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16.救護院での事件
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ユリアナの1日は、予定がぎっしり詰まっているにも関わらず、突発的な事件や事故で呼び出されたり、事情を知らない貴族からのお茶会やパーティーの誘いがあり頭を悩ませた。
救護院にはほとんど毎日のように行っていた。
第二騎士団の騎士たちは相変わらずだった。
私に対し暴言を吐いた騎士のあの事件の後、第二騎士団は陛下から直接お叱りを受けたと聞いたのに。
それにも関わらず、この横柄な態度は不思議としか言いようがなかった。
あの時から更に2年が経過し、年月が経つと陛下の苦言も無かったことのように、また横暴さが再燃していた。
救護院には院長先生がいるので、タイラー先生はたまにしか同行しなくなっていたため、私一人で治療に行くと、待っていたとばかりに乱暴な言葉を投げ掛けてくる。
「おい来たぜ、偉そうなチビが。あぁ偉そうじゃなくて偉いのか。大先生!どうかわたしを治しください!」
周りにいる、怪我はしているが比較的元気な者たちが、下品に笑い、ヤジを飛ばす。
「おいおいデニス!そんな気持ち悪い芝居はやめて言ってやれよ。お前みたいなチビは片手で捻り潰せるってよ」
「言ってやれ言ってやれ!俺たちが魔物に食い殺されそうな時だって、このチビは優雅に上手いもん食ってやがるんだよ。たまたまこんな力が使えただけで、俺たちの何十倍も金もらいやがってよ!」
聞いてられない稚拙な暴言はいつものことだった。
タイラー先生がいるときは黙っているくせに、私一人だと毎度毎度これだ。
こんな人たちに時間をかけるより、本当に助けを必要としている人のところに行きたい。
それに毎回、大怪我をしてくるのは同じような人ばかり。本当に騎士として訓練しているのか疑いたくなる。
「まっ、この程度の怪我で、このガキにすぐ治してもらえば問題ねえし。これで休みはもらえるし、討伐の怪我なら給金も減らされねえし、見舞金も貰えて良いことだらけだぜ!」
デニスと呼ばれていた男がゲラゲラと笑いながら言った。
さすがに周りの騎士が慌てて、
「おい!デニス黙れよ!ガキが聞いてるじゃねーかよ!あの魔法師に告げ口されたらどうすんだよ!」
心のなかでため息をついた。
こんな人を、真面目に治さなければならないなんて…
聖人だと言われ、その覚悟を持って役割を担ってきたが、この罵倒も暴言もその役割に含まれて当然なのか。
なぜここまで言われなければならないのか。
しかも、あなた達の職務怠慢のために作った傷を、なぜあなたたちに暴言を吐かれながら、丁寧に治療しなければならないのか。
疲れていた。
家族に甘えてのんびりしたくても出来ない。
毎日忙しくて、次のことを考える余裕もない。
泣きたいけど、子供だから泣けばいいと思ってと言われたら泣けなかった。
気が付いたらデニスという男の前に立っていた。
「なんだよ!このガキ」
私はデニスの目を見つめ、
「あなたに子供はいますか?」
と低い声で聞いた。
「なんだコイツ、いいぜ教えてやるよ。お前みたいに生意気じゃなくて、愛想が良くて、すこぶる美人の娘が二人もいるよ。お前と違ってな!あはははっ」
娘が二人もいてこれなのね。
「そうですか、ではその娘さんが仕事中に、娘さんよりもかなり大きな男達に、人前で理不尽に暴言を吐かれ、怒鳴られ、罵られ、泣きたくても泣けない状況ならどう思いますか」
「はっ?はぁぁ?おいお前ふざけんなよ。うちの娘がそんな目に合う訳ねーだろ!はぁ?」
想像力も無いんだわ、そうよね、あったらこんな子供相手にこんなバカなことしないわね。
私は冷静さを欠いていた。
ここでやめておけば良かったものを、口から溢れ出る言葉を止められなかった。
「分かりました。知らないと思うので教えてあげますが、私にも父がいます。毎日私が元気で楽しそうにしていると、とても喜んでくれて私を大切に思ってくれています。
ここに来たらいつも思うことがあります。あなた達みたいな人が父親じゃなくて本当に良かったと」
デニスはみるみる顔を真っ赤にして
「てっめえ!コノヤロウ──」
「やめろ!デニス!もうやめろっ!」
さっきまでデニスと一緒に暴言を吐いていた男が叫んだ。
この男がやめろと言われてやめるわけがない。
デニスは怪我をしていない左手で、私の頭頂部の髪の毛を鷲掴みにした。
物凄く痛くて怖かった。髪がブチブチと抜けて、千切れる音が聞こえた。
痛いと思ったのは数秒だった。
横の壁にドンッと音がしたと思ったら、目の前の床に赤い点が広がっていった。
