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温もりの余韻に包まれた寝室。
シーツにはまだ二人の熱がこもり、吐息の名残が漂っている。
ベッドの上で肩で息をしながら、トーマスは長く息を吐き出した。
胸の鼓動は早鐘のように高鳴り、今しがたの行為の現実味がようやく身体に馴染み始めていた。
「……ジャンヌ」
名を呼ぶと、寄り添う彼女がかすかに身じろぎする。
肩を片腕でそっと抱き寄せると、小さな震えが掌を通じて伝わってきた。
それは寒さからではなく、昂ぶりの余韻ゆえだと分かる。
頬はまだ紅潮し、長い睫毛の影が揺れていた。指先はシーツをきゅっと掴み、解けない結び目のように緊張を宿している。
羞恥と戸惑い、その奥にかすかな幸福が混ざった表情だった。
――初めて、女性を抱いた。
その事実が胸に重く響く。
柔らかな身体に覆い被さり、甘い肌を味わった。
自身の塊が彼女の奥へ入った瞬間は、驚くほどの快楽が全身を駆け抜けた。
自分もついに一歩を踏み出したのだと、奇妙な実感が押し寄せてくる。
けれども、まぶたを閉じると浮かんでくるのは、目の前のジャンヌではなかった。
――ハルディ。
愛らしい笑顔。澄んだ瞳。場の空気を一瞬で掌握してしまう明るさ。その姿がどうしても消えない。
そして同時に思い出す。
彼女はかつて、ユアン先輩と付き合っていた。会社の皆から一目を置かれ、華やかで人望のあるあの先輩と。
(……ユアン先輩に、抱かれたのか)
考えたくもない光景が脳裏を侵食する。
ユアンが彼女を抱き寄せ、彼女のふっくらとした唇を奪い、中をじっとりと潤す。
ユアンの高まりがハルディの奥を貫き、彼女が甘い嬌声を上げる。
二人の身体が一つに繋がり、溶け合うーーそんな想像が、止めようとしても湧き上がってくる。
胸の奥がざらつき、焼けるような嫉妬が心臓を締めつけた。
誰よりも深く、誰よりも強く、彼女を悦ばせて満たしたい。その渇望は、トーマス自身が驚くほど激しいものだった。
寝返りを打つと、隣でジャンヌが目を細めて微笑んだ。
「……トーマス」
その声は安堵と幸福に満ちている。
彼女の表情を見て、一瞬、胸は高鳴る。
だがそれは愛おしさというより、欲求を満たした充足感に近かった。
一方でジャンヌは、まったく別の世界にいた。
トーマスの胸に顔を埋め、鼓動を聴きながら幸せそうに目を閉じる。
(やっと……並んで歩けるんだ)
その確信が胸を温かく満たしていた。
彼女にとって、この夜は永遠に記憶に残る一歩だった。
ずっと片思いをしてきた彼の隣に立てる日を夢見て、幾度も心をすり減らしてきた。ようやく報われた――そう信じて疑わない。
「……私、幸せ」
小さく洩らした言葉に、トーマスは目を瞬かせる。
潤んだ瞳で見つめ、微笑むジャンヌ。その頬は火照り、長い睫毛が震えていた。
「ずっと……こうなれたらいいなって思ってたの。だから今は夢みたい」
「ジャンヌも、興味があったのか?」
トーマスは、ジャンヌが自分に恋愛感情を持っているとは考えていなかった。
好意はあると思っていたが、それは自分と同じ、幼馴染としての「好き」だと思っている。
「え? 興味?……違うわ。こうして結ばれたのがトーマスで良かったと思ってるの。トーマスは違うの?」
「……うん?…まぁ、いつかは誰かと経験するものだとは思ってたよ。好きでもない相手とはできないからさ」
「そ、そうよね!」
トーマスの「好きでもない相手」という言葉に自分は含まれていないと理解し、ジャンヌの気持ちは浮き立つ。
だがトーマスは自覚していた。
自分がジャンヌを求めた理由は、恋愛経験の乏しさから来る不安を解消したかっただけ。
――ハルディに向き合う自信を得るために、幼馴染の彼女が都合よく存在していただけなのだ。
(……一度抱いたくらいじゃ、ハルディを満足させられないかもしれない)
身体の関係を持つまでになったが、二人の想いはすれ違っている。
同じベッドで抱き合いながらも、心は決して一つにはなっていなかった。
やがてジャンヌは安らかな寝息を立て始める。その寝顔を見ながら、トーマスはそっと目を閉じた。
瞼の裏に浮かぶのはハルディばかり。
