【完結・R18】花のように微笑み、棘のように傷ついて

とっくり

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 その日の仕事を終え、自宅へ向かう道すがら、トーマスの頭の中には一人の女の姿があった。

 ――ハルディ。

 職場で見せる小悪魔めいた笑顔、挑発的な仕草、時折ふいに向けてくる真剣な眼差し。

 思い出すたび、胸がざわつき、身体の奥が熱を帯びると同時に焦燥感も伴う。

 ハルディの身体を知ってる男がいることーー。

 じりじりと焼けつく嫉妬を自覚しながらトーマスは思いを馳せる。

(……もっと経験を積まなきゃ。ハルディはきっと、俺なんかよりずっと恋愛に慣れてる。中途半端じゃ、満足させられない……)

 そう考えたとき、自然と脳裏に浮かんだのは、長年そばにいた幼馴染――ジャンヌの姿だった。

 彼女なら、自分の未熟さを笑ったりしない。これまで何度も抱いてきたのに、拒むこともなく受け入れてくれていた。

(……ジャンヌに、もっと悦ばせる練習をしよう)

 それは、愛情から生まれた決意ではなかった。ただ、ハルディを手に入れるための一歩として。



 部屋に戻ると、いつものようにジャンヌが夕食を整えて待っていた。

 赤いトマトソースの香りが広がり、温かい灯りに照らされた彼女の笑みは穏やかで優しい。

「おかえり。今日は、チキンのトマト煮にしてみたの」
「おっ、いいね。大好きだ」
「ふふ、良かった。じゃあ、温かいうちに食べましょう」

 向かい合って座り、食事を始める。
 柔らかく煮込まれたチキンが舌の上でほぐれると、自然と頬が緩んだ。こうした安心感も、ジャンヌのそばだから得られるものなのかもしれない。

 だが今夜の目的は、別にあった。

「ジャンヌ……」
「なあに?」
「今日、泊まってくれるか?」

 その問いに、ジャンヌは一瞬だけ視線を落とした。
「……そのことなんだけど。ここ最近、ずっと泊まってばかりだから……」

 気まずそうに口を濁す彼女の言葉を遮り、トーマスは身を乗り出す。

「頼むよ。どうしても帰りたいなら仕方ないけど……俺、今まで一方的に抱くだけだったんだって気づいたんだ」

「……トーマス?」
「その……今日はジャンヌを気持ちよくさせたい。存分に悦ばせたいんだ」

 自分でも顔が熱くなるのが分かった。だが、それは彼女への告白ではない。

――本命であるハルディを想いながら、技術を磨こうとする打算に過ぎなかった。

 しかしジャンヌは、その意図を知るはずもなく、ぱっと表情を輝かせた。

「……私を、悦ばせたいの?」
「散々抱いておいて、今さらで悪いけどな……」

 不器用ながらも真剣に見える言葉。
ジャンヌはそれを「愛情」だと受け取り、胸の奥に温かい喜びが広がっていく。

「……トーマス。今日、泊まっていく…」

 頬を染めながら答えた彼女を、トーマスは嬉しそうに抱き寄せた。

「ありがとう。ジャンヌを満足させたいんだ」

 だが、その胸の奥では――ハルディへの強い渇望が、燃え続けていた。




 二人は寝室に移動して、ベッドに腰掛けたあと、ゆっくりと距離を縮め、互いに横たわった。

 トーマスはジャンヌの髪を優しくかき上げ、耳元で低く囁いた。

「大丈夫。ジャンヌが気持ちいいように、全部、俺に任せてほしい」

 ジャンヌの呼吸が少し乱れた。
 トーマスの顔がゆっくりと近づき、唇が重なる。彼の舌がジャンヌの唇をなぞったあと、口内に侵入していく。

 お互いの舌を絡め、唾液が交じり合う。
 うっとりした表情のジャンヌを見つめながら、トーマスの大きな手が彼女の胸に触れ、やわかく触り始める。

 彼の指は、ジャンヌのワンピースのボタンを外し、下着をゆっくりと脱がしていく。

 ジャンヌは、羞恥に頬が赤くなる。裸はもう何度も見られているのに、この瞬間はいつも気恥ずかしかった。

 だが、今日は、自分に慎重に触れるトーマスの手に身を委ねていく。

「トーマス…」
 ジャンヌは潤んだ眼差しでトーマスを見上げた。トーマスは、その眼差しを柔らかく受け止めながら、熱の籠った瞳で見つめ返す。

「ジャンヌ……」
 吐息を吐き出すように名前を呼ばれて、ジャンヌは心を震わせていた。



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