貴方たちの悪意は倍にしてお返しします

翡翠と太陽

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49.初めから

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 12歳に戻った。

 戻る前は闇魔術で魔力が奪われ、体が病のように辛かった。

 解術方法がわからず、どんどん体が衰えていき毎日本当に悲しかった。

 今はその理由を知っている。

 私が、私たち家族が、ジュリが、アンナが、恐ろしい最後を迎えた理由を。

 あの女、シャルルアン・ゴルドーと、私の婚約者リチャード・カイザル。

 あの薄暗い悪臭の漂う地下牢で、あの女が私に話したこと。

 私を妬んでいた。
 私が聖人となり、リチャード様の婚約者になったことを、奪ったと言った。

 なんていう自分勝手な思い込みなの?
 そして私を死に追いやった。

 リチャードも獣のようにシャルルアンと交わっていた。
 思い出すだけで吐き気がする。

 そんな醜い妬みのために、自分たちの欲のために、邪魔なゴミを掃いて捨てるかのように、簡単に私の命を奪ったのだ。

 そして、私のために、私の愛する人たちの命も失ってしまった。

 でも、今は違う。
 魔力が体中に巡り、力がみなぎっている。
 つい先ほどまでの悪夢のような出来事も、すべて覚えている。

 女神フォルトゥナが私に時を与えてくれた。
 前回と同じように、あの人たちの好きにはさせない。


 「お嬢様、明日は第三王子殿下にお会いする日ですね!」

 アンナが、アンナが元気でいてくれるだけで今はとても嬉しい。

 「アンナ、今日はお父様とお兄様はいるのかしら?」

 「旦那様とナイジェル様は本日登城されています」

 良かった、お兄様は今日は城にいるのね。

 「アンナ、あとでお兄様に魔法伝書を送りたいの、用意してもらえる?それとマーカスはいるかしら?」

 「わかりました!マーカス様は旦那様をお送りして先ほど戻って来てました」

 マーカス、あのあと会えないまま私は処刑された。

 家の者で最後に会ったのはマーカスだったわ。
 私を優しく抱き締めてくれたあの後、マーカスも恐らく無事ではなかっただろう…
 マーカス、あなたのことも私が絶対に守るわ。

 「アンナ、私マーカスに会いたいの。今行ってきてもいい?」

 「お嬢様、会いに行かれるのは構いませんが、マーカス様にお伝えすることがあれば、このアンナを使ってください!」

 「ありがとうアンナ、でも直接マーカスに会いたいの」

 「わかりました、マーカス様は先ほど奥様の応接室に向かって歩いてました!」

 私は部屋から出て小走りに廊下を進んだ。すると、ちょうどお母様の応接室から出てきたマーカスがいた。

 紺色の髪を綺麗に撫で付け、執務服も清潔にシワひとつなく着こなしている。

 マーカスは、もとは我が侯爵家の私兵だったが、護衛中の怪我の後遺症で兵士を続けられなくなった。

 そもそもがかなり優秀で、なぜ騎士を目指したのか誰もわからなかった。

 マーカスはいわゆる男性が好きだった。
 学院時代、のちに我が侯爵家の副私兵長となるメルヴィルに恋をしていた。

 自分の恋情を受け入れてもらえるとは思っていない。
 でも、そばにいたかった。

 成績は優秀なので、王宮で仕事をすると誰もが思っていたが、メルヴィルを追って侯爵家の私兵に志願した。
 いつも近くにメルヴィルがいる。
 それだけで幸せだった。

 ある時、フォンベルト侯爵が領地に行くことになり、メルヴィルとマーカスを含む10名の私兵で護衛についた。

 途中の山あいで賊に襲われた。
 10名の護衛に対し賊は20人以上だった。

 マーカスは、メルヴィルの隙を付いて襲いかかってきた賊の前に出た。メルヴィルを庇い、左腕で賊の剣を受けてしまった。

 その傷の影響で左手の指を動かせなってしまい、私兵を続けることを諦めた。

 ただ、メルヴィルを守れたことが嬉しかった。

 そのあと、左手が使えないことで、メルヴィルに優しくしてもらえたのも嬉しかった。
 卑怯だとは思ったが、この機を最大限利用した。日常生活のほとんどを一緒に過ごしてもらった。

 手伝ってもらう場面で、さりげなく体に触ってもらい、そっと触ったりもした。
 動かせない左手のマッサージもしてもらった。近くにあるメルヴィルの頬に、思わず触れそうになる衝動を何度も堪えた。

