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総領事館員
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保の言葉通り傷口は数日で塞がった。疵痕も余り目立たない。医療用接着剤の力もあるだろうが、武は保の外科医としての腕もあると思っていた。
保にも護衛が付けられ昼食はカフェテラスで武たちと共にお弁当を一緒に食べる。以前の騒動があっただけにキャンパス中の注目が集まった。保が武に対してとるこれ以上ないと、思える程の恭しい丁寧な態度に誰もが驚いた。これが武が皇家の血筋という噂の信憑性を裏付ける形になった。戦後すぐ日本の宮家を名乗る詐欺師がアメリカを横行した事がある。貴族や皇・王族が存在しないアメリカ。200余年の国は歴史の深さに弱く、その体内に流れる高貴な血に憧れる。そこを突いての詐欺だったという。
このような事実がある為に武の身分についても、詐欺詐称説がキャンパス内に飛び交ってはいた。けれどもFBIが本気で護衛しているという事実。武を拉致する凶行に及んだ学生の父親が屋敷で門前払いされた為に、キャンパスに押し掛けて来て武に平謝りした事実などの様々な積み重ねがあった上で、保がグループに加わり武に最上級の敬意を示したことで最早誰も武の身分を疑わない。
10月に入ってまだ日が浅い日の昼時、スーツ姿の東洋人の男が二人、カフェテラスに姿を現した。 男らはカフェテラス内を見回し、奥まった一角にいる武たちに目を止めて、二人でひそひそと話し合った後に歩み寄って来た。
「紫霞宮殿下はいらっしゃいますか」
おもむろに出た言葉に夕麿がとっさに、武を庇うように立ちその夕麿を貴之が庇う。 FBIが身構え雫と周が二人に歩み寄った。
「宮さまにお目もじを願われるならまず身分と所属、氏名を名乗りたまえ。 最低限の礼儀も知らぬのですか」
こういう時、周の声は鋭く響く。 夕麿の声とは違う意味で相手に強い威圧感を与える。まさに千年以上受け継がれて来た血と伝統と貴族としての矜持がもたらす力であった。
「ご、ご無礼を致しました。 在ロサンゼルス蓬莱皇国総領事館の職員でございます。
私は田中 康文と申します」
「私は領事館書記官を務めます、大野木 克男と申します」
「紫霞宮家宮大夫、久我 周である。
領事館員がわざわざ斯様な場所まで、こちらの迷惑を顧みず赴くとは如何なる所存か?」
「あの…出来ましたら殿下に直接、お話を…」
「待たれよ」
総領事館の職員と名乗る彼らは一応、身分証を提示したがどこに敵がいるのかわからない。 FBIを含めた全員が警戒を解かなかった。
周が戻って来て夕麿に声をかけた。
「どうする、夕麿?」
「断る訳にはいかないでしょう。
武、私に任せていただけますか?」
「うん、わからないから、お願いする」
「承知致しました」
周は彼らの元へ戻って武と夕麿の所へ案内した。
「紫霞宮武王殿下と夕麿さまです。
ご用件どうぞ」
雅久が恭しく言葉を紡いだ。二人は雅久の美貌にポカンとしてすぐに我に返った。
「騒ぎが広がる前に用件を述べなさい」
夕麿の言葉に彼らは戸惑う。 だがすぐに気を取り直して口を開いた。
「総領事館にお断りなくこのような警護の依頼を、なされている理由を伺いたく参りました」
形式的に武と夕麿への礼はとってはいるが、内心は侮っているのがわかる言い方だった。 公式には出ない、出る事の出来ない日陰の宮。 子を成さない決まりの為に同性と婚姻を結んだ、皇子。 そんな立場の武を軽んじているのがありありと、手に取るようにわかってしまう。
「武さまを亡き者にしようとする企てがあるからです」
「それは本当に存在しているのですか? 殿下の思い込みではございませんか?」
小馬鹿にしたような笑みを浮かべて大野木書記官が言った。
「宮さまとご伴侶夕麿さまは本国にいらっしゃる時より、何度かお生命を狙われていらっしゃいます」
貴之が不快さを隠さずに答えた。
「あの…あなたは?」
「良岑 貴之と申します。 皇国警察省刑事局 長良岑 芳之の嫡男です」
敢えて普段は口にしない父親の身分を言う。
「しかし…だからと言って、ここでもそうだと何故わかるのですか?」
「そちらこそ何を根拠に斯様な事を言いに来られたのかな?」
雫が夕麿の横に立った。
「私は皇宮警察所属、成瀬 雫警視正です。 今上の勅許を拝命して、紫霞宮殿下の警護にあたっています。 既にこのロサンゼルスでも、殿下の暗殺未遂が一度起こっております。 その時の後遺症で殿下は未だに、両脚の麻痺から御回復になられていらっしゃいません。
FBIへの協力要請は警察省・宮内省、それに蓬莱皇国政府の許可とアメリカ政府の許可も出ています。
在ロサンゼルス総領事館と言われましたね? そちらにワシントンの皇国大使館から、連絡は行っていないのですか?」
「え!?」
二人が狼狽する。 どうやら誰かがここでの状態を告げ口し、それを聞いた彼らが上司に確認を取らずに来たようである。
「武さまは斯様な騒動は好まれません。 当初は乳部御園生家の子息として、私共々、学生生活をなされるご予定でした。 しかし執拗にお生命を脅かされては、御身分を露わにするしかございません」
夕麿が静かに語りかけた。その夕麿を武が物言いたげにチラッと見た。 夕麿は武に顔を近付けて言葉を耳打ちさせた。
「殿下は出来れば領事館の協力が欲しいと申されています。
ご生母小夜子さまが後援をなさっている蓬莱人学生が、半月程前から行方知れずなのです」
雫が武の想いを理解して言葉を繋いだ。
「もし御協力いただけるならば後日、御在所であるお屋敷にどなたかを派遣してください」
今まで大使館や領事館はこの騒動を見て見ぬ振りをして来た。 武の立場が表向きにならないのを良い事にして、身の安全にさほどの重きを置いてはいなかったのだ。 だがここで二人の身勝手で権力思考の行動が、領事館にこれまでの態度を取れなくさせたのだ。 領事館はこの事態を知っていると言ったのも同然になった。
「本来ならば殿下の警護やお世話は、我々だけで行う予定でした。 領事館には迷惑を掛けない。 その約束でわざわざ連絡をしなかったのですが?」
周が嫌みを含ませて言う。 この二人は知らなかった様子だが武の生命が狙われて心肺停止になり、蘇生後も一週間近く危篤状態だった事実は領事館でも把握している筈である。 それでも彼らは誰一人、様子を窺いにすら来なかった。
