【完結】悪役令嬢ですが、ヒロインに愛されてます。

梨丸

文字の大きさ
2 / 17

2 優雅なお茶会

しおりを挟む
 ……やはり来るんじゃなかった。
 目の前にはダージリンティーを頭からかぶったスーウェル伯爵の令嬢が、呆然としている。



 ーー二時間ほど前。
 私は使用人たちと二時間かけて選んだコルセットドレスを身にまとい、スーウェル家の門をくぐった。
 アランとは、現地集合ということになっている。
 詰まるところ、なるべく私と一緒にいたくないのだろう。

 お茶会は秋桜コスモス園で行われる。
 ほう、とため息をつく。
 今は秋桜の季節の秋だからか、たくさんの秋桜が綺麗に咲き乱れている。
 いい庭師を雇っているのね。
 見惚れていると、アランの大きな声が聞こえた。

 「おい!遅いぞ!!」

 約束の三〇分前には来ていたのだが。
 クスクスと笑い声が聞こえた。
 このお茶会には私の他にも、四人令嬢が招待されている。
 私以外の全員が揃っているということは、私にだけ時間をずらして伝えでもしたのだろう。
 
 「そんな言い方、ないですわ」
 「ねえ。婚約者なのに」

 私とアランの婚約がいつ、のものになったのだろうか。
 アランをいさめようとしているように見せかけて、私を小馬鹿にしている。
 
 ため息を吐きたい気持ちを必死で抑え、笑顔を作る。

 「お待たせして、ごめん遊ばせ」

 何事もなかったように、椅子に座る私が気に食わなかったのだろうか。
 チッと小さな舌打ちが聞こえた。

 ブチ切れそうだわ。
 これはお茶会を称した、私を貶めるおとし会なのだろう。
 そっちがその気なら、やってやろうじゃない。

 それからも、アランとその他令嬢たちの嫌味攻撃が続く。
 それを、のらりくらりとかわしながら、嫌味で返す。

 「アリシア様のあまり良いお噂を聞かないのだけれど、王族の婚約者という自覚は持ってらっしゃるの?前も他の令嬢を泣かせたとか」
 「そのようなデマカセを堂々と話すなんて、随分自信がおありなのね。その自信、私にも分けていただきたいものですわ」

 何を言っても笑顔で動じない私を見て、面白くないと感じたのか、彼女たちは話を変え始めた。

 「そういえば、最近入学されたシャーロッテ様ご存知?」
 「ああ、空をそのまま写したような綺麗な青髪だそうだな」

 基本、婚約者の前で他の女性を褒めるなんてことはあってはならない。
 そこまで気が回らないのか、わざと言っているのか。
 どちらにせよ、とても失礼なことだ。
 こういうのを理由に婚約破棄できないかしら。

 心ここに在らず、といった調子の私にスーウェル家の令嬢が話を振ってきた。

 「アリシア様はご存知ですわよね。シャーロッテ様のこと」
 「ええ」

 私に何を言いたいのだろうか。

 「シャーロッテ様って、あの容姿でしょう。貴族院の関係者の方に擦り寄って、無理矢理いれてもらったそうよ」

 根も葉もない噂だ。
 不快感が増す。
 
 「あら、貴方は私たちが通っている由緒正しき貴族院に不正が横行しているとお思いになっているの?」
 「え、それは……」

 声のトーンを上げ、わざとらしく尋ねてみると彼女は上擦った声を出した。
 それに畳み掛けるように尋ねてみる。

 「それとも、シャーロッテ嬢の優遇を妬んであのような出まかせを言ったわけでは、ないですわよね」

 顔が真っ赤になった。
 図星のようだ。

 「そ、そんなわけ……!」

 顔を猿のように真っ赤にしながらわめくので、微笑みを浮かべながらこう言った。


 「ダージリンティーで一回落ち着きになったらいかがですか?」


 そして、テーブルにあったダージリンティーを頭からぶっかけた。
 私以外のその場にいた全員が一回フリーズした。

 数秒経ったのち、アランがハッとしたように怒声を上げた。

 「お前!何をする!!」
 「そ、そうよ。何をしているの!?」
 「め、メアリー様、お顔を拭いて」

 アランの怒声で何人かが我に帰ったようだ。
 口々に騒ぎ出した。

 スーウェル伯爵家の令嬢は、メアリーというのね。
 覚えておこう。

 カップに少し残っているお茶を一気に飲み干す。
 いい茶葉なのに、勿体のないことをしてしまったわ。

 メアリーはまだショックを受けているようで固まっている。

 私は、口々に色々なことを叫んでいる皆様に向かってこう告げた。


「本日は、に招待してくれたこと、とても感謝していますわ。それでは、ご機嫌よう」


 私はごちゃごちゃと何かを言っているアランたちを無視し、門へ向かって歩き出した。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!

アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。 「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」 王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。 背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。 受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ! そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた! すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!? ※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。 ※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。 ※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。

婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします

タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。 悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。

「価値がない」と言われた私、隣国では国宝扱いです

ゆっこ
恋愛
「――リディア・フェンリル。お前との婚約は、今日をもって破棄する」  高らかに響いた声は、私の心を一瞬で凍らせた。  王城の大広間。煌びやかなシャンデリアの下で、私は静かに頭を垂れていた。  婚約者である王太子エドモンド殿下が、冷たい眼差しで私を見下ろしている。 「……理由を、お聞かせいただけますか」 「理由など、簡単なことだ。お前には“何の価値もない”からだ」

誇りをもって悪役令嬢を全うします!~ステータス画面で好感度が見える公爵令嬢はヴィランを目指す~

久遠れん
恋愛
 転生して公爵令嬢になったマティルデは「ステータス画面を見る」能力が宿っていた。  自身のステータス画面には「悪役令嬢」と記載されている。  元々ヴィランが好きなマティルデは「立派な悪役令嬢」を目指して邁進するのだが――。  悪役令嬢としては空回っているマティルデは、対照的に「本物の悪役令嬢」であるカミルナに目をつけられてしまう。

婚約破棄された伯爵令嬢ですが、辺境で有能すぎて若き領主に求婚されました

おりあ
恋愛
 アーデルベルト伯爵家の令嬢セリナは、王太子レオニスの婚約者として静かに、慎ましく、その務めを果たそうとしていた。 だが、感情を上手に伝えられない性格は誤解を生み、社交界で人気の令嬢リーナに心を奪われた王太子は、ある日一方的に婚約を破棄する。  失意のなかでも感情をあらわにすることなく、セリナは婚約を受け入れ、王都を離れ故郷へ戻る。そこで彼女は、自身の分析力や実務能力を買われ、辺境の行政視察に加わる機会を得る。  赴任先の北方の地で、若き領主アレイスターと出会ったセリナ。言葉で丁寧に思いを伝え、誠実に接する彼に少しずつ心を開いていく。 そして静かに、しかし確かに才能を発揮するセリナの姿は、やがて辺境を支える柱となっていく。  一方、王太子レオニスとリーナの婚約生活には次第に綻びが生じ、セリナの名は再び王都でも囁かれるようになる。  静かで無表情だと思われた令嬢は、実は誰よりも他者に寄り添う力を持っていた。 これは、「声なき優しさ」が、真に理解され、尊ばれていく物語。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

処理中です...