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次の休日――。
トーマスとハルディは、お昼前に待ち合わせをしていた。
街は市の立つ日で、人出が多い。
露店の布地が風に揺れ、香辛料の匂いが石畳に薄く降りている。
ハルディは陽の当たる側を歩き、ときどきトーマスの歩幅に合わせて足を緩めた。
「この通り、好きなの。昼下がりは光がきれいでしょ?」
振り向くたび、肩越しにのぞく笑みが軽やかだ。白いワンピースの裾が揺れる。色白の彼女には白がよく似合っていた。
「トーマスって、建物を見るとつい立ち止まるのね」
「え? ……あ、すみません」
「いいのよ。ほら、あのアーチ、あなたの話を聞くまで気づかなかったわ」
褒められているのか転がされているのか判然とせず、頬が熱くなる。
並んだ肩に、ほんの一瞬触れては離れる――その軽い触れ合いだけで、体の芯に火が移るのを自覚してしまう。
「ふふ、緊張してるの?」
甘い声で上目づかいに問われる。
「っ……少しだけ……」
思わず視線を逸らすトーマスの前に、視線の先へ入り込むようにハルディが微笑んだ。
「私も緊張しているの。トーマスがカッコいいから、隣にいるだけでドキドキしちゃう」
「っ!?」
ハルディはトーマスの右手を取って、自分の胸もとにそっと当てた。柔らかな感触に、彼の鼓動が早まる。
「伝わる? 私もドキドキしているの。
お互い慣れるように、手をつなごうよ」
「っ、は、はい」
「ふふ、可愛い」
赤くなるトーマスを見上げながら、ハルディはつないだ手をぎゅっと握りしめた。
*
人通りを抜け、二人は新しくできたカフェへ入った。磨かれた木のテーブル、窓辺の白いカーテンが風に揺れる。
ハルディはメニューを開き、トーマスへ差し出す。
「おすすめを二つ。トーマスが選んで?」
「え、でも……俺、甘いもの苦手で」
「じゃあ一つは控えめにしましょう。もう一つは、私が君に似合うと思うものを選ぶわ」
会話は彼女が軽やかにリードし、要所でトーマスに決めさせる。主導権と譲歩の配分が絶妙だ。
香りのよい茶が運ばれ、焼き菓子が皿に置かれるころ、トーマスは自分の声色が半音明るくなっているのに気づいた。
「だいぶ緊張はとれた?」
「……はい。とれたと思います」
「トーマス、敬語はいらないよ。私のことは名前で呼んでね」
そう言いながら、彼女は砂糖壺をトーマスの手元へ滑らせる。その一拍遅れて、指が彼の甲をかすめた。
そのささやかな触感に、理性の灯りがふっと消える。喉が渇き、窓の外の音が遠のく。――欲が、静かにあおられた。
「手、大きいね。指も長くてきれい」
「えっ、そうかな……」
「ほら、私なんて背が低いから手も小さいの」
ハルディが目の前で手を広げ、トーマスの手のひらに重ねる。小さな手に、自分の指を絡めたくなる衝動が生まれる。
「私、指がきれいな人、好き」
意味深に呟く口元から目が離せない。トーマスは思わず息を呑んだ。
このあとの会話に、彼はうまく集中できず、熱のこもった視線で彼女を見つめるばかりだった。
*
店を出るころには、日は沈みかけていた。
夕焼けを背に、街なかで手をつないで歩く二人。影が重なって伸びる。
「ねえ、トーマス……」
ハルディが立ち止まり、見上げてくる。
「返事、聞かせてほしいな」
甘く見つめられ、彼女の口角が上がる。
トーマスの心臓がひとつ跳ね、腹の底で決意が固まる。真っ直ぐに彼女を見て言った。
「……あの、俺も好きです」
ハルディは目を瞬かせ、次いでゆっくり微笑む。そのまま身を寄せ、彼の頬に唇を触れさせた。軽く、しかし確かな印を残すように。
「本当? 嬉しい……トーマス、キスして?」
その一言に、頭が沸騰しそうになるのをこらえ、トーマスは彼女の唇に自分の唇を寄せる。ハルディの唇がゆっくり開き、舌先が彼の唇をなぞった。
「!!」
艶めかしい感触に、トーマスも応え、口を開いて舌を絡める。
激しい口づけのあと、ハルディはうっとりとした表情で囁いた。
「ねえ――今日は、私の部屋に来る?」
返事はもう用意されていた。