夕麿が向精神薬を密かに投与されて、依存症まで起こしていたのも把握している筈である。
彼らにとって紫霞宮家は存在しないのだ。 何も起こってはいないという態度を貫いて来ていた。 だから雫はFBIを頼ったのである。 ご都合主義の官僚は頼りにならないばかりか、敵がいる可能性の方が高かった。 無視してくれている方がこちらも動きやすい。
これが紫霞宮家の警護をする雫と、一切を取り仕切る役目である周の共通の認識であった。
「用件はそれだけですか?」
「あ…その、お立場をご考慮くださいまして、その…今少し慎んでいただけると…」
「それは誰に向かって申しているのですか。 噂にはなっていても否定も肯定もしない。 その状態を保っていたと言うのに、これで全てが詳らかになってしまいました。 むしろあなた方が騒ぎの元凶になったという自覚もないようですね。
この事は後程、厳重に抗議いたします」
夕麿は本気で腹を立てていた。 誰か…恐らくは武の生命を脅かす者…に踊らされて、後々面倒な事になる事態を呼んでしまった愚か者に。
「用件はそれだけか」
周が詰め寄る。
「あ…いえ…以上でございます」
「ならば速やかに立ち去られよ」
「失礼します!」
二人は這々の体で逃げ去った。
「ふん、僭越者めが見苦しい」
周が苦々しく吐き捨てた。
「所詮は無位無冠の烏合。 欲に目が眩んだ愚か者だ」
義勝は塩でも撒いて清めたい気分だった。
「う…」
不意に武が小さく呻いて、両手で口許を押さえた。 雅久が周囲の学生の側の袋をもらう。 夕麿より早く義勝が武を抱え込んで雅久が口許に袋を当てた。
「もう良いぞ、武」
義勝の言葉に武が袋の中に嘔吐した。今はまだ昼食前で胃は空っぽだ。こみ上げて来るのは胃液ばかり。それが返って苦しい。 夕麿が背を撫でさすり、周がミネラル・ウォーターを差し出した。
「これをお飲みください。少しはお楽になります」
武が頷いて水を飲む。すぐにまた吐く。だが飲んだ水が空っぽの胃を振り絞るような苦痛を和らげで吐き出される。 数度、これを繰り返して漸く、武は嘔吐するのをやめた。
ミネラル・ウォーターで口腔内をすすがせ、苦しさに溢れ出た涙を雅久が優しく拭う。
義勝は武の身体を夕麿に委ねた。
「申し訳ありません。 しばらく…二人にしてください」
夕麿の悲痛な声が響いた。 近くにいた学生たちも了承して、その一角に武を抱き締めた夕麿が取り残された。
少し離れてFBIが周囲に警戒を怠らないようにする。
夕麿は武を掻き抱くようにして肩を震わせて泣いていた。声をあげすに静かに。武のストレスは既にピークに達している。本人の意志とは関わりのない所で事態は悪化して行く。 未だ赤佐 実彦の安否はわからず、皇家の霊感が忍び寄る悪意をキャッチし続けている。 ここ半月程で武の体重はごっそりと落ちた。 抱き締めていないと安心出来ないのか、熟睡する事も叶わない。
武が何をしたと言うのか。
武にどんな罪があると言うのか。
夕麿はやり場のない怒りと悲しみに、武を抱き締めて涙を流す事しか出来ぬ身が、歯痒くてしかたがなかった。
誰を怨めば良い? 憎んだり怨んだりすれば武の心は休まると言うのか。 何故、静かに生きる望みさえ許されない。 野心も権力欲も微塵もないのに。
何故…………?
夕麿の問い掛けにはいつも答えが存在しなかった。
「迎えの車が参りました!」
授業を受けるどころではなくなった。 幸いにも武も夕麿も雫もレポート提出を忘れた事はない。 対話形式で行われる講義の受け答えも他者には決して劣らない。 出席日数が問題になりそうだが、大学側もこちらの窮状を理解してくれていた。 引き換えに後日、大量のレポート提出が課されるが、それで何とかなるならば苦痛ではなかった。
夕麿は武を抱き上げて壊れ物でも、扱うかのように大切に自らが車まで運んだ。 武も救いを求めるようにしっかりと夕麿に縋り付いていた。
雫と高辻が同行し他の者は残ってそのまま授業に出る事になった。 わらわらと説明を求めに来る学生がいるが、義勝たちは首を振って取り合わない。 一般の言葉がわかる学生に話の内容を聞こうとする者までいる。
彼らにしても何事かはわかってはいないだろう。 だが話の内容は聞いていた筈。 味がわからなくても、曖昧でも言葉は紡げる。それが誤解と憶測を呼んで面倒を引き寄せる。 保は効果はないとは思いながらも彼らに口止めをした。
屋敷の玄関に横付けされた車から武は差し出された雫の手に、掴まろうとして何かを感じて動きを止めた。
「武さま?」
何だろうか。 武はキョロキョロと周囲を見回す。気付いた雫がFBI捜査官に目配せをした。
一気に緊張が走る。雫は武を抱き上げて急いで玄関に駆け込んだ 次いで入って来た夕麿に武を任せて、今一度外に出た。
見晴らしを良くする為にFBIが入った時点で、玄関から門までの間の樹木の枝を払ってある。隠れられる視覚は全て監視カメラが設置され、完全に死角がない様になっている。雫が見回すとFBIが全員、首を振った。異常はないと言うのだ。それでも雫は納得出来なかった 武の皇家の霊感に外れはない。
「毎度ありがとうごさいました!」
使用人が使う出入り口の方から、若い男の元気な声が聞こえて来た。 しかも日本語(皇国の公用語は日本語)である。様子を見ていると帽子を目深に被った男が、40歳前後の男と一緒に車に乗って出て行った。
雫は後ろにいた執事を振り返った。
「今のは?」
「日本人街にある日本食スーパーの経営者親子です」
文月の話によると屋敷では圧倒的に和食が多い為、そこから大量に買い入れているのだと言う。 取り寄せも可能で重宝しているのだと。 若い男の身元がわかっているならば、心配はないだろうと雫は溜息を吐いた。
武は一応、危険は感じてはいなかった。屋敷の使用人ではない者がいるのに、過敏に反応したのだろうと全員が納得した。武自身、感じたものの正体を掴んではいない。た敵意ではなかったと答えた。
武は憔悴した顔で横たわっていた。夕麿の服を掴んで放そうとしない。武を支配しているのは恐怖。自分以外の誰かが、特に夕麿が、次に彼らに拉致されるのではないか。それが何よりも怖かった。
