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本編【シャーロット】
昇進祝いパーティー10 真相
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ロイとシャーロット、二人が時間差を空けて戻ると、年配の執事と二人組の警察官に出迎えられた。
「シャーロット様。不審者、不審物は未だ見つかっておりません。恐れながら、この方々のボディチェックはもう済ませてしまいました。残るはそちらのロイ様だけでございます」
パトリックが「やれやれ」と両手をひらつかせる。
ロイは再び心の中で舌打ちした。
しつこいな。
「構いませんよ」
ロイは言った。
「何も見つからないと思いますよ」
シャーロットも擁護する。
一同が見守る中、ロイがボディチェックを受ける。
ところが、何もおかしなものは見つからなかった。
恐る恐る見ていたカレンも安堵する。
それでは、あのキーピックはどこに行ったのか?
まさか、とカレンはシャーロットを見た。
唯一ボディチェックなど受ける必要がない人物。
彼女が持っているに違いない、とカレンは思った。
その瞬間、嫉妬と似ても似つかない暗い気持ちに襲われた。
どうして私じゃないんだろう……。
あんなに抱擁し合って体が密着している時に預けたのかもしれない。
そうじゃなかったら、いったい何をやっていたんだろう?
(ロイくんの恋人は私なのに……)
カレンは、とめどなく溢れてくる後ろ暗い考えを払拭しようと頭を振った。
「大変失礼致しました。ご協力ありがとうございました」
執事はロイに向かって深々と頭を下げる。
シャーロットに向き直ると、言った。
「シャーロット様。会場全員のボディチェックの結果、異常は見られませんでした」
「そう……」
シャーロットは冷や汗を悟られないように努力した。
ロイから預かったペンが腰のポケットに入っているままだ。
「便利だから」とポケットを作らせておいてよかった、安堵したものの、もし見つかったらんでもないことになりかねない。
キーピックだなんて。
「シャーロット様。私どもからの提案でございますが、本日のパーティーは、非常に残念ですがお開きにしてしまった方がよろしいのでは?」
「お開き?」
「はい。その後、シャーロット様御一行の事情聴取もお願いしたいと申しております」
警察官二人が会釈する。
「わかりました。それでいいと思います」
シャーロットは同意した。
同時に、ロイの言葉を思い返していた。
『昔、フリュッセンの村でスパイをやっていた時の癖が抜けなくて、今でも持ち歩いているんだ』
執事と警察官たちの誘導に従い、次々と客が列をなしていく。
一行は、その行列を遠目で見ながら立ち尽くしていた。
「終わっちゃったねぇ。一体なんだったんだろう? 放火犯は何がしたかったのかな?」
パトリックが言う。
「残念ね。シャーロット……」
カレンがシャーロットの背中をさする。
「ありがとう。でもいいの。私もちょうど疲れてたし……」
「犯人は分からずじまいだね。許せないけど」
ミーシャが言う。
「シャーロットさん、あれを見せてあげてください」
「えっ?!」
シャーロットが素っ頓狂な声を上げる。
「嘘でしょ」
「いいから」
シャーロットは、ペンを取り出した。なんの変哲もないキャップ付きのペンだ。
アリスは顔を顰める。
パトリックは興味津々そうに見つめている。
「これ、実はキーピックになっていて、僕とカレンさんが倉庫から脱出できたのはこれのおかげなんです」
パトリックとミーシャが「えっ?」と声を上げた。
「見てもいい?」
パトリックが訊ねる。
「どうぞ」
キャップを外すと、確かにキーピックが現れた。
「すごい……」
パトリックは驚嘆した。
「どうしてこんなものを持ってるの?」
ミーシャが訊ねる。
「昔からの癖です。昔、戦争があった時、僕スパイだったんですよ」
ロイがつらつらと説明するのを、カレンは絶句して聞いているしかなかった。
「スパイというより、レジスタンスの類なのかな? そういう地域はたくさんあったって聞いたことはあるけど」
パトリックが補足する。
「はい、それです」
「さっきの話に戻るけど、『あなたとカレンが脱出できた』ってどういうこと?」
シャーロットが話を戻す。
「最初は開いていたはずの鍵が、後から閉まっていたんです」
「それって、あなたたちを閉じ込めた人間がいるってこと?」
「僕たちの存在に気づいていたかいないかは別として、そういうことになりますね」
「そう……」
「そいつがテロリストだろうねぇ。真相は闇の中だけド」
パトリックが言う。
自分が元スパイだというロイの告白は、とてつもない衝撃波を残した。
一行は、驚嘆のあまり言葉を失っていた。
「自分だけが知っているロイの秘密」があるつもりのカレンやシャーロットも例外ではなく、まだまだ知らないロイの過去に胸を痛めた。
パトリックは、今回のパーティーで思ったほどロイと会話ができなかったことを悔やむ一方、非常に興味をそそられる人物としてロイをマークするに至った。
「シャーロット様。不審者、不審物は未だ見つかっておりません。恐れながら、この方々のボディチェックはもう済ませてしまいました。残るはそちらのロイ様だけでございます」
パトリックが「やれやれ」と両手をひらつかせる。
ロイは再び心の中で舌打ちした。
しつこいな。
「構いませんよ」
ロイは言った。
「何も見つからないと思いますよ」
シャーロットも擁護する。
一同が見守る中、ロイがボディチェックを受ける。
ところが、何もおかしなものは見つからなかった。
恐る恐る見ていたカレンも安堵する。
それでは、あのキーピックはどこに行ったのか?
