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逢瀬 ※R15
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「んで、機嫌は直ったか?」
「あ?」
「機嫌が悪かったんじゃねえの?」
サプフィールは一瞬キツネにつままれたような顔でスピネルを見、そして一気に赤面した。腹を立てていたことまで見抜かれていたとは。
「なっ、なんで、そんな…」
「なんでも何も… レオに対しての言葉に怒気が混じってたぜえ? アイツはその辺鈍いから気にもしてなかったろうけどな。」
言い淀むサプフィールに、スピネルが答えた。
「…そんなに分かりやすいか?」
「まあ、仮面をしている分、分かり難くはあるけどな。無言を貫き通されると、オレも分かんねえけど。ここに連れて来られる馬車の中では、アンタ一言も喋んなかったからホント訳分かんなかったぜ。」
スピネルの答えに結局どっちなんだろうか、とサプフィールは考え込む。
「もう怒ってねえのか?」
「…なんでそこに拘るんだ。」
機嫌の良し悪しを問うスピネルに、呆れたようにサプフィールは尋ねる。
「アンタが怒ってたらここに来た意味が半分無くなるじゃねえか。」
そう言ってサプフィールの手を取り、そっと口付ける。
「…!!」
スピネルのその仕種に、サプフィールは一瞬で熱が上がったのが分かった。
ズルい、こんな。こんなにも気持ちを掻き乱すことを平気でやってのけるなんて。
自分の手の甲に口付けるスピネルの横顔が、サプフィールには何とも言えず魅惑的に見えて仕方がなかった。同時に、昨夜のことが思い出される。
筋肉の多いスピネルの体温は高くサプフィールを焼き尽くすようだったとか、触れあった肌の感触だとか、自分の名前を呼ぶ熱の籠った彼の声だとか。そんなことがサプフィールの脳裏に一気に押し寄せる。
言葉にならず溜め息を漏らすように息を吐いた。それが熱を帯びていることを見逃すほどスピネルは間抜けではない。
サプフィールの手から、唇へとスピネルの手が移動する。ひどくゆっくりと下唇のラインをなぞっていくスピネルの指にサプフィールはもどかしく感じればいいのか、それだけでもう他のことなどどうでもよくなった自分に恥じ入ればいいのか分からなくなっていた。
「スピネル。」
「うん?」
「我慢とか手加減とか、そーゆうの、も、要らないから…」
スピネルの目がこっちを見ている。冷静なようで、何かを狙っているみたいにギラギラした目が。ぞくぞくする、とサプフィールは思う。
「昨日の今日でそんなコト言う?」
そう言って薄く笑ったスピネルを見て、あ、この顔好きだ、と熱に浮かされ始めた頭でぼんやりとサプフィールは考えていた。
唇に触れていた指が離れ、がっかりしたのも束の間。スピネルの手は顎に添えられ、サプフィールが物申す間もなく口付けられた。
「優しくなくていい」と言おうと身動ぎ一つしようとしたところで、ベッドに押し倒され、そうして。知ってると言わんばかりにスピネルの動きに遠慮が無くなる。
「サプフィール。」
耳元でスピネルが名前を呼ぶ。もうそれだけで。
「スピネル、お願い、ぎゅってして。」
名前を呼ばれたそれだけで、もうたまらなくなって、サプフィールはそう懇願した。
全部邪魔。自分とスピネルの間にあるものは、空気でさえ邪魔。だから、邪魔なものが入り込む余地がなくなるように、ぎゅっと抱きしめて欲しい。
朝になったらまた、離れ離れになってしまうのならなおさら。昼間は自分じゃない誰かが傍にいるなら、余計に。独り占めにしたい。他に誰も要らない。他に何も要らないから。
…なんてそんなこと言ったら、スピネルはきっと困ったように笑うんだろう。そうして、きっとおれのためだって言って、教え諭そうとするんだ。
だったら。
「すぴねる、もっと、ねえ。」
睦言として囁けば、昨日の夜みたいにおれのこと全部喰い尽くすような目で見てくれるに違いない。
ああ、ほら、やっぱりだ。優しさの欠片がもうすぐで消える。おれしか見てない目のスピネルに、もうすぐなる。
「名前も、もっと呼んで。ぎゅってして。」
そう言うと耳に食らい付くようにしてスピネルはサプフィールの名前を囁いた。片方しかない彼の手にはもう遠慮は無いし、肌はいつもより熱を帯びている。サプフィールはそんな彼に腕も足も絡ませて、二人の間に邪魔なものが無くなるよう体をぴたりと合わせた。