喉から出た声は自分のものとは思えないほど素直で、絡んだ指先に合わせるように、トーマスは静かに頷いた。
トーマスとハルディは、お昼前に待ち合わせをしていた。
街は市の立つ日で、人出が多い。
露店の布地が風に揺れ、香辛料の匂いが石畳に薄く降りている。
ハルディは陽の当たる側を歩き、ときどきトーマスの歩幅に合わせて足を緩めた。
「この通り、好きなの。昼下がりは光がきれいでしょ?」
振り向くたび、肩越しにのぞく笑みが軽やかだ。白いワンピースの裾が揺れる。色白の彼女には白がよく似合っていた。
「トーマスって、建物を見るとつい立ち止まるのね」
「え? ……あ、すみません」
「いいのよ。ほら、あのアーチ、あなたの話を聞くまで気づかなかったわ」
褒められているのか転がされているのか判然とせず、頬が熱くなる。
並んだ肩に、ほんの一瞬触れては離れる――その軽い触れ合いだけで、体の芯に火が移るのを自覚してしまう。
「ふふ、緊張してるの?」
甘い声で上目づかいに問われる。
「っ……少しだけ……」
思わず視線を逸らすトーマスの前に、視線の先へ入り込むようにハルディが微笑んだ。
「私も緊張しているの。トーマスがカッコいいから、隣にいるだけでドキドキしちゃう」
「っ!?」
ハルディはトーマスの右手を取って、自分の胸もとにそっと当てた。柔らかな感触に、彼の鼓動が早まる。
「伝わる? 私もドキドキしているの。
お互い慣れるように、手をつなごうよ」
「っ、は、はい」
「ふふ、可愛い」
赤くなるトーマスを見上げながら、ハルディはつないだ手をぎゅっと握りしめた。
*
人通りを抜け、二人は新しくできたカフェへ入った。磨かれた木のテーブル、窓辺の白いカーテンが風に揺れる。
ハルディはメニューを開き、トーマスへ差し出す。
「おすすめを二つ。トーマスが選んで?」
「え、でも……俺、甘いもの苦手で」
「じゃあ一つは控えめにしましょう。もう一つは、私が君に似合うと思うものを選ぶわ」
会話は彼女が軽やかにリードし、要所でトーマスに決めさせる。主導権と譲歩の配分が絶妙だ。
香りのよい茶が運ばれ、焼き菓子が皿に置かれるころ、トーマスは自分の声色が半音明るくなっているのに気づいた。
「だいぶ緊張はとれた?」
「……はい。とれたと思います」
「トーマス、敬語はいらないよ。私のことは名前で呼んでね」
そう言いながら、彼女は砂糖壺をトーマスの手元へ滑らせる。その一拍遅れて、指が彼の甲をかすめた。
そのささやかな触感に、理性の灯りがふっと消える。喉が渇き、窓の外の音が遠のく。――欲が、静かにあおられた。
「手、大きいね。指も長くてきれい」
「えっ、そうかな……」
「ほら、私なんて背が低いから手も小さいの」
ハルディが目の前で手を広げ、トーマスの手のひらに重ねる。小さな手に、自分の指を絡めたくなる衝動が生まれる。
「私、指がきれいな人、好き」
意味深に呟く口元から目が離せない。トーマスは思わず息を呑んだ。
このあとの会話に、彼はうまく集中できず、熱のこもった視線で彼女を見つめるばかりだった。
*
店を出るころには、日は沈みかけていた。
夕焼けを背に、街なかで手をつないで歩く二人。影が重なって伸びる。
「ねえ、トーマス……」
ハルディが立ち止まり、見上げてくる。
「返事、聞かせてほしいな」
甘く見つめられ、彼女の口角が上がる。
トーマスの心臓がひとつ跳ね、腹の底で決意が固まる。真っ直ぐに彼女を見て言った。
「……あの、俺も好きです」
ハルディは目を瞬かせ、次いでゆっくり微笑む。そのまま身を寄せ、彼の頬に唇を触れさせた。軽く、しかし確かな印を残すように。
「本当? 嬉しい……トーマス、キスして?」
その一言に、頭が沸騰しそうになるのをこらえ、トーマスは彼女の唇に自分の唇を寄せる。ハルディの唇がゆっくり開き、舌先が彼の唇をなぞった。
「!!」
艶めかしい感触に、トーマスも応え、口を開いて舌を絡める。
激しい口づけのあと、ハルディはうっとりとした表情で囁いた。
「ねえ――今日は、私の部屋に来る?」
返事はもう用意されていた。
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