「ぐわっ、痛ぇぇえーっっ!いてえよー!誰かぁー誰か助けろっ!助けてくれよ!いてえよー!」
デニスが寝台の上でのたうち回っていた。
見ると私の髪の毛を鷲掴みにしていたはずの左手が無かった。正確には肘から先が無かった。
たった今まであった腕は、さっき音がした壁の下に落ちていた。
呆然と立っていると抱き締められた。
「お嬢様、大丈夫ですか?こいつの首も今すぐ切り落としたいのですがよろしいですか?」
ジュリだった。
あとから聞いた話しでは、切り落とした腕が私の視界に入らないよう、すぐに壁の方に蹴り飛ばしたそうだ。
デニスの姿が見えないように、片手で私を抱き締めて、デニスの叫び声を聞かせないように私の片方の耳も押さえている。
なおも痛いとギャーギャー叫ぶデニスに、
「おい、黙れ」
と剣をデニスの太ももに刺した。
さらに叫び声をあげるデニスに、
「黙れと言っている。お前は本当に騎士か?この程度で声をあげるなんて」
ジュリが太ももから剣を抜くと、片手でサッと剣の握りを持ち替え、デニスの体に突き立てようとした。
「ダメよジュリ!やめて!命令よっ!」
物凄い殺気を放っているが、私の声は聞こえている。
ジュリの体にしがみつくと、デニスの体にギリギリ刺さらない位置で剣を止めた。
「ヒッ!」と声を上げ、デニスは少しでも動けば剣が刺さるとわかると、ピタリと暴れるのを止めた。
ジュリは何とか自制し、目の前の男を睨み舌打ちをすると、私を片手で抱えてその部屋から出た。
「ジュリ?どうしてここに?」
どこに歩いて行くのかわからないが、ジュリに抱えられたまま聞いてみる。
「アイツは殺してやる」
ジュリは魔力を発動していないが、救護院の職員が魔物でも見るような目をして避けていく。
私を抱えたまま外に停めてあった馬車に乗り込む。ジュリは剣を鞘に戻し、今度は私を横抱きに抱えて馬車を出発させる。
ジュリに声を掛けるが、私を抱き締める手を強めるだけだ。
ダメだわ、ジュリがこうなったら落ち着くまで待たないと。
ジュリを落ち着かせるように、ジュリの背中に両手を回しギュッと抱き締めた。
するとジュリも私を全身で包み込むように抱き直し腕に力を入れた。
そして、デニスに髪を掴まれていた私の頭を丁寧に撫でる。しばらく撫でると、今度は自分の頬を私の頭に乗せるように当てた。
勝手に帰って来てしまったわ…。
治療しなくてはならない患者がいたけど、重傷ではなかったから明日でも大丈夫ね、デニス以外は。
馬車は侯爵邸に向かっていた。
救護院にはほとんど毎日のように行っていた。
第二騎士団の騎士たちは相変わらずだった。
私に対し暴言を吐いた騎士のあの事件の後、第二騎士団は陛下から直接お叱りを受けたと聞いたのに。
それにも関わらず、この横柄な態度は不思議としか言いようがなかった。
あの時から更に2年が経過し、年月が経つと陛下の苦言も無かったことのように、また横暴さが再燃していた。
救護院には院長先生がいるので、タイラー先生はたまにしか同行しなくなっていたため、私一人で治療に行くと、待っていたとばかりに乱暴な言葉を投げ掛けてくる。
「おい来たぜ、偉そうなチビが。あぁ偉そうじゃなくて偉いのか。大先生!どうかわたしを治しください!」
周りにいる、怪我はしているが比較的元気な者たちが、下品に笑い、ヤジを飛ばす。
「おいおいデニス!そんな気持ち悪い芝居はやめて言ってやれよ。お前みたいなチビは片手で捻り潰せるってよ」
「言ってやれ言ってやれ!俺たちが魔物に食い殺されそうな時だって、このチビは優雅に上手いもん食ってやがるんだよ。たまたまこんな力が使えただけで、俺たちの何十倍も金もらいやがってよ!」
聞いてられない稚拙な暴言はいつものことだった。
タイラー先生がいるときは黙っているくせに、私一人だと毎度毎度これだ。
こんな人たちに時間をかけるより、本当に助けを必要としている人のところに行きたい。
それに毎回、大怪我をしてくるのは同じような人ばかり。本当に騎士として訓練しているのか疑いたくなる。
「まっ、この程度の怪我で、このガキにすぐ治してもらえば問題ねえし。これで休みはもらえるし、討伐の怪我なら給金も減らされねえし、見舞金も貰えて良いことだらけだぜ!」
デニスと呼ばれていた男がゲラゲラと笑いながら言った。
さすがに周りの騎士が慌てて、
「おい!デニス黙れよ!ガキが聞いてるじゃねーかよ!あの魔法師に告げ口されたらどうすんだよ!」
心のなかでため息をついた。
こんな人を、真面目に治さなければならないなんて…
聖人だと言われ、その覚悟を持って役割を担ってきたが、この罵倒も暴言もその役割に含まれて当然なのか。
なぜここまで言われなければならないのか。
