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巨大サンデーをやっとの思いで食べた武を連れて彼らが向かったのは、そこからさほど離れていない楽器を取り扱う店だった。店のオーナーが世界中を回って集めたという楽器が、店中に並べられていた。
武が見た事も聞いた事もない楽器が並んでいる。物珍しく眺めている中、夕麿と周が何やら相談していた。
「どうしたの?」
「大学の要請で『伝統音楽』という、特別講座を一度限りで行う事になりました」
周が楽器を手にしながら言った。
「ですが楽器が足らないので、ここで探そうとしているわけです」
夕麿が言葉を繋いだ。
「夕麿、これはどうだ?」
周が夕麿に差し出したのは鼓。受け取った夕麿は何かを確かめるように眺めた。
「見た目は悪くありませんね。あとは打ってみないと判断が出来ません」
「え!?」
夕麿の言葉に武が驚きの声をあげた。
「ご存知なかった…のですか?夕麿は和楽器は鼓をやるのです」
「初耳…見た事ないし」
「学院ではさほど需要がありませんでしたし、私が打たなくても他に出来る者がいましたから」
「そりゃまた謙遜が過ぎるだろう? 武、夕麿は鼓もかなりのもんだ。 本人がピアノの方が好きだというだけで」
「そう…なの? じゃあ…義勝兄さんは?」
「義勝は箏を弾きます」
「箏って…琴の事だよね?」
「厳格には違いますが…弦楽器という意味では同じですね」
武の質問に夕麿と義勝が答えている間に、周がオーナーを連れて戻って来た。
「夕麿、打って確かめて良いそうだ」
「ありがとうございます。 では」
夕麿は鼓を肩に乗せると、いつもはピアノの鍵盤の上で動く美しい手で鼓を打った。 音の調節をしながらしばらく打ち、満足したような顔で手を止めた。
「悪くはありませんね」
「こっちではこれが限界だろう」
「贅沢を言うつもりはありません。 そこそこの品だと思いますし、手入れもきちんとされています。 これにしましょう」
「一つは解決だな」
「周さんはどうするんです?」
「僕は琵琶を…と思っているが…難しいな」
見回す楽器の中に周のおめがねに適うものがないらしい。
「琵琶? 俺が持って来たの使えば?」
「とんでもない! 前東宮さまのお形見を、お借りする訳にはまいりません」
「でも…いつだったか、雅久兄さんに弾いてもらって以来、誰も音を出してないんだ。 点検と調律を兼ねて使ってよ?」
楽器は音を奏でこそ意味がある。 雅久はいつだったか武にそう言っていた。 だが父の形見は今の武には荷が重過ぎる。 御守りみたいに持っては来たが、ウォークインクローゼットの中にしまい込んだままになっていた。
「お願いするよ?」
「そう…仰いますならば…有り難くお借り致します」
周は武の善意に深々と頭を垂れた。
「夕麿! ちょっと来てくれ!」
義勝の声に夕麿が動いた。
「どうしました、義勝?」
「これを見てくれ。 こういう物の目利きは、お前の方が出来るだろう?」
義勝が指し示したのは、明らかに長い歳月を経て存在しているとわかる竜笛であった。
「これは…雅久、あなたはどう見たのです?」
「色合いや巻かれた麻糸の状態から、製作されて千年前後は経ているかと」
「そうなりますと、六条家の名笛『忍冬』よりも古うございますね?」
保が話に加わった。
「ええ、あれは室町に製作されたものである事が記録にあります」
「夕麿さま、いずれの家宝だったものでございましょう?」
雅久が声をひそめた。
「考えられるのは二つ。 中御門家の『東風』と…」
「護院家の『雲居』ですね…どちらも戦後の混乱期に我が国から姿を消した」
もしこれがそのどちらかであるなら、貴重な皇国の財産を取り戻せる事になる。
「周さん、この竜笛は箱に入っていなかったか、訊いてください!」
そう叫んだ夕麿の声は震えていた。 それを受けて周がオーナーと話をする。 オーナーはすぐに奥へ行って戻って来た。
「保さん、雅久…これは、護院家の『雲居』です!」
大変な事になった。 周が慌てて然るべき機関へ電話をした。 その間に一番の年長者である雫が、オーナーと値段交渉に入った。 彼の話によると欧州の骨董市で普通に売られていたと言う。
周が雫に耳打ちした。
「何としてでも手に入れて欲しいと言ってる」
雫は頷くと雅久に言った。
「一応、音を確かめてみてください、雅久君」
雅久は無言で頷いて『雲居』と思われる竜笛を手に取った。 唇に当てて息を吹き込む。 竜の鳴き声と呼ばれる音が店の中に響いた。
これに驚いたのはオーナーだ。 訊いてみるとこの竜笛は、今まで誰も音を出せなかったと言う。
「では、間違いないと私は思います」
保が確信を込めて言葉を続けた。
「『雲居』には伝説がございます。 吹くに相応しくない者には、決して応えないと聞いております」
「雅久は天上の楽師と呼ばれる者。『雲居』が認めない筈がありませんね」
「恐れ入り仕ります」
「護院家でも吹ける者がいなかったんだろう。 だから密かにお金に替えたんだろうさ」
義勝が呆れ顔で言った。
「夕麿さま、値段の折り合いがつきません」
雫が困った顔をしていた。 どうやら夕麿たちの様子から、価値が高いものだと判断して欲をかいたらしい。
「夕麿」
「何ですか?」
それまで黙っていた武が口を開いた。
「それを俺たちが買ったとして、その後はどうなるの?」
「一応、元の持ち主である護院家と交渉になります。 ただ私たちがここで購入するという事は、この竜笛は紫霞宮家の財産になります。 つまり、護院家は献上という名目で引き取りを拒否出来るのです」
「こっちが金を出しても献上になるわけ?」
「本来は値を付けられない物ですから」
「じゃあ、うちの物にして良いんだ?」
「護院家次第ですが」
「そこって資産は?」
「ある方だと言えます」
「雅久兄さん、それ欲しいよね?」
「それは…」
雅久の立場では頷く事は出来ない。 だが名品は一度手を放すと二度とは戻って来ない。
「わかった。 成瀬さん、良いよ、言い値で買って」
悪戯っぽい笑顔で告げると、雫は深々と頭を垂れて答えた。
「御意」
