恋を愛して、愛に恋する。

高殿アカリ

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不思議な夜の魔力の中で

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まるで不思議な夜だった

例えるなら、そう

魔力に満ちた夜とでも言えばいいのか



私は迷子の女の子みたいに

ただ彼の手を握っていた

地面には水溜りが落ちていて

時折、ぱしゃりという音がして

私の足が水溜りを踏んづけたんだと理解する



夜露に濡れた地面にヘッドライトが乱反射していて

その様子を私はいつまででも見ていたかったのだけれど

信号が青になれば車は動くので

そうもいかない



彼の親指が私の人差し指に合図を送る

つーとんとん

つーとんとん

たぶんモールス信号を送っているんだ

私はそれを解読できないけど

「愛している」ってことだと

勝手に読み解くことにした



道はずっと真っ直ぐに続いていて

夜の木々は黒々と存在を知らしめている

灰色の空に星は一つも見えなくて

生ぬるい風が私達の間を駆け抜けてゆく



まるで不思議な夜だった

このまま

永遠に彼との関係が続く気もしたし

私が彼を手放す予感もしていた



夜は不思議な魔力に満ちていて

繋ぎ合わせた手だけが道しるべ

私は結局その手を離すんだけど



迷子だった女の子は

いつしか一人で歩いて行けるようになる

そういうもの



だから許して欲しい

いつの日か

私が貴方を置いていったのだとしても



もちろんこれはただの懺悔で

この夜のことは

この、不思議な夜のことは

たぶん一生忘れないだろう



たぶん

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