夜、眠っている間に連れ去られたら……不安で眠れない。薬を飲むなどもってのほか。キャンパスでは人目がある。FBIもピッタリと張り付いている。それでも不安だった。懸命に押し隠して、何でもない顔をしているのが難しくなって来た。昼にカフェテラスで皆の無事な姿を見て毎日安堵する。
武の一番の弱点。
それは夕麿だ。だから再三、狙われる。
武にはそれが辛い。
愛する人が傷付けられる。
しかも原因は自分にある。
それが耐えられない。
守りたいのに…守り切れていない。最終的に武の生命を奪うのが目的ならば何故、自分を狙わない? ストレートに狙って来るならば、皆から離れれば良い。 そうすれば誰も傷付かない。 もうこれ以上、夕麿に辛い想いはさせたくない。今度こそ彼の生命が危ない。 だから怖い。 夕麿が自分の目の届かない場所にいるのが。 そのまま二度と戻って来なくなりそうで。
怖い……怖い……怖い……怖い……怖い……
「武、少しだけ放していただけませんか? 部屋着に着替える間だけですから」
夕麿は大学にいた時の服装のままだった。ちょうど高辻が点滴の針を武の腕に刺したばかりで武はひとりではない。夕麿は武の怯えを彼自身が生命を、直接狙われる可能性が出て来たからだと思っていた。 武の決心を知っているのは武自身と雫と保だけ。高辻すら知らない。だから夕麿の言葉に高辻は頷いた。武も渋々頷く。
クローゼットへ入った夕麿を守るように雫がそっと移動した。雫には武の怯えの原因がわかっている。屋敷内のセキュリティーと警備は万全の筈だが、武の気が少しでも休まるならば…と思ってしまう。武は雫の行動を見てホッとした顔をした。
夕麿は程なく着替えてクローゼットから出て来た。 ベッドに近寄り武の手を握り締めた。武の微笑みに笑顔で返す。 緊迫した空気の中で 夕麿にもかなりのストレスが溜まっていた。
点滴の中に睡眠誘発をする薬品が入っていたらしい。いつの間にか眠っていた。 意識がふっと浮上した。無意識に手で夕麿を探す。眠る前には横に入って抱き締めてくれていた。その温もりがない。 武は慌てた。夕麿はどこだ?すると声がした。
「武君、目が覚めました?」
雅久が柔らかな笑みを浮かべて、ベッドに腰を下ろした。 細く白い美しい指がそっと手を握り締めた。
「気分は如何がですか? お腹は空いていませんか?」
カジュアルな服装なのはキャンパスから、戻って来て間がないという事だ。
「もう大丈夫…みたい。 お腹は空いてない。
……夕麿は?」
「総領事が今し方見えられて対応に行かれました。周さまの抗議が効いたのでしょう」
「それは…俺は顔を出さなくて良いの?」
「さあ…特にはご指示を受けていませんが…伺ってみますか?」
「うん、そうして」
「わかりました、少しお待ちください」
雅久は携帯を取り出した。 広い屋敷内で手早く連絡を取り合うには、携帯を使用するのが一番である。 時間的ロスを防ぎ迅速な手配りが出来る。
しばらくして雅久が通話を終えた。
「ご気分がよろしければ、是非お出ましくださいと仰られました」
雅久の口調が変化した。
「お支度をお手伝い致します」
「うん」
リクライニングを操作して身を起こし、雅久の手を借りて着替えて車椅子に移る。 雅久には武を抱き上げる力はない。 武は彼の肩を借りてやっとの思いで移動した。
周が飛んで来なかったという事は、雅久が武を居間に連れて行く意味があるらしい。
「あのね、雅久兄さん」
「何でござましょう?」
「髪を解いて」
雅久の髪は現在、腰までの長さになっていた。それを縛っておかずに解いた状態にする。雅久の玲瓏たる美しさが一層際立つのだ。 雅久の美貌は初対面の人間に一種の衝撃を与える。元々の美しさが最近、色香をまとって壮絶さを帯びて来た。肌の透き通るような白さが艶やかになった。まさに傾国の佳人だ。正直言ってもし雅久と夕麿を取り合ったら、絶対に勝ち目はないと思ってしまう。本当に彼がライバルでなくて良かったと、武はしみじみ思っていた。
「解くのですか?」
「うん、お願い」
雅久は理由がわからないままで、髪を縛っていた紙縒を切った。 長い黒髪がサラサラと広がった。弱竹の迦具耶姫。 月に住まう天人と渾名された美しさが匂い立つ。
武の周囲には美形ばかりが集まる。 紫霄の生徒会関係者が全員、美形というわけではない。 確かに身分高きものは古来より、美しい者を求めて婚姻して来た。 時代によって美形のスタイルは移ろうが、それでも基本的な美しさに大した差異はない。 従って身分が高い血筋には共通の面差しがあり、美形が多くなるのはある程度は当たり前な事ではある。 それでも高貴なる血筋の者が全て美形であるとは言えない。 そういった中で武を含めて、美形ばかりが揃ったのは不思議とも言える。
貴族の社会は狭い。互いに様々な形で何がしかの血の繋がりがあるが、武の周囲に集まったのは特殊な集団だろう。
「紫霞宮さまのお出ましてございます」
客用居間のドアを開けて文月が言った。開かれたドアを雅久が車椅子を押して、ゆっくりと室内に入った。 全員が立ち上がって武を出迎える。
武が図った通り、総領事と書記官たちが雅久を見て息を呑んだ。 タイミング良く夕麿が武に近付いて車椅子から抱き上げた。 一人掛けのソファに降ろしたが、肘掛け部分が飾りでしかなく、武の身体を支えられない。 夕麿はそのまま肘掛けに腰掛け、武の肩に腕を回して支えた。
「宮さま、お飲み物は何をお召し上がりになられますか?」
雅久が尋ねると武は少し考え込んだ。不用意なものを飲むとまた吐くかもしれない。 冷たいものも欲しくない。
「焙じ茶…ってある?」
「焙じ茶でございますね。 すぐにお持ちいたします」
雅久は多種多様な茶葉を揃えてはいるが、それがどれくらいなのかは武にはわからない。 だから一応訊いてみたのだ。
「夕麿、状況を説明してくれる?」
総領事たちはここで完全に我に返って、ソファに身体を支えられて座る武を見た。 ストレスで痩せ細り、やつれた顔は蒼白で唇は紫色を帯びていた。 そのままストレートに、武の体調が悪いとわかる有り様だ。
夕麿は総領事が昼間のキャンパスでの職員の非礼を詫びに来た事。 その結果、武が体調を崩したと訊いて、見舞いの品を持って来た事…などを簡単に話した。 見舞いの品は最高級のカリフォルニア・オレンジ。 武の好物を調べたらしい。
「それで?」
「ここ一年以内にカリフォルニアに来て、長期滞在している皇国人のリストを要請しております」
雫が軽く首を振った。