オーナーの言い値は65万$(1$=80円換算で5200万円)。 恐らくは欧州の骨董市で、安値で買い叩いた筈のものだ。
「これでお願いする」
周は武のクレジットカードを預かっている。 本来、ブラックカードやプラチナカードと呼ばれる、購入金額に制限のないカードは一定の年齢以上か、それ相応の身分や地位がないと持つ事は出来ない。 武と夕麿は10代ではあるが、皇家に名を連ねる者として所持を許可されていた。 もちろんそこには、御園生財閥の膨大な資産のバックアップが存在しているという事情もあった。
差し出されたカードの控えに武がサインをして、『雲居』は無事に紫霞宮家の所有になった。 さすがにオーナーは気が退けたのか、鼓を黙って差し出した。
とんでもない宝物を得て、武たちは無事にビバリーヒルズの屋敷へと帰宅した。
早々に講座の打ち合わせが始まる。
「で曲は何するんだ?」
「いっそのこと蓬莱皇国の国歌をやりませんか?」
保が提案した。
「国歌? ああ、外では通常はオーケストラだな。 雅楽で本来の姿を見せてやるのも面白いかもしないな。 導入部に夕麿の鼓を入れれば、ウケるだろう」
鼓は和楽器と言っても様々な種類があり、通常知られているものは雅楽演奏では用いられる事はない。 それを敢えて使おうというのであるから、単独で演奏して見せるか今、周が言ったような使い方しか出来ないのである。
「私はそれで構いませんが、皆さんは如何です?」
「夕麿さまがそれで御承知なされますならば」
「じゃあ、決まりだな。
で舞楽だが、『蘭陵王』と『納曾利』の対で良いな?」
「はい、装束は夕麿さま、周さま、お二方のものも整いました」
雅久の言葉に武が驚きの声をあげた。
「夕麿と周さんも舞うの?」
「武君、舞楽は本来、二曲を一つとして行うものです。 その中でも有名なのが、走舞と呼ばれる一人舞いの『蘭陵王』と二人舞いの『納曾利』です。」
「そうなんだ。 で、誰が何をするの?」
「雅久が『蘭陵王』を。 夕麿と周さんが『納曾利を』」
「武の前で舞うのは少々怖いのですが」
「何それ?」
武の真っ直ぐな眼差しに誤魔化しは効かない。
「周さんとするんだ?」
「身長が近い事と高等部で一度やりましたから」
「学祭はピアノじゃなかったの?」
「ピアノはオマケだったのさ、武」
「オマケ? 訳わかんない。 その映像は残ってないの?」
武の言葉に周が困った顔をした。
「余りお見せ出来るものではございません。 当時は僕と夕麿とは、多少の身長差がありましたし…」
「終わってから大喧嘩になりましたから」
「喧嘩…したの?」
「当時、指導してくれた雅久が嘆いた程の出来でしたので」
天邪鬼な周と彼を毛嫌いしていた夕麿。 生徒会絡みの出し物とは言え、惨たんたる有り様だった。 白鳳会々長でありながら内部進学を選んだ周は、3年の2学期はほとんど遊んでいた。 大学部の教養カリキュラムを半ば、終わらせてしまったのも原因だった。 それで異例の学祭参加になったのだ。
「じゃあ今度は頑張ってよね? 雅久兄さん、ビシバシしごいてやって」
「御意」
雅久が真剣な眼差しで答えた。
当日まで一週間余り。 屋敷は妙なる調べに連日包まれた。
文月は全員の直衣と冠を手入れするのに大変だった。 直衣は身分によって色が決められている。 現在は官位の叙任が行われない。 従って戦前の官位をそれぞれが引き継ぐながルールになっていた。 しかし武と夕麿以外はあくまでも未だに子息であって、当主ではない為に無位無冠な状態である。 かろうじて宮中に殿上が許されている周と雫がそれ相応の扱いであるのみ。 たとえ異国にいようとも、ルールは守られなければならない。
文月は演奏には加わらない武には、杜若(鮮やかな紫色)の衣装を用意した。
妃格の夕麿には瑠璃色を。
本来、紫色は帝。
青は東宮。
赤は大臣や親王の色とされていた。
そこで濃い紫色を避けて武の身分を表す為に、明るい鮮やかな色合いの紫色が選ばれた。 これを薄い紗の下に着る。 夕麿も同じである。
周には周防(紫がかった赤)を用意した。 高辻と保には濃い周防を用意した。 二人の血筋を考えての色合いである。
「直衣とか…初めて着るんだけど…」
戸惑う武に立ち振る舞いを教えるのは、夕麿と周が手が離せない為に保の仕事になった。 今回は長袴や束帯はなしの略式だが武には初体験である。 練習用の直衣を着た武を見て義勝が一言言った。
「馬子にも衣装だな」
それを聞いた武は義勝に膨れ面をした。
準備だけでも屋敷はひと騒動だった。
ところがその日が近付くにつれて、夕麿と周、双方が異様に憔悴し始めた。
そして、前夜……
「ン…あ…雫…」
渡米して来て4ヶ月余り。雫の愛撫に高辻がすっかり馴染み、白い肌が仄かに染まるのを愛でるのが楽しかった。
要人警護というのは気を緩める事が一切許されない。まして武はずっと暗殺の危惧が消えない。雫はここに来て、かなり体重を落としていた。当事者の武がストレスで骨と皮ばかりになったのだ。夕麿も衣類を新しくする程痩せた。周を始めとした他の者も。繰り返される心理攻撃に雫は次第に睡眠障害に陥って行った。薬剤を使用すれば朝の目覚めは悪くなるし、その後も影響が残る。一瞬の遅れが取り返しのつかない事態を呼ぶ。ただ命じられた任務を遂行するだけなら、こんなにも憔悴したりしなかった。
武は血の繋がった身内であり主と定めた少年。そして愛する人の従弟の伴侶。雫にしたらどのような犠牲を払っても守りたい存在だった。
思い詰めて過労と心労に喘ぐ雫を、高辻は自分の身体を使って慰撫し眠らせていた。 毎夜、雫は高辻が気を失うまで求めた。 朝、全身が軋む程の抱擁に高辻は内心悲鳴をあげながらも耐えた。 何事もないような顔で。
周を時折引っ張り込んだのは、彼を慰撫してやる為と…自分が雫に応え切れない時があったからだ。
愛しい人を休め癒やす。 それが高辻の歓びでもあった。
不意にドアがノックされた。
「あの叩き方は周ですね…」
高辻の言葉に雫が起き上がってベッドから出た。 ドアを開けると蒼褪めた顔で、周が肩を落として立っていた。
「ごめんなさい…こんな時間に…」
今にも泣き出しそうな声だった。 雫は周の手を掴んで部屋へ引き入れた。 今夜、彼が来るだろう予測は二人ともつけていた。
