全て私が悪かったので許してください!

きららののん

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クーデリアが、幸せに暮らしている。

その事実は、まずアレンの心に、一つの安堵をもたらした。
彼女が路頭に迷い、惨めな最後を迎えていたとしたら、自分の心には一生、重い罪悪感が残っただろう。
彼女が改心し、新しい場所で生きている。
それは、自分の判断が、結果的に彼女を正しい道へと導いた証拠なのかもしれない。

(……そう、それで良かったのだ)

アレンは自分に言い聞かせた。
彼女の幸せを、願うべきなのだ。
自分は、もうすぐリリアンナと結婚し、この国の未来を担っていく。
過去の女の幸せを、祝福こそすれ、心を乱されるべきではない。

だが、頭ではそう理解しようとしても、心が、言うことを聞かなかった。

報告書の一文が、何度も脳裏をよぎる。
『ディラン・クラインと名乗る平民の男と共に』
『二人の関係は、極めて親密。夫婦同然の模様』

ディラン・クライン。
どこの馬の骨とも知れない、平民の男。

そんな男が、クーデリアの隣にいる。
彼女のあの、花が咲くような笑顔を、独り占めしている。
彼女の銀色の髪に、その汚れた手で触れているのかもしれない。

そう考えた瞬間、アレンの胸に、激しい不快感が込み上げてきた。

これは、なんだ。
この、黒い感情は。

嫉妬?
まさか。この私が?
全てを捨てて他の男を選んだも同然の女に、嫉妬などするはずがない。

これは、ただの……プライドの問題だ。
そう、プライドだ。
かつて、自分のものであった女が、あんな平民の男といることが、許せないだけだ。
アベンティス公爵家の、そして王家の権威に関わる問題なのだ。

アレンは、必死に言い訳を探した。
けれど、どんな理屈を並べても、胸の奥で燃え盛る、どす黒い炎を消すことはできなかった。

彼女が幸せに暮らしていることに安堵した、はずだった。
なのに、その幸せが、自分の知らない男によって与えられているという事実が、たまらなく気に食わない。

矛盾した感情に、アレンは混乱していた。

彼は、自分の手でクーデリアを断罪し、突き放した。
彼女の全てを否定し、追放した。
だというのに、心のどこかで、彼女はまだ、自分のものだと思っていたのかもしれない。
自分の影響下にある存在だと。

その彼女が、自分の知らない世界で、完全に自分の手の届かない場所で、幸せになっている。
それは、アレンにとって、二度目の敗北を意味するかのようだった。

「……クーデリア」

無意識に、その名を呟く。
もう呼ぶ資格もないはずの、その名前を。

揺れる心。
正義と信じていた自分の判断が、ぐらぐらと揺らぎ始めている。
リリアンナへの想いは、本物のはずだった。
だが、そのリリアンナの顔すらも、今はクーデリアの幸せそうな笑顔の前に霞んで見えた。

アレンは、自分が思っていた以上に、クーデリアという女に、深く囚われていることを、認めざるを得なかった。
そしてその事実は、彼の心を、さらに深い闇へと引きずり込んでいくのだった。
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