【完結】呪われ作家と、小さなワケあり霊能者

餡玉(あんたま)

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19 友と

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「おーい、律。こっちこっち」
「ああ、待たせてすまない」

 居酒屋の奥の席で、ずんぐりした大男が律に向かって手を振っている。すっかり出来上がった客たちの笑い声が響く店内をすり抜けて、律は学生時代の友人、上原の前に腰を下ろした。

「お、ちょっとすっきりした顔してんじゃん。ちょっとは元気になったか?」
「まあ、多少はな」

 上原の気遣わしげな表情の意味が、今なら理解できる。
 妻を失ったことを——いや、妻の存在さえ記憶から消していた律にのことを、上原はずっと心配してくれていたのだろう。
 比奈子と出会うきっかけになった合コンに律を誘ったのは、他ならぬ上原だった。

 テーブルの隅で日本酒を舐めながらつまみを静かに突いている律に、比奈子が興味を抱いたのだ。ビール瓶片手に「数合わせできたって顔ですね~? あ、ちなみにあたしも数合わせです!」と近づいてきた逞しい女性に、はじめは心底ビビっていた律である。
 身長は律と同じくらいだし、律は痩身なので背格好もそんなに変わらない。柔道、剣道、合気道を極めるのが夢だと語る比奈子に初めこそ恐れを抱いていたが、見ている映画やドラマの話が意外と合い、連絡を取り合うようになったのだった。

 そういう馴れ初めから結婚、そして律の事件まで全てを知る上原は、入院中もたびたび律を訪ねてきてくれた。
 会話が噛み合わないことに気づいたらしい上原に、一度だけ、さりげなく「比奈子ちゃんのこと、もう大丈夫なのか?」と聞かれたことがあった。当然、律はそれが誰のことだかわからず、曖昧に首を傾げたものだった。
 注文した日本酒とつまみがテーブルに届けられ、ふたりは久方ぶりの乾杯をした。

「墓を買ったんだ。今度お前も墓参りに来てくれよ」
「墓ぁ!? あ、そうか。律は実家がないもんな……」
「そう。高い買い物だったけど、あると不思議と落ち着くものだな」

 家から一番近い場所にある墓所に、律は比奈子の墓を立てた。もうとっくに四十九日は過ぎているけれど、比奈子の両親は律の記憶が戻るのをいつまでも待つつもりでいてくれたらしく、遺骨を自宅に安置していたのだ。

 白い包みに入った比奈子を胸に抱いた瞬間、「遅くなって、ごめん」という言葉がこぼれた。
 同時に、本当に彼女がこの世にいないという事実を否応なく受け入れねばらなくなり、義両親の前だというのに、なかなか涙が止まってくれなかった。

 いつのまにか、事件から二年が経っていた。

「比奈子ちゃんのご両親、よくお前のこと待っててくれたよな」

 上原が、グラスに残っていたビールを飲み干しそう言った。瓶ビールをそのコップの中に注ぎながら、律は頷く。

「比奈子が僕にぞっこんだったことを、ご両親はよく理解してくれていたからな」
「自分で言うかね」
「あと数年待って僕が迎えに来なかったら、自分たちの墓に入れるつもりだったっておっしゃってたよ」
「そっか、そっか」

 律には身寄りがなく、物心ついた頃には児童養護施設で暮らしていた。比奈子と結婚し、律はようやく自分の家族を持つことができたのだ。嬉しくて、誇らしくて、幸せだった。これから先、ひょっとしたら子どもができるかもしれない。比奈子がいて、子どもがいる。家族が増えてゆく幸せな未来を夢見たこともあった。
 おっととっと、と溢れそうになるビールを上原が口で受ける。
 
「で? 仕事はどうすんの? 不安定な作家業、続けんのか?」
「ああー……それなんだけど」

 作家業は、意外と順調だ。
 リハビリのつもりで、律はオカルトミステリー小説を無料投稿サイトにアップした。これまでに経験した不可思議な体験を整理したいがために書き連ねたその小説は、律自身も驚いてしまうくらいの閲覧数となり、冴島からの「本にしましょう!!」という一声で、書籍化される運びとなった。

 冴島は「ようやく復活ですね!」と喜んでくれていたけれど、律の中にも少しずつ心境の変化が生まれていて……。
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