「清方さん…怖い。 また夕麿の足を引っ張ったらどうしよう? 恥をかかせたら…今度は武さまにまで及ぶ…二人に嫌われたら…」
高等部時代の失敗が、周に重くのし掛かっていた。 周だけが悪かった訳ではない。 夕麿にも非はあった。 それでも惚れた弱みで、周は自分の失敗だと思っていたのだ。 あの後しばらく夕麿が部屋に引き籠もってしまったのも、周の心に大きな打撃を与えていた。
しかも今度は…失敗は夕麿の恥というよりも、紫霞宮家そのものにキズを付ける事になり兼ねない。 紫霄のOBも雅楽演奏に参加する。 それはつまり、舞楽を彼らが鑑賞する事になる。 異国人の目にはわからなくても、彼らの目にはわかってしまう。
かかるプレッシャーは半端ではない。
そして…… 夕麿も似たような状態に陥っていた。
「武…抱いてください…明日が恐ろしくて…耐えられません」
こんな夕麿を見た事がなかった。 どんな時も努力と精神力でプレッシャーを跳ね返して来た、夕麿が食事もままならない程になっている。
「高等部の時って…どんなのだったの?」
「私が…私が周さんに合わせ切れなかったのです。 それなのに周さんに責任を押し付けて…私は酷い言葉を投げ付けました。 全部…全部、私の未熟さの所為だとわかっていたのに……
周さんはきっと今でも自分を責めています。 失敗したら彼はもっと自分を責めてしまうでしょう。
それに…失敗したら今度は、あなたに恥をかかせる事になります」
前回は余程の失敗だったんだと感じてしまう。夕麿がここまで落ち込むのだ。手痛い失敗だったのだろう。しかし雅久は出来上がりは上々だと断言していた。問題は二人が過去の失敗を恐れて臆病になっている事ではないのか。
「夕麿、雅久兄さんは大丈夫だって言ってただろう? もう何年も経過してるし、その頃は周さんとは仲良くなかったんだろう? 今はそんな事ないじゃないか。 周さんは本当に夕麿を大事に想ってる。 だから舞の間だけはその想いに応えてやれよ」
組み敷いた夕麿と視線を合わせて言った。
「応えて良いのですか?」
「舞の間だけな。 だってあれ、雌雄の龍だって聞いたよ?」
「そうです」
「だから舞の間だけ、周さんの真心に真心で応えれば良い。 見返りを求めないで、俺たちに尽くしてくれてるんだ。 舞で報いてやれよ。 俺が許可する」
「舞で報いる…」
「明日、周さんが困るくらい色っぽくしてやるから」
「あッ…武…」
いつもは夕麿に抱き締めてもらって安心させてもらう。 だから今夜は夕麿が我を忘れて乱れるままに、たくさん抱き締めてあげようと武は思ったのだった。
「ひィッ!イヤ…左…噛まないで…ダメ…」
噛むなと言われたら強く吸ってみる。
「ああッ…許して…吸わないで…」
感じ過ぎて腰を揺らしてしまう。 左側の乳首をいつもより執拗に攻められる。 快感が甘い痺れとなって、全身に広がっていく。 思うようにもう力が入らない。 舐められて吸われて、痛みを感じるくらいに歯を立てられる。
「も…もう…許して…そこ…痛い…」
「落ち着いて、周。 あの頃とは夕麿さまのお気持ちも違うでしょう? あなたの愛を想いのたけを捧げて舞なさい。 あなたの彼への愛は、見返りを求めないものでしょう? そう決めたのでしょう? ならばあなたの心を尽くしなさい。 きっと夕麿さまもわかっていらっしゃいます。
さあ、いらっしゃい。 私を夕麿さまだと思って抱きなさい」
「え? だってそれは……」
高辻は雫以外には抱かれない。 それは周との関係に於いてもずっとそうだった。 だから周は抱かれていたのだ。 夕麿を抱きたい気持ちを晴らす為に。
「俺が許す。 お前にだけだからな?」
夕麿と高辻は従兄弟同士。 夕麿がその事実を知らなくても。 父方で周と繋がり母方で高辻と繋がる。 だが夕麿は母方の血を色濃く受け継いでいる。
高辻の母高子と夕麿の母翠子は異母姉妹である。 高辻と夕麿は表面的には似ているとは言えない。 むしろ周と夕麿の方が、従兄弟同士だと言うと納得するくらい似た印象を受ける。 だが周は知っている。 肌の感触や匂いが二人は似ているのだ。 2歳下の夕麿がまだ小等部の頃、泣くのを抱き締めて慰めた事がある。 涙を拭いた事もある。 そして…無理やりに取引で抱こうとした事も。 だから二人の似た部分を周は良く知っている。 そして…周の口から聞いた高辻も知っている。 当然、雫にも話してある。
報われない想い。 それがどのようなものかは、13年もの間、引き裂かれていた二人が一番知っていた。 請い求めても掴めない恋。 その切ないまでの儚さを知るからこそ、周の嘆きに代わりに応えてやりたい。 周が夕麿に嫌われた過去の原因の一端が、間違いなく自分にあると高辻にはわかっていた。 しかし周は一度も高辻を責めた事はない。 それどころか、紫霄から出る為に武と夕麿に懇願してくれた。 だからこの身を開いて受け入れて、彼の愛しい人の身代わりとして報いてやりたい。
雫は恋人のそんな想いを理解した。 周の存在がきっと孤独な高辻の心を支えていてくれたと思うから。
「さあ、触れて。 夕麿さまと同じ血を引く私に」
それは甘い眩惑の誘いだった。 夕麿と同じ感触で同じ匂いの肌。 身代わりだと思っていても周は誘惑に勝てなかった。
それぞれの想いが行き交う夜が明けて当日の朝になった。 朝から一番大きな教室に舞台が組まれ、準備が進められる中で夕麿たちの準備も進んで行く。 夕麿も周もプレッシャーがなくなったわけではない。 ただベストを尽くす覚悟を決めただけである。 どちらも楽器の調子を整えて開始の時間を待つ。
その緊迫した中、夕麿は周の控え室を訪ねた。夕麿に何を言われても甘んじて受ける。その覚悟で彼は夕麿を中に入れた。
「周さん…高等部の時の事を…謝罪させてください」
「!?」
周は驚愕に息を呑んだ。夕麿は深々と頭を下げた。
「あれは私の未熟ゆえの失敗でした。あの時の私は自分の不甲斐なさが我慢出来なくて、あなたに八つ当たりしてしまったのです。 従兄弟同士だという事に甘えていたのかもしれません。 しかし、年上で学院では先輩でもあるあなたに、あれは大変礼を欠いた行為でした。
