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ジャンヌは、ケイシー女史の厳しい指導のもと、日々の仕事に全力で打ち込んでいた。
やがて、同期の中でも群を抜いて成果を上げるようになり、上司や先輩からも一目置かれる存在となる。
「ジャンヌ、君がまとめた書類は非常に見やすいな。計算もまったく誤りがない」
ある朝礼で上司に褒められた瞬間、ジャンヌは思わず息をのんだ。
全員の前で名指しされるのは初めてだった。嬉しさと恥ずかしさが入り混じり、視線を落としながら「ありがとうございます」と小さな声で返す。
皆から拍手が起こる一方で、同期たちが無言でじっとこちらを見ているのに気づいた。
(………どうしたのだろう?)
声を掛けようとしたものの、彼女たちはすぐに自席へ戻ってしまい、タイミングを逃してしまう。
わずかな違和感を覚えたが、ジャンヌは心を切り替えた。
――褒められるなんて。
叔父一家と暮らしていた頃は、浴びせられるのは罵声ばかりで、努力を認めてもらえることなど一度もなかった。
だからこそ、短い言葉であっても評価してもらえることが、彼女にとっては胸を温かく満たす大切な瞬間だった。
*
その日の昼休み。
食堂で席を囲んでいると、同僚の一人がからかうように声をあげた。
「ねえ、ジャンヌって仕事終わりに全然付き合い悪いよね。もしかして、彼氏でもいるんじゃない?」
「そうそう! この前、街でイケメンと食事してるの見ちゃったんだから!」
周囲の視線が一斉に集まる。ジャンヌは少し困ったように笑い、ゆっくりと首を振った。
「彼氏じゃないわ。昔からの幼馴染なの。同郷で……」
「えー、そうなの?どこで働いてるの?」
「すごいイケメンだったわよね?彼女いるの?」
矢継ぎ早に浴びせられる質問に答えながら、ジャンヌは居心地の悪さを覚えていた。
「商会近くの建築会社で働いているわ。将来は設計士になりたいみたい」
「この近くの建築会社って、有名なところよね?!」
「え、設計士!?すごいじゃない!将来有望だわ」
「ねえねえ、私たちに紹介してよ!」
わっと場が盛り上がり、ジャンヌは曖昧な笑顔を浮かべてやり過ごすしかなかった。胸の奥に、わずかな刺のような感情が残る。
「休憩中に悪いが、ジャンヌにお願いしたい書類がある」
休憩室に上司が顔をのぞかせた。
名指しされたジャンヌは、驚きとともに小さな緊張を覚える。周囲の視線を感じながら立ち上がり、一旦席を外した。
頼まれた用件を滞りなく済ませると、胸の奥にほんのりとした達成感が広がった。
(……私に任せてもらえた)
そんな思いを抱きながら、ジャンヌは再び休憩室へと戻ろうとした。
扉に手をかけた瞬間、中から自分の名前が聞こえる。足が止まり、無意識のうちに耳を澄ませてしまった。
「ジャンヌって何なの?いい気になってない?」
「ほんと、いつも良い子ぶっちゃって。先輩や上司に媚び売ってるの見え見え」
「笑顔でいる自分が可愛いとでも思ってるのかしら? 話してもつまんないのよね」
「イケメン幼馴染だって、結局独り占めしたいんでしょ。感じ悪っ」
胸の奥が冷たくなり、手が震えた。思わず扉に額を押し当て、息を殺す。
(……私、そんなふうに思われているの?)
孤独がじわじわと広がっていく。
努力しても、認められても、誰かの心の中ではこうして悪く言われている――その事実が、ジャンヌの小さな自信を崩していった。
不意に背後から肩を軽く叩かれ、ジャンヌは驚いて振り返った。そこにはケイシーが立っていた。
茶色の髪をショートに切りそろえ、知的な眼鏡をかけた、すらりと背の高い美人。冷静で余計なことを言わない彼女の姿は、ジャンヌにとって密かな憧れの対象だった。
「くだらないわ。気にしなくていいのよ」
ケイシーは小声でそう囁き、何事もなかったように歩き出す。その隣には先輩社員のマイルズがいた。
肩に触れるほどの金髪を後ろでひとつに束ね、穏やかな垂れ目が印象的な、柔らかな雰囲気の男性社員。
背も高く、笑みを浮かべるだけで場の空気が和らぐような甘いマスクの持ち主で、女性社員たちの人気を集めていた。
「女って怖いねぇ」
軽い調子の言葉だったが、不思議とその気遣いが胸に沁みる。張り詰めていた心が、ほんのわずかにほぐれていくのを感じた。
やがて、同期の中でも群を抜いて成果を上げるようになり、上司や先輩からも一目置かれる存在となる。
「ジャンヌ、君がまとめた書類は非常に見やすいな。計算もまったく誤りがない」
ある朝礼で上司に褒められた瞬間、ジャンヌは思わず息をのんだ。
全員の前で名指しされるのは初めてだった。嬉しさと恥ずかしさが入り混じり、視線を落としながら「ありがとうございます」と小さな声で返す。
皆から拍手が起こる一方で、同期たちが無言でじっとこちらを見ているのに気づいた。
(………どうしたのだろう?)
