【完結】悪役令嬢ですが、ヒロインに愛されてます。

梨丸

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 「しゃ、シャーロッテえ。なんで無視するのお。ボク、こんなに愛してるのに」

 シャーロッテが私の手をぎゅっと握る。
 手が震えている。
 手を強く握り返す。

 「貴方、どなたかしら。存じ上げないけれど」

 胸を張れ、胸を張るのよアリシア・アンリエッタ。
 シャーロッテの前に立ち、両手を広げる。

 「これ以上近づくとただじゃ済まないわよ」
 「五月蝿うるさい!この豚女あ!!」

 敵意を剥き出しにし、私たちへ向かって突進してきた。
 男の手元にあるナイフがきらりと光った。

 まずい。
 咄嗟に、シャーロッテを庇う。
 ナイフの刃が私の頬をかすめた。
 そのまま腕を掴み、バランスを崩したところで顔に膝蹴りをくらわす。
 ナイフがそのまま、地面でスライドする。

 「人のこと豚よわばりするんじゃないわよ!」

 気絶したことを確認して、男の顔を確認する。
 ムカつくので地面の上でゴロゴロと転がしていると家紋のついたバッジが弾け飛んだ。
 これはフラハティ男爵家のものだ。
 ハンカチに包み、鞄の中に入れる。

 シャーロッテの様子を見る。
 彼女はまだ震えている。
 刃物を持った男に襲われたのだから、当たり前だろう。

 「ロッテ、大丈夫。大丈夫よ」

 シャーロッテを抱きしめ、背中を軽く叩く。
 
 「あ、アリシア様。ほ、頬に傷が……」

 今もなお、私の心配をしてくれるシャーロッテに少し呆れてしまう。

 「私は大丈夫よ。心配してくれて、ありがとう」

 
 結局、あの後アンリエッタ家の者に男を回収させ、シャーロッテはアンリエッタ家の屋敷で休ませている。

 部屋でゆっくりしていると数回のノックの後、エリオットが入ってきた。

 「シャーロッテ様はお休みになりました。随分お疲れになっていたようで」

 「そう」と私が答えると突然、エリオットが急に距離を詰めてきた。
 そして、私の顔を数秒見つめると救急箱を取り出した。

 「アリシア、頬に傷がありますね。あの男にやられたのですか」

 肯定すると、ややこしいことになる気がする。
 一応否定してみると、大きなため息をつかれた。

 「嘘が下手ですね」

 顔にガーゼを当てられる。
 傷に染みてかなり痛い。
 あの男、絶対に許してやらないわ。

 「あの男、フラハティ男爵家の一人息子で、シャーロッテ様のストーカー行為をずっとしていたとか」
 「やっぱりそうだったのね」

 エリオットが傷の手当てをしながら話す。
 あの男は貴族院に通っており、途中入学してきたシャーロッテに惚れ込んで荷物の中に「愛してる」の文字が書かれた手紙を勝手に入れたり、薔薇の花を鞄の中にぎっしりと詰め込み、陰からその様子を見つめたりしていたそうだ。

 はっきり言って気持ちが悪い。

 今日の件は、シャーロッテがそんな彼をフル無視していたため、彼女に自分を意識させるため起こしたらしい。
 シャーロッテがあんなに怯えるほど追い詰めたというのに。

 「もっと痛めつけておけばおけば良かったかしら」
 「アリシア……」

 エリオットが眉間に皺を寄せた。


 今日はそのままシャーロッテに泊まってもらうことになった。

 シャーロッテが休んでいる部屋に夕食を持って訪ねる。

 「ロッテ、夕食を持ってきたわよ」

 応答が無い。
 まだ眠っているのだろうか。
 ドアの前から去ろうとすると、シャーロッテの声が聞こえてきた。

 「……!開けるわね」

 シャーロッテはベッドの上で眠っていた。
 
 「とうさま……、かあさま……」

 苦しそうにうなされている。

 「ありしあさま……」

 シャーロッテの頬が一気に緩んだ。
 貴方ったら、どれだけ私のことが好きなのよ。
 彼女の髪を撫でる。

 「お休みなさい」



 
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