「何分にもプライバシーに関わります事ですので」
「人命が掛かっていると言っているのですが」
貴之も苛立った様子だ。 武は雅久に焙じ茶の入った湯呑みを渡されて、二口三口飲んでから夕麿に言った。
「じゃ良いって言って」
直接会話を交わさない。 特に体調の悪い状態で、声をあげての直接なやり取りは疲れてしまう。
夕麿は頷くと言った。
「宮さまは協力が出来ないならば、それで構わないと仰せでございます」
少し含みを持たせた言い方だった。
「行方不明の学生の捜索をFBIがしてくれてるのに…手懸かりになるかもしれない情報を出さないなんて」
武がうんざりしたように呟く。
「領事、宮さまの御要請はご友人の捜索を行っているFBIに情報提供する為のものです。それをお断りになると言う事は、皇国政府は留学生見捨てるという事になります。 蓬米双方のマスコミが嗅ぎ付けたらどうなるでしょうね?」
「脅迫なさるつもりか!?」
雫の言葉に総領事が顔を朱に染めた。
「いいえ。 ただ大学でちょっとした騒動になりましたから、マスコミが動くかもしれないと言っているんです」
「成瀬警視正、もういいよ」
武が雫を制止した。
「つまりこういう事ですね? 私を殺害しようという目的の中で、拉致されたらしい友人の捜索に領事館は協力しない。 それは皇国政府が私が殺されるのを黙認すると。
そういう事でしょう?」
「いえ…それは…」
「公に出来ない立場の宮など、抹殺してしまいたいと思ってる。 そう判断します。
久我」
「はい、宮さま」
「部屋に戻る。疲れた」
「承知いたしました」
「夕麿、お前も来い」
「はい。
文月、見舞いの品は返しておきなさい。 信用が出来ぬ者からの物など受け取れません」
「御意」
ドアを開けた文月が夕麿に頭を下げた。 周が車椅子を押しす後ろを夕麿が歩いて行く。 それを見届けて雫たちも客用居間を出て行った。
残された総領事館員は突き返されたオレンジを持って、屋敷を辞するしかなかった。部屋に入って夕麿と周はその瞬間に同時に吹き出した。
武は訳がわからず、目を丸くして二人を見上げた。
「クックックック…武さま、お見事でした…」
周が苦しそうに言う。
「何が?」
「武、あなたが言った事…私が最終手段に…言う予定でした…」
「え…そうなの?」
「夕麿、お前が言うより絶対効果あったぞ…」
「見ましたか、周さん…領事のあの顔…」
武はちょっと言い過ぎたかな…と思って夕麿に叱られる覚悟をしていたのだ。 それなのに二人のこの様子は拍子抜けだった。
「よくわからないんだけど…どっちでも良いから、説明してよ」
武は今一つ、駆け引きが苦手だ。何にでもストレートに向き合ってしまう。それは武の美徳だと全員が思っている。
だが時々、本人が意図しない言動が、見事なくらいに駆け引きのツボにはまる。本人が自覚していない分、怒りや嘆きが本物の為に、相手に大きな驚きを与える。 今回、それが彼らを焦らせる原因になる。本来、皇家の海外での活動の様々な手配をするのは、外務省の官僚である彼らだ。
武は日陰の身ではあっても正真正銘の皇家の一員。 普段は外務省とは互いに干渉しない暗黙の約束があり、武たちも全てを御園生が差配してくれる為に不自由はしていない。
ところが今回、一方的に干渉されたのだ。 先に約束を破ったのは領事館側。本来ならば上に申告してそれなりの責任を問うところである。それを夕麿と周はなかった事にする引き換えに、赤佐 実彦の捜索の為に協力を要請したのだ。
首謀者は間違いなく蓬莱皇国人。 だからここ一年間にロサンゼルスへ長期滞在で、入った者のリストを要求した。 首謀者は特に今年になってからの入国が考えられたためにリストが必要なのだ。
首謀者の本当の標的は武。
領事が協力を拒否するという事は、そのまま武の抹殺を公認する行為と判断する。 事なかれ主義の官僚たちにはそれは問題になるのだ。 伴侶である夕麿が言うよりも、武自身が言う方が意味が深い。 しかもただちに退出してしまった。 交渉の窓口とも言える、夕麿と周を伴って。
もう交渉はしない。
現状を余す事なく上に報告すると宣言したのと同じなのだ。 むろん、夕麿も周もすぐにはそんな事はしない。 焦った彼らに日参させれば良い。
「で、何回くらい様子見をするつもりだ?」
「そうですね…三顧の礼の倍くらいは必要かと。こうまで武を蔑ろにした罪、たっぷりと理解していただきます」
武が顔出す前に彼には言えない不快としか、言いようのない発言が領事の口から出たのだ。 武の立場が如何に難しいものであっても皇家に対する非礼は許し難い。 その人となりも知らずに領事は武と夕麿たちを神経症呼ばわりしたのだ。
赤佐 実彦の行方不明は単なる偶発的なものであり、皇国で起こったという夕麿を狙った事件とは別であると。また武が劇薬を飲まされて心肺停止に陥ったのも使用人の不注意による事故。 夕麿に向精神薬を飲まして依存症にさせたのも元乳母の執着心による事件。 どこにも武を暗殺する企てなど一切存在してはいないと断言した。
雫がそれに反論した。それならば何故に皇国政府が要請しFBIが動いているのかと。それに保が兄遥の名を出さずに、企てに協力するように脅迫された事実を告げた。
領事が言葉に詰まったタイミングで、雅久が車椅子を押して武が居間に入ったのだ。彼らは武の資料を見ている筈である。 ストレスで痩せ細り面やつれした現在の武の姿はインパクトがあった。先の事件以来、両脚が麻痺して車椅子生活であるのも、資料としてではなく目の当たりにすれば違う。支えられなければ自分で座り続けるのも不可能なのだ。
一見、おとなしくて従順そうに見える武が、実は中身はしっかりと男だとは思えなかったのだろう。 夕麿と比べてどう見ても武が抱かれる側であり、同性同士の関係を偏見でしか見られない彼らには、武は女の子のようなタイプだと信じていたに違いない。 従って最初は夕麿に説明を求めたりしたのが、不快感を露わにして交渉の役目を担う二人を連れて、退出してしまうとは思っていなかった筈だ。
見た目通りのおとなしくて従順な性格ではないと、武自身がしっかりと示してみせたのだ。 姫君のような守られるだけの存在ではない。 武こそがこのグループの主であると宣言したのだ。
