転生生活をまったり過ごしたいのに、自作キャラたちが私に世界征服を進めてくる件について

ihana

文字の大きさ
39 / 48

39話 初めて挑むダンジョン

しおりを挟む
 見たこともない洞窟を前に、それまでのがっかりとした気持ちから一転、胸が躍り始める。
 レレムの街には何度も来たことがあったし、周囲のマップは当然のごとくすべて把握していたが、この洞窟は見たことがない。
 つまりここはエクスペディションオンラインには実装されていなかった場所ということになる。

 もしかしたら何か隠されたレアアイテムがあるかもっ!
 魔力結晶がなかったとしてもそれをお土産にすれば皆に言い訳くらいはできるはずっ!

 そんな想いとともに、私は洞窟の中へと進んでいった。
 内部にはレレムの街近辺では見られないようなレベル700代のモンスターがうようよ生息しており、こんなのが出現したらレベルが100や200しかないレレムの住人たちは全滅してしまうことであろう。

「ってことは、入り口はつい最近まで閉じてたのかな……? それかさっきの地震で地上とつながったとか? なんにしても未探索領域の可能性が高いってことねっ!」

 住民からすれば凶悪な魔物であろうが、私はそれらをスキップしながらなぎ倒していく。

「あら? また地震……? ホントに頻発してるみたいね。こうやって地震を生で経験できるのもなかなか楽しいなぁ」

 エクスペディションオンラインだとVRの技術限界で地震現象は実装されていなかった。

 たびたび地震が起こる中でモンスターを倒しながら、先へ先へと進み続けて二時間ほど経ったであろうか。
 モンスターのレベルは1000を越え始めており、おまけに洞窟内も溶岩マップへと変遷していっていた。
 まあこの山は現在活火山であり、溶岩流が流れているのも当然と言えよう。

 普通の人であればこの段階で死亡してしまうのだが、私は特殊称号『朱雀の想い』を持っている。
 この称号は四神朱雀を時間制限付き単独撃破することで得ることができる。
 称号効果の中には『鳳凰炎舞』というスキルがあり、このスキルを保持していれば火属性ダメージを常時90%もカットできるのだ。

「いやぁ、滅茶苦茶大変だっただけに、鳳凰炎舞は強いなぁ。溶岩なんて浸ったらHPがガリガリ削れてくけど、ヒーリングスキルをかけ続ければ進めちゃうんだもん」

 気分的にはプールの底を歩いている気分だ。
 溶岩の中でも視界が確保されているのも、おそらく別の称号スキルの効果であろう。
 たまーに溶岩の中を泳ぐ巨大なドラゴンのような輩が襲ってくるが、適当に氷属性の魔法を放って倒していく。
 まだまだ私を焦らせるほどの敵ではない。


 なんて具合に進み続けたら、巨大な扉の前にたどり着いた。

「おお! ここは明らかにボス部屋だ! ヤバい! ちょっと緊張してきた!」

 見たこともないダンジョンでの初見ボス。
 何とも楽しみで仕方がないではないか。
 いつもの癖で装備ウィンドウを確認しようとするも、異世界だったことを思い出す。

 ……そっか、今までずっと同じ装備だったけど、装備一つ変えるのも着替えなきゃいけないのか。
 ゲームではワンクリックだったからなぁ。

 とは言っても今の装備で問題ないため、変更などそもそも必要ない。
 なんとなくの癖だ。

「よしっ! 張り切っていくぞ!」

 扉を開くとそこは広大な広間になっていた。
 周囲には大量の溶岩が溢れていて、その中心には推定高さ二十メートルほどの巨人型の岩石魔物が居座っている。
 部屋は非常に広いはずなのに、巨大なボスからすると少し手狭な感じだ。

 私が部屋を進むと、ゲームのときのように扉は勝手に閉まり岩石魔物が活動を開始する。

 うん、ここらへんはゲーム通りだね。
 ボス部屋は扉が閉まると戦闘開始。
 入れるのは1パーティまで。

 ただ、このボスは見たことがないな。

「ほぉ、ここにたどり着く人間がいるとはな」
「おお!? 喋るんかい!」
「んん? 喋るに決まっているであろう。貴様は我を何だと思っている」
「うーんと、ボス? 的な?」
「フハハハハハ! ボスか! なるほどな! 確かにその通り、我はこの火山の主でありボスと言えよう。貴様には感謝している。我はずっと貴様のような者が現れることを待ち望んでいた」
「感謝? 待っててくれたの?」
「ああ。我ら八卦神はとある創造神によって創られたのだが、この狭き空間に封印されていてな」

 八卦神……?
 なんだっけ、聞いたことがあるような……。

 創造神の方は普通にボスでいたな。
 エクスペディションオンラインでは究極限界創造神アマテラスがいちおうこの世界を創ったという設定になっていた。

「その創造神様はご丁寧に封印を解く方法まで教えてくれているんだ。その方法は、一度も敗北することなく人族、魔族、亜人のいずれかに256勝することだそうだ」

 なんだその半端な数字は。
 8bitかっつーの。

 だがその瞬間、私はとある事件を思い出す。

「あっ! そっか! そういうことなんだ!」

 かつて、エクスペディションオンラインでは、呪怨の祠にいるはずの『魔毒の精霊』がワールドマップへ暴れ出すという事件があった。

 これまでにない仕様に、プレイヤーたちは発生条件を血眼になって探したのだが、ついぞその事件は一度きりで終わった記憶がある。
 呪怨の祠は到達時点でのレベルに対して難度が非常に高めに設定されている。
 もしかすると、偶然プレイヤーが立て続けに256回ボス戦で敗れてしまって魔毒の精霊の封印が解かれたのかもしれない。

「なるほどねぇ。運営はあなたたちの封印解除にたった8ビットしか使わなかったってことね」
「ふん! 何をわけのわからんことを」
「あれ? でもどうやって255回も倒したの? ここに人なんて来れないでしょ?」
「ここはちょうどレレムの山の火口の真下になっていてな。人族というのは面白い生き物で、たまに火口へと身投げをする輩がいるんだ。それがこの五百年に255人いた。最期の一人を今か今かと待っていた時に、貴様がやってきたというわけだ。おまけに扉を通って堂々と戦いにやってきた。大手を振って封印を解けるというものだ!」
「はえ~、そんなやり方ありなんだ。なるほどねぇ」
「感心している場合か? 貴様はこれから死ぬのだぞ」
「うん! 初見ボスなんてわっくわくするよっ! よしっ! だいたい事情はわかった。そしたら、やろっか」

 武器は出さずに不敵な笑みを差し出しておく。

「ふん! 恐れ知らずめ! 我の封印解除記念になってもらうぜ!!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

コンバット

サクラ近衛将監
ファンタジー
 藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。  ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。  忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。  担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。  その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。  その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。  かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。  この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。  しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。  この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。  一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。

処理中です...