まさか、とカレンはシャーロットを見た。
唯一ボディチェックなど受ける必要がない人物。
彼女が持っているに違いない、とカレンは思った。
その瞬間、嫉妬と似ても似つかない暗い気持ちに襲われた。
どうして私じゃないんだろう……。
あんなに抱擁し合って体が密着している時に預けたのかもしれない。
そうじゃなかったら、いったい何をやっていたんだろう?
(ロイくんの恋人は私なのに……)
カレンは、とめどなく溢れてくる後ろ暗い考えを払拭しようと頭を振った。
「大変失礼致しました。ご協力ありがとうございました」
執事はロイに向かって深々と頭を下げる。
シャーロットに向き直ると、言った。
「シャーロット様。会場全員のボディチェックの結果、異常は見られませんでした」
「そう……」
シャーロットは冷や汗を悟られないように努力した。
ロイから預かったペンが腰のポケットに入っているままだ。
「便利だから」とポケットを作らせておいてよかった、安堵したものの、もし見つかったらんでもないことになりかねない。
キーピックだなんて。
「シャーロット様。私どもからの提案でございますが、本日のパーティーは、非常に残念ですがお開きにしてしまった方がよろしいのでは?」
「お開き?」
「はい。その後、シャーロット様御一行の事情聴取もお願いしたいと申しております」
警察官二人が会釈する。
「わかりました。それでいいと思います」
シャーロットは同意した。
同時に、ロイの言葉を思い返していた。
『昔、フリュッセンの村でスパイをやっていた時の癖が抜けなくて、今でも持ち歩いているんだ』
執事と警察官たちの誘導に従い、次々と客が列をなしていく。
一行は、その行列を遠目で見ながら立ち尽くしていた。
「終わっちゃったねぇ。一体なんだったんだろう? 放火犯は何がしたかったのかな?」
パトリックが言う。
「残念ね。シャーロット……」
カレンがシャーロットの背中をさする。
「ありがとう。でもいいの。私もちょうど疲れてたし……」
「犯人は分からずじまいだね。許せないけど」
ミーシャが言う。
「シャーロットさん、あれを見せてあげてください」
「えっ?!」
シャーロットが素っ頓狂な声を上げる。
「嘘でしょ」
「いいから」
シャーロットは、ペンを取り出した。なんの変哲もないキャップ付きのペンだ。
アリスは顔を顰める。
パトリックは興味津々そうに見つめている。
「これ、実はキーピックになっていて、僕とカレンさんが倉庫から脱出できたのはこれのおかげなんです」
パトリックとミーシャが「えっ?」と声を上げた。
「見てもいい?」
パトリックが訊ねる。
「どうぞ」
キャップを外すと、確かにキーピックが現れた。
「すごい……」
パトリックは驚嘆した。
「どうしてこんなものを持ってるの?」
ミーシャが訊ねる。
「昔からの癖です。昔、戦争があった時、僕スパイだったんですよ」
ロイがつらつらと説明するのを、カレンは絶句して聞いているしかなかった。
「スパイというより、レジスタンスの類なのかな? そういう地域はたくさんあったって聞いたことはあるけど」
パトリックが補足する。
「はい、それです」
「さっきの話に戻るけど、『あなたとカレンが脱出できた』ってどういうこと?」
シャーロットが話を戻す。
「最初は開いていたはずの鍵が、後から閉まっていたんです」
「それって、あなたたちを閉じ込めた人間がいるってこと?」
「僕たちの存在に気づいていたかいないかは別として、そういうことになりますね」
「そう……」
「そいつがテロリストだろうねぇ。真相は闇の中だけド」
パトリックが言う。
自分が元スパイだというロイの告白は、とてつもない衝撃波を残した。
一行は、驚嘆のあまり言葉を失っていた。
「自分だけが知っているロイの秘密」があるつもりのカレンやシャーロットも例外ではなく、まだまだ知らないロイの過去に胸を痛めた。
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追記(2021/10/7)
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更に追記(2022/3/9)
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