」 

「今夜は少し違った感じがしました」 

 高辻はそう言うと少し考え込んだ。 

「あなたに助けを求めに行かれ、しかも先程は礼まで口になさいました。 その変化が頭痛の原因かもしれません」 

「そう言えば……」 

「武さまと何かしらおありになったのは間違いないでしょう。 それが夕麿さまの心を揺さぶっているのです。 ただ逆に武さまを追い詰めている理由かもしれません」

「夕麿も武が籠もる前夜くらいから、様子がおかしいんですよ、先生。 食堂で空っぽの武の席を少々艶っぽさのある目で見てたり……武、我慢が出来なくなって夕麿に手を出したか…?」 

「有り得ますね。 夕麿さまがなし崩しに受け入れられたならば、武さまは自己嫌悪をお持ちになられても、おかしくはありません。 周が口をつぐんで、思い詰めた顔をしているのも気になりますしね」 

「周さんは何かを知っていると?」 

「何かを隠しているのは確かですね……白状させましょうかね」 

 高辻はニヤリと笑った。 義勝はこの人にはかなわないと早々に部屋へ戻った。 

 雅久との最中であらぬ状態で、放置したままなのも気になっていたのだ。 手を拘束されバイブレーターを差し込まれたままで、ベッドの上で身悶えしていた。 

 夕麿がドアを叩いてからおよそ1時間。 放置されている間に一度、イってしまっていた。 濡れた下肢が恥ずかしくて、戻って来た義勝から逃れようとする。 だがすぐに見られてしまった。 自ら放った精で濡れたモノを掴まれて、雅久は羞恥の悲鳴を上げた。 

「たまには放置しておくものだな。 嫌がるくせにイったのは何故だ、雅久?」 

 耳許に囁かれて首を振る。 

「言いたくないんなら、今夜はコレに満足させてもらえ」 

「そんな…それは…イヤ…許して」 

「じゃあ、何でイったのか説明しろよ? 俺が納得したら、欲しいものをたっぷりやるぜ?」 

 その言葉に身の内が震える。 体内の無機質な機械を肉壁が締め付け、懊悩おうのうがジリジリと身体を炙り始める。 

「ああッ…イヤ…」 

 言葉攻めに雅久が反応しているのを見て、義勝の欲情が燃え上がる。 

「淫らに腰を振ってすっかりコレがお気に入りだな、雅久? 

 体内に入れ込むローターを、明日は1日中、挿れっ放しにしてやろうか? 前はお漏らししないように、ちゃんと縛っておいてやる。 それで仕事に行って、夕麿に見つかったら…どうなるだろうな?」 

 そんな事をしてバレたら、叱責されるのは間違いなく義勝の方だ。 

「そんな…言います…だから…それだけは…許して…」 

「言えよ」 

「あなたが…いなくなって…朝まで…このままだったら…どうしようと…」 

「朝まで放置されるのを想像したら、イったのか…」 

「ごめんなさい…」 

 恥ずかしくて泣きたくなる。 

「どんな風にイったのか見せてみろ」 

「イヤ…それは…イヤ…義勝…お願いです…」 

 放置されて一人で吐精したのは、雅久にとっては偶発的なもの。 だがそれを見られているのは…官能と羞恥の間で心が激しく揺らぐ。 

「…すまん…今夜は手加減は…無理だ…」 

 その言葉に義勝の苦悩が現れていた。 親友である夕麿。 後輩で表向きとはいえ、義弟である武。 大切で大事な家族でもある二人が、ここまでボロボロにされているのだ。 それなのに場当たり的な対処しか出来ない。 やり切れなさのぶつけ所がない。 

「ああ…義勝…」 

 気持ちは雅久とて同じである。 雅久にとっても夕麿は尊敬出来る友であり、武は可愛い弟である。 そして…何よりも二人は家族なのだ。 2年分の記憶しかない彼には、大切なかけがえのない二人。 

 今はただ祈る事しか出来ない。 八百万神の神々にこの祈りは届いているのだろうか? 

 せめてせめて今は愛する人を癒やしたい。 官能よりも羞恥よりも、雅久の中で愛情が勝っていく。 それは最大の歓喜だった。 身の内が震える。 

「見て…ください…私の…浅ましい…淫らな姿を…」 

 それであなたが少しでも癒やされ、苦しむ心が休まるならば。 愛しているから。 これが自分たちの愛し合い方だから。 昇り詰めていく感覚に、淫らな嬌声をあげながら、雅久は官能に溺れていった。 




 雑踏はの騒音はどこでも同じ。 だが飛び交う言葉は違う。 

「これを夕麿さまに」 

「何の薬ですか、これは?」 

「心配しなくて良い。 あなたは私が言う通りにしていれば。 彼らから取り戻したいのだろう?」 

 手渡された瓶にはカプセルが二つ入っていた。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

ヴァレンツィア家だけ、形勢が逆転している

狼蝶
BL
美醜逆転世界で”悪食伯爵”と呼ばれる男の話。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

処理中です...