声を掛けようとしたものの、彼女たちはすぐに自席へ戻ってしまい、タイミングを逃してしまう。
わずかな違和感を覚えたが、ジャンヌは心を切り替えた。
――褒められるなんて。
叔父一家と暮らしていた頃は、浴びせられるのは罵声ばかりで、努力を認めてもらえることなど一度もなかった。
だからこそ、短い言葉であっても評価してもらえることが、彼女にとっては胸を温かく満たす大切な瞬間だった。
*
その日の昼休み。
食堂で席を囲んでいると、同僚の一人がからかうように声をあげた。
「ねえ、ジャンヌって仕事終わりに全然付き合い悪いよね。もしかして、彼氏でもいるんじゃない?」
「そうそう! この前、街でイケメンと食事してるの見ちゃったんだから!」
周囲の視線が一斉に集まる。ジャンヌは少し困ったように笑い、ゆっくりと首を振った。
「彼氏じゃないわ。昔からの幼馴染なの。同郷で……」
「えー、そうなの?どこで働いてるの?」
「すごいイケメンだったわよね?彼女いるの?」
矢継ぎ早に浴びせられる質問に答えながら、ジャンヌは居心地の悪さを覚えていた。
「商会近くの建築会社で働いているわ。将来は設計士になりたいみたい」
「この近くの建築会社って、有名なところよね?!」
「え、設計士!?すごいじゃない!将来有望だわ」
「ねえねえ、私たちに紹介してよ!」
わっと場が盛り上がり、ジャンヌは曖昧な笑顔を浮かべてやり過ごすしかなかった。胸の奥に、わずかな刺のような感情が残る。
「休憩中に悪いが、ジャンヌにお願いしたい書類がある」
休憩室に上司が顔をのぞかせた。
名指しされたジャンヌは、驚きとともに小さな緊張を覚える。周囲の視線を感じながら立ち上がり、一旦席を外した。
頼まれた用件を滞りなく済ませると、胸の奥にほんのりとした達成感が広がった。
(……私に任せてもらえた)
そんな思いを抱きながら、ジャンヌは再び休憩室へと戻ろうとした。
扉に手をかけた瞬間、中から自分の名前が聞こえる。足が止まり、無意識のうちに耳を澄ませてしまった。
「ジャンヌって何なの?いい気になってない?」
「ほんと、いつも良い子ぶっちゃって。先輩や上司に媚び売ってるの見え見え」
「笑顔でいる自分が可愛いとでも思ってるのかしら? 話してもつまんないのよね」
「イケメン幼馴染だって、結局独り占めしたいんでしょ。感じ悪っ」
胸の奥が冷たくなり、手が震えた。思わず扉に額を押し当て、息を殺す。
(……私、そんなふうに思われているの?)
孤独がじわじわと広がっていく。
努力しても、認められても、誰かの心の中ではこうして悪く言われている――その事実が、ジャンヌの小さな自信を崩していった。
不意に背後から肩を軽く叩かれ、ジャンヌは驚いて振り返った。そこにはケイシーが立っていた。
茶色の髪をショートに切りそろえ、知的な眼鏡をかけた、すらりと背の高い美人。冷静で余計なことを言わない彼女の姿は、ジャンヌにとって密かな憧れの対象だった。
「くだらないわ。気にしなくていいのよ」
ケイシーは小声でそう囁き、何事もなかったように歩き出す。その隣には先輩社員のマイルズがいた。
肩に触れるほどの金髪を後ろでひとつに束ね、穏やかな垂れ目が印象的な、柔らかな雰囲気の男性社員。
背も高く、笑みを浮かべるだけで場の空気が和らぐような甘いマスクの持ち主で、女性社員たちの人気を集めていた。
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