今更の謝意は不快かもしれませんが、どうか私を許してください」
周は涙が出そうだった。
「謝らなくても…良い。あれは僕の日頃の素行の悪さが招いた結果だ。 練習もいい加減だったと反省している。 謝意を示さなければならないのは、僕の方だ」
「周さん……」
「今度こそ僕たちの努力を示そう。 教示してくれた雅久と僕たちの舞を裏で支えてくださった武さまに、笑顔で誉めていただけるように」
「はい。 どうかよろしくお願いします」
「僕の方こそよろしくお願いする」
周は涙を浮かべてそう答え、夕麿は笑みを浮かべて手を差し出した。 匂い立つ艶やかな色香に頭がクラクラする。 周はおずおずとその手を握り締めた。 以前は触れる事すら許されない、愛しい人の美しい手を。
舞台を取り囲むように、学生や聴講生はびっしりと集まっていた。今回の特別講義に名を借りた公演は、UCLA側のたっての願いで一回限りという約束だった。
騒動で大学側に多大な迷惑をかけた。出席日数への配慮などの特別措置もしてもらった。そういう事へのお礼を兼ねて、夕麿たちは引き受けたのである。武に事後承諾をしたのは夕麿たちがそのような事を、引き受けた責任を彼が背負わないようにする為だった。だから経緯は武には知らせていないし、紫霄OBの学生たちにも口止めをした。
あくまでも文化交流の一環であると武には話して置いたのだ。内々に話を持って来た大学側も、夕麿たちの要請や他の学生への示しもあって、経緯は一切伏せられていた。従ってこの公演の真相を知っているのは、夕麿たち武の側近と蓬莱大使館だけだった。
講義の開始が告げられ、教室のライトが落とされた。暗闇の中、微かに人が移動する衣擦れ音が続いた。次いで鼓の音が響き、スポットライトの中に夕麿の姿が浮かび上がった。
受講生の口から溜息が漏れる。
緊張に引き結ばれた唇。 やや上気した頬。 昨夜の余韻に匂い立つ色香。 教室に鼓の高音が響き、夕麿の唇から合いの手が発せられる。 幽玄な響きに受講生たちが息を呑む中で夕麿の鼓の演奏が終わり、間髪入れずに複数の管楽器の音色が響き始めた。
複数のスポットライトがそれを照らし出し、闇に乗じて夕麿が舞台からそっと下がった。
蓬莱皇国々歌は数々の紆余曲折を経て国歌になった。 音符での楽譜が50種類以上あり、正式なオーケストラ楽譜と認められたものが存在していない。 何度か統一楽譜を決定する話があったが、第二次世界大戦の影響で立ち消えになったままである。 ただし雅楽楽譜は存在している。 管楽器を中心に演奏されるが、夕麿たちは和楽器の講義を兼ねて、演奏者の分だけ楽器をかき集めた。
武や雅久、保のようにアメリカまで和楽器を持ち込んでいる者もいたが、ない者もいておおわらわだった。
竜笛、横笛、笙、篳篥、琵琶、箏、大和胡弓などである。 演奏後、一つひとつの音色と名前、成り立ちを保が説明して行く。
最初に夕麿と鼓が紹介され、紹介後舞台を下がった。 次に周と琵琶、雅久と竜笛、義勝と箏が紹介されてすぐに下がった。 次の舞楽の為だった。
全員の紹介が終わって武が舞台に呼ばれた。
「俺はこの格好で座ってるだけって、聞いてるんだけど?」
首を傾げる武に麗がマイクを差し出した。
「僕らはお笑い担当という事で…」
「ええ~うちのお笑い担当は成瀬さんと高辻先生じゃないの?」
「僕も不満なんだけどね~和楽器を勉強する話には、武君が一番便利なんだって」
「…どうせ、いつまでも上達しない不器用者の下手くそですよ、フン!」
「こらこら、君が拗ねたらみんなが困るでしょ?宥め役は今忙しいんだから」
そここから笑い声が上がる。
「武さま、自虐ネタはやめましょうね?」
突然、高辻と雫が現れた。
「はいはい、いつもの練習用安物」
高辻が笑顔で本当の練習用琵琶を、嫌がる素振りの武に押し付ける。
「お! どれくらい上達したか、聴かせてよ。 3年目だよね?」
「ヤダ」
「わがままはいけませんね、武さま。 じゃないと夕麿さまと雅久君に叱られますよ?」
「ある事ない事喋っちゃおうかな~」
今度は武の手にバチを手渡して雫が楽しげに言った。
「やりゃあ良いんだろ~」
「お利口、お利口。 武君、僕が後で飴買ってあげるよ」
「飴よりオレンジが良い」
軽快なタッチで会話が進んで行く。 琵琶を持って座った武が、爪弾き始めた曲に教室が湧いた。 曲は『カリフォルニアの青い空』。 短期間の特訓で覚えた曲だった。
「え~武さま? 会場の皆さまにサービスは良いですけど…和楽器でそれは如何でしょう?」
「わかった別の曲にするよ」
ところが次の曲を聴いて外の3人がずっこけた。 今度の曲は『Only YOU』。
「はいはい、武さま。 ラブラブなのは十分知ってますから、このような大衆の面前でノロケはやめましょう? 上達したのはわかりましたから、本来の琵琶の曲をお願いします」
「煩いなあ…」
高辻の要請で武が弾いたのは……
『祇園精舎の鐘の声
諸行無常の響きあり
沙羅双樹の花の色
盛者必衰の理をあらわす
驕れる人も久しからず
ただ春の夜の夢の如し
猛き者もついには滅びぬ
偏えに風の前の塵に同じ 』
『平家物語』の冒頭を歌いと一緒に披露した。一斉に拍手が起こる。
「やれば出来るじゃありませんか」
高辻が手を叩いて言った。 照れる武に麗が一言。
「武君、で、続きは?」
無言で琵琶を片付けて、舞台から武が逃げ出した。
「あ!逃げた!」
「麗君、どうやら武さまは今の部分だけに2年かかられたみたいですよ?」
「はあ!? でも何で『平家』なわけ?」
「周が言うにはご本人の希望らしい」
「…雅楽じゃないじゃん!」
周囲から笑い声が上がった。
舞台に残った3人は礼をして控えていた貴之に交代した。 貴之は今少し夕麿たちの準備が、間に合っていないので急遽出て来たのである。 数種類の笛を出して、東洋の笛についての講義を始めた。 無論、ここでは竜笛は普通のものしか出して来ていない。 本来の持ち主である夕麿から『忍冬』を吹く許可を得ているのは雅久だ。 先日手に入れた『雲居』は雅久しか音を出せない。 重要文化財か国宝並みの価値のある笛が、今現在ロサンゼルスにあると知らせるのは得策ではない。マニアな教授や成金が金を積んで欲しがって来るのも鬱陶しい。
