【完結・R18】花のように微笑み、棘のように傷ついて

とっくり

文字の大きさ
15 / 74

15 ※

しおりを挟む
 ここ最近、ジャンヌと身体を重ねても、彼女の反応がどこかぎこちないことに、トーマスはうすうす気づいていた。

 自分は熱に浮かされたように、ジャンヌのなかを突き、欲望をぶつけている。

 絶頂の瞬間、頭は真っ白になり身体が震えるほど快楽に支配される。

 吐精した後は、心地よい疲労感に包まれ、眠気に襲われると、そのまま深い眠りに落ちてしまった。

 そして迎えた翌朝ーー
 ジャンヌの様子に、少しずつ違和感を覚え始める。

 お互いの快楽が解放された翌日は、すっきりとしているものだと思っていた。
 だが、ジャンヌは酷く疲れた様子で、ベッドから起き上がる動作もぎこちない。

 違和感を感じてから、抱いている時の彼女の反応が気になり始めた。

 ジャンヌはただ大人しく受け入れているだけ。身じろぎしても、その表情には恍惚よりも戸惑いの色が滲んでいる。

 声も、期待していたような甘い響きではなく、遠慮がちな吐息ばかりだった。

 その姿を見るたびに、胸の奥に不安と苛立ちが同時に芽生える。

(……これじゃ、だめだ。)

 あの愛らしく、自信に満ちたハルディを相手にするなら、自分がもっと経験豊富でなければならない。

――彼女を悦ばせるだけの余裕と技術が必要なのだ。

 目の前のジャンヌは、とても悦んでいるようには見えない。

 自分が動けば動くほど、彼女は身を固くし、必死に耐えているように見える。まるで「されるがまま」の人形のようだ。

(こんなことで……ハルディを満足させられるのか?)

 焦燥感が全身を焼く。
 ジャンヌを抱きながらも、トーマスの心は遠く、常にハルディの姿を追っていた。


***


 そんな疑問を抱えたまま迎えた昼休み。
 休憩室の隅に座っていたトーマスは、コーヒーを手にぼんやりしていた。

 すると、近くのテーブルから先輩社員たちの下卑た笑い声が聞こえてきた。

「この前の女、マジで最悪だったんだよ。酒場でちょっと声かけたら、あっさりついてきたからさ。絶対遊び慣れてると思ったんだ」

「へぇ、で?」

「全然ダメ。慣れてなくて、触るたびにびくっとして、泣きそうな顔しやがって。腰も引けて、盛り上がるどころか冷めたわ。あれはマジでハズレだった」

 先輩の一人が鼻で笑い、ビスケットをかじりながら言う。
「お前なぁ、処女だったんだろう?逆にレア物じゃん。処女抱いたなんて自慢できるだろ」

 しかし、最初に話していた男は不快そうに顔をしかめる。
「は?遊び相手に欲しいのはすぐにヤラセてくれる女だろ。遊びたいのに処女なんて面倒くせえだけだぜ?お前らもやってみりゃ分かる。泣き顔見せられてみ?こっちは興ざめだっての」

 すると、別の先輩が口角を吊り上げ、低い声で割り込む。
「お前らさ、本当にわかってねぇな。ウブな女をどうやって快楽に堕とすか――それが醍醐味なんだよ」

「また始まったぞ、こいつの講釈」
 と笑いながらも、周囲は耳を傾ける。彼はわざと声を落として続けた。

「最初は怯えて体固くしてるだろ?でもな、じっくり時間かけて身体を可愛がってやれば蕩けてくるから」

「コイツの愛撫、長えらしいぞ」
 一人が声を出して笑う。

「やっぱり、女はが感じるからな。を指で軽く弾きながら、アソコをなぞっていくと、どんどん濡れてくるからさ。
ぐちゃぐちゃになったら、舌で責める。
そうすると、女は力が抜けて、喘ぎ始めるから。最後には自分から求めてくる。あの瞬間を見ると病みつきになるぞ」

 別の先輩が笑いながら手を振った。
「お前、具体的に言いすぎだろ。……でも確かに、アソコを舐められるのが好きな女は多いよな?」

「俺、舐めるの好きなんだよね。快楽でドロドロになった女なんて単純だし。俺くらいになると、ちょっと耳元で囁いて、を軽く舌で転がしてやればイチコロよ。女から求めて腰振ってくるから。未経験の奴がガチャガチャやってんの見ると笑えるわ」

「ああ。いるよなぁ、そういう奴。ガツガツ腰を振ってるだけで、実際は全然女を悦ばせられてないってやつ」

「ははっ、そういうのは女の方も可哀想だな」

 どっと笑いが起こる。
 軽薄で下品な会話――だが、トーマスの胸に刺さったのは彼らの最後の言葉だった。

(……女を悦ばせられてない……?)

 自分は欲望のままにジャンヌを抱いてきただけだ。
 その反応がぎこちないのは、やはり自分が「未経験の馬鹿にされる側」だからなのではないか。

 嫌悪感と劣等感が入り混じり、コーヒーの味はまるで灰のように苦かった。
 笑い声が響く休憩室の中で、トーマスの胸だけが重苦しく沈んでいった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの隣は私ではないけれど、それでも好きでいてもいいですか、レオナルド様

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢エリアーナには、三年間ずっと抱えてきた秘密がある。 婚約者であるヴァルフォード公爵・レオナルドへの、誰にも言えない恋心だ。 しかし彼の隣にいるのは、いつも幼馴染の伯爵令嬢・ソフィア。 儚げな笑顔と上目遣いで男性を虜にするあざとい彼女に、レオナルドも例外ではないようで—— 「レオ、私のこと嫌いにならないでね?」 「……そんなことにはならない」 また始まった二人の世界。

「妹の方が可愛い」と不倫夫に捨てられた私。どうぞ借金まみれの実家ごと引き取って。私が肩代わりしていた負債、すべてお二人に引き継いでおきました

唯崎りいち
恋愛
「お前より妹の方が可愛い」 不倫した夫は私を追い出し、略奪した妹と笑った。 どうぞ、その「可愛い妹」と地獄までお幸せに。 私が肩代わりしていた実家と店の多額の借金、すべてお二人に引き継いでおきましたから。 「財布」を失った元夫と、逃げ場を失った妹。 身の丈に合わない贅沢を望んだ寄生虫たちの、惨めな末路を特等席で眺めさせていただきます。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

どうぞお好きになさってください

みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。 婚約者の第一王子殿下は言った。 「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」 公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。 「好きになさればよろしいわ」

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

処理中です...