そうして夜は更けていく。ほんの少しのすれ違いを二人の間に残したまま。
「あ?」
「機嫌が悪かったんじゃねえの?」
サプフィールは一瞬キツネにつままれたような顔でスピネルを見、そして一気に赤面した。腹を立てていたことまで見抜かれていたとは。
「なっ、なんで、そんな…」
「なんでも何も… レオに対しての言葉に怒気が混じってたぜえ? アイツはその辺鈍いから気にもしてなかったろうけどな。」
言い淀むサプフィールに、スピネルが答えた。
「…そんなに分かりやすいか?」
「まあ、仮面をしている分、分かり難くはあるけどな。無言を貫き通されると、オレも分かんねえけど。ここに連れて来られる馬車の中では、アンタ一言も喋んなかったからホント訳分かんなかったぜ。」
スピネルの答えに結局どっちなんだろうか、とサプフィールは考え込む。
「もう怒ってねえのか?」
「…なんでそこに拘るんだ。」
機嫌の良し悪しを問うスピネルに、呆れたようにサプフィールは尋ねる。
「アンタが怒ってたらここに来た意味が半分無くなるじゃねえか。」
そう言ってサプフィールの手を取り、そっと口付ける。
「…!!」
スピネルのその仕種に、サプフィールは一瞬で熱が上がったのが分かった。
ズルい、こんな。こんなにも気持ちを掻き乱すことを平気でやってのけるなんて。
自分の手の甲に口付けるスピネルの横顔が、サプフィールには何とも言えず魅惑的に見えて仕方がなかった。同時に、昨夜のことが思い出される。
筋肉の多いスピネルの体温は高くサプフィールを焼き尽くすようだったとか、触れあった肌の感触だとか、自分の名前を呼ぶ熱の籠った彼の声だとか。そんなことがサプフィールの脳裏に一気に押し寄せる。
言葉にならず溜め息を漏らすように息を吐いた。それが熱を帯びていることを見逃すほどスピネルは間抜けではない。
サプフィールの手から、唇へとスピネルの手が移動する。ひどくゆっくりと下唇のラインをなぞっていくスピネルの指にサプフィールはもどかしく感じればいいのか、それだけでもう他のことなどどうでもよくなった自分に恥じ入ればいいのか分からなくなっていた。
「スピネル。」
「うん?」
「我慢とか手加減とか、そーゆうの、も、要らないから…」
スピネルの目がこっちを見ている。冷静なようで、何かを狙っているみたいにギラギラした目が。ぞくぞくする、とサプフィールは思う。
「昨日の今日でそんなコト言う?」
そう言って薄く笑ったスピネルを見て、あ、この顔好きだ、と熱に浮かされ始めた頭でぼんやりとサプフィールは考えていた。
唇に触れていた指が離れ、がっかりしたのも束の間。スピネルの手は顎に添えられ、サプフィールが物申す間もなく口付けられた。
「優しくなくていい」と言おうと身動ぎ一つしようとしたところで、ベッドに押し倒され、そうして。知ってると言わんばかりにスピネルの動きに遠慮が無くなる。
「サプフィール。」
耳元でスピネルが名前を呼ぶ。もうそれだけで。
「スピネル、お願い、ぎゅってして。」
名前を呼ばれたそれだけで、もうたまらなくなって、サプフィールはそう懇願した。
全部邪魔。自分とスピネルの間にあるものは、空気でさえ邪魔。だから、邪魔なものが入り込む余地がなくなるように、ぎゅっと抱きしめて欲しい。
朝になったらまた、離れ離れになってしまうのならなおさら。昼間は自分じゃない誰かが傍にいるなら、余計に。独り占めにしたい。他に誰も要らない。他に何も要らないから。
…なんてそんなこと言ったら、スピネルはきっと困ったように笑うんだろう。そうして、きっとおれのためだって言って、教え諭そうとするんだ。
だったら。
「すぴねる、もっと、ねえ。」
睦言として囁けば、昨日の夜みたいにおれのこと全部喰い尽くすような目で見てくれるに違いない。
ああ、ほら、やっぱりだ。優しさの欠片がもうすぐで消える。おれしか見てない目のスピネルに、もうすぐなる。
「名前も、もっと呼んで。ぎゅってして。」
そう言うと耳に食らい付くようにしてスピネルはサプフィールの名前を囁いた。片方しかない彼の手にはもう遠慮は無いし、肌はいつもより熱を帯びている。サプフィールはそんな彼に腕も足も絡ませて、二人の間に邪魔なものが無くなるよう体をぴたりと合わせた。
そうして夜は更けていく。ほんの少しのすれ違いを二人の間に残したまま。
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