武の父宮の形見の琵琶にしてもそうだ。 見た目にも美しいものだが、これがやはり、重文か国宝並みのものだと知れると面倒だ。 それで『忍冬』と琵琶は雫と影暁がしっかり受け取り、警備をしている状態になっていた。
武が見た事も聞いた事もない楽器が並んでいる。物珍しく眺めている中、夕麿と周が何やら相談していた。
「どうしたの?」
「大学の要請で『伝統音楽』という、特別講座を一度限りで行う事になりました」
周が楽器を手にしながら言った。
「ですが楽器が足らないので、ここで探そうとしているわけです」
夕麿が言葉を繋いだ。
「夕麿、これはどうだ?」
周が夕麿に差し出したのは鼓。受け取った夕麿は何かを確かめるように眺めた。
「見た目は悪くありませんね。あとは打ってみないと判断が出来ません」
「え!?」
夕麿の言葉に武が驚きの声をあげた。
「ご存知なかった…のですか?夕麿は和楽器は鼓をやるのです」
「初耳…見た事ないし」
「学院ではさほど需要がありませんでしたし、私が打たなくても他に出来る者がいましたから」
「そりゃまた謙遜が過ぎるだろう? 武、夕麿は鼓もかなりのもんだ。 本人がピアノの方が好きだというだけで」
「そう…なの? じゃあ…義勝兄さんは?」
「義勝は箏を弾きます」
「箏って…琴の事だよね?」
「厳格には違いますが…弦楽器という意味では同じですね」
武の質問に夕麿と義勝が答えている間に、周がオーナーを連れて戻って来た。
「夕麿、打って確かめて良いそうだ」
「ありがとうございます。 では」
夕麿は鼓を肩に乗せると、いつもはピアノの鍵盤の上で動く美しい手で鼓を打った。 音の調節をしながらしばらく打ち、満足したような顔で手を止めた。
「悪くはありませんね」
「こっちではこれが限界だろう」
「贅沢を言うつもりはありません。 そこそこの品だと思いますし、手入れもきちんとされています。 これにしましょう」
「一つは解決だな」
「周さんはどうするんです?」
「僕は琵琶を…と思っているが…難しいな」
見回す楽器の中に周のおめがねに適うものがないらしい。
「琵琶? 俺が持って来たの使えば?」
「とんでもない! 前東宮さまのお形見を、お借りする訳にはまいりません」
「でも…いつだったか、雅久兄さんに弾いてもらって以来、誰も音を出してないんだ。 点検と調律を兼ねて使ってよ?」
楽器は音を奏でこそ意味がある。 雅久はいつだったか武にそう言っていた。 だが父の形見は今の武には荷が重過ぎる。 御守りみたいに持っては来たが、ウォークインクローゼットの中にしまい込んだままになっていた。
「お願いするよ?」
「そう…仰いますならば…有り難くお借り致します」
周は武の善意に深々と頭を垂れた。
「夕麿! ちょっと来てくれ!」
義勝の声に夕麿が動いた。
「どうしました、義勝?」
「これを見てくれ。 こういう物の目利きは、お前の方が出来るだろう?」
義勝が指し示したのは、明らかに長い歳月を経て存在しているとわかる竜笛であった。
「これは…雅久、あなたはどう見たのです?」
「色合いや巻かれた麻糸の状態から、製作されて千年前後は経ているかと」
「そうなりますと、六条家の名笛『忍冬』よりも古うございますね?」
保が話に加わった。
「ええ、あれは室町に製作されたものである事が記録にあります」
「夕麿さま、いずれの家宝だったものでございましょう?」
雅久が声をひそめた。
「考えられるのは二つ。 中御門家の『東風』と…」
「護院家の『雲居』ですね…どちらも戦後の混乱期に我が国から姿を消した」
もしこれがそのどちらかであるなら、貴重な皇国の財産を取り戻せる事になる。
「周さん、この竜笛は箱に入っていなかったか、訊いてください!」
そう叫んだ夕麿の声は震えていた。 それを受けて周がオーナーと話をする。 オーナーはすぐに奥へ行って戻って来た。
「保さん、雅久…これは、護院家の『雲居』です!」
大変な事になった。 周が慌てて然るべき機関へ電話をした。 その間に一番の年長者である雫が、オーナーと値段交渉に入った。 彼の話によると欧州の骨董市で普通に売られていたと言う。
周が雫に耳打ちした。
「何としてでも手に入れて欲しいと言ってる」
雫は頷くと雅久に言った。
「一応、音を確かめてみてください、雅久君」
雅久は無言で頷いて『雲居』と思われる竜笛を手に取った。 唇に当てて息を吹き込む。 竜の鳴き声と呼ばれる音が店の中に響いた。
これに驚いたのはオーナーだ。 訊いてみるとこの竜笛は、今まで誰も音を出せなかったと言う。
「では、間違いないと私は思います」
保が確信を込めて言葉を続けた。
「『雲居』には伝説がございます。 吹くに相応しくない者には、決して応えないと聞いております」
「雅久は天上の楽師と呼ばれる者。『雲居』が認めない筈がありませんね」
「恐れ入り仕ります」
「護院家でも吹ける者がいなかったんだろう。 だから密かにお金に替えたんだろうさ」
義勝が呆れ顔で言った。
「夕麿さま、値段の折り合いがつきません」
雫が困った顔をしていた。 どうやら夕麿たちの様子から、価値が高いものだと判断して欲をかいたらしい。
「夕麿」
「何ですか?」
それまで黙っていた武が口を開いた。
「それを俺たちが買ったとして、その後はどうなるの?」
「一応、元の持ち主である護院家と交渉になります。 ただ私たちがここで購入するという事は、この竜笛は紫霞宮家の財産になります。 つまり、護院家は献上という名目で引き取りを拒否出来るのです」
「こっちが金を出しても献上になるわけ?」
「本来は値を付けられない物ですから」
「じゃあ、うちの物にして良いんだ?」
「護院家次第ですが」
「そこって資産は?」
「ある方だと言えます」
「雅久兄さん、それ欲しいよね?」
「それは…」
雅久の立場では頷く事は出来ない。 だが名品は一度手を放すと二度とは戻って来ない。
「わかった。 成瀬さん、良いよ、言い値で買って」
悪戯っぽい笑顔で告げると、雫は深々と頭を垂れて答えた。
「御意」
オーナーの言い値は65万$(1$=80円換算で5200万円)。 恐らくは欧州の骨董市で、安値で買い叩いた筈のものだ。