こうなると官僚たちは武を最早、蔑ろにして見て見ぬ振りは貫けない。何とか武の機嫌を取り戻そうと保身に懸命になるのが官僚の習性だ。夕麿たちはそれをしばらくは取り合わないで門前払いして、こちらの有利に事態を転換させようと考えていた。
保にも護衛が付けられ昼食はカフェテラスで武たちと共にお弁当を一緒に食べる。以前の騒動があっただけにキャンパス中の注目が集まった。保が武に対してとるこれ以上ないと、思える程の恭しい丁寧な態度に誰もが驚いた。これが武が皇家の血筋という噂の信憑性を裏付ける形になった。戦後すぐ日本の宮家を名乗る詐欺師がアメリカを横行した事がある。貴族や皇・王族が存在しないアメリカ。200余年の国は歴史の深さに弱く、その体内に流れる高貴な血に憧れる。そこを突いての詐欺だったという。
このような事実がある為に武の身分についても、詐欺詐称説がキャンパス内に飛び交ってはいた。けれどもFBIが本気で護衛しているという事実。武を拉致する凶行に及んだ学生の父親が屋敷で門前払いされた為に、キャンパスに押し掛けて来て武に平謝りした事実などの様々な積み重ねがあった上で、保がグループに加わり武に最上級の敬意を示したことで最早誰も武の身分を疑わない。
10月に入ってまだ日が浅い日の昼時、スーツ姿の東洋人の男が二人、カフェテラスに姿を現した。 男らはカフェテラス内を見回し、奥まった一角にいる武たちに目を止めて、二人でひそひそと話し合った後に歩み寄って来た。
「紫霞宮殿下はいらっしゃいますか」
おもむろに出た言葉に夕麿がとっさに、武を庇うように立ちその夕麿を貴之が庇う。 FBIが身構え雫と周が二人に歩み寄った。
「宮さまにお目もじを願われるならまず身分と所属、氏名を名乗りたまえ。 最低限の礼儀も知らぬのですか」
こういう時、周の声は鋭く響く。 夕麿の声とは違う意味で相手に強い威圧感を与える。まさに千年以上受け継がれて来た血と伝統と貴族としての矜持がもたらす力であった。
「ご、ご無礼を致しました。 在ロサンゼルス蓬莱皇国総領事館の職員でございます。
私は田中 康文と申します」
「私は領事館書記官を務めます、大野木 克男と申します」
「紫霞宮家宮大夫、久我 周である。
領事館員がわざわざ斯様な場所まで、こちらの迷惑を顧みず赴くとは如何なる所存か?」
「あの…出来ましたら殿下に直接、お話を…」
「待たれよ」
総領事館の職員と名乗る彼らは一応、身分証を提示したがどこに敵がいるのかわからない。 FBIを含めた全員が警戒を解かなかった。
周が戻って来て夕麿に声をかけた。
「どうする、夕麿?」
「断る訳にはいかないでしょう。
武、私に任せていただけますか?」
「うん、わからないから、お願いする」
「承知致しました」
周は彼らの元へ戻って武と夕麿の所へ案内した。
「紫霞宮武王殿下と夕麿さまです。
ご用件どうぞ」
雅久が恭しく言葉を紡いだ。二人は雅久の美貌にポカンとしてすぐに我に返った。
「騒ぎが広がる前に用件を述べなさい」
夕麿の言葉に彼らは戸惑う。 だがすぐに気を取り直して口を開いた。
「総領事館にお断りなくこのような警護の依頼を、なされている理由を伺いたく参りました」
形式的に武と夕麿への礼はとってはいるが、内心は侮っているのがわかる言い方だった。 公式には出ない、出る事の出来ない日陰の宮。 子を成さない決まりの為に同性と婚姻を結んだ、皇子。 そんな立場の武を軽んじているのがありありと、手に取るようにわかってしまう。
「武さまを亡き者にしようとする企てがあるからです」
「それは本当に存在しているのですか? 殿下の思い込みではございませんか?」
小馬鹿にしたような笑みを浮かべて大野木書記官が言った。
「宮さまとご伴侶夕麿さまは本国にいらっしゃる時より、何度かお生命を狙われていらっしゃいます」
貴之が不快さを隠さずに答えた。
「あの…あなたは?」
「良岑 貴之と申します。 皇国警察省刑事局 長良岑 芳之の嫡男です」
敢えて普段は口にしない父親の身分を言う。
「しかし…だからと言って、ここでもそうだと何故わかるのですか?」
「そちらこそ何を根拠に斯様な事を言いに来られたのかな?」
雫が夕麿の横に立った。
「私は皇宮警察所属、成瀬 雫警視正です。 今上の勅許を拝命して、紫霞宮殿下の警護にあたっています。 既にこのロサンゼルスでも、殿下の暗殺未遂が一度起こっております。 その時の後遺症で殿下は未だに、両脚の麻痺から御回復になられていらっしゃいません。
FBIへの協力要請は警察省・宮内省、それに蓬莱皇国政府の許可とアメリカ政府の許可も出ています。
在ロサンゼルス総領事館と言われましたね? そちらにワシントンの皇国大使館から、連絡は行っていないのですか?」
「え!?」
二人が狼狽する。 どうやら誰かがここでの状態を告げ口し、それを聞いた彼らが上司に確認を取らずに来たようである。
「武さまは斯様な騒動は好まれません。 当初は乳部御園生家の子息として、私共々、学生生活をなされるご予定でした。 しかし執拗にお生命を脅かされては、御身分を露わにするしかございません」
夕麿が静かに語りかけた。その夕麿を武が物言いたげにチラッと見た。 夕麿は武に顔を近付けて言葉を耳打ちさせた。
「殿下は出来れば領事館の協力が欲しいと申されています。
ご生母小夜子さまが後援をなさっている蓬莱人学生が、半月程前から行方知れずなのです」
雫が武の想いを理解して言葉を繋いだ。
「もし御協力いただけるならば後日、御在所であるお屋敷にどなたかを派遣してください」
今まで大使館や領事館はこの騒動を見て見ぬ振りをして来た。 武の立場が表向きにならないのを良い事にして、身の安全にさほどの重きを置いてはいなかったのだ。 だがここで二人の身勝手で権力思考の行動が、領事館にこれまでの態度を取れなくさせたのだ。 領事館はこの事態を知っていると言ったのも同然になった。
「本来ならば殿下の警護やお世話は、我々だけで行う予定でした。 領事館には迷惑を掛けない。 その約束でわざわざ連絡をしなかったのですが?」
周が嫌みを含ませて言う。 この二人は知らなかった様子だが武の生命が狙われて心肺停止になり、蘇生後も一週間近く危篤状態だった事実は領事館でも把握している筈である。 それでも彼らは誰一人、様子を窺いにすら来なかった。
夕麿が向精神薬を密かに投与されて、依存症まで起こしていたのも把握している筈である。