夢の中に現れたのも、ジャンヌではなく――
彼の心を強烈に独占するハルディの幻影だった。
シーツにはまだ二人の熱がこもり、吐息の名残が漂っている。
ベッドの上で肩で息をしながら、トーマスは長く息を吐き出した。
胸の鼓動は早鐘のように高鳴り、今しがたの行為の現実味がようやく身体に馴染み始めていた。
「……ジャンヌ」
名を呼ぶと、寄り添う彼女がかすかに身じろぎする。
肩を片腕でそっと抱き寄せると、小さな震えが掌を通じて伝わってきた。
それは寒さからではなく、昂ぶりの余韻ゆえだと分かる。
頬はまだ紅潮し、長い睫毛の影が揺れていた。指先はシーツをきゅっと掴み、解けない結び目のように緊張を宿している。
羞恥と戸惑い、その奥にかすかな幸福が混ざった表情だった。
――初めて、女性を抱いた。
その事実が胸に重く響く。
柔らかな身体に覆い被さり、甘い肌を味わった。
自身の塊が彼女の奥へ入った瞬間は、驚くほどの快楽が全身を駆け抜けた。
自分もついに一歩を踏み出したのだと、奇妙な実感が押し寄せてくる。
けれども、まぶたを閉じると浮かんでくるのは、目の前のジャンヌではなかった。
――ハルディ。
愛らしい笑顔。澄んだ瞳。場の空気を一瞬で掌握してしまう明るさ。その姿がどうしても消えない。
そして同時に思い出す。
彼女はかつて、ユアン先輩と付き合っていた。会社の皆から一目を置かれ、華やかで人望のあるあの先輩と。
(……ユアン先輩に、抱かれたのか)
考えたくもない光景が脳裏を侵食する。
ユアンが彼女を抱き寄せ、彼女のふっくらとした唇を奪い、中をじっとりと潤す。
ユアンの高まりがハルディの奥を貫き、彼女が甘い嬌声を上げる。
二人の身体が一つに繋がり、溶け合うーーそんな想像が、止めようとしても湧き上がってくる。
胸の奥がざらつき、焼けるような嫉妬が心臓を締めつけた。
誰よりも深く、誰よりも強く、彼女を悦ばせて満たしたい。その渇望は、トーマス自身が驚くほど激しいものだった。
寝返りを打つと、隣でジャンヌが目を細めて微笑んだ。
「……トーマス」
その声は安堵と幸福に満ちている。
彼女の表情を見て、一瞬、胸は高鳴る。
だがそれは愛おしさというより、欲求を満たした充足感に近かった。
一方でジャンヌは、まったく別の世界にいた。
トーマスの胸に顔を埋め、鼓動を聴きながら幸せそうに目を閉じる。
(やっと……並んで歩けるんだ)
その確信が胸を温かく満たしていた。
彼女にとって、この夜は永遠に記憶に残る一歩だった。
ずっと片思いをしてきた彼の隣に立てる日を夢見て、幾度も心をすり減らしてきた。ようやく報われた――そう信じて疑わない。
「……私、幸せ」
小さく洩らした言葉に、トーマスは目を瞬かせる。
潤んだ瞳で見つめ、微笑むジャンヌ。その頬は火照り、長い睫毛が震えていた。
「ずっと……こうなれたらいいなって思ってたの。だから今は夢みたい」
「ジャンヌも、興味があったのか?」
トーマスは、ジャンヌが自分に恋愛感情を持っているとは考えていなかった。
好意はあると思っていたが、それは自分と同じ、幼馴染としての「好き」だと思っている。
「え? 興味?……違うわ。こうして結ばれたのがトーマスで良かったと思ってるの。トーマスは違うの?」
「……うん?…まぁ、いつかは誰かと経験するものだとは思ってたよ。好きでもない相手とはできないからさ」
「そ、そうよね!」
トーマスの「好きでもない相手」という言葉に自分は含まれていないと理解し、ジャンヌの気持ちは浮き立つ。
だがトーマスは自覚していた。
自分がジャンヌを求めた理由は、恋愛経験の乏しさから来る不安を解消したかっただけ。
――ハルディに向き合う自信を得るために、幼馴染の彼女が都合よく存在していただけなのだ。
(……一度抱いたくらいじゃ、ハルディを満足させられないかもしれない)
身体の関係を持つまでになったが、二人の想いはすれ違っている。
同じベッドで抱き合いながらも、心は決して一つにはなっていなかった。
やがてジャンヌは安らかな寝息を立て始める。その寝顔を見ながら、トーマスはそっと目を閉じた。
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