「これでお願いする」
周は武のクレジットカードを預かっている。 本来、ブラックカードやプラチナカードと呼ばれる、購入金額に制限のないカードは一定の年齢以上か、それ相応の身分や地位がないと持つ事は出来ない。 武と夕麿は10代ではあるが、皇家に名を連ねる者として所持を許可されていた。 もちろんそこには、御園生財閥の膨大な資産のバックアップが存在しているという事情もあった。
差し出されたカードの控えに武がサインをして、『雲居』は無事に紫霞宮家の所有になった。 さすがにオーナーは気が退けたのか、鼓を黙って差し出した。
とんでもない宝物を得て、武たちは無事にビバリーヒルズの屋敷へと帰宅した。
早々に講座の打ち合わせが始まる。
「で曲は何するんだ?」
「いっそのこと蓬莱皇国の国歌をやりませんか?」
保が提案した。
「国歌? ああ、外では通常はオーケストラだな。 雅楽で本来の姿を見せてやるのも面白いかもしないな。 導入部に夕麿の鼓を入れれば、ウケるだろう」
鼓は和楽器と言っても様々な種類があり、通常知られているものは雅楽演奏では用いられる事はない。 それを敢えて使おうというのであるから、単独で演奏して見せるか今、周が言ったような使い方しか出来ないのである。
「私はそれで構いませんが、皆さんは如何です?」
「夕麿さまがそれで御承知なされますならば」
「じゃあ、決まりだな。
で舞楽だが、『蘭陵王』と『納曾利』の対で良いな?」
「はい、装束は夕麿さま、周さま、お二方のものも整いました」
雅久の言葉に武が驚きの声をあげた。
「夕麿と周さんも舞うの?」
「武君、舞楽は本来、二曲を一つとして行うものです。 その中でも有名なのが、走舞と呼ばれる一人舞いの『蘭陵王』と二人舞いの『納曾利』です。」
「そうなんだ。 で、誰が何をするの?」
「雅久が『蘭陵王』を。 夕麿と周さんが『納曾利を』」
「武の前で舞うのは少々怖いのですが」
「何それ?」
武の真っ直ぐな眼差しに誤魔化しは効かない。
「周さんとするんだ?」
「身長が近い事と高等部で一度やりましたから」
「学祭はピアノじゃなかったの?」
「ピアノはオマケだったのさ、武」
「オマケ? 訳わかんない。 その映像は残ってないの?」
武の言葉に周が困った顔をした。
「余りお見せ出来るものではございません。 当時は僕と夕麿とは、多少の身長差がありましたし…」
「終わってから大喧嘩になりましたから」
「喧嘩…したの?」
「当時、指導してくれた雅久が嘆いた程の出来でしたので」
天邪鬼な周と彼を毛嫌いしていた夕麿。 生徒会絡みの出し物とは言え、惨たんたる有り様だった。 白鳳会々長でありながら内部進学を選んだ周は、3年の2学期はほとんど遊んでいた。 大学部の教養カリキュラムを半ば、終わらせてしまったのも原因だった。 それで異例の学祭参加になったのだ。
「じゃあ今度は頑張ってよね? 雅久兄さん、ビシバシしごいてやって」
「御意」
雅久が真剣な眼差しで答えた。
当日まで一週間余り。 屋敷は妙なる調べに連日包まれた。
文月は全員の直衣と冠を手入れするのに大変だった。 直衣は身分によって色が決められている。 現在は官位の叙任が行われない。 従って戦前の官位をそれぞれが引き継ぐながルールになっていた。 しかし武と夕麿以外はあくまでも未だに子息であって、当主ではない為に無位無冠な状態である。 かろうじて宮中に殿上が許されている周と雫がそれ相応の扱いであるのみ。 たとえ異国にいようとも、ルールは守られなければならない。
文月は演奏には加わらない武には、杜若(鮮やかな紫色)の衣装を用意した。
妃格の夕麿には瑠璃色を。
本来、紫色は帝。
青は東宮。
赤は大臣や親王の色とされていた。
そこで濃い紫色を避けて武の身分を表す為に、明るい鮮やかな色合いの紫色が選ばれた。 これを薄い紗の下に着る。 夕麿も同じである。
周には周防(紫がかった赤)を用意した。 高辻と保には濃い周防を用意した。 二人の血筋を考えての色合いである。
「直衣とか…初めて着るんだけど…」
戸惑う武に立ち振る舞いを教えるのは、夕麿と周が手が離せない為に保の仕事になった。 今回は長袴や束帯はなしの略式だが武には初体験である。 練習用の直衣を着た武を見て義勝が一言言った。
「馬子にも衣装だな」
それを聞いた武は義勝に膨れ面をした。
準備だけでも屋敷はひと騒動だった。
ところがその日が近付くにつれて、夕麿と周、双方が異様に憔悴し始めた。
そして、前夜……
「ン…あ…雫…」
渡米して来て4ヶ月余り。雫の愛撫に高辻がすっかり馴染み、白い肌が仄かに染まるのを愛でるのが楽しかった。
要人警護というのは気を緩める事が一切許されない。まして武はずっと暗殺の危惧が消えない。雫はここに来て、かなり体重を落としていた。当事者の武がストレスで骨と皮ばかりになったのだ。夕麿も衣類を新しくする程痩せた。周を始めとした他の者も。繰り返される心理攻撃に雫は次第に睡眠障害に陥って行った。薬剤を使用すれば朝の目覚めは悪くなるし、その後も影響が残る。一瞬の遅れが取り返しのつかない事態を呼ぶ。ただ命じられた任務を遂行するだけなら、こんなにも憔悴したりしなかった。
武は血の繋がった身内であり主と定めた少年。そして愛する人の従弟の伴侶。雫にしたらどのような犠牲を払っても守りたい存在だった。
思い詰めて過労と心労に喘ぐ雫を、高辻は自分の身体を使って慰撫し眠らせていた。 毎夜、雫は高辻が気を失うまで求めた。 朝、全身が軋む程の抱擁に高辻は内心悲鳴をあげながらも耐えた。 何事もないような顔で。
周を時折引っ張り込んだのは、彼を慰撫してやる為と…自分が雫に応え切れない時があったからだ。
愛しい人を休め癒やす。 それが高辻の歓びでもあった。
不意にドアがノックされた。
「あの叩き方は周ですね…」
高辻の言葉に雫が起き上がってベッドから出た。 ドアを開けると蒼褪めた顔で、周が肩を落として立っていた。
「ごめんなさい…こんな時間に…」
今にも泣き出しそうな声だった。 雫は周の手を掴んで部屋へ引き入れた。 今夜、彼が来るだろう予測は二人ともつけていた。
