公爵令嬢。その唇が紡ぐのは、愛か偽りか。

きららののん

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煌びやかなシャンデリアが、広間を昼間のように照らし出す。
着飾った貴族たちの囁きと、優雅な楽団の調べ。
夜会とは、いつだって嘘と虚飾が渦巻く舞台だ。

「リディア嬢、今宵も一段とお美しいですな!」

『キィン……社交辞令だが……』

「まあ、お上手ですこと」

「クラインフェルト公爵令嬢は、我々の誉れです」

『カシャン!……有力貴族には媚を売っておかねば……』

「ありがとうございます」

四方から投げかけられる称賛の言葉。
その一つ一つに混じるノイズに耐えながら、私は完璧な令嬢の仮面を被って微笑みを返す。
皆、私が公爵家の令嬢だから、そして王太子の婚約者だから、甘い言葉を寄せてくる。
そこに真実などひとかけらもないことを、私は知っている。

「リディア、待たせたね」

喧騒を切り裂くように、凛とした声が響いた。
セオドア殿下が、完璧な笑みを浮かべて私の前に立つ。
途端に、周囲の空気が変わる。令嬢たちの熱を帯びた視線が、私たち二人に突き刺さった。

「殿下」

「さあ、一曲踊ろうか。今宵の主役である君を、独り占めする権利が私にはあるはずだ」

キィン、と軽いノイズ。
『主役』だとか『独り占め』だとか、そういう芝居がかった言葉には、決まって嘘が混じる。

「喜んで」

差し出された手を取り、ワルツの輪の中へ。
殿下のエスコートは、寸分の隙もなく完璧だった。
音楽に合わせて流れるようにステップを踏みながら、殿下が私の耳元で囁く。

「たくさんの男たちが、君に嫉妬の視線を向けているよ」

『カシャン!……私に、だろうがな……』

「光栄ですわ」

「君の美しさは、時に罪作りだ」

『キィィン……厄介事の種でもあるがな……』

「殿下こそ、令嬢方の熱い視線にお気づきではありませんの?」

「私の目に映っているのは、リディア、君だけだよ」

キィィィィィンンン!
本日最大級の嘘の音。
私はもう、返す言葉も見つけられなかった。
ただ、彼の腕の中で、早くこの曲が終わることだけを願う。

なぜ、この世界はこれほどまでに嘘で満ちているのだろう。
なぜ、私はこんな音を聞かなければならないのだろう。
幼い頃は、この能力を神の祝福なのだと教えられた。
『偽りに惑わされず、真実を見極めるための力だ』と。

だが、現実はどうだ。
聞こえてくるのは、人の本音という名の醜い欲望や打算ばかり。
真実を見極めるどころか、人を信じる心を失っただけ。

曲が終わり、解放される。
私は当たり障りのない言い訳をして、少し休憩をとるためにその場を離れた。
殿下は「完璧な婚約者」の顔で、心配そうな素振りを見せながら、私を送り出してくれた。
もちろん、その言葉も嘘の味がした。
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