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それから、さらにニ年が過ぎた。
世間には仲睦まじい貴族夫妻を装いながらも、実際には他人同士のような生活が続いた。
ノエルは公爵家の跡取りとして、父のもとで執務を学び、社交の場ではそつのない笑顔を浮かべていた。
けれど、屋敷に戻れば、仮面を外したように疲れた横顔を見せるようになっていた。
仕事においては非の打ち所がなく、誰もが認める後継者。
だが、ノエルの心には常に冷たい空洞があった。
――アリスは、今どこにいるのだろうか。
一度も声を交わせなかった少女。それでも、彼の心の中には、ずっと消えることなく居続けている。
書物の香りに触れれば、ふと彼女の横顔を思い出す。雨音を聞けば、彼女の静かな眼差しが浮かぶ。
そのたびに胸が締めつけられた。
(あのとき、もう少し勇気があったら……)
叶わなかった想いが、年を重ねるごとに痛みへと変わっていた。
***
ある日、ノエルの執務中に、扉を叩く音が響いた。
「……奥様が、ご懐妊されたと」
執事の報告に、ノエルは一瞬まばたきすらせず、ただ静かに言葉を返した。
「――誰の子だ?」
その声は、驚くほど静かで、冷えていた。
誰も答えられなかった。
ノエルとセリーヌの結婚は、“白い結婚”だった。
五年間、一度として、夫婦としての関係を持ったことはない。
だからこそ、答えは初めから明白だった。
セリーヌは、ノエル以外の男の子を、身籠もっている。
それは、裏切りだった。
だが、怒りよりも先にこみ上げてきたのは、虚しさだった。
――やはり、こうなったか。
ノエルの心は、どこか冷めていた。
***
久方ぶりに、夫婦で向き合う場が設けられた。
サロンに入ると、セリーヌは既に椅子に腰を下ろしていた。妊娠中の体を気遣ってか、やや厚手のドレスに身を包み、だがその顔色はどこか怯えたようだった。
「セリーヌ。話がある」
ノエルの声は淡々としていた。激情はなく、ただ静かに、事実を確認するように。
「……君のお腹の子の父親は、誰だ?」
セリーヌは目を見開き、肩を震わせた。
「……ノエル、お願い。……お願いだから、このままあなたの子にして……!」
「何を言っているんだ?」
「だって……あなた、ずっと私を抱いてくれなかったじゃない……! どうして私だけが我慢しなきゃいけないの?」
ノエルは目を細める。
「……子供が欲しかったのか?」
「違う。違うのよ。子供は……できるなんて思ってなかった。ただ……女として、抱かれたかったの。愛されたかったのよ……!」
「愛されたいと言いながら、裏切ったのか」
「あなたには、どうせわからない。だって、不能なんだもの!」
その言葉に、ノエルの背筋がわずかに震えた。
確かに、セリーヌには一度も反応しなかった。
だが、夜毎に思い出す栗色の髪の少女――アリスを想えば、自分が“不能”などではないと、嫌でもわかっていた。
(ああ……やはり、もう駄目なのだ。最初から)
セリーヌは泣きながら、「あれは過ちだった」と繰り返した。
だが、浮気相手が誰で、どのような経緯で関係を結び、どれだけの頻度で逢瀬を重ねていたか――すでに調査は進んでいた。
相手は、社交界に名を連ねる若き子爵家の三男だった。ノエルが出席しなかった夜会でセリーヌと出会い、惹かれ合ったらしい。
最初は軽い遊びのつもりだったのだろう。だが、関係はエスカレートし、昼間から街の宿で逢瀬を重ねるようになった。
妊娠を知った途端、男はしらばっくれようとした。だが、セリーヌが結婚後も純潔だったことを強調し、さらにベルモンド侯爵家が圧力をかけたことで、責任を取らざるを得なくなった。
***
そして両家の話し合いの場。
重厚な迎賓室に、重苦しい沈黙が流れていた。
シュヴァリエ公爵夫妻、ノエル。
向かいには、セリーヌとその両親であるベルモンド侯爵夫妻が座っていた。
セリーヌは妊娠という決定的な事実を前にしても、まだどこかで許しを得られる可能性に縋っているような瞳をしていた。