 そして、自分の顔の良さを活かし、メルヴィルを見つめ微笑んで見せた。

 いつか想いが伝われば…
 そばで見守っているだけで幸せだったが、近くにいればいるほど欲張りになった。

 幸せな時間ほど短く感じる。
 あっという間にメルヴィルにお世話をしてもらう期間は終わった。
 傷は回復したが、兵士としては働けない。

 最後に女神様が与えてくれた特別な時間だと思った。

 フォンベルト侯爵に、兵士として働けないので辞めると伝えると、これから執事として侯爵の執務を手伝うように言われた。

 優秀だったことも、私兵として雇い入れた理由にあったから。

 所属は違うが、同じ侯爵家でメルヴィルと働くことができる。

 自分の持っている能力すべてをもって侯爵家を繁栄に導き、王都で最強で最高の私兵団を築き上げ支えるのだ。

 それからマーカスは優秀さを存分に発揮し、フォンベルト侯爵の補佐として侯爵家に欠かせない存在となった。

 マーカスは背が高く線は細いが、正しく鍛えられた筋肉質の体型は、品の良さと色気も漂わせていた。

 どんな服を着せても良く似合ったが、ユリアナはマーカスの執務服姿が好きだった。

 「マーカス!!」
 私はたまらず駆け出して、マーカスに飛び付いた。

 「お嬢様?どうなさいましたか?私に飛び付くなんて、お嬢様が3歳2ヶ月と5日以来ですよ」

 大きくなった私がいきなり飛び付いても体はブレないし、まったく動じない。しっかりと私を抱えてくれている。

 「マーカスに会いたかったの!」

 「それは大変嬉しいお言葉です。今日の私の日記に素晴らしい日として印を付けましょう。ですがお嬢様、昨日も一昨日もお会いしておりますが、今日はまた何か気になることでもありましたか?」

 私が明日、殿下と会うのを知っているから、心配してくれてるのね。

 「ううん、ただマーカスに会いたかっただけよ。ねえマーカス、マーカスの事は私が絶対に守るわ」

 私の唐突な言葉にさすがのマーカスもピクッと反応した。

 「お嬢様にそのようなことを言って頂けるなんて、この上ない喜びです。私もいつでもどんな時でもお嬢様を必ずお守り致します」

 私はマーカスに抱き付く腕にまた力を入れた。マーカスのいつもの香水の香りがした。

 するとお母様の執務室のドアが開く音がして、お母様とヘレンが出てきた。

 「あら、マーカス?…まぁ!ユリアナ?マーカスに抱っこなんて3歳の時以来ね。今朝からみんなに甘えているのね。やっぱり色々不安なのかしら…」

 「いいえお母様、私は楽しみなんです(色々な意味で)。これから私たちがもっと幸せになっていくので」

 「そう、あなたがそう思っているのなら良かったわ。さあもう明日の支度を始めないとね。明日のドレスはマーカスのアドバイスも入っているのよ。リチャード殿下の好みを調べてくれたんだから」

 私は、「そのようなことくらいお嬢様のためなら」と言うマーカスの頬に唇を付けた。

 「お嬢様、私に癒しを頂けるのは2歳8ヶ月と12日以来です。今日からまた私は幸せに働くことが出来ます」

 マーカスはゆっくり私を降ろすと、お母様には気付かない角度でそっと私を抱き締めてから腕を離した。

 マーカス、あなたをあの時のように乱すことは、絶対にさせないわ。



 私はそのあと部屋に戻り、自分でも付けていた日記を読み返した。
 そう、ジュリが第二騎士団に入団した日を確かめた。

 ひと月前だわ。もうすでにひどい扱い方をされているはずよ。
 許さない。第二騎士団も宰相も、国王陛下も。
 見ているといいわ。
 まずは、ジュリを返してもらう。

 今までの悪夢の事を時系列で紙に書き出し、記憶を整理した。

 そして、これから注意する事、やるべき事、調べる事など大まかに分けた。

 ここからまた始めるのだから、前回とすべてが同じになるとは限らない。
 だけど、なるべく時の流れを変えないようにしたい。
 向けられた悪意を、きっちりとお返ししたいから。


 翌日私はアンナに完璧に支度をしてもらい、私を子供だと侮っている者たちに、私の立場をわからせるため、見た目から仕上げていった。


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