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「x軸が変化することによってここのy軸も変化するから・・・」
昇多は向かいの席に座る澪のノートに書きながら解き方を教えていた。
「昔っから昇多、数学強いよな」
ドリンクバーから飲み物を持って来た倫がにこにことした表情で澪の隣に腰掛けた。
「数学は答えが一つだからわかりやすいんだよ。逆に自分の考えを書くような問題は苦手だ」
「えー、私はそっちの方が得意かな。だって答えが一つじゃないから当たる可能性高いし」
澪は注文していたパンケーキを頬張りながらデザートフォークをクルクル回した。
「・・・よくそんな甘ったるいの食えるな。見てるだけで胸焼けしそう」
三段重ねのパンケーキの回りには季節のフルーツがふんだんに散りばめられ、上にはイチゴとソフトクリーム、生クリームがこれでもかというくらいの量が盛られていた。注文の品が届いた時にそのフォルムに澪は歓喜、昇多は不快感を露骨に表していた。
「俺にも少しちょーだい♡」
パンケーキが刺さったフォークを持った澪の手を掴み倫は自身の口元へと運んだ。
「もうっ!勝手に」
ムスッとした表情の澪とは対照的にご機嫌な表情の倫のやり取りを昇多は眇め無言で眺めていた。
『折角、数学が強い昇多と英語が強い倫がいるから三人で勉強会しようよっ!』
澪は咄嗟に浮かんだこの言葉を放った瞬間、後悔しかなかった。昇多は自分たちの関係のことは知らない、倫にしても自分に特別な感情があるわけじゃないのも知っている・・・しかも、澪はこの不安定な関係性のせいで二人が揃うと正直、何とも言えない感情に押し潰されそうになる。
「澪、何か顔色悪くないか?具合悪いんだったら送るぞ?」
昇多が心配そうに此方を覗き込まれ思わず身体が反応してしまい視線を逸らした。
「大丈夫、大丈夫。ちょっと頭パンクしそうになっただけ・・・あっ、私もなんか飲み物持って来よーっと」
澪は席から離れドリンクコーナーへと向かった。居たたまれなくなった気持ちを少しでも落ち着かせようと澪は小さく深呼吸した。とりあえず、ドリンクを決めようとサーバー機の前で悩んでいると背後から伸し掛かるように覆い被さられ澪の身体にどしりと重みがかせられた。
「倫っ?!ちょっとこんなとこでやめてよっ!」
「まーだ、決めてねーの?澪が戻ってこないから昇多と二人っきりにされて気まずいんだけどー」
澪は自分が座っていた場所を一瞥すると昇多はノートに何か書き込んでいるようで此方の状況は見てはおらず心なしか安堵し胸を撫で下ろした。
「今でも昇多のこと気になる?」
耳許に倫の息がかかり、思わず身を震えさせた。肘で倫を後ろに押しながら抵抗しつつも、あることを問いかけた。
「倫、なんでさっき昇多を煽るようにあんなふざけた冗談言ったの?」
抵抗をやめた澪は背中越しに伝わる体温を感じながらも顔が見にくく倫がどういう表情をしているのか読み取ることが出来なかった。
「なんでだろうねー、俺もわかんないや」
力なく小さく囁くような倫の声に一瞬、心臓がぎゅっと締め付けられ声をかけようとすると倫は澪の背後からスッと離れた。
「お前ら、いつまで選んでんだよ」
いつの間にか昇多が澪たちがいるドリンクバーまでやって来て怪訝そうな面持ちで立っていた。
「ごめん、ごめん。何飲もうか悩んじゃって」
昇多の態度から先程の倫とのやり取りは見られてなかった様子で澪は内心安堵し、困った笑みを向けた。
「えっとー、じゃあさっきオレンジだったし炭酸系にしとこっかなー」
澪がそう言うと昇多も同じ飲み物をグラスに注ぎだした。「ちょっとトイレ行ってくるー」倫はそのままトイレが設置してある場所へ行ってしまった。
「なぁ、澪は・・・いや、何でもない。それよりさっきの問題解けたか?」
席に戻るや否や歯切れの悪い話し方の昇多に違和感を感じつつ、言われた問題の解答を見せると違っていたらしく澪は解き方の説明を教えてもらっていた。
「そっかー、そうやれば簡単に解けるのね。流石、昇多っ♪」
澪が大袈裟に褒めると照れ臭そうに先ほど持ってきたドリンクを口に含んだ。
「・・・そういえばさ、高校受験の時もたまにこうやって勉強したな。高校入ってからはしなくなったけど何だか懐かしいな」
「そうだね・・・」