場が凍りついたままの空気のなか、ノエルが静かに口を開く。
「……私からも申し上げます。セリーヌの行いは、確かに裏切りにほかなりません。だが――」
その言葉に、ベルモンド侯爵夫妻がはっと顔を上げる。
「私にも、責任の一端があります。夫でありながら、彼女を愛せなかった。夫婦としての歩み寄りができなかった。……心から望んだ婚姻ではなかったとはいえ、それを言い訳にして、距離が埋められなかった私も、また未熟でした」
「ノエル様……」
侯爵夫人が思わず言葉を漏らす。
セリーヌは俯いたまま動かない。だが、その肩がわずかに震えていた。
「それでも……不貞を働いた事実は、やはり正当化できない」
言葉を結ぶと同時に、ベルモンド侯爵が立ち上がり、深々と頭を下げた。
「ノエル殿……そのようにまでおっしゃっていただいては、我々の面目は地に落ちたも同然でございます。貴殿のお心に、どれほどの痛みと屈辱があったか……申し訳ございません……!」
侯爵夫人もまた、沈痛な面持ちで頭を垂れた。
「娘が……娘が、全て悪うございました。たとえ理由がどうであろうと、婚姻の誓いを破った以上、娘の行いは許されるものではありません……」
セリーヌは俯いたまま、唇をかみしめていた。
ノエルの目には、もはや彼女を責める激情はなかった。ただ、深い疲労と虚無が宿っていた。
「――離婚は、双方合意のもと、速やかに進めていただきたいと思います」
ギルベール公爵の一言が、最後の決定を下した。
「賠償については、すでに申し出を受けている。鉱山の権利譲渡については、後ほど詳細な協議をもって進めていく」
「はい……すべて、我が家が誠意をもって対応させていただきます」
ベルモンド侯爵の声は震えていた。娘がもたらした不名誉が、いかに一族の信用を損ねるかを理解していたからだ。
セリーヌは、ようやく顔を上げた。
「ノエル……ごめんなさい。私……あなたを……」
だが、ノエルはそれに応えず、ただ立ち上がった。
「これ以上、何も言わなくていい。……終わった話だ」
その背は、ひとつの人生の扉を静かに閉じるかのように、毅然としていた。
世間には仲睦まじい貴族夫妻を装いながらも、実際には他人同士のような生活が続いた。
ノエルは公爵家の跡取りとして、父のもとで執務を学び、社交の場ではそつのない笑顔を浮かべていた。
けれど、屋敷に戻れば、仮面を外したように疲れた横顔を見せるようになっていた。
仕事においては非の打ち所がなく、誰もが認める後継者。
だが、ノエルの心には常に冷たい空洞があった。
――アリスは、今どこにいるのだろうか。
一度も声を交わせなかった少女。それでも、彼の心の中には、ずっと消えることなく居続けている。
書物の香りに触れれば、ふと彼女の横顔を思い出す。雨音を聞けば、彼女の静かな眼差しが浮かぶ。
そのたびに胸が締めつけられた。
(あのとき、もう少し勇気があったら……)
叶わなかった想いが、年を重ねるごとに痛みへと変わっていた。
***
ある日、ノエルの執務中に、扉を叩く音が響いた。
「……奥様が、ご懐妊されたと」
執事の報告に、ノエルは一瞬まばたきすらせず、ただ静かに言葉を返した。
「――誰の子だ?」
その声は、驚くほど静かで、冷えていた。
誰も答えられなかった。
ノエルとセリーヌの結婚は、“白い結婚”だった。
五年間、一度として、夫婦としての関係を持ったことはない。
だからこそ、答えは初めから明白だった。
セリーヌは、ノエル以外の男の子を、身籠もっている。
それは、裏切りだった。
だが、怒りよりも先にこみ上げてきたのは、虚しさだった。
――やはり、こうなったか。
ノエルの心は、どこか冷めていた。
***
久方ぶりに、夫婦で向き合う場が設けられた。
サロンに入ると、セリーヌは既に椅子に腰を下ろしていた。妊娠中の体を気遣ってか、やや厚手のドレスに身を包み、だがその顔色はどこか怯えたようだった。
「セリーヌ。話がある」
ノエルの声は淡々としていた。激情はなく、ただ静かに、事実を確認するように。
「……君のお腹の子の父親は、誰だ?」
