黒猫印の魔法薬 〜拾った子猫と異世界で〜

浅間遊歩

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第二章 シヴァール国の黄金の実

冷たい雨

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 雨は昼になっても止まなかった。それどころか激しくなっている。

「この雨じゃあ、山道は危険だね。納品は明日にしよう……おお寒い!」

 縁側の雨戸を開けて外を確認したおばあちゃんがブルリと身を震わせた。今日は6月にしてはとても寒い。
 雨水が山道を川みたいに流れてるようじゃ納品はあきらめるしかない。午後の予定がなくなった私は昼ごはんの準備を始めた。

 昨日作ったスープの鍋を薪ストーブの上に乗せる。
 ラルが獲ってきたイノシシの肉はまだ熟成が終わってないので、村で買ってきた鶏肉を使って作ったスープだ。骨が付いたままの手羽元を根菜なんかと一緒に煮込んである。
 いきなり強火にしないのが柔らかく仕上げるコツだ。弱火でじっくり煮込むとトロンとした美味しいスープになる。コラーゲンだよ、コラーゲン。たぶん。
 葉タマネギや干し椎茸シイタケ、青菜、人参、大根、それに生姜ショウガも入ってる和風の…じゃなかった、アキツ風のスープ。
 昨日も美味しかったけど、こういうのは2日目がおいしいよね!

 温めている間に大根のサラダを作る。千切りにして冷たい水にさらし、パリッとさせた所にドレッシング。酢、塩、砂糖を混ぜて油を合わせたなんちゃってドレッシングだけどね。味が決まらなかったので、みりんと醤油もちょっとだけ入れてある。

「今度、村で調味料を見てこよう」

 おばあちゃんちにある調味料は、砂糖、塩、醤油、みりん、味噌、それに何とウスターソースもある!
 でも現代日本みたいに初めから混ぜ合わせてあるドレッシングやマヨネーズはない。昔読んだ料理の本を思い出しながら色々なドレッシングを作ってみたいと思ってるんだ。
 アキツのご飯はかなり美味しいのに、異世界に来た日本人は現代ご飯の再現からはのがれられない宿命なんだろうか?

「できたよー」

 奥の部屋に声をかける。
 薬作りが終わったおばあちゃんは、さっき、疲れたと言って奥の寝室に入って行った。たぶん昼寝でもしてるんだろう。返事はない。

「おばあちゃーん、ご飯……」

 ふすまを開けてハッとする。
 おばあちゃんは、畳んだ布団に寄りかかるようにしてうずくまっていた。

「うううう……」
「おばあちゃん?」

 胸を押さえて、苦しそうにうめいている。

「おばあちゃん! 大丈夫!?」
「うう~、……うううう~っ!」
『ばあちゃん? どうしたの、ばあちゃん?』

 ラルも飛んできて、おばあちゃんをのぞき込む。
 布団を敷いてそこに寝かせようとするが、よほど苦しいのか、私の手を振りほどいて暴れる。

「どうしよう。おばあちゃん、心臓の発作だ。心筋梗塞しんきんこうそくだよ」
『シンキン?』
「救急車……あるのかな。でも、電話がないから連絡できないし、山道を登って来られないよね? どうしよう。お医者さん? 魔法の薬?」

 どうしよう! どうしたらいい!?
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