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本編【シャーロット】
昇進祝いパーティー
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シャーロット・フォン・ルッツ少佐の昇進祝いパーティが催される。
カレンはもちろん誘われた。
あとは、パートナー選びだけだ。
「すごく言いにくいんだけど」とカレンに話を切り出されたロイは、案の定面倒臭そうな様子だった。
「はい?」
当然の反応だ、とカレンは思った。そもそも自分はパーティーに進んで参加するようなタイプではないし、正直打ち解けた気がしていないロイを誘うなんてとんでもない。それに、あえて彼を誘うなんて、それはまるで……「ロイの他に異性の友達(と言うより友達自体)がいない」と宣言しているようなものではないか。
「他の『お友達』を誘えばいいじゃないですか。どうして僕なんです」
「うん……。そうだよね」
ぐうの音も出ないまま、苦笑いを保つしかなかった。
「お兄さんたちは? 一人くらい暇なお兄さんはいないんですか」
「ううん。兄さんたちはみんな忙しいの。でも、パトリック兄さんは参加するみたい」
ロイの記憶が正しければ、パトリックはアシュリー家の兄妹でも一番厄介なカレンの兄である。
「兄さん、『オレじゃなくて男友達を連れておいで。せっかくだから』って」
ロイは無言のままである。
「一緒に行ってくれたらそれでいいの。何もしなくていいから……ダンスとか」
「当たり前でしょう」
そう返されて、この時ばかりは安堵した。正直、人前で二人一組になって踊るダンスなんて踊りたくもない。
「シャーロットの昇進をちゃんと祝ってあげたいの。でも私が一人で行ったりなんてしたら、きっとすごい浮いちゃうし、シャーロットに悪いから……!」
カレンの捲し立てるような懇願を、ロイはいよいよ怪訝な顔で聞いていた。
「わかりました。いいですよ。シャーロット・フォン・ルッツ少佐は、今世間が騒ぎ立てている有名人でしょう。一度お会いするのもいいと思っていたんですよ」
「本当!? ありがとう。でもあの子、目立つのとか好きじゃないと思うし、ちょっとかわいそうだなぁ。すごい人に変わりはないんだけど、そんなに注目されちゃって……。ちゃんと寝れてるのかなぁ?」
いつの間にかそのシャーロットへの同情に移ってしまっていた話を、ロイは案外真剣に聞いているようだった。それがなぜかはわからないが、「世間の話題」に関することなら、彼は進んで耳を貸すようになるのかもしれないと独自の見解を導き出した。
「美味しいお料理もたくさん食べられるはず」と咄嗟に付け加えたが、食に関心が薄いロイにとっては何の足しにもならなかった。
ところが、シャーロットの軍の知り合いが複数人パーティーに参加する旨も話してみると、どのような動機でその結論を出したのかはカレンにも謎だったが、結局は「仕方ないですね」と二度目の了承をした。
この一連の会話のせいで、カレンは、相変わらずよく分からない読めない人だけど、きっと自分が社会に対する知識を深めたら、ロイとはもっと仲良く会話ができるようになるはずだと、見込み違いの期待を抱いてしまったのだった。
不思議な偶然の一致だった。
同日夜、ロイもアリスも、シャーロットの昇進祝いのパーティーに参加するよう、『父』エドワードから指令を受けた。
灰色の髪を綺麗になでつけ、上質な背広を身につけている、初老の男性だ。その表情には、ロイやアリスをスパイとして使うことへの憐憫の情など一切現れていない。
普通では一気に読めない分厚いファイル。
だがロイは一瞥すると一言呟いた。
「カレンの情報が多いですね」
「シャーロットだけが目的じゃないんですね」
アリスが付け加える。
「そうだ。
お前の読みは正しかった。アシュリー家と繋がっていれば、帝国の人体実験の情報にまでアクセスできるかもしれない。だが、カレンだけでは不十分。兄のパトリック・アシュリーやシャーロットとも接触し、交友関係を作ってこい」
「わかりました」