セリーヌは目を見開き、肩を震わせた。
「……ノエル、お願い。……お願いだから、このままあなたの子にして……!」
「何を言っているんだ?」
「だって……あなた、ずっと私を抱いてくれなかったじゃない……! どうして私だけが我慢しなきゃいけないの?」
ノエルは目を細める。
「……子供が欲しかったのか?」
「違う。違うのよ。子供は……できるなんて思ってなかった。ただ……女として、抱かれたかったの。愛されたかったのよ……!」
「愛されたいと言いながら、裏切ったのか」
「あなたには、どうせわからない。だって、不能なんだもの!」
その言葉に、ノエルの背筋がわずかに震えた。
確かに、セリーヌには一度も反応しなかった。
だが、夜毎に思い出す栗色の髪の少女――アリスを想えば、自分が“不能”などではないと、嫌でもわかっていた。
(ああ……やはり、もう駄目なのだ。最初から)
セリーヌは泣きながら、「あれは過ちだった」と繰り返した。
だが、浮気相手が誰で、どのような経緯で関係を結び、どれだけの頻度で逢瀬を重ねていたか――すでに調査は進んでいた。
相手は、社交界に名を連ねる若き子爵家の三男だった。ノエルが出席しなかった夜会でセリーヌと出会い、惹かれ合ったらしい。
最初は軽い遊びのつもりだったのだろう。だが、関係はエスカレートし、昼間から街の宿で逢瀬を重ねるようになった。
妊娠を知った途端、男はしらばっくれようとした。だが、セリーヌが結婚後も純潔だったことを強調し、さらにベルモンド侯爵家が圧力をかけたことで、責任を取らざるを得なくなった。
***
そして両家の話し合いの場。
重厚な迎賓室に、重苦しい沈黙が流れていた。
シュヴァリエ公爵夫妻、ノエル。
向かいには、セリーヌとその両親であるベルモンド侯爵夫妻が座っていた。
セリーヌは妊娠という決定的な事実を前にしても、まだどこかで許しを得られる可能性に縋っているような瞳をしていた。
場が凍りついたままの空気のなか、ノエルが静かに口を開く。
「……私からも申し上げます。セリーヌの行いは、確かに裏切りにほかなりません。だが――」
その言葉に、ベルモンド侯爵夫妻がはっと顔を上げる。
「私にも、責任の一端があります。夫でありながら、彼女を愛せなかった。夫婦としての歩み寄りができなかった。……心から望んだ婚姻ではなかったとはいえ、それを言い訳にして、距離が埋められなかった私も、また未熟でした」
「ノエル様……」
侯爵夫人が思わず言葉を漏らす。
セリーヌは俯いたまま動かない。だが、その肩がわずかに震えていた。
「それでも……不貞を働いた事実は、やはり正当化できない」
言葉を結ぶと同時に、ベルモンド侯爵が立ち上がり、深々と頭を下げた。
「ノエル殿……そのようにまでおっしゃっていただいては、我々の面目は地に落ちたも同然でございます。貴殿のお心に、どれほどの痛みと屈辱があったか……申し訳ございません……!」
侯爵夫人もまた、沈痛な面持ちで頭を垂れた。
「娘が……娘が、全て悪うございました。たとえ理由がどうであろうと、婚姻の誓いを破った以上、娘の行いは許されるものではありません……」
セリーヌは俯いたまま、唇をかみしめていた。
ノエルの目には、もはや彼女を責める激情はなかった。ただ、深い疲労と虚無が宿っていた。
「――離婚は、双方合意のもと、速やかに進めていただきたいと思います」
ギルベール公爵の一言が、最後の決定を下した。
「賠償については、すでに申し出を受けている。鉱山の権利譲渡については、後ほど詳細な協議をもって進めていく」
「はい……すべて、我が家が誠意をもって対応させていただきます」
ベルモンド侯爵の声は震えていた。娘がもたらした不名誉が、いかに一族の信用を損ねるかを理解していたからだ。
セリーヌは、ようやく顔を上げた。
「ノエル……ごめんなさい。私……あなたを……」
だが、ノエルはそれに応えず、ただ立ち上がった。
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