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本編【シャーロット】
昇進祝いパーティー4 地下倉庫
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パーティー会場の人の動きが激しいおかげで、ロイとカレンは立ち入り禁止であろう地下倉庫にまで容易に到達できた。
「どういうことなんですか? パトリックが婚約者って」
「うん、兄さんと結婚しても構わないっていうのがうちの一族の考え方なの。その……」
「近親相姦ですね」
「そう……。でも、パトリック兄さんと私は、本当に血が繋がっていないの」
「なるほど。都合のいいつがいということですね」
ロイは皮肉めいた声で言い放った。
「ロイくん、どうしてこんなところに」
「どうしてって、大事な情報でしょう。なぜ教えてくれなかったんですか?」
「ごめんなさい。だって……」
カレンは顔を赤らめた。
「もういいですよ。パトリックと仲良くしておけば、次期当主である貴女にも都合がいいでしょう? 当主の夫になる男ですから」
「え? うん、それは確かにその通りだけど」
ロイはあからさまにため息をついた。
「ですが、僕と貴女が付き合っている旨を告白した時、彼、あからさまに不機嫌になりましたよね」
「……そうね。本当は、私に恋人なんて作ってほしくないんだと思う」
「でも、良いこともありました。彼、思わず自分の家族が歪な一族であることを暴露していました」
「どういうこと?」
「『親戚扱い』などとは言っていましたが、あなた方二人は戸籍上、れっきとした兄妹ですよね」
「うん。兄さん、そこは濁したつもりだったんだろうけど、本当にその通りよ。もしかして、そこまで調べたの?」
「僕ではありませんが、いろいろと情報は持っています。近親交配の件も」
「そう……」
「そういえば、ここは暗いですね。もっと奥の窓の近くまで行きましょう」
カレンはそれに応じた。
天井と地面に接する小窓から、月明かりが差している。
ロイにとって、カレンは特別不美人ではないが(むしろ容姿だけなら美しいほうだとは思っていたが)、かと言って特に心惹かれるというわけでもなく、むしろカレンを軽蔑していた。
地味で、どこか冴えなくて、頼りなくて、パッとしない。
ロイに言わせれば、カレンは壊れかけたブリキの人形のようだった。
ところが、どうしたことか、今目の前にいるカレンは、薄青色の花びらを纏った妖精のように優美で、神秘的だった。月光に照らされて、儚げに佇んでいるようにも見えた。
審美眼に多少の覚えがある(つもりでいる)ロイにも、今のカレンの美しさを認めざるを得なかった。
そうして彼は不覚にも、ほんの二、三秒とは言えカレンに目を奪われ、幻想を見ているような感覚にさえ陥った。
当のカレンは、ロイが抱いた思いがけない戸惑いの気持ちなどつゆ知らず、露わになった自分のドレス姿に気が付き、「やっぱり派手だよね……」と子犬のように目をキョロキョロと泳がせて、恥ずかしそうに、そして自信なさげに顔を赤らめた。
それに対してロイは、持ち前の演技力で、まるで本当のお世辞を言っているかのように聞こえるような口調で、「とてもよく似合っていますよ」と無難な言葉で返しておいた。
カレンは無言で、気まずそうに笑った。
素直に心動かされた事実を受け入れれば良いものを、それがたいそう悔しかったのか、ロイは「なるほど、衣装と化粧が組み合わさると、この人でもこうも化ける余地があるものなんだな」というねじ曲がった考えを自分に言い聞かせた。
そのくせ、カレンが会場で人目を引いたりダンスを申し込まれたりするのではないかという想像が頭をよぎると、なぜか無性に腹が立ったような気分になって、用が終わったにも関わらず、あろうことか、カレンをそのまま地下倉庫に引き留めてしまった。
「どういうことなんですか? パトリックが婚約者って」
「うん、兄さんと結婚しても構わないっていうのがうちの一族の考え方なの。その……」
「近親相姦ですね」
「そう……。でも、パトリック兄さんと私は、本当に血が繋がっていないの」
「なるほど。都合のいいつがいということですね」
ロイは皮肉めいた声で言い放った。
「ロイくん、どうしてこんなところに」
「どうしてって、大事な情報でしょう。なぜ教えてくれなかったんですか?」
「ごめんなさい。だって……」
カレンは顔を赤らめた。
「もういいですよ。パトリックと仲良くしておけば、次期当主である貴女にも都合がいいでしょう? 当主の夫になる男ですから」
「え? うん、それは確かにその通りだけど」
ロイはあからさまにため息をついた。
「ですが、僕と貴女が付き合っている旨を告白した時、彼、あからさまに不機嫌になりましたよね」
「……そうね。本当は、私に恋人なんて作ってほしくないんだと思う」
「でも、良いこともありました。彼、思わず自分の家族が歪な一族であることを暴露していました」
「どういうこと?」
「『親戚扱い』などとは言っていましたが、あなた方二人は戸籍上、れっきとした兄妹ですよね」
「うん。兄さん、そこは濁したつもりだったんだろうけど、本当にその通りよ。もしかして、そこまで調べたの?」
「僕ではありませんが、いろいろと情報は持っています。近親交配の件も」
「そう……」
「そういえば、ここは暗いですね。もっと奥の窓の近くまで行きましょう」
カレンはそれに応じた。
天井と地面に接する小窓から、月明かりが差している。
ロイにとって、カレンは特別不美人ではないが(むしろ容姿だけなら美しいほうだとは思っていたが)、かと言って特に心惹かれるというわけでもなく、むしろカレンを軽蔑していた。
地味で、どこか冴えなくて、頼りなくて、パッとしない。
ロイに言わせれば、カレンは壊れかけたブリキの人形のようだった。
ところが、どうしたことか、今目の前にいるカレンは、薄青色の花びらを纏った妖精のように優美で、神秘的だった。月光に照らされて、儚げに佇んでいるようにも見えた。
審美眼に多少の覚えがある(つもりでいる)ロイにも、今のカレンの美しさを認めざるを得なかった。
そうして彼は不覚にも、ほんの二、三秒とは言えカレンに目を奪われ、幻想を見ているような感覚にさえ陥った。
当のカレンは、ロイが抱いた思いがけない戸惑いの気持ちなどつゆ知らず、露わになった自分のドレス姿に気が付き、「やっぱり派手だよね……」と子犬のように目をキョロキョロと泳がせて、恥ずかしそうに、そして自信なさげに顔を赤らめた。
それに対してロイは、持ち前の演技力で、まるで本当のお世辞を言っているかのように聞こえるような口調で、「とてもよく似合っていますよ」と無難な言葉で返しておいた。
カレンは無言で、気まずそうに笑った。
素直に心動かされた事実を受け入れれば良いものを、それがたいそう悔しかったのか、ロイは「なるほど、衣装と化粧が組み合わさると、この人でもこうも化ける余地があるものなんだな」というねじ曲がった考えを自分に言い聞かせた。
そのくせ、カレンが会場で人目を引いたりダンスを申し込まれたりするのではないかという想像が頭をよぎると、なぜか無性に腹が立ったような気分になって、用が終わったにも関わらず、あろうことか、カレンをそのまま地下倉庫に引き留めてしまった。
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