あの頃とは環境が変わりすぎ、澪は懐かしさ半面“もうあの頃のような三人には戻れないんだ”という想いから心を抉られるような感覚に襲われた。そんなノスタルジックな気分に陥っているとトイレから戻って来た倫に強引に席を詰められ澪は押されるように奥へと追いやられた。
「はー、スッキリした♪」
「お前な」
「ってか、何話してたの?随分染み染みした雰囲気だったけど」
「あぁ、昔の話してただけだ。俺ら中学の受験時期、たまに放課後とか二人で勉強したりしてたからな。あの時は必死だったけどあれはあれで楽しかった」
「そうだね。よくテストの点数競ったり負けたらコンビニのスイーツ奢るとかやってたよね」
「あーそうそう。大抵俺が勝つんだけどな」
「えー、そんなことないよっ!最後の方なんて五分五分だったし」
澪と昇多は互いに懐かしむように話していると隣に座る倫は面白くなさそうに持ってきたジュースのストローをクルクル回した。
「そうだっけ?・・・って澪、どうした?」
「んっ?・・・な、何でもないよ。い、今解いてるの手強いなーって・・・思っただけだから」
昇多は目の前に座る澪の態度にどこかしら違和感を感じるも気にせず自身のペンを走らす。
澪の隣に座るもう一人の人物は飽きたのかうつ伏せになって寝ていた。しかし、彼の左手は隠れていることをいいことにテーブルの下で澪の太腿を厭らしい手つきで弄っていた。
スカートを捲られ露わになる太腿を何とか抵抗し倫の手を跳ねのけようとすればするほど奥へと侵入してくる。
(目の前に昇多がいるのに・・・何考えてんのよ)
声に出せないもどかしさの中、倫の指がショーツ越しから敏感な部分を掠めるように触れてきた。澪は、思わず声が出そうになる寸前のところで口元を押さえ咳をするふりをした。
澪の右手が下で蠢く倫の左手を押さえ睨みつけるもうつ伏せになっているため顔が隠れ視点を合わすことが出来ない。
澪は脚をぎゅっと固く閉めこれ以上深い場所を触れられぬよう抵抗すると倫の手は呆気なく離れていった。
「ふぁ~。なんか怠くなったし俺先帰るわ」
倫は両手を頭上に伸ばし欠伸をしながら立ち上がると自分が注文した分の代金を置きそのまま店を出て行った。
「あいつ、何しに来たんだ?」
呆れた口調で小さく溜息を吐く昇多に澪は苦笑を返しながら触れられた場所に倫の温もりが残っているような気になり、しばらく身体から熱が消えることがなかった。
昇多は向かいの席に座る澪のノートに書きながら解き方を教えていた。
「昔っから昇多、数学強いよな」
ドリンクバーから飲み物を持って来た倫がにこにことした表情で澪の隣に腰掛けた。
「数学は答えが一つだからわかりやすいんだよ。逆に自分の考えを書くような問題は苦手だ」
「えー、私はそっちの方が得意かな。だって答えが一つじゃないから当たる可能性高いし」
澪は注文していたパンケーキを頬張りながらデザートフォークをクルクル回した。
「・・・よくそんな甘ったるいの食えるな。見てるだけで胸焼けしそう」
三段重ねのパンケーキの回りには季節のフルーツがふんだんに散りばめられ、上にはイチゴとソフトクリーム、生クリームがこれでもかというくらいの量が盛られていた。注文の品が届いた時にそのフォルムに澪は歓喜、昇多は不快感を露骨に表していた。
「俺にも少しちょーだい♡」
パンケーキが刺さったフォークを持った澪の手を掴み倫は自身の口元へと運んだ。
「もうっ!勝手に」
ムスッとした表情の澪とは対照的にご機嫌な表情の倫のやり取りを昇多は眇め無言で眺めていた。
『折角、数学が強い昇多と英語が強い倫がいるから三人で勉強会しようよっ!』
澪は咄嗟に浮かんだこの言葉を放った瞬間、後悔しかなかった。昇多は自分たちの関係のことは知らない、倫にしても自分に特別な感情があるわけじゃないのも知っている・・・しかも、澪はこの不安定な関係性のせいで二人が揃うと正直、何とも言えない感情に押し潰されそうになる。
「澪、何か顔色悪くないか?具合悪いんだったら送るぞ?」
昇多が心配そうに此方を覗き込まれ思わず身体が反応してしまい視線を逸らした。
「大丈夫、大丈夫。ちょっと頭パンクしそうになっただけ・・・あっ、私もなんか飲み物持って来よーっと」
澪は席から離れドリンクコーナーへと向かった。居たたまれなくなった気持ちを少しでも落ち着かせようと澪は小さく深呼吸した。とりあえず、ドリンクを決めようとサーバー機の前で悩んでいると背後から伸し掛かるように覆い被さられ澪の身体にどしりと重みがかせられた。
「倫っ?!ちょっとこんなとこでやめてよっ!」