「清方さん…怖い。 また夕麿の足を引っ張ったらどうしよう? 恥をかかせたら…今度は武さまにまで及ぶ…二人に嫌われたら…」
高等部時代の失敗が、周に重くのし掛かっていた。 周だけが悪かった訳ではない。 夕麿にも非はあった。 それでも惚れた弱みで、周は自分の失敗だと思っていたのだ。 あの後しばらく夕麿が部屋に引き籠もってしまったのも、周の心に大きな打撃を与えていた。
しかも今度は…失敗は夕麿の恥というよりも、紫霞宮家そのものにキズを付ける事になり兼ねない。 紫霄のOBも雅楽演奏に参加する。 それはつまり、舞楽を彼らが鑑賞する事になる。 異国人の目にはわからなくても、彼らの目にはわかってしまう。
かかるプレッシャーは半端ではない。
そして…… 夕麿も似たような状態に陥っていた。
「武…抱いてください…明日が恐ろしくて…耐えられません」
こんな夕麿を見た事がなかった。 どんな時も努力と精神力でプレッシャーを跳ね返して来た、夕麿が食事もままならない程になっている。
「高等部の時って…どんなのだったの?」
「私が…私が周さんに合わせ切れなかったのです。 それなのに周さんに責任を押し付けて…私は酷い言葉を投げ付けました。 全部…全部、私の未熟さの所為だとわかっていたのに……
周さんはきっと今でも自分を責めています。 失敗したら彼はもっと自分を責めてしまうでしょう。
それに…失敗したら今度は、あなたに恥をかかせる事になります」
前回は余程の失敗だったんだと感じてしまう。夕麿がここまで落ち込むのだ。手痛い失敗だったのだろう。しかし雅久は出来上がりは上々だと断言していた。問題は二人が過去の失敗を恐れて臆病になっている事ではないのか。
「夕麿、雅久兄さんは大丈夫だって言ってただろう? もう何年も経過してるし、その頃は周さんとは仲良くなかったんだろう? 今はそんな事ないじゃないか。 周さんは本当に夕麿を大事に想ってる。 だから舞の間だけはその想いに応えてやれよ」
組み敷いた夕麿と視線を合わせて言った。
「応えて良いのですか?」
「舞の間だけな。 だってあれ、雌雄の龍だって聞いたよ?」
「そうです」
「だから舞の間だけ、周さんの真心に真心で応えれば良い。 見返りを求めないで、俺たちに尽くしてくれてるんだ。 舞で報いてやれよ。 俺が許可する」
「舞で報いる…」
「明日、周さんが困るくらい色っぽくしてやるから」
「あッ…武…」
いつもは夕麿に抱き締めてもらって安心させてもらう。 だから今夜は夕麿が我を忘れて乱れるままに、たくさん抱き締めてあげようと武は思ったのだった。
「ひィッ!イヤ…左…噛まないで…ダメ…」
噛むなと言われたら強く吸ってみる。
「ああッ…許して…吸わないで…」
感じ過ぎて腰を揺らしてしまう。 左側の乳首をいつもより執拗に攻められる。 快感が甘い痺れとなって、全身に広がっていく。 思うようにもう力が入らない。 舐められて吸われて、痛みを感じるくらいに歯を立てられる。
「も…もう…許して…そこ…痛い…」
「落ち着いて、周。 あの頃とは夕麿さまのお気持ちも違うでしょう? あなたの愛を想いのたけを捧げて舞なさい。 あなたの彼への愛は、見返りを求めないものでしょう? そう決めたのでしょう? ならばあなたの心を尽くしなさい。 きっと夕麿さまもわかっていらっしゃいます。
さあ、いらっしゃい。 私を夕麿さまだと思って抱きなさい」
「え? だってそれは……」
高辻は雫以外には抱かれない。 それは周との関係に於いてもずっとそうだった。 だから周は抱かれていたのだ。 夕麿を抱きたい気持ちを晴らす為に。
「俺が許す。 お前にだけだからな?」
夕麿と高辻は従兄弟同士。 夕麿がその事実を知らなくても。 父方で周と繋がり母方で高辻と繋がる。 だが夕麿は母方の血を色濃く受け継いでいる。
高辻の母高子と夕麿の母翠子は異母姉妹である。 高辻と夕麿は表面的には似ているとは言えない。 むしろ周と夕麿の方が、従兄弟同士だと言うと納得するくらい似た印象を受ける。 だが周は知っている。 肌の感触や匂いが二人は似ているのだ。 2歳下の夕麿がまだ小等部の頃、泣くのを抱き締めて慰めた事がある。 涙を拭いた事もある。 そして…無理やりに取引で抱こうとした事も。 だから二人の似た部分を周は良く知っている。 そして…周の口から聞いた高辻も知っている。 当然、雫にも話してある。
報われない想い。 それがどのようなものかは、13年もの間、引き裂かれていた二人が一番知っていた。 請い求めても掴めない恋。 その切ないまでの儚さを知るからこそ、周の嘆きに代わりに応えてやりたい。 周が夕麿に嫌われた過去の原因の一端が、間違いなく自分にあると高辻にはわかっていた。 しかし周は一度も高辻を責めた事はない。 それどころか、紫霄から出る為に武と夕麿に懇願してくれた。 だからこの身を開いて受け入れて、彼の愛しい人の身代わりとして報いてやりたい。
雫は恋人のそんな想いを理解した。 周の存在がきっと孤独な高辻の心を支えていてくれたと思うから。
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それぞれの想いが行き交う夜が明けて当日の朝になった。 朝から一番大きな教室に舞台が組まれ、準備が進められる中で夕麿たちの準備も進んで行く。 夕麿も周もプレッシャーがなくなったわけではない。 ただベストを尽くす覚悟を決めただけである。 どちらも楽器の調子を整えて開始の時間を待つ。
その緊迫した中、夕麿は周の控え室を訪ねた。夕麿に何を言われても甘んじて受ける。その覚悟で彼は夕麿を中に入れた。
「周さん…高等部の時の事を…謝罪させてください」
「!?」
周は驚愕に息を呑んだ。夕麿は深々と頭を下げた。
「あれは私の未熟ゆえの失敗でした。あの時の私は自分の不甲斐なさが我慢出来なくて、あなたに八つ当たりしてしまったのです。 従兄弟同士だという事に甘えていたのかもしれません。 しかし、年上で学院では先輩でもあるあなたに、あれは大変礼を欠いた行為でした。
今更の謝意は不快かもしれませんが、どうか私を許してください」
周は涙が出そうだった。