しかも、あなた達の職務怠慢のために作った傷を、なぜあなたたちに暴言を吐かれながら、丁寧に治療しなければならないのか。
疲れていた。
家族に甘えてのんびりしたくても出来ない。
毎日忙しくて、次のことを考える余裕もない。
泣きたいけど、子供だから泣けばいいと思ってと言われたら泣けなかった。
気が付いたらデニスという男の前に立っていた。
「なんだよ!このガキ」
私はデニスの目を見つめ、
「あなたに子供はいますか?」
と低い声で聞いた。
「なんだコイツ、いいぜ教えてやるよ。お前みたいに生意気じゃなくて、愛想が良くて、すこぶる美人の娘が二人もいるよ。お前と違ってな!あはははっ」
娘が二人もいてこれなのね。
「そうですか、ではその娘さんが仕事中に、娘さんよりもかなり大きな男達に、人前で理不尽に暴言を吐かれ、怒鳴られ、罵られ、泣きたくても泣けない状況ならどう思いますか」
「はっ?はぁぁ?おいお前ふざけんなよ。うちの娘がそんな目に合う訳ねーだろ!はぁ?」
想像力も無いんだわ、そうよね、あったらこんな子供相手にこんなバカなことしないわね。
私は冷静さを欠いていた。
ここでやめておけば良かったものを、口から溢れ出る言葉を止められなかった。
「分かりました。知らないと思うので教えてあげますが、私にも父がいます。毎日私が元気で楽しそうにしていると、とても喜んでくれて私を大切に思ってくれています。
ここに来たらいつも思うことがあります。あなた達みたいな人が父親じゃなくて本当に良かったと」
デニスはみるみる顔を真っ赤にして
「てっめえ!コノヤロウ──」
「やめろ!デニス!もうやめろっ!」
さっきまでデニスと一緒に暴言を吐いていた男が叫んだ。
この男がやめろと言われてやめるわけがない。
デニスは怪我をしていない左手で、私の頭頂部の髪の毛を鷲掴みにした。
物凄く痛くて怖かった。髪がブチブチと抜けて、千切れる音が聞こえた。
痛いと思ったのは数秒だった。
横の壁にドンッと音がしたと思ったら、目の前の床に赤い点が広がっていった。
「ぐわっ、痛ぇぇえーっっ!いてえよー!誰かぁー誰か助けろっ!助けてくれよ!いてえよー!」
デニスが寝台の上でのたうち回っていた。
見ると私の髪の毛を鷲掴みにしていたはずの左手が無かった。正確には肘から先が無かった。
たった今まであった腕は、さっき音がした壁の下に落ちていた。
呆然と立っていると抱き締められた。
「お嬢様、大丈夫ですか?こいつの首も今すぐ切り落としたいのですがよろしいですか?」
ジュリだった。
あとから聞いた話しでは、切り落とした腕が私の視界に入らないよう、すぐに壁の方に蹴り飛ばしたそうだ。
デニスの姿が見えないように、片手で私を抱き締めて、デニスの叫び声を聞かせないように私の片方の耳も押さえている。
なおも痛いとギャーギャー叫ぶデニスに、
「おい、黙れ」
と剣をデニスの太ももに刺した。
さらに叫び声をあげるデニスに、
「黙れと言っている。お前は本当に騎士か?この程度で声をあげるなんて」
ジュリが太ももから剣を抜くと、片手でサッと剣の握りを持ち替え、デニスの体に突き立てようとした。
「ダメよジュリ!やめて!命令よっ!」
物凄い殺気を放っているが、私の声は聞こえている。
ジュリの体にしがみつくと、デニスの体にギリギリ刺さらない位置で剣を止めた。
「ヒッ!」と声を上げ、デニスは少しでも動けば剣が刺さるとわかると、ピタリと暴れるのを止めた。
ジュリは何とか自制し、目の前の男を睨み舌打ちをすると、私を片手で抱えてその部屋から出た。
「ジュリ?どうしてここに?」
どこに歩いて行くのかわからないが、ジュリに抱えられたまま聞いてみる。
「アイツは殺してやる」
ジュリは魔力を発動していないが、救護院の職員が魔物でも見るような目をして避けていく。
私を抱えたまま外に停めてあった馬車に乗り込む。ジュリは剣を鞘に戻し、今度は私を横抱きに抱えて馬車を出発させる。
ジュリに声を掛けるが、私を抱き締める手を強めるだけだ。
ダメだわ、ジュリがこうなったら落ち着くまで待たないと。
ジュリを落ち着かせるように、ジュリの背中に両手を回しギュッと抱き締めた。
するとジュリも私を全身で包み込むように抱き直し腕に力を入れた。
そして、デニスに髪を掴まれていた私の頭を丁寧に撫でる。しばらく撫でると、今度は自分の頬を私の頭に乗せるように当てた。
勝手に帰って来てしまったわ…。
治療しなくてはならない患者がいたけど、重傷ではなかったから明日でも大丈夫ね、デニス以外は。
馬車は侯爵邸に向かっていた。
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