彼らにとって紫霞宮家は存在しないのだ。 何も起こってはいないという態度を貫いて来ていた。 だから雫はFBIを頼ったのである。 ご都合主義の官僚は頼りにならないばかりか、敵がいる可能性の方が高かった。 無視してくれている方がこちらも動きやすい。
これが紫霞宮家の警護をする雫と、一切を取り仕切る役目である周の共通の認識であった。
「用件はそれだけですか?」
「あ…その、お立場をご考慮くださいまして、その…今少し慎んでいただけると…」
「それは誰に向かって申しているのですか。 噂にはなっていても否定も肯定もしない。 その状態を保っていたと言うのに、これで全てが詳らかになってしまいました。 むしろあなた方が騒ぎの元凶になったという自覚もないようですね。
この事は後程、厳重に抗議いたします」
夕麿は本気で腹を立てていた。 誰か…恐らくは武の生命を脅かす者…に踊らされて、後々面倒な事になる事態を呼んでしまった愚か者に。
「用件はそれだけか」
周が詰め寄る。
「あ…いえ…以上でございます」
「ならば速やかに立ち去られよ」
「失礼します!」
二人は這々の体で逃げ去った。
「ふん、僭越者めが見苦しい」
周が苦々しく吐き捨てた。
「所詮は無位無冠の烏合。 欲に目が眩んだ愚か者だ」
義勝は塩でも撒いて清めたい気分だった。
「う…」
不意に武が小さく呻いて、両手で口許を押さえた。 雅久が周囲の学生の側の袋をもらう。 夕麿より早く義勝が武を抱え込んで雅久が口許に袋を当てた。
「もう良いぞ、武」
義勝の言葉に武が袋の中に嘔吐した。今はまだ昼食前で胃は空っぽだ。こみ上げて来るのは胃液ばかり。それが返って苦しい。 夕麿が背を撫でさすり、周がミネラル・ウォーターを差し出した。
「これをお飲みください。少しはお楽になります」
武が頷いて水を飲む。すぐにまた吐く。だが飲んだ水が空っぽの胃を振り絞るような苦痛を和らげで吐き出される。 数度、これを繰り返して漸く、武は嘔吐するのをやめた。
ミネラル・ウォーターで口腔内をすすがせ、苦しさに溢れ出た涙を雅久が優しく拭う。
義勝は武の身体を夕麿に委ねた。
「申し訳ありません。 しばらく…二人にしてください」
夕麿の悲痛な声が響いた。 近くにいた学生たちも了承して、その一角に武を抱き締めた夕麿が取り残された。
少し離れてFBIが周囲に警戒を怠らないようにする。
夕麿は武を掻き抱くようにして肩を震わせて泣いていた。声をあげすに静かに。武のストレスは既にピークに達している。本人の意志とは関わりのない所で事態は悪化して行く。 未だ赤佐 実彦の安否はわからず、皇家の霊感が忍び寄る悪意をキャッチし続けている。 ここ半月程で武の体重はごっそりと落ちた。 抱き締めていないと安心出来ないのか、熟睡する事も叶わない。
武が何をしたと言うのか。
武にどんな罪があると言うのか。
夕麿はやり場のない怒りと悲しみに、武を抱き締めて涙を流す事しか出来ぬ身が、歯痒くてしかたがなかった。
誰を怨めば良い? 憎んだり怨んだりすれば武の心は休まると言うのか。 何故、静かに生きる望みさえ許されない。 野心も権力欲も微塵もないのに。
何故…………?
夕麿の問い掛けにはいつも答えが存在しなかった。
「迎えの車が参りました!」
授業を受けるどころではなくなった。 幸いにも武も夕麿も雫もレポート提出を忘れた事はない。 対話形式で行われる講義の受け答えも他者には決して劣らない。 出席日数が問題になりそうだが、大学側もこちらの窮状を理解してくれていた。 引き換えに後日、大量のレポート提出が課されるが、それで何とかなるならば苦痛ではなかった。
夕麿は武を抱き上げて壊れ物でも、扱うかのように大切に自らが車まで運んだ。 武も救いを求めるようにしっかりと夕麿に縋り付いていた。
雫と高辻が同行し他の者は残ってそのまま授業に出る事になった。 わらわらと説明を求めに来る学生がいるが、義勝たちは首を振って取り合わない。 一般の言葉がわかる学生に話の内容を聞こうとする者までいる。
彼らにしても何事かはわかってはいないだろう。 だが話の内容は聞いていた筈。 味がわからなくても、曖昧でも言葉は紡げる。それが誤解と憶測を呼んで面倒を引き寄せる。 保は効果はないとは思いながらも彼らに口止めをした。
屋敷の玄関に横付けされた車から武は差し出された雫の手に、掴まろうとして何かを感じて動きを止めた。
「武さま?」
何だろうか。 武はキョロキョロと周囲を見回す。気付いた雫がFBI捜査官に目配せをした。
一気に緊張が走る。雫は武を抱き上げて急いで玄関に駆け込んだ 次いで入って来た夕麿に武を任せて、今一度外に出た。
見晴らしを良くする為にFBIが入った時点で、玄関から門までの間の樹木の枝を払ってある。隠れられる視覚は全て監視カメラが設置され、完全に死角がない様になっている。雫が見回すとFBIが全員、首を振った。異常はないと言うのだ。それでも雫は納得出来なかった 武の皇家の霊感に外れはない。
「毎度ありがとうごさいました!」
使用人が使う出入り口の方から、若い男の元気な声が聞こえて来た。 しかも日本語(皇国の公用語は日本語)である。様子を見ていると帽子を目深に被った男が、40歳前後の男と一緒に車に乗って出て行った。
雫は後ろにいた執事を振り返った。
「今のは?」
「日本人街にある日本食スーパーの経営者親子です」
文月の話によると屋敷では圧倒的に和食が多い為、そこから大量に買い入れているのだと言う。 取り寄せも可能で重宝しているのだと。 若い男の身元がわかっているならば、心配はないだろうと雫は溜息を吐いた。
武は一応、危険は感じてはいなかった。屋敷の使用人ではない者がいるのに、過敏に反応したのだろうと全員が納得した。武自身、感じたものの正体を掴んではいない。た敵意ではなかったと答えた。
武は憔悴した顔で横たわっていた。夕麿の服を掴んで放そうとしない。武を支配しているのは恐怖。自分以外の誰かが、特に夕麿が、次に彼らに拉致されるのではないか。それが何よりも怖かった。
夜、眠っている間に連れ去られたら……不安で眠れない。薬を飲むなどもってのほか。キャンパスでは人目がある。FBIもピッタリと張り付いている。それでも不安だった。懸命に押し隠して、何でもない顔をしているのが難しくなって来た。昼にカフェテラスで皆の無事な姿を見て毎日安堵する。
武の一番の弱点。
それは夕麿だ。だから再三、狙われる。