「まーだ、決めてねーの?澪が戻ってこないから昇多と二人っきりにされて気まずいんだけどー」
澪は自分が座っていた場所を一瞥すると昇多はノートに何か書き込んでいるようで此方の状況は見てはおらず心なしか安堵し胸を撫で下ろした。
「今でも昇多のこと気になる?」
耳許に倫の息がかかり、思わず身を震えさせた。肘で倫を後ろに押しながら抵抗しつつも、あることを問いかけた。
「倫、なんでさっき昇多を煽るようにあんなふざけた冗談言ったの?」
抵抗をやめた澪は背中越しに伝わる体温を感じながらも顔が見にくく倫がどういう表情をしているのか読み取ることが出来なかった。
「なんでだろうねー、俺もわかんないや」
力なく小さく囁くような倫の声に一瞬、心臓がぎゅっと締め付けられ声をかけようとすると倫は澪の背後からスッと離れた。
「お前ら、いつまで選んでんだよ」
いつの間にか昇多が澪たちがいるドリンクバーまでやって来て怪訝そうな面持ちで立っていた。
「ごめん、ごめん。何飲もうか悩んじゃって」
昇多の態度から先程の倫とのやり取りは見られてなかった様子で澪は内心安堵し、困った笑みを向けた。
「えっとー、じゃあさっきオレンジだったし炭酸系にしとこっかなー」
澪がそう言うと昇多も同じ飲み物をグラスに注ぎだした。「ちょっとトイレ行ってくるー」倫はそのままトイレが設置してある場所へ行ってしまった。
「なぁ、澪は・・・いや、何でもない。それよりさっきの問題解けたか?」
席に戻るや否や歯切れの悪い話し方の昇多に違和感を感じつつ、言われた問題の解答を見せると違っていたらしく澪は解き方の説明を教えてもらっていた。
「そっかー、そうやれば簡単に解けるのね。流石、昇多っ♪」
澪が大袈裟に褒めると照れ臭そうに先ほど持ってきたドリンクを口に含んだ。
「・・・そういえばさ、高校受験の時もたまにこうやって勉強したな。高校入ってからはしなくなったけど何だか懐かしいな」
「そうだね・・・」
あの頃とは環境が変わりすぎ、澪は懐かしさ半面“もうあの頃のような三人には戻れないんだ”という想いから心を抉られるような感覚に襲われた。そんなノスタルジックな気分に陥っているとトイレから戻って来た倫に強引に席を詰められ澪は押されるように奥へと追いやられた。
「はー、スッキリした♪」
「お前な」
「ってか、何話してたの?随分染み染みした雰囲気だったけど」
「あぁ、昔の話してただけだ。俺ら中学の受験時期、たまに放課後とか二人で勉強したりしてたからな。あの時は必死だったけどあれはあれで楽しかった」
「そうだね。よくテストの点数競ったり負けたらコンビニのスイーツ奢るとかやってたよね」
「あーそうそう。大抵俺が勝つんだけどな」
「えー、そんなことないよっ!最後の方なんて五分五分だったし」
澪と昇多は互いに懐かしむように話していると隣に座る倫は面白くなさそうに持ってきたジュースのストローをクルクル回した。
「そうだっけ?・・・って澪、どうした?」
「んっ?・・・な、何でもないよ。い、今解いてるの手強いなーって・・・思っただけだから」
昇多は目の前に座る澪の態度にどこかしら違和感を感じるも気にせず自身のペンを走らす。
澪の隣に座るもう一人の人物は飽きたのかうつ伏せになって寝ていた。しかし、彼の左手は隠れていることをいいことにテーブルの下で澪の太腿を厭らしい手つきで弄っていた。
スカートを捲られ露わになる太腿を何とか抵抗し倫の手を跳ねのけようとすればするほど奥へと侵入してくる。
(目の前に昇多がいるのに・・・何考えてんのよ)
声に出せないもどかしさの中、倫の指がショーツ越しから敏感な部分を掠めるように触れてきた。澪は、思わず声が出そうになる寸前のところで口元を押さえ咳をするふりをした。
澪の右手が下で蠢く倫の左手を押さえ睨みつけるもうつ伏せになっているため顔が隠れ視点を合わすことが出来ない。
澪は脚をぎゅっと固く閉めこれ以上深い場所を触れられぬよう抵抗すると倫の手は呆気なく離れていった。
「ふぁ~。なんか怠くなったし俺先帰るわ」
倫は両手を頭上に伸ばし欠伸をしながら立ち上がると自分が注文した分の代金を置きそのまま店を出て行った。
「あいつ、何しに来たんだ?」
呆れた口調で小さく溜息を吐く昇多に澪は苦笑を返しながら触れられた場所に倫の温もりが残っているような気になり、しばらく身体から熱が消えることがなかった。
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