貴方たちの悪意は倍にしてお返しします

翡翠と太陽

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17.ジュリアン

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 ジュリが私を助けに来たのは偶然だった。

 今朝、疲れてどうしても起きれなかった私は、私の専属侍女のアンナと大騒ぎをしながら支度をして、やっとのことで迎えに来ていた王家の馬車に乗り込んだ。

 いつもの動きやすいワンピースにブーツ、髪は編み込む時間も無く、そのままおろした。

 料理長が馬車の中で食べやすいようにと、ハムやチーズを挟んだパンをランチボックスに用意してくれた。

 いつも持っていく私のバッグには、ローズマリア様の日記が入っている。
 少しでも時間がある時は、読み進めているのだ。
 なにせ61年分あるから、急がないと重要な部分を読めないまま、魔物や瘴気が大量に発生してしまう。

 そしてこのバッグは、私の聖人の御披露目の儀の後に、タイラー先生がプレゼントしたくれた。

 魔道師と呼ばれる方が作ったのだが、私の魔力でしか開かないようになっていて、作る時に私の魔力を流して開け閉めを確認した。
 見た目は小さいのに、バッグを開けると馬が1頭入るくらいの凄いバッグなのだ。

 そのいつもローズマリア様の日記を入れて、大切に持ち歩いているバッグ。

 思い返すと、
お待たせしている王家の馬車に慌てて乗り込み、後ろからアンナが「はいっ!お嬢様バッグです!」と渡してくれたのは、料理長のランチボックスで、走り出した馬車にニコニコと手を振って私を見送っているアンナの手に、私のバッグが握られていた。

 私がいつもバッグを持ち歩くのを知っているジュリが、お嬢様にバッグを渡すのを忘れた~!と騒ぐアンナからバッグを奪い、俺が届けるときかなかったらしい。

 今日たまたまお茶会のあったお母様と、同じ馬車に乗って届ければということになり、お母様をお茶会のある公爵邸で降ろしたあと、そのまま侯爵家の馬車で救護院に来たそうだ。

 そしてあの場面だ。

 私の髪を鷲掴みにして喚くデニスを見たジュリは、迷わず剣を抜いて、デニスの腕を躊躇なく切り落とした。

 私を抱えたまま侯爵邸に戻ってきたジュリは、どんなに皆で説得しても私を離そうとしなかった。

 私の部屋のソファーに、私を横抱きで抱えたまま座り、しっかりと抱え込んで動かない。

 「ねぇジュリ?私はもう大丈夫よ?一人で歩けるわ」

 「そうですよジュリアンさま!お嬢様は今日も歩きやすいブーツを履いています。しかもそれは今朝、私が選んだブーツなんです!…ぁぁバッグは渡し忘れましたが……」

 後半ゴニョゴニョと小声で聞こえなかったが、前半もよくわからないといった表情のあと、猫の威嚇のようにジュリがアンナを睨む。

 「ひぇっっ!えっ?もしかしてこのブーツ、お嬢様は歩きにくかったの?
 あーっ、もう私ってばまた間違えたんだわ、どうして私ってば……バッグも忘れるし……」
 小声でゴニョゴニョと呟いている。

 アンナは通常通りではあるが、今はいつも以上にジュリを刺激するからと、執事のマーカスがアンナを退場させた。

 マーカスが、
 「ジュリアン様、失礼ですがお嬢様の髪もドレスも少々乱れておりますので、ここはヘレン侍女長に任せてはどうかと」
と言うと、

 マーカスの隣にいたヘレンも、
 「そうですよジュリアン様、美しいお嬢様の髪がそのように乱れていては、奥様も驚かれます。さぁ、わたくしにお任せください」

 すると私の髪が掴まれていたのをまた思い出したのか、ジュリは私の頭を右手でさらに抱え込み、髪を掴まれていた辺りに頬ずりをした。

 「アイツは絶対殺す」
 また振り出しに戻って、私の頭に頬ずりをしながらギュウギュウと抱き締めた。

 誰もがこれはもう無理だと諦めて、ジュリの好きなようにさせていると、お父様とお母様が慌てて私の部屋に入って来た。

 お父様が、
 「ユリアナ大丈夫か!?あぁ私の大切なユリアナ!何があった?お父様に全部話しなさい。全員埋めてやるからな。さぁおいで、さぁお父様が抱っこするから、さぁ……… おい、ジュリアン、離しなさい。ジュリアン、ユリアナを離すんだ。おい!ジュリ!離せ!ユリアナは私が抱っこすると決まっているんだ!」

 ジュリは私をガッチリと抱え込み、お父様がどんなに私を奪い取ろうとしても、頑として聞かなかった。

 しばらくしてお父様はゼーハーゼーハーし始め、上着を脱いで汗だくになっていた。

 お母様が優雅にヘレンとお茶を飲んでいるのを見て、私はバスルームに行きたくなってきた。

 「ジュリ、ありがとう私はもう大丈夫よ。ジュリが助けに来てくれて嬉しかったわ」

 そして私はジュリの頬にチュッと唇を付けた。

 お母様とヘレンが、
 「あらまあ、ふふふ」と笑っている。

 ジュリはお父様をあしらっていたが、その瞬間ピタッと固まった。
 見ると顔から耳、首までみるみる真っ赤になっている。

 固まっているジュリの腕をヨイショとよけて、私はジュリの膝から降りて、スタスタとバスルームへ向かった。

 お父様が、
 「おっ、おっ、おのれー、ジュリアンめーーぇ、貴様ぁーユリアナに何をしてくれたー!私だってユリアナには、ユリアナに… くそージュリアンめ!貴様から成敗してくれる!」

 ジュリに飛びかかったお父様が、
 「ぐえぇー」
と、いとも簡単に締め上げられた声が聞こえた。


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