武にはそれが辛い。
愛する人が傷付けられる。
しかも原因は自分にある。
それが耐えられない。
守りたいのに…守り切れていない。最終的に武の生命を奪うのが目的ならば何故、自分を狙わない? ストレートに狙って来るならば、皆から離れれば良い。 そうすれば誰も傷付かない。 もうこれ以上、夕麿に辛い想いはさせたくない。今度こそ彼の生命が危ない。 だから怖い。 夕麿が自分の目の届かない場所にいるのが。 そのまま二度と戻って来なくなりそうで。
怖い……怖い……怖い……怖い……怖い……
「武、少しだけ放していただけませんか? 部屋着に着替える間だけですから」
夕麿は大学にいた時の服装のままだった。ちょうど高辻が点滴の針を武の腕に刺したばかりで武はひとりではない。夕麿は武の怯えを彼自身が生命を、直接狙われる可能性が出て来たからだと思っていた。 武の決心を知っているのは武自身と雫と保だけ。高辻すら知らない。だから夕麿の言葉に高辻は頷いた。武も渋々頷く。
クローゼットへ入った夕麿を守るように雫がそっと移動した。雫には武の怯えの原因がわかっている。屋敷内のセキュリティーと警備は万全の筈だが、武の気が少しでも休まるならば…と思ってしまう。武は雫の行動を見てホッとした顔をした。
夕麿は程なく着替えてクローゼットから出て来た。 ベッドに近寄り武の手を握り締めた。武の微笑みに笑顔で返す。 緊迫した空気の中で 夕麿にもかなりのストレスが溜まっていた。
点滴の中に睡眠誘発をする薬品が入っていたらしい。いつの間にか眠っていた。 意識がふっと浮上した。無意識に手で夕麿を探す。眠る前には横に入って抱き締めてくれていた。その温もりがない。 武は慌てた。夕麿はどこだ?すると声がした。
「武君、目が覚めました?」
雅久が柔らかな笑みを浮かべて、ベッドに腰を下ろした。 細く白い美しい指がそっと手を握り締めた。
「気分は如何がですか? お腹は空いていませんか?」
カジュアルな服装なのはキャンパスから、戻って来て間がないという事だ。
「もう大丈夫…みたい。 お腹は空いてない。
……夕麿は?」
「総領事が今し方見えられて対応に行かれました。周さまの抗議が効いたのでしょう」
「それは…俺は顔を出さなくて良いの?」
「さあ…特にはご指示を受けていませんが…伺ってみますか?」
「うん、そうして」
「わかりました、少しお待ちください」
雅久は携帯を取り出した。 広い屋敷内で手早く連絡を取り合うには、携帯を使用するのが一番である。 時間的ロスを防ぎ迅速な手配りが出来る。
しばらくして雅久が通話を終えた。
「ご気分がよろしければ、是非お出ましくださいと仰られました」
雅久の口調が変化した。
「お支度をお手伝い致します」
「うん」
リクライニングを操作して身を起こし、雅久の手を借りて着替えて車椅子に移る。 雅久には武を抱き上げる力はない。 武は彼の肩を借りてやっとの思いで移動した。
周が飛んで来なかったという事は、雅久が武を居間に連れて行く意味があるらしい。
「あのね、雅久兄さん」
「何でござましょう?」
「髪を解いて」
雅久の髪は現在、腰までの長さになっていた。それを縛っておかずに解いた状態にする。雅久の玲瓏たる美しさが一層際立つのだ。 雅久の美貌は初対面の人間に一種の衝撃を与える。元々の美しさが最近、色香をまとって壮絶さを帯びて来た。肌の透き通るような白さが艶やかになった。まさに傾国の佳人だ。正直言ってもし雅久と夕麿を取り合ったら、絶対に勝ち目はないと思ってしまう。本当に彼がライバルでなくて良かったと、武はしみじみ思っていた。
「解くのですか?」
「うん、お願い」
雅久は理由がわからないままで、髪を縛っていた紙縒を切った。 長い黒髪がサラサラと広がった。弱竹の迦具耶姫。 月に住まう天人と渾名された美しさが匂い立つ。
武の周囲には美形ばかりが集まる。 紫霄の生徒会関係者が全員、美形というわけではない。 確かに身分高きものは古来より、美しい者を求めて婚姻して来た。 時代によって美形のスタイルは移ろうが、それでも基本的な美しさに大した差異はない。 従って身分が高い血筋には共通の面差しがあり、美形が多くなるのはある程度は当たり前な事ではある。 それでも高貴なる血筋の者が全て美形であるとは言えない。 そういった中で武を含めて、美形ばかりが揃ったのは不思議とも言える。
貴族の社会は狭い。互いに様々な形で何がしかの血の繋がりがあるが、武の周囲に集まったのは特殊な集団だろう。
「紫霞宮さまのお出ましてございます」
客用居間のドアを開けて文月が言った。開かれたドアを雅久が車椅子を押して、ゆっくりと室内に入った。 全員が立ち上がって武を出迎える。
武が図った通り、総領事と書記官たちが雅久を見て息を呑んだ。 タイミング良く夕麿が武に近付いて車椅子から抱き上げた。 一人掛けのソファに降ろしたが、肘掛け部分が飾りでしかなく、武の身体を支えられない。 夕麿はそのまま肘掛けに腰掛け、武の肩に腕を回して支えた。
「宮さま、お飲み物は何をお召し上がりになられますか?」
雅久が尋ねると武は少し考え込んだ。不用意なものを飲むとまた吐くかもしれない。 冷たいものも欲しくない。
「焙じ茶…ってある?」
「焙じ茶でございますね。 すぐにお持ちいたします」
雅久は多種多様な茶葉を揃えてはいるが、それがどれくらいなのかは武にはわからない。 だから一応訊いてみたのだ。
「夕麿、状況を説明してくれる?」
総領事たちはここで完全に我に返って、ソファに身体を支えられて座る武を見た。 ストレスで痩せ細り、やつれた顔は蒼白で唇は紫色を帯びていた。 そのままストレートに、武の体調が悪いとわかる有り様だ。
夕麿は総領事が昼間のキャンパスでの職員の非礼を詫びに来た事。 その結果、武が体調を崩したと訊いて、見舞いの品を持って来た事…などを簡単に話した。 見舞いの品は最高級のカリフォルニア・オレンジ。 武の好物を調べたらしい。
「それで?」
「ここ一年以内にカリフォルニアに来て、長期滞在している皇国人のリストを要請しております」
雫が軽く首を振った。
「何分にもプライバシーに関わります事ですので」
「人命が掛かっていると言っているのですが」
貴之も苛立った様子だ。 武は雅久に焙じ茶の入った湯呑みを渡されて、二口三口飲んでから夕麿に言った。
「じゃ良いって言って」