「謝らなくても…良い。あれは僕の日頃の素行の悪さが招いた結果だ。 練習もいい加減だったと反省している。 謝意を示さなければならないのは、僕の方だ」
「周さん……」
「今度こそ僕たちの努力を示そう。 教示してくれた雅久と僕たちの舞を裏で支えてくださった武さまに、笑顔で誉めていただけるように」
「はい。 どうかよろしくお願いします」
「僕の方こそよろしくお願いする」
周は涙を浮かべてそう答え、夕麿は笑みを浮かべて手を差し出した。 匂い立つ艶やかな色香に頭がクラクラする。 周はおずおずとその手を握り締めた。 以前は触れる事すら許されない、愛しい人の美しい手を。
舞台を取り囲むように、学生や聴講生はびっしりと集まっていた。今回の特別講義に名を借りた公演は、UCLA側のたっての願いで一回限りという約束だった。
騒動で大学側に多大な迷惑をかけた。出席日数への配慮などの特別措置もしてもらった。そういう事へのお礼を兼ねて、夕麿たちは引き受けたのである。武に事後承諾をしたのは夕麿たちがそのような事を、引き受けた責任を彼が背負わないようにする為だった。だから経緯は武には知らせていないし、紫霄OBの学生たちにも口止めをした。
あくまでも文化交流の一環であると武には話して置いたのだ。内々に話を持って来た大学側も、夕麿たちの要請や他の学生への示しもあって、経緯は一切伏せられていた。従ってこの公演の真相を知っているのは、夕麿たち武の側近と蓬莱大使館だけだった。
講義の開始が告げられ、教室のライトが落とされた。暗闇の中、微かに人が移動する衣擦れ音が続いた。次いで鼓の音が響き、スポットライトの中に夕麿の姿が浮かび上がった。
受講生の口から溜息が漏れる。
緊張に引き結ばれた唇。 やや上気した頬。 昨夜の余韻に匂い立つ色香。 教室に鼓の高音が響き、夕麿の唇から合いの手が発せられる。 幽玄な響きに受講生たちが息を呑む中で夕麿の鼓の演奏が終わり、間髪入れずに複数の管楽器の音色が響き始めた。
複数のスポットライトがそれを照らし出し、闇に乗じて夕麿が舞台からそっと下がった。
蓬莱皇国々歌は数々の紆余曲折を経て国歌になった。 音符での楽譜が50種類以上あり、正式なオーケストラ楽譜と認められたものが存在していない。 何度か統一楽譜を決定する話があったが、第二次世界大戦の影響で立ち消えになったままである。 ただし雅楽楽譜は存在している。 管楽器を中心に演奏されるが、夕麿たちは和楽器の講義を兼ねて、演奏者の分だけ楽器をかき集めた。
武や雅久、保のようにアメリカまで和楽器を持ち込んでいる者もいたが、ない者もいておおわらわだった。
竜笛、横笛、笙、篳篥、琵琶、箏、大和胡弓などである。 演奏後、一つひとつの音色と名前、成り立ちを保が説明して行く。
最初に夕麿と鼓が紹介され、紹介後舞台を下がった。 次に周と琵琶、雅久と竜笛、義勝と箏が紹介されてすぐに下がった。 次の舞楽の為だった。
全員の紹介が終わって武が舞台に呼ばれた。
「俺はこの格好で座ってるだけって、聞いてるんだけど?」
首を傾げる武に麗がマイクを差し出した。
「僕らはお笑い担当という事で…」
「ええ~うちのお笑い担当は成瀬さんと高辻先生じゃないの?」
「僕も不満なんだけどね~和楽器を勉強する話には、武君が一番便利なんだって」
「…どうせ、いつまでも上達しない不器用者の下手くそですよ、フン!」
「こらこら、君が拗ねたらみんなが困るでしょ?宥め役は今忙しいんだから」
そここから笑い声が上がる。
「武さま、自虐ネタはやめましょうね?」
突然、高辻と雫が現れた。
「はいはい、いつもの練習用安物」
高辻が笑顔で本当の練習用琵琶を、嫌がる素振りの武に押し付ける。
「お! どれくらい上達したか、聴かせてよ。 3年目だよね?」
「ヤダ」
「わがままはいけませんね、武さま。 じゃないと夕麿さまと雅久君に叱られますよ?」
「ある事ない事喋っちゃおうかな~」
今度は武の手にバチを手渡して雫が楽しげに言った。
「やりゃあ良いんだろ~」
「お利口、お利口。 武君、僕が後で飴買ってあげるよ」
「飴よりオレンジが良い」
軽快なタッチで会話が進んで行く。 琵琶を持って座った武が、爪弾き始めた曲に教室が湧いた。 曲は『カリフォルニアの青い空』。 短期間の特訓で覚えた曲だった。
「え~武さま? 会場の皆さまにサービスは良いですけど…和楽器でそれは如何でしょう?」
「わかった別の曲にするよ」
ところが次の曲を聴いて外の3人がずっこけた。 今度の曲は『Only YOU』。
「はいはい、武さま。 ラブラブなのは十分知ってますから、このような大衆の面前でノロケはやめましょう? 上達したのはわかりましたから、本来の琵琶の曲をお願いします」
「煩いなあ…」
高辻の要請で武が弾いたのは……
『祇園精舎の鐘の声
諸行無常の響きあり
沙羅双樹の花の色
盛者必衰の理をあらわす
驕れる人も久しからず
ただ春の夜の夢の如し
猛き者もついには滅びぬ
偏えに風の前の塵に同じ 』
『平家物語』の冒頭を歌いと一緒に披露した。一斉に拍手が起こる。
「やれば出来るじゃありませんか」
高辻が手を叩いて言った。 照れる武に麗が一言。
「武君、で、続きは?」
無言で琵琶を片付けて、舞台から武が逃げ出した。
「あ!逃げた!」
「麗君、どうやら武さまは今の部分だけに2年かかられたみたいですよ?」
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「周が言うにはご本人の希望らしい」
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周囲から笑い声が上がった。
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武の父宮の形見の琵琶にしてもそうだ。 見た目にも美しいものだが、これがやはり、重文か国宝並みのものだと知れると面倒だ。 それで『忍冬』と琵琶は雫と影暁がしっかり受け取り、警備をしている状態になっていた。
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