「今回は『お人形』作りじゃなくて、『お友達』作りですね」
ロイとアリスはすぐさまそのファイルをライターで燃やし尽くした。
カレンはもちろん誘われた。
あとは、パートナー選びだけだ。
「すごく言いにくいんだけど」とカレンに話を切り出されたロイは、案の定面倒臭そうな様子だった。
「はい?」
当然の反応だ、とカレンは思った。そもそも自分はパーティーに進んで参加するようなタイプではないし、正直打ち解けた気がしていないロイを誘うなんてとんでもない。それに、あえて彼を誘うなんて、それはまるで……「ロイの他に異性の友達(と言うより友達自体)がいない」と宣言しているようなものではないか。
「他の『お友達』を誘えばいいじゃないですか。どうして僕なんです」
「うん……。そうだよね」
ぐうの音も出ないまま、苦笑いを保つしかなかった。
「お兄さんたちは? 一人くらい暇なお兄さんはいないんですか」
「ううん。兄さんたちはみんな忙しいの。でも、パトリック兄さんは参加するみたい」
ロイの記憶が正しければ、パトリックはアシュリー家の兄妹でも一番厄介なカレンの兄である。
「兄さん、『オレじゃなくて男友達を連れておいで。せっかくだから』って」
ロイは無言のままである。
「一緒に行ってくれたらそれでいいの。何もしなくていいから……ダンスとか」
「当たり前でしょう」
そう返されて、この時ばかりは安堵した。正直、人前で二人一組になって踊るダンスなんて踊りたくもない。
「シャーロットの昇進をちゃんと祝ってあげたいの。でも私が一人で行ったりなんてしたら、きっとすごい浮いちゃうし、シャーロットに悪いから……!」
カレンの捲し立てるような懇願を、ロイはいよいよ怪訝な顔で聞いていた。
「わかりました。いいですよ。シャーロット・フォン・ルッツ少佐は、今世間が騒ぎ立てている有名人でしょう。一度お会いするのもいいと思っていたんですよ」
「本当!? ありがとう。でもあの子、目立つのとか好きじゃないと思うし、ちょっとかわいそうだなぁ。すごい人に変わりはないんだけど、そんなに注目されちゃって……。ちゃんと寝れてるのかなぁ?」
いつの間にかそのシャーロットへの同情に移ってしまっていた話を、ロイは案外真剣に聞いているようだった。それがなぜかはわからないが、「世間の話題」に関することなら、彼は進んで耳を貸すようになるのかもしれないと独自の見解を導き出した。
「美味しいお料理もたくさん食べられるはず」と咄嗟に付け加えたが、食に関心が薄いロイにとっては何の足しにもならなかった。
ところが、シャーロットの軍の知り合いが複数人パーティーに参加する旨も話してみると、どのような動機でその結論を出したのかはカレンにも謎だったが、結局は「仕方ないですね」と二度目の了承をした。
この一連の会話のせいで、カレンは、相変わらずよく分からない読めない人だけど、きっと自分が社会に対する知識を深めたら、ロイとはもっと仲良く会話ができるようになるはずだと、見込み違いの期待を抱いてしまったのだった。
不思議な偶然の一致だった。
同日夜、ロイもアリスも、シャーロットの昇進祝いのパーティーに参加するよう、『父』エドワードから指令を受けた。
灰色の髪を綺麗になでつけ、上質な背広を身につけている、初老の男性だ。その表情には、ロイやアリスをスパイとして使うことへの憐憫の情など一切現れていない。
普通では一気に読めない分厚いファイル。
だがロイは一瞥すると一言呟いた。
「カレンの情報が多いですね」
「シャーロットだけが目的じゃないんですね」
アリスが付け加える。
「そうだ。
お前の読みは正しかった。アシュリー家と繋がっていれば、帝国の人体実験の情報にまでアクセスできるかもしれない。だが、カレンだけでは不十分。兄のパトリック・アシュリーやシャーロットとも接触し、交友関係を作ってこい」
「わかりました」
「今回は『お人形』作りじゃなくて、『お友達』作りですね」
ロイとアリスはすぐさまそのファイルをライターで燃やし尽くした。
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