直接会話を交わさない。 特に体調の悪い状態で、声をあげての直接なやり取りは疲れてしまう。
夕麿は頷くと言った。
「宮さまは協力が出来ないならば、それで構わないと仰せでございます」
少し含みを持たせた言い方だった。
「行方不明の学生の捜索をFBIがしてくれてるのに…手懸かりになるかもしれない情報を出さないなんて」
武がうんざりしたように呟く。
「領事、宮さまの御要請はご友人の捜索を行っているFBIに情報提供する為のものです。それをお断りになると言う事は、皇国政府は留学生見捨てるという事になります。 蓬米双方のマスコミが嗅ぎ付けたらどうなるでしょうね?」
「脅迫なさるつもりか!?」
雫の言葉に総領事が顔を朱に染めた。
「いいえ。 ただ大学でちょっとした騒動になりましたから、マスコミが動くかもしれないと言っているんです」
「成瀬警視正、もういいよ」
武が雫を制止した。
「つまりこういう事ですね? 私を殺害しようという目的の中で、拉致されたらしい友人の捜索に領事館は協力しない。 それは皇国政府が私が殺されるのを黙認すると。
そういう事でしょう?」
「いえ…それは…」
「公に出来ない立場の宮など、抹殺してしまいたいと思ってる。 そう判断します。
久我」
「はい、宮さま」
「部屋に戻る。疲れた」
「承知いたしました」
「夕麿、お前も来い」
「はい。
文月、見舞いの品は返しておきなさい。 信用が出来ぬ者からの物など受け取れません」
「御意」
ドアを開けた文月が夕麿に頭を下げた。 周が車椅子を押しす後ろを夕麿が歩いて行く。 それを見届けて雫たちも客用居間を出て行った。
残された総領事館員は突き返されたオレンジを持って、屋敷を辞するしかなかった。部屋に入って夕麿と周はその瞬間に同時に吹き出した。
武は訳がわからず、目を丸くして二人を見上げた。
「クックックック…武さま、お見事でした…」
周が苦しそうに言う。
「何が?」
「武、あなたが言った事…私が最終手段に…言う予定でした…」
「え…そうなの?」
「夕麿、お前が言うより絶対効果あったぞ…」
「見ましたか、周さん…領事のあの顔…」
武はちょっと言い過ぎたかな…と思って夕麿に叱られる覚悟をしていたのだ。 それなのに二人のこの様子は拍子抜けだった。
「よくわからないんだけど…どっちでも良いから、説明してよ」
武は今一つ、駆け引きが苦手だ。何にでもストレートに向き合ってしまう。それは武の美徳だと全員が思っている。
だが時々、本人が意図しない言動が、見事なくらいに駆け引きのツボにはまる。本人が自覚していない分、怒りや嘆きが本物の為に、相手に大きな驚きを与える。 今回、それが彼らを焦らせる原因になる。本来、皇家の海外での活動の様々な手配をするのは、外務省の官僚である彼らだ。
武は日陰の身ではあっても正真正銘の皇家の一員。 普段は外務省とは互いに干渉しない暗黙の約束があり、武たちも全てを御園生が差配してくれる為に不自由はしていない。
ところが今回、一方的に干渉されたのだ。 先に約束を破ったのは領事館側。本来ならば上に申告してそれなりの責任を問うところである。それを夕麿と周はなかった事にする引き換えに、赤佐 実彦の捜索の為に協力を要請したのだ。
首謀者は間違いなく蓬莱皇国人。 だからここ一年間にロサンゼルスへ長期滞在で、入った者のリストを要求した。 首謀者は特に今年になってからの入国が考えられたためにリストが必要なのだ。
首謀者の本当の標的は武。
領事が協力を拒否するという事は、そのまま武の抹殺を公認する行為と判断する。 事なかれ主義の官僚たちにはそれは問題になるのだ。 伴侶である夕麿が言うよりも、武自身が言う方が意味が深い。 しかもただちに退出してしまった。 交渉の窓口とも言える、夕麿と周を伴って。
もう交渉はしない。
現状を余す事なく上に報告すると宣言したのと同じなのだ。 むろん、夕麿も周もすぐにはそんな事はしない。 焦った彼らに日参させれば良い。
「で、何回くらい様子見をするつもりだ?」
「そうですね…三顧の礼の倍くらいは必要かと。こうまで武を蔑ろにした罪、たっぷりと理解していただきます」
武が顔出す前に彼には言えない不快としか、言いようのない発言が領事の口から出たのだ。 武の立場が如何に難しいものであっても皇家に対する非礼は許し難い。 その人となりも知らずに領事は武と夕麿たちを神経症呼ばわりしたのだ。
赤佐 実彦の行方不明は単なる偶発的なものであり、皇国で起こったという夕麿を狙った事件とは別であると。また武が劇薬を飲まされて心肺停止に陥ったのも使用人の不注意による事故。 夕麿に向精神薬を飲まして依存症にさせたのも元乳母の執着心による事件。 どこにも武を暗殺する企てなど一切存在してはいないと断言した。
雫がそれに反論した。それならば何故に皇国政府が要請しFBIが動いているのかと。それに保が兄遥の名を出さずに、企てに協力するように脅迫された事実を告げた。
領事が言葉に詰まったタイミングで、雅久が車椅子を押して武が居間に入ったのだ。彼らは武の資料を見ている筈である。 ストレスで痩せ細り面やつれした現在の武の姿はインパクトがあった。先の事件以来、両脚が麻痺して車椅子生活であるのも、資料としてではなく目の当たりにすれば違う。支えられなければ自分で座り続けるのも不可能なのだ。
一見、おとなしくて従順そうに見える武が、実は中身はしっかりと男だとは思えなかったのだろう。 夕麿と比べてどう見ても武が抱かれる側であり、同性同士の関係を偏見でしか見られない彼らには、武は女の子のようなタイプだと信じていたに違いない。 従って最初は夕麿に説明を求めたりしたのが、不快感を露わにして交渉の役目を担う二人を連れて、退出してしまうとは思っていなかった筈だ。
見た目通りのおとなしくて従順な性格ではないと、武自身がしっかりと示してみせたのだ。 姫君のような守られるだけの存在ではない。 武こそがこのグループの主であると宣言したのだ。
こうなると官僚たちは武を最早、蔑ろにして見て見ぬ振りは貫けない。何とか武の機嫌を取り戻そうと保身に懸命になるのが官僚の習性だ。夕麿たちはそれをしばらくは取り合わないで門前払いして、こちらの有利に事態を転換させようと考えていた。
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