公爵令嬢。その唇が紡ぐのは、愛か偽りか。

きららののん

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「リディア、今日の君もとても美しい。この茶葉のように、香り高く咲き誇る花のようだ」

セオアドア様の甘い声が、私の鼓膜を不快に震わせる。
キィン、と耳の奥で金属が擦れるような音が混じり、思わず眉間に皺が寄るのを必死で堪えた。

「もったいないお言葉ですわ、セオドア殿下」

完璧な淑女の笑みを貼り付け、私はそう返す。
私の言葉に嘘はない。だから、殿下には心地よく聞こえているはずだ。

ここは王宮の庭園。陽光は暖かく、花々は咲き乱れ、紅茶の香りは芳しい。
向かいに座る婚約者は、この国の王太子で、誰が見ても美しいと称える完璧な殿方。
何一つ、不満などないはずの午後。
それなのに、私の心は鉛のように重く沈んでいた。

『キィィン……今日の君も、とても美しい……カシャン!……花のようだ』

殿下の言葉は、私の耳にはこう変換されて届く。
生まれつき、私は人の言葉に混じる「嘘」が、耳障りなノイズとして聞こえてしまう。
それは、好意的な嘘でも、悪意のない嘘でも、等しく私を苛む。

「この茶葉は、先日東の国から取り寄せたばかりの特別なものでね。君のために、と思って用意させたんだ」

『キィィン……特別なものだ……カシャン!……君のため、とでも言っておくか……』

まただ。
優しく細められた青い瞳も、穏やかな微笑みも、全てが偽りのフィルターを通して、私をうんざりさせる。
なぜ、この人はこんなにも平然と嘘を重ねられるのだろう。

「殿下は、いつも私のことを気にかけてくださいますのね。とても嬉しいですわ」

「もちろんだよ。愛する婚約者のためだからね」

キィィィィィンンン!!!

今のは、ひときわ大きなノイズだった。
思わずこめかみを押さえそうになるのを、テーブルの下で固く拳を握ることで耐える。

愛。
なんと軽々しく、その言葉を口にするのだろう。
この人の「愛」という言葉は、いつだって一番大きな嘘の音を立てる。

「……リディア?どうかしたのかい?顔色が優れないようだが」

心配そうに私を覗き込む殿下の言葉ですら、微かなノイズが混じっている。
『体調が悪いなら好都合だ』という本音が、その裏に透けて見えるようだ。

「いいえ、少し陽に当たりすぎたのかもしれません。お気遣い、痛み入ります」

私はそっとカップを置き、立ち上がる。
これ以上、この嘘の音色に付き合うのは限界だった。

「少し、お部屋で休んでもよろしいでしょうか」

「ああ、もちろん。無理はしないでくれ。夜会の時間には、元気な君に会えるのを楽しみにしているよ」

『キィン……夜会までには体裁を整えておけ……』

最後まで、殿下の言葉は嘘の音に満ちていた。
一礼してその場を離れる私の背中に、優しい言葉が投げかけられる。
その言葉が、どんな音を立てていたのか。
もう、振り